梓「…好きな人って女の子なんです」

紬「…うん」

梓「告白はしたいけど…失敗したら今の関係が壊れちゃうんじゃないかって…」

紬「…ありきたりな事を言うかもしれないけど、愛に性別は関係ないって私は思うわ」

 「梓ちゃんのその愛が男性に向いていたとしても、同じ気持ちでしょ?」

梓「それはそうですけど…」

紬「ほら、愛は男女誰に向いてても同じ気持ちなの。同性に向いてても、それは素晴らしい気持ち」

「今回は愛の対象がたまたま女の子なだけ。気にする事はないわ」

梓「…そうですかね」

紬「でもね、これは梓ちゃんが告白をしないでいる時の話」

 「これからは厳しい事を言うかもしれないけど…」

梓「大丈夫です!」キッ

紬(真っ直ぐな目…)

 (よっぽど好きなのね)フフッ

梓「どうしました?」

紬「ううん、何でもないわ。続けるわね」

 「日本では、同性愛はあまり好ましく思われてないわ」

 「付き合ってるなんて分かったら、奇異の目で見られるでしょうね」

 「それ以前に梓ちゃんが女の子を好きって誰かに知られた時点で危ないかもしれない」


梓「…そうですよね」

 「でもそれは覚悟できてます。じゃないと告白なんて考えません」

紬「そうね。じゃあ一つ聞くわ」
 「梓ちゃんは大丈夫でも、恋人はどうなるの?」

梓「あっ…」

 「それは…」

紬「もし恋人がそれに耐えきれなくなっちゃったらどうするの?」

梓「…」

紬「…ゆっくり考えなさい」ガタッ

梓「…ありがとうございました」


考えなさい…か…。
唯先輩の気持ちは私にはどうすることもできない。
耐えられないなんて言われたら引き止めようもない。
告白告白って、唯先輩の事も考えないで…
…最低だ、私は。


翌日

唯「あずにゃん元気ないね~」

梓「色々ありまして…」

律「もしかして夏バテか~?」

 「暑くてダラダラしちゃうよな~」グデッ

澪「…お前はいつもダラダラしてるだろ」


梓「夏バテじゃないんですけど…まあ私的なことなので。ていうか今の時期は五月病じゃ…」

紬(…昨日の質問意地悪すぎたかしら)

律「この様子じゃ今日は練習しても駄目だな、帰ろーぜ」

澪「お前は練習したくないだけだろ」

律「えへっ♪ばれた?」

澪「バレバレだ…」

 「でもまあ、今日は休みでもいいか。最近はちゃんとしてたし」

 「たまには休みも必要だろ」

唯「わぉ!澪ちゃん太っ腹~♪」

律「太っ腹~ん♪」ブニブニ

澪「…っ!///」ゴチン

律「凄く…痛いです…」ジンジン


帰り道

梓「それではお疲れさまでした」ペコリ

唯「皆バイバ~イ」フリフリ

律「おう、じゃあな」

澪「また明日」

紬「バイバ~イ♪」フリフリ

スタスタ

唯「今日も疲れたねー」トコトコ

梓「…そうですね」テクテク

唯「…ねぇあずにゃん」ピタリ

梓「何ですか?」ピタッ

唯「今日言ってた悩み事って何?」

梓「…唯先輩には関係ないことです」テクテク

唯「関係なくないもん!」

梓「…え?」ピタッ

唯「あずにゃんは私の後輩だもん!あずにゃんだもん!だから関係なくないよ!」

梓「あずにゃんだもんって何ですか…」

唯「言葉そのままだよ!悩んでるのがあずにゃんだから!」

 「あずにゃんには笑顔でいてほしいから!」

梓「…」

 「…あるところに一組のカップルがいたんです」

 「当人同士は幸せでした。でも、そのカップルは良く思われてないんです」

唯「え?何で?」

梓「まあ色々と…」

梓「それで、受け入れた方が耐えきれなくなって別れてしまう」

 「でも、もう片方は別れたくない」

 「さて、どうすればいいでしょう?っていう国語の宿題がわからなくて」

唯「ん~、難しい…」

梓「大丈夫です、自分で考えますから」ニコッ

唯「ねぇあずにゃん。その人達は最初から良い目で見られないって分かってたの?」

梓「…そうですね」

唯「そっか~。なら簡単だよ」

梓「えっ!?」

唯「正解は、二人は別れません!」フンス


梓「…どうしてですか?」

唯「だって告白した方も告白された方もその覚悟はあったんでしょ?」

 「それなのに受け入れた方がいきなり別れましょうなんて酷いと思うんだ」

 「それに、そんな運命って分かってるなら二人共お互いを信じてるから付き合うんだよね?」

 「告白された人は、この人なら大丈夫。私を愛してくれる」

 「告白した人は…受け入れられた時に」

 「運命を知ってて受け入れてくれるなら、この人はきっと耐えてくれるって!」

梓「…信じる」

 「そうですね!信じないと!」パァッ

唯「あずにゃん元気になった~♪よっぽど難しかったんだね~」ナデナデ

梓「はい、とっても。まさか唯先輩に教えてもらうなんて」クスクス

唯「むっ!私だってやる時はやるんだよ」フンス

梓「知ってますよ」ニコッ

 「今まで唯先輩だけを見てきたんですから当然です」ボソッ

唯「何か言った?」キョト

梓「今日の晩ご飯は何かなって言ったんです」フフッ

 「あ、私こっちなのでこれで」ペコリ

唯「うん!バイバイ!」フリフリ

私は何でこんなことにきづかなかったのだろうか。
…信じる。
今まで悩んでたのが馬鹿みたいだ。



平沢家

ガチャッ

唯「憂~ただいま~」パタパタ

憂「お帰り、お姉ちゃん。今ちょうどお風呂沸いたよ」ヒョコッ

唯「ふむ。では早速行って参る」トコトコ

憂「いってらっしゃい」ニコニコ

―――

唯「いいお湯でござった」ホカホカ

憂「それはそれは。お褒めの言葉痛み入る」ペコリ

 「それでは本日の晩ご飯をば…」コトン

唯「あっ!ピーマンの肉詰めだ!」パァッ

憂「お姉ちゃん、口調戻ってるよ」フフッ

唯「しまったでござる!」

 「ん~、戻したままでいいや。難しいもん」

憂「ふふっ」ニコニコ

唯「憂、食べよっか?」

憂「そうだね」

唯憂「いただきま~す♪」

唯「ん~、おいひぃ~」モグモグ

憂「そう?良かったぁ♪」

唯「そう言えば憂~。私あずにゃんの国語の宿題解いてあげたんだよ」フンス

国語の宿題?
そんなもの今日は無かったはず。
…一応聞いてみよう。

憂「私忘れてたかも。どんな問題だった?」

唯「何かね、世間的に認められてないカップルの話で」

 「別れそうになっちゃうけど、どうすれば引き止められるかみたいな感じだった」

梓ちゃん言ったんだ…
でも何で直接お姉ちゃんに言ったんだろう…

憂「お姉ちゃんは何て答えたの?」

唯「そうなるって分かって付き合うなら、別れることにはならないんじゃないかなって」

憂「ありがとうお姉ちゃん。参考になったよ」ニコッ

唯「えへへ~♪」クネクネ

なるほど…
うまくいった時のお姉ちゃんの事も考えてるんだ。
梓ちゃんなら大丈夫かな…
でもその前に…


翌日

梓「呼び出してすみません、ムギ先輩」

紬「ううん、私は大丈夫」ニコッ

梓「…早速ですけど、昨日の質問の答えです」

 「私は唯先輩を信じます」

梓「受け入れてくれるってことは、私と苦楽を共にするのを選んでくれたってこと」

 「それが例え険しい道でも私を選んでくれる」

 「そこまで決意してて耐えられないなんて言うはずありません!」

紬「やっぱり唯ちゃんなのね」フフッ

梓「あっ…///」カアッ

紬「それは置いといて、結構早く答えが出たのね」

梓「実は、唯先輩がこんなことを言って…」

紬「唯ちゃんが?」

 「いい事聞いたわね」フフッ

梓「そうですね」クスクス

紬「…告白するんでしょ?」

梓「…気持ちが整ったら」

紬「…うまく行くといいわね」ナデナデ

梓「はい!」ニコッ



数日後

…憂に校舎裏に呼ばれた。
教室でできない話って何だろう?
まさか唯先輩の事がばれたって事はないよね。
ムギ先輩にしか相談してないし…

憂「…」スタスタ

梓「憂…」

憂「ごめんね、梓ちゃん。こんなところに呼び出しちゃって」

梓「ううん、平気。それで話って?」

憂「…率直に聞くね。梓ちゃんはお姉ちゃんのこと好き?」

梓「それは…いい先輩だし好きだよ」

憂「私が聞きたいのはその好きじゃない。恋愛感情がある?ってこと」

梓「!」ビクッ


何で…?
ムギ先輩は他言するような人じゃない。
私の態度?
いや、それもない…と思う。極力変わらないようにしてきたつもりだ。
とりあえず知らないふりを…

憂「…梓ちゃん。私はここで嘘を吐く人にお姉ちゃんを任せるつもりはないよ?」

…駄目だ。
完全に見透かされてる。
憂の目は確信に満ちている。
…本当の事を言わなきゃ。



梓「…好き」ボソッ

憂「…聞こえない」

梓「…好き」

憂「聞こえない!」

梓「っ!」ビクッ

憂「そんなものなの?お姉ちゃんに対する気持ちは!」

 「それじゃあ、梓ちゃんならお姉ちゃんを任せれるって思った私が馬鹿みたいじゃん!」

 「…お姉ちゃんも梓ちゃんの事が好き。生まれてからずっと一緒だからそんな事分かる…」

 「…私はお姉ちゃんが大好きだった。でも、私は姉妹だから何も出来なかった」


憂「でも梓ちゃんは違う!お姉ちゃんに告白するんでしょ!?」

 「お姉ちゃんが望んでるのは私じゃない…梓ちゃんなの!お姉ちゃんの幸せは私の幸せ…」

 「だから私は梓ちゃんを応援しようと思った!なのに何でそんな半端な気持ちなの!?」

 「私を安心させてよ!梓ちゃんなら大丈夫って思わせてよ!」

梓「…」

憂「何か…言っでよぉ…」グスッ

梓「…大好きっ!」

憂「…え?」グスッ


梓「私は!唯先輩…平沢唯を誰よりも愛してる!」

憂「…」ポロポロ

梓「その相手が例え憂でも!」

 「何かあったら私が絶対に守る!」

 「不幸になんかさせない!私が絶対に幸せにする!」

 「だから憂…泣き止んで…?」

憂「うん…大丈夫…」グシッ

 「お姉ちゃんを…よろしくね?」ニコッ

梓「うん!」ニコッ

ガタッ

憂「!」

梓「だ…誰?」

唯「…」トコトコ


憂「お姉ちゃん!?何でここに?」

唯「何か…凄い真面目な顔した憂が校舎裏に行ったから気になっちゃって…」

憂「そっか…ごめんね、梓ちゃん…」

梓「ううん、大丈夫…」

 「…それより聞こえてました?」

唯「…」ジーッ

梓「あの…」

唯「あずにゃん…」

梓「…はい」

唯「…これからよろしくね」ギュッ

梓「…っ!?///」カアッ

憂「…」ポロッ

こうなることは分かってた。
分かってたはずなのに、涙が溢れてくる…
覚悟していたとはいえ、目の前でされたら少しキツいかな…


…私は弱い人間だ。
覚悟が足りないのは私の方だったのかもしれない。

唯「憂…」クルッ

憂「どうしたの…?」グスッ

唯「…ありがとう」ギュッ

憂「…っ!」ブワッ

私は、このありがとうがいつもと違うものだと直ぐに理解した。

この日から、お姉ちゃんと梓ちゃんは付き合うことになった。


梓ちゃんと付き合ってからのお姉ちゃんと言えば、朝は自分で起きれるようになったし、
自分のことは自分でするようになった。
何でも、梓ちゃんに釣り合う人間になるためらしい。
…もう、お姉ちゃんの傍にいるのは私じゃないんだな。
時々こんな事を思って寂しくなる。

唯「よし、憂行こう!」ガチャッ

憂「うん!」

唯憂「行ってきま~す!」

今ではこれが私の日常。
もうあの慌ただしい朝の光景はない。
私の望んだ日常は無くなった。
でも、私はとても幸せ…
だって、お姉ちゃんの幸せは私の幸せだから…


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最終更新:2010年07月07日 23:42