憂「お姉ちゃん!遅刻しちゃうよ?」
唯「わかってるよぉ~」ドタバタ
「よし、憂、ギー太行くよ!」ガチャッ
唯憂「行ってきま~す!」スタスタ
慌ただしい朝の光景。
姉妹の普通のやり取り。
私は、こんな日がずっと続けばいいと思ってた。
勿論、いずれはそれぞれの道を歩んでいかないといけない。
でも、道を別つまで、この日常を壊したくなかった。
…まさか、あんな形で壊されるなんて。
教室
憂「梓ちゃんおはよう!」フリフリ
梓「あ、憂。おはよう」フリフリ
この子は
中野梓ちゃん。
去年の春、桜ヶ丘高校に入学した私の同級生。
長い髪をツインテールにしている、ちょっぴり小さな可愛い女の子。
去年の軽音部の新歓ライブの後、軽音部に入部した。
ジャズ研に入ろうか迷ってたらしいけど、何か軽音部に惹かれるものがあったらしい。
お姉ちゃんが軽音部にいる私としては嬉しい限りだ。
梓「ところでさぁ」
憂「なぁに?」
梓「唯先輩がいきなり抱きついてくるの、どうにかなんないの?」
憂「ん~、難しいね」フフッ
「でも、お姉ちゃん柔らかくて温かいし、私は抱きつかれてもいいな」
梓「それはそうだけど…」
「もう少し場所をわきまえ…」
「あーずにゃん!」ギュッ
梓「うわっ!」
「唯先ぱ…」クルッ
梓「…純」
純「おはよう、梓に憂」フリフリ
鈴木純ちゃん。
私達3人組のムードメーカー的存在。
癖毛が特徴で、元気な女の子。
ジャズ研でベースをやっている。
純「おぉー、唯先輩はこんな感じで梓に抱きついてるのかー」モフモフ
梓「…もうそろそろ離れようね。暑い」
純「あはっ ゴメンゴメン」パッ
こんなどこにでもいるような普通の女子高生の会話。
今のところ、私達は高校生活を満喫している。
私は中野梓。
放課後ティータイムのリズムギター担当。
去年の新歓ライブで先輩達の演奏に感銘を受けて、軽音部に入部した。
入部したての頃は、先輩達のあまりもの怠け具合に愛想を尽かして退部を考えた。
でも、その時先輩達が私のために演奏してくれた。
新歓ライブの時の気持ちを思い出させてくれて、私は軽音部に留まる事を決意した。
今では私もティータイムを楽しんでいる。
…うまい具合に手懐けられちゃったのかな。
ちなみに、今は今年の新歓ライブが終わった後。
音楽室で皆揃ってティータイムを楽しんでいる。
梓「…」ポケー
唯「あずにゃん?」
梓「…」ポケー
唯「おーい、あずにゃーん!」ブンブン
梓「…」ポケー
律「おい、唯!」コソコソ
唯「合点です!りっちゃん隊員!」コソコソ
唯律「せーのっ!」ガバッ
「こちょこちょこちょ~」サワサワ
梓「きゃっ!」ビクッ
「何ですか一体!」
唯「どうしたのかはこっちが聞きたいよ~」
紬「お菓子が美味しくなかった?」
梓「いえ、美味しいです」ニッコリ
澪「それにしてもどうしたんだ?梓らしくないな」
梓「…私が入部した時の事思い出してて」
律「あの時は大変だったな~」
「梓がいきなり泣き…」ゴチン
澪「余計なこと言うな!」
梓「本当の事だからいいんです。」
「でも、もしあの時先輩達が演奏してくれなかったら…」
「先輩達に迷惑をかけた上に…」
「私はここにいなかったのかと思うと…」
「何だか…凄く寂しくなっちゃって…」ウルッ
澪「梓…」
律「…軽音部の事、大事に思ってくれてるんだな」
梓「…当然です!」グスン
紬「梓ちゃんの気持ち、十分伝わったわ」
唯「あずにゃん…」
「ぎゅーっ」ギュッ
梓「!」
唯「あずにゃんがどれだけ軽音部の事が大好きなのか分かったよ」
「私もね、軽音部の事大好き」
「そしてね、それと同じぐらいあずにゃんが大好き。皆あずにゃんの事が大好きだよ」
「…それに、やっぱり泣いてるあずにゃんはあんまり見たくないや」ナデナデ
「これからは皆笑っていこう?約束だよ?」ニコッ
温かい…
今なら憂の言った事が分かる。
優しさに包まれていく。
とっても落ち着いた気持ちになれる。
いいな、憂は…
こんなお姉ちゃんがいて。
律「落ち着いたか?」
梓「…はい、大丈夫です。迷惑かけてすみません」
紬「いいのよ、迷惑なんかじゃないわ」ニッコリ
心地よい…
そう思うと同時に、さっき落ち着いたはずの胸が高鳴る。
何でだろう?
唯先輩が温かいからかな?
…きっとそうだよね。
梓「もう、離れてください!」グイグイ
唯「あぅ~」
澪「…よし!今日は部活はなしだ。皆でアイスを食べに行こう!」
律「あんれぇ~?澪ちゃん珍しい事をおっしゃる」
「…これは嵐が来るな」
唯「え!?どうしようりっちゃん?」アタフタ
律「大丈夫だ!私達が協力すればなんとかなる!」
紬「そうね!皆で明日を切り開きましょう!」
唯律紬「おーっ!」ガシッ
澪「…私も空気ぐらい読めるんだよ」シクシク
数日後
唯「愛を込めてスラスーラとね♪さあ書ーきー出ーそーぉー♪」
最近、お姉ちゃんはいつにもまして元気になった。
何でも軽音部の仲が一層深まったって。
良かったね、お姉ちゃん。
唯憂「行ってきま~す!」
トコトコトコトコ
憂「暑いね~」トコトコ
唯「そうだね~。でもアイスの美味しさが際立つからそこまで悪くはないかな~」トコトコ
憂「ふふっ」ニコッ
唯「あっ!あずにゃんだ!」タタタタッ
「あ~ずにゃん!」ギュッ
梓「わっ!」
「おはようございます、唯先輩。そして離れてください暑いです」
唯「確かに暑いや…」ヘナー
憂「おはよう梓ちゃん」フリフリ
梓「おはよう憂」フリフリ
律「よっ!みんな」
澪「おはよう」
紬「おはようみんな」
唯「あーっ!3人共おはよう!」フリフリ
梓憂「おはようございます」ペコリ
律「ふっふ~ん♪くるしゅうない」
澪「調子に乗るな!」
律「あいて!」ゴチン
憂「ふふっ」
「梓ちゃん、教室行こっか♪」
梓「そうだね」
教室
純「おはようお二人さん」トコトコ
憂「おはよう」フリフリ
梓「相変わらず来るの遅いね…」
純「私は時間かかるんだよ~。主に髪の毛!」
「それはそうと梓~」
梓「何?」
純「最近何か調子いいよね」
「好きな人でもできた?」ニヤッ
憂「そうなの梓ちゃん!?おめでとう!」
梓「違うよ!」
「ていうか憂は知ってるじゃん…」
憂「えへへ。ちょっと意地悪したくなっちゃった」
梓「もう!」プクーッ
純「えいっ!」プニッ
梓「…」プシュー
純「でも梓って唯先輩に憧れてるんだよね?」
梓「憧れと好きは別物じゃん…」
純「もしかしたら好きに変わっちゃうかもよ?」ニヤニヤ
梓「そんな事‥ないもん!」
あれ?少し間が空いた。
純ちゃんは…気付いてないみたい。
これってもしかしたら…
ふふっ
梓「…憂、どうしたの?」
憂「ううん、何でもない」ニッコリ
放課後
紬「どうしたの、憂ちゃん?」
憂「あの…最近の梓ちゃんのこと何ですけど」
紬「梓ちゃん?特に変わりはないと思うけど…」
憂「…お姉ちゃんと一緒にいてもですか?」
紬「ん~、そうね。唯ちゃんのスキンシップをあまり拒まなくなった…かな?」
憂「…そうですか」
「それだけ分かれば十分です」
「ありがとうございました」ペコリ
紬「お役にたてたみたいで良かったわ」ニコッ
「じゃあね」フリフリ
わかった。
梓ちゃんが言葉を少し詰まらせた理由。
少しずつだけど、梓ちゃんはお姉ちゃんに惹かれていってる。
憧れが好きに変わっていってる。
梓ちゃんも少しは自覚しているのだろう。
それ故に言葉が詰まった。
梓ちゃん…
大丈夫かな?
女の子同士、凄く厳しいと思うけど…
放課後
唯「あ~ずにゃん!」ギュッ
梓「にゃっ!」
「もう、唯先輩…」
唯「んふふ~♪」スリスリ
私は以前より唯先輩を拒まなくなった。
慣れもあるのかもしれないけど、何だか離れたくない。
…色々考えてわかった。
私は唯先輩が好きなんだろう。
…いや、好きだ。
この温もりを感じていたい。
満面の笑みの唯先輩を見て思う。
唯「どうしたの、あずにゃん?」
梓「いえ、何でもないです」ニコッ
唯「そっか~」ニッコリ
「あ、あずにゃん、飴あげるよ!これ甘くておいしいんだよ~」スッ
梓「ありがとうございます」
でも、私達は女同士。
この思いを唯先輩に告げたら何と言うだろう。
気持ち悪いと罵られるかもしれない。
二度と近づかないで、何て言われるかもしれない。
…唯先輩がこんなことを言うはずがないのは分かってる。
きっと、
私もあずにゃんのこと大好きだよ~
何て言って抱きついてくるに違いない。
…でも怖い。
私の気持ちが受け止められないで流される、ということが。
…私は臆病者だ。
唯先輩の笑顔を見て、
たまに訪れる温もりだけで満足する。
告白…か…
私にも勇気があれば出来るのかな?
…唯先輩から貰った飴は、とても甘くて、優しい味だった。
数日後
梓「はぁ…」
純「梓どうしたの?最近浮かないじゃん」
憂「梓ちゃん悩み事?」
梓「…ううん、何でもない」
「ごめんね、心配かけて…」
憂「何もないならいいけど…」
純「何かあったらすぐに私達に言いなよ?」ナデナデ
梓「うん、ありがとう」
この二人は優しいな…
いい友達…ううん、親友を持った。
二人に唯先輩の事を話そうかとも思ったけどやめた。
第一、憂は唯先輩の実の妹だ。
あまりいい気持ちはしないだろう。しかも相手は私。女の子だ。
…やっぱり、相談するにはあの人かな。
梓「ムギ先輩、少しいいですか?」
紬「なぁに、梓ちゃん?」
梓「ムギ先輩って今好きな人いますか?」
紬「…今はいないわね」
「やっぱり女子高だと出会いもないし」
梓「…そうですか」
紬「どうしたの?気になる人がいるとか?」
梓「実は…そうなんですけど…」
紬「あらあら」フフッ
「それで私に相談したいってこと?」
梓「はい…」
紬「どんな相談?」
最終更新:2010年07月07日 23:41