アットウィキロゴ
夏休みの朝、律は茹だる様な暑さに動きを鈍くしながらベットからのそりと出た。
今日は軽音部の活動日、と言っても紅茶とお菓子を囲んでワイワイやって最後に少し練習するだけなのだが。
それでも部員と会って会話をする大切な活動時間、休む気などさらさらない。
「にしてもあっちーな……」
とりあえず扇風機を付け汗ばんだ体を冷やす。汗で少々湿っぽくなったシャツが風で冷やされ気持ちいい。
そうして10分ほどだらけてからシャワーを浴び少し遅めの朝食を食べ、律は家を出た。

部室に着くとそこには澪がいた。いつものように静かに本を読んでいる。
いつものように声を掛けようとしたとき窓から風が入り込み澪の長い髪を揺らした。
絹のように綺麗な髪が靡く。その姿に律は見惚れてしまい言葉を呑んだ。

「ん?律来てたのか……どうした?」
「え、ああ!い、いやなんでも……」
「……?変な奴。ああ、梓は遅れるらしい」
「そっか。さーてと、今日のムギのお菓子はなんだろうなー?」
「おい、お菓子もいいけど練習もやるんだぞ」
「わかってるってー。まったく澪は真面目だねー」
「真面目とかじゃなくてこれが普通なんだって!」

いつもの会話。いや、こうして二人だけでの会話なんていつ振りだろう?
軽音部になってからはいつもみんなで机を囲んで談笑に浸っていた。別にそれが悪いわけではない。
ないのだが、やはりこうして澪と二人だけでじゃれ合うというのもいい。


「どうした律、ニヤニヤして……」
「なんでもなーい。なあ、澪は私のこと好きか?」
「い、いきなりなんだ……いや、まあ嫌いではないけど……」
「けど?」
澪は顔を赤くしている。こうして見るとやはり可愛い。澪のこの顔を見るとつい意地悪をしたくなってしまう。
「え、あーその……まあ、好き……だ」
「くすくす、いやー澪はやっぱ可愛いなぁ。この愛の告白受けなきゃ女じゃないでしょう」
「あああ、愛の告白って!そういう意味じゃなくて友達として好きってことで……!」
「あら、とても素敵なことだと思いますよ」
不意に後ろに立っていたのは紬だった。いつもの笑顔と違いすこしうっとりとした表情だった。
「む、むぎ!?いつの間に!?」
「『まあ、好き……だ』って告白した所から居ましたわ」
「なっ……!!た、頼む!忘れてくれ!!」
「ふふふ、どうしようかしら?」
「みんなおはよー!って、どうしたのみんな?」
「おー唯!実は澪がなぁ……」
「だあああ!!だめだめだめだめ!!!」

こうして騒がしいいつもの軽音部が始まった。とてもとても楽しい軽音部。


彼女達が絶望を味わうまで、残り1週間。



「そういえば今年の合宿のことなんだけど、むぎ大丈夫か?」
先ほどの騒ぎも一段落つき、いつものようにまったりとお茶お囲んでいると不意に律が話を切り出した。
「ええ、来週なら別荘が一つ空いてるからそこなら平気よ」
「そっか!じゃあ明日はみんなで合宿の準備しようぜ!」
「さんせー!!」
「いいけど、ちゃんと練習の準備をしろよ」
「新しい水着どうしよっかな~」
「スイカ!スイカ!みんなでスイカ割り~」
「話を聞け!!」
「うふふふ、楽しみだわ~」

その後、梓が遅れて到着してからみんなで合宿の計画を立てた。
唯と律がまずはお菓子と花火を買うと言えば澪と梓が必要な物を買った後に余った予算で買うと反対し。
唯と律が練習1時間で残りは自由時間と言えば澪と梓が遊びに行くんじゃないと半分キレたり。
そんな感じで、あれこれ騒ぎながら予算や、必要な物、日程などを決めていく。
ほとんど予定も決まりかけた時、唯はこんな提案を出した。

「折角のバカンスなんだから和ちゃんや憂も呼ぼうよー」
「バカンスじゃなくて合宿だ!それに合宿に連れて来ても退屈じゃないか?」
「そうかなぁ……みんなでワイワイやったほうが楽しいと思うのに……」
「まあ、聞くだけ聞いてみれば?駄目ならいつも通り私達だけで行けばいいしさ」
「うん、じゃあ聞いてみるよ」

ちょうどそこで部活動終了15分前のチャイムが鳴った。五人は慌てて帰りの支度をし、それぞれの帰路についた。


「ただいまー」
「おかえりお姉ちゃん。もうすぐご飯できるから手洗って着替えてきてね」
「おーす」
憂がいつもの笑顔で迎えてくれる。唯にとって、それはとても幸せなことである。
唯が脱ぎ散らかした靴を何も言わずに片付けて、美味しいご飯を作ってくれる。

「いつもありがとね」
「急にどうしたのお姉ちゃん?」
「いやーなんか急に言いたくなってね。それで今日澪ちゃんがねー……」

こうした他愛のない日常がとても幸せに大切なものなのか、それをこれから痛いほど痛感するのだった。
結局、憂と和は参加することになった。当日は何故かさわ子もいた。
「さわ子先生なぜ……」
「顧問だから」
「日程教えてたっけ……?」
「私は教えてない……」
「まあまあ、細かい事は気にしないの。それに子供達だけじゃ危ないから監督も必要でしょ」
彼女の言う事はもっともだ。何かあった時の責任者などは必要である。
「それじゃあ出ぱーつ!!」
「「「「おーーーー!!」」」」

電車に揺られ海が見えてきた。いつものようにはしゃぐ律と唯、それを静めようとする澪。それをみて微笑ましく思うその他

楽しい楽しい合宿の始まり。

誰もがそう思ってた。

「ここからお家のお船に乗って離島に行きます」
「おお!!船!!」
「ふねー!!」
離島、琴吹家の船と聞き一同の期待は一層膨らむ。
「私は海賊王になる!」
「さすがりっちゃん隊長!!自分もお供いたします!!」
「隊長じゃない!船長と呼べ!」
「サー!イエッサー!!」
「馬鹿やってないで早く行くぞ」
「先輩達早くしてください!」

港で一同が船を探していると一人の男が近づいてきた。
ピシッとしたスーツ姿で清潔感があり、男が紬の所に着くと一礼して姿勢を正した。

琴吹紬様でいらっしゃいますか?」
「はい、そうです」
「お待ちしておりました。船をご用意しておりますのでこちらへどうぞ。荷物は私共がお持ちします」
「やっぱムギってすごいな……」
全員が乗ったところで船が動きだした。海風にあたりながらそれぞれは景色を眺めていく。
船に揺られ、風を突き進む気持ちよさに一同が身を委ねていると先ほどのスーツの男がやってきた。

「御茶の用意が出来ましたので皆様、一度船室にお入りください」

当然のごとく皆はそれに従った。船室からでも外の景色はよく見え紅茶を啜りながら優雅な気分に浸っていた。


「いやー最高だねー!セレブになったみたいだ!」
「セレブはそんな言葉使いしないと思うけど……」
「お、和。言うようになったね~。ふぁ~あ……外の景色見てたらなんだか眠くなっちゃった……」
「私も~……うぃ~お布団と枕~……」
「お姉……ちゃん、ごめん……私もなんだか……眠く…………」

急に全員が眠気を訴え始めた。律と唯に至っては椅子にもたれ掛って既に眠っている。
(おかしいわ!?急にどうして……薬、睡眠薬!?まさか紅茶に睡眠薬が……!)
異変に気付いたさわ子は全員寝てしまっては危険だと思いすぐに先ほど飲んだ紅茶を吐き出そうとした。
しかし、それは後ろから軍服に身を包んだ男に押さえ付けられることで失敗に終わった。
抵抗はするが力や体勢的に無駄な足掻きであった。やがてさわ子も睡眠薬の効果で意識を手放した。

「全員完了です!」
「よし、進路を変更!このまま『あの島』に移動!」
先ほどの男が上官らしきの男に報告すると船は大きく進路を変えた。
先ほどの穏やかな海面とは一転、荒れ狂う海を船は突き進む。

まるで彼女達の運命と同じように。

「ん……ここ、は?」
目が覚めた梓はあたりを見渡すと黒板や教卓などがある。それぞれの席では軽音部のメンバーや憂、和、さわ子が眠っていた。
「学校……?でも桜校じゃない……」
造りや備品などは学校の定番のものだが桜高校にあったものではなかった。
教室の広さ的にも高校ではなく小学校くらいの狭い教室だった。
そこまで考えが及んだ所で自分の首に違和感を覚えた。
「なに、これ……」
触れてみると首輪が取り付けられていた。いつの間に着けたのだろう。よく見れば他の者にも同じものが着いている。
とにかく分からないことだらけなので梓は隣で眠っていた和を起こした。
「先輩!起きてください、先輩!!」
「うぅん……あ、ずさちゃん……?ここは?」
梓は自分が確認できた範囲で和に伝えた。ここがどこかの学校で
「そう……とりあえず皆を起こそうか」


全員が目を覚まし、状況を確認しようとした時、突然教室の扉が開いた。
一同の視線が全てそちらに行く。数秒してから入り口から船の案内をしてくれたスーツの男が現れた。

「皆さん、目が覚めましたね?それでは本日説明を担当させていただく……そうですね、タカハシとでも名乗っておきましょうか」
タカハシと名乗った男は全員の反応を確認することなくチョークで黒板に何やら書き始めた。
一文字一文字大きく書き、最後の文字を書いたところでガンッとチョークを叩き、黒板の下に置いた。

「これから皆さんにあるゲームをしてもらいます。ゲーム名は黒板に書きましたが……『バトルロワイヤル』というものです」
状況が全く飲み込めない全員はただただタカハシの言葉を聴くだけであった。
分からないことだらけでもたった一つ、全員に共通して言えるのは嫌な予感しかしないということだ。
「ルールは至って単純。タイムリミットは2日間で最後の一人になるまで……」


殺  し  合  い  を  し  て  も  ら  い  ま  す  


――――それぞれの予感は的中した。


【残り 8名】

殺し合いをしろと言われたが当然みんなの思考が追いついていない。
『ころしあい』という5文字の単語が頭を駆け巡るだけであった。

「意味がわかりませんかねぇ……例えば『コレ』で秋山さんを……」
『コレ』と言って取り出したのは何やら黒い塊。それを澪に向けると突然乾いた音が教室に響いた。
それと同時に澪の足元の床が弾けた。それを見た一同はようやく黒い塊が拳銃で先ほどの殺し合いの意味を理解した。
「私は管理者なので殺しはしませんでしたが、こんな感じで皆さんで殺し合いをしてもらいたいのです」

理解したからこそ恐怖という感情が彼女達の頭を埋め尽くした。
特に足元を打たれた澪は腰が抜け椅子から転げ落ちるほどだった。
それでもただ一人、気丈に振舞う者がいた。
「そんなことが許されると思っているの?」
「さわちゃん先生……」
さわ子ただ一人、この恐怖に打ち勝っていた。正確には恐怖よりも大人としての責任からなのだが。
それでも他の者からすればこの状況では頼もしく見えるのだった。
「殺し合いをさせるなんて日本の法律、いや世界的に見ても許されている国はないわ」
「そ、そうだそうだ!犯罪だぞ!」

さわ子やそれに続く律の発言にタカハシは怒るわけでもなく、馬鹿にするようにくすくすと、やがて大声で笑い出した。
その笑いに全員が不快な感情を抱く。そんな一同の心境を意に介する事無くタカハシは話し始めた。

「では聞きますが戦争は犯罪ですかね?殺し合いをさせているアメリカ様は犯罪国家と言っていると?」
誰も反論できなかった。
「それにこんなことする前から我々は犯罪者です。……まあ、何をしていたかは言いませんがね」
タカハシは今更犯罪の一つ二つ気にする必要はないと言い切った。
それがとても冗談と思えず全員が凍りついた。

「まあ、それよりもルール説明を先にしましょうか。質問は後で受け付けますので」
こうしてタカハシの説明が始まった。一字一句聞き漏らさないように全員が耳をしっかりと傾けた。


「まずは……そうですね、その首輪の説明からしましょうか」
首輪と言われ全員が無意識のうちに自分の首輪に触れた。
「その首輪にはGPSが付いています。皆さんの居場所を逐一こちらに送信されます」
そう言われ何人かは首輪の内側を見ようとした。
「ああ、あんまり触らないほうがいいですよ。その首輪には爆弾が付いてますから」
爆弾と聞いて全員が一斉に首輪から手を放した。
「無理に外そうとしたり私たちに反抗しようとするとこちらから電波を送って爆破させます」
(逃げようとしてもGPSで位置を確認されて……八方塞がりじゃない……)
和は説明を聞いて内心で舌打ちをした。うまくすれば脱出できるかも、と言う希望もあっさりと絶望に変わった。
「それと禁止エリアというものがありましてね。ちょっとこの地図を見てください」
そういうと教卓の下から大きな模造紙を取り出し、それを黒板に張り出した。
「これが私たちがいる島です。そしてここが今いる学校。ここが本部になります」
指揮棒で地図を指し示しながら説明を続けていく。
「地図に4×4の升目があるでしょう?これは禁止エリアになります」
タカハシは質問を挟む余地がないように一気に説明した。

6時、12時、18時、24時に放送があり、その都度禁止エリアと死亡者を発表する。
その禁止エリアに入ってしまうと首輪は爆破する。禁止エリアに近づくと警告音が鳴るので注意。
全員がこの学校から出て行って10分経過した時点でこの学校も禁止エリアになる。
期限は3日間。24時間以内に死亡者が出ない場合は試合放棄と見なし全員爆破になる。
スタート前にデイバックを支給。中には武器と3日分の食料と水、時計、地図、筆記用具、コンパスが入っている。
武器はランダム。下はガラクタから上は重火器までピンきり。
自分たちの荷物は自由に持って行って構わない。
島には色々な施設はある。島は無人なので好きに使ってもいい。


「以上です。何か質問はありますか?」
タカハシは全員を見渡す。とそこで一人が手を挙げた。
「なんでしょう平沢唯さん」
「あ、あの……なんで私達がこんなことしなきゃいけないんですか……?」
「理由は色々とあります。が、お答えできません」
「何でですか?」
「知る必要がないからです。それでは時間もあまりありませんので開始としましょう」
無理やり質問を終わりにすると迷彩服を来た兵士が続々と教室に入ってきた。
最後にデイバックを積んだカートが入った所で隊長らしき人物が口を開いた。
「それでは今から名前の呼ばれた者はデイバックを受け取って学校から出て行くように!……中野梓!」
「は、はい……」
梓は立ち上がりデイバックを受け取る。乱暴に渡されたため少しふらついたがなんとか体勢を立て直すと皆の方へ振り返った。
その表情は不安や恐怖で一杯だった。目には涙を浮かべ助けを求めるように視線をあちこちへと移していた。
「先輩……」
「大丈夫だよ、あずにゃん……私達は仲間なんだから」
「はい……」
唯の言葉を聞いて足が覚束ないもののなんとか教室を出て行った。
(あのあずにゃんがすごく怖がってる……私がなんとかしないと)

「よし次!平沢憂!」
唯がそう心に決めた時、名前を呼ばれた憂が横を通り過ぎた。
その時に微かに聞こえた。『お姉ちゃん』と。
唯が顔を上げると既に憂は教室を出て行った後だった。


そして次は澪が呼ばれた。澪は先ほど椅子から転げ落ちた時から律に支えて貰っていた。
恐怖で足が竦み全身が震えている。まだ歩けるかどうか怪しい。支えている律はそう思った。
「なぁ……もう少しだけ澪を休ませてくれないか?」
「律……」
「なあ頼むよ。さっきの銃で足が竦んでるんだ。なんなら私と一緒に出させてくれよ」
そうだ、昔からお互いピンチの時は助けてあって来たんだ。
無鉄砲な私を澪が支えて、恥ずかしがりで臆病な澪の私が守って今まで来たんだ。
だから、今度も私が……


「こちらにも予定というものがある。動けないというなら失格とみなす」


先ほども聞いた耳を劈くような音が響いた。それから数秒遅れて澪が体のバランスを崩した。
何事かと思い振り向けば澪がぐったりしていた。


2
最終更新:2010年01月28日 22:49