数日後

私はあの出来事があっても部活は休んでいない。
先輩達だって辛いはずなのに、部活には毎日顔を出している。
…最後の学園祭で唯先輩に最高の歌を聞かせたいからって。
先輩達は一段落つくまで部活は休んでいい、って言ってくれた。
でも、私が休む訳にはいかない。
私だって放課後ティータイムの一員だ。
唯先輩に最高の歌を聞かせたいから。
…私のギターと、声で。


ブーッブーッ

梓(…誰だろ?)

 (病院!?)ガタッ

 「あの、失礼します!」ガチャッ

―――

ガチャッ

澪「何だったんだ、梓?」

律「…梓、帰っていいぞ」

梓「…え?」

 「でも…」

律「いいから帰れ!お前最近練習に身が入ってなかっただろ!」

 「そんな状態で練習されても私達が困るんだ!少しは頭を冷やしてこい!部長命令だ!」

梓「あの…」

 「ありがとうございました!」ペコリ

ガチャッ

律「やっと行ったか…」ヘナー

紬「りっちゃん、何であんな事言ったの?梓ちゃん凄く頑張ってるのに…」

澪「それにあの電話は何だったのか…」

律「多分唯が目を覚ましたんだろ。あいつが帰ってきた時の表情見たら分かったよ」

澪「でも…行ってこい、ぐらいで良かったんじゃないか?」

律「おいおい、あんな生真面目で超頑固な梓が、それだけで素直に行くと思うか?」

 「あれぐらい言わないと、あいつは絶対行かないさ。いくら浮かれててもな」


澪「…凄いな、律は。私達の事、何でも分かってる」

律「当然だろ~?私は部長だぞ~?」

 「それにしても悪役はしんどい…」グダッ

紬「ふふっ」

 「りっちゃんが優しい子だって、皆分かってるわ。勿論梓ちゃんも」

律「よせやい、照れるだろ~」ハハッ

澪「ん?」

 「…律の梓への発言は、本当は全部裏返しってとれるな」フム…

律「なっ!うるせー!///」

紬「あらあら」フフッ



病室前

梓(…ここだ)ハァハァ…

ガラッ

梓「…憂」

病室から出てきたのは、かつての親友、憂だった。

憂「…外に行こう?」スタスタ


憂「…何しに来たの?」

梓「唯先輩が目を覚ましたって聞いたから…」

憂「…お姉ちゃん、梓ちゃんに会いたくないんだって」

梓「…え?」

思わず全身の力が抜けそうになる。
…会いたくない?私に?


憂「…約束も守れないで私をこんな風にしちゃった梓ちゃんを許せない、って言ってた」

…全身の力が抜けた。
今まで必死に堪えてきたけど、もう無理だ。
地面に崩れ落ちるのと同時に、涙が零れてくる。

憂「…泣いて済む問題なのかな?」

梓「…」フルフル

憂「…もう帰って。二度とお姉ちゃんに近寄らないで」クルッ

スタスタ

…唯先輩、ごめんなさい。
私、また約束破っちゃいました…

トテトテ


子供「ねぇねぇ、お姉ちゃん大丈夫?」

梓「…うん、ちょっと色々あって」グスッ

子供「そうだ!これあげる!」スッ

そういって、私にくれたのは、飴玉だった。
…これ、唯先輩が大好きなやつだ。
…私は飴玉を口にふくむ。
甘い…
様々な唯先輩の表情が頭をよぎる。
嬉しそうな顔、楽しそうな顔。
悲しそうな顔、怖がってる顔。
飴玉の甘さが、私を落ち着かせてくれた。

子供「お姉ちゃん、元気になった?」ニコッ

満面の笑みで私に尋ねる。
…唯先輩の笑顔に似てる。
笑顔…
瞬間、私の頭をよぎったのは、轢かれる前に私に見せた唯先輩の笑顔。
…笑顔?


確かに唯先輩はあの時、私に笑顔を見せてくれた。
…何で笑顔だったんだろう。

……
そうか!

梓「ありがとう、元気出たよ」ニコッ

子供「本当!?良かった~」ホッ

  「あ、ママが呼んでる。じゃあね!」フリフリ

梓「うん、バイバイ」フリフリ

まさかあんな子供に助けられるなんて…
私の足は、再び唯先輩の病室へ向けて歩を進めた。
最愛の人が待っている場所へ…



病室前

病室前に辿り着く。
扉の前には憂が立っていた。

憂「…二度と近寄らないでって、私言ったよね?」

梓「…憂、聞いて」

憂「…言い訳は聞くつもりないよ?」

梓「いいから聞いて!」キッ

看護師「…」ジロッ

憂「…外に行こう。ここじゃ迷惑になっちゃう」


憂「…それで、話って何?」

梓「…唯先輩は私を拒んだりなんかしない」

憂「…何でそんな事が分かるの?」

梓「…唯先輩が轢かれる前にね、私に向かって微笑んでくれたの」

憂「…それで?」

梓「それは私が道に転がってからだった。凄く安心したような、そんな笑顔」

憂「…」

梓「私には分かる。今までずっと唯先輩を見てきたんだから」

 「私が助かって、本当に安心したような顔だった!」ウルッ

憂「…うん」

梓「私達は愛し合ってた…ううん、愛し合ってる!繋がってる!それは今も変わらない!」

 「…だから分かるの」

 「唯先輩は私を拒まない!」

 「私が唯先輩に会いたいように、唯先輩は今も私を待ってる!」

憂「…」

 「…ごめんね、梓ちゃん」

 「…私嘘吐いちゃってた」

梓「憂…」

憂「お姉ちゃんがあんなになっちゃっても、梓ちゃんがお姉ちゃんを好きでいてくれるか」

 「…不安で不安で仕方なかった」ウルッ

 「…でも梓ちゃんは、あの時の梓ちゃんのまま」

 「本当にっ…安心した…」グスッ

憂「それに…前もっ…あんなに酷いごど言って…」ヒック

 「梓ちゃんは悪ぐないって分かってだのに…」ヒクッ

 「誰かに当だらないと…お姉ちゃんの一番近ぐにいた梓ちゃんに当たらないと…」

 「私は私が保でながっだ…」

 「ごめんなざいっ!」ペコリ

梓「…」

 「…いいよ、憂。頭を上げて?」ナデナデ

憂「…え?」グスン

梓「私だって憂の立場ならあんな事言うかもしれないし…仕方ないよ」

 「…それに、私がしっかりしてなかったせいだから」

憂「梓ちゃんは悪くないよ!」

 「…何もかも私が悪いの」

梓「…じゃあ二人でごめんなさいって言おうか」

 「それでお互い様って事で、そうしよう?」ニコッ

憂(梓ちゃん…お姉ちゃんみたい…)

 「うん、ありがとう梓ちゃん」

梓「ううん。じゃあ、せーのっ」

梓憂「ごめんなさい!」ペコリ

梓「仲直り…だよね?」

憂「うん!これからもまたよろしくね?」ニコッ

梓「うん!」ニコッ

梓「そうだ憂、一つ訂正」

憂「なぁに?」

梓「私は、唯先輩のこと『好き』じゃないよ」

憂「え?」

梓「『愛してる』の!」ニコッ

憂「妬けちゃうね」フフッ

梓「えへへ…///」

憂「お姉ちゃんの所に行こっか?」

梓「うん!」

今行きます、唯先輩!



病室前

…この扉の向こうに唯先輩がいる。
会いたくて会いたくて仕方がなかった人。
…笑顔だ。
満面の笑顔で会おう。

憂「…」コンコン

「はーい」

…?
聞こえてきたのは唯先輩の声ではない。
看護師だろうか。
出来れば私達だけで会いたかったけど仕方がない。
目を覚ましたばかりなのだから。

憂「梓ちゃん、どうぞ」ガラッ

梓「こんにちは~…」ソロソロ

唯「あずにゃん!」パアッ

いた。
私の一番大切な人。
私を見るなり満面の笑顔で迎えてくれた。
そして、その隣には…

唯母「あら、あなたが梓ちゃん?こんにちは」ニコッ

唯父「こんにちは。話は唯から聞いてるよ」

唯先輩のお母さんとお父さんが立っていた。
お母さんの方はおっとりした感じで、お父さんの方はとてもしっかりしてそうな人。
それに美男美女、見惚れてしまいそうな程に。
このご両親がいての唯先輩と憂なんだろうと思う。

梓「は、初めまして!私、唯先輩の『後輩』の中野梓って言います!」

唯母「あら、ただの『後輩』なの?」ニヤッ

そう言うと、唯先輩のお母さんは悪戯っぽく笑った。
…こういう所は受け継がれてないんだな。


梓「あっ、あの…///」カァッ

唯「お母さん!虐めたらあずにゃんが可哀相だよ!」ムッ

唯母「ふふっ、冗談よ」

唯父「…少し話があるんだけど、梓ちゃんちょっといいかな?」

梓「はい?」

病室前

梓「あの…お話って…」

唯母「梓ちゃん、今まで唯に良くしてくれてありがとう」

梓「いえ、そんな…」

唯父「…唯の体の事は知ってるよね?」

梓「…はい」

唯父「もう唯は今まで通り生活できない。梓ちゃんと出掛ける事だって難しい」

唯母「そう。唯は梓ちゃんの大きな足枷となってしまうの」

  「私達は梓ちゃん、あなたに唯に縛られて生きてほしくない。」

梓「…縛られるなんて考えてません」

 「私は私自身の意志で決めたんです。唯先輩に添い遂げるって」

 「それに、どうなろうが唯先輩は唯先輩です。私の愛する唯先輩なんです」

 「愛する人を足枷なんて思いません」

 「…だから、私を信じてください」

 「お願いします」ペコリ

父母「…」

ガラッ

唯母「憂…どうしたの?」

憂「私からもお願いします」ペコリ

梓「…憂!」

憂「梓ちゃんは本気だよ。私には分かる。確信できる」

 「それに、お姉ちゃんが愛した人なんだよ?」

 「お父さん達は、お姉ちゃんを信じてないの?」

唯母「…ふふっ」

唯父「…はっはっ」

憂「…何で笑ってるの?」

唯父「愛する…いいじゃないか」

唯母「若いっていいわねぇ~」

唯父「僕達もかつては…」


唯母「あら…私は今も愛してるわよ」

唯父「ふふっ…僕もさ」

唯母「あなた…」

憂「…ふざけるのも程々にしたら?」

唯母「それもそうね」フフッ

  「…梓ちゃん、大変かもしれないけど唯の事よろしくね?」

唯父「僕は割と真面目だったんだけど…」シュン

梓「え?あの…」

唯父「まあいい。梓ちゃん、そもそも僕達はこうなる事は分かってたんだ」

梓「…え?」キョト

唯母「あら、あなた達外で揉めてたじゃない。話の内容聞いてたらこうなる事は分かったわ」

憂「…じゃあ何で」

唯父「面と向かって聞きたかったのさ。梓ちゃんの口からね」

  「どれ程唯のことを好いてくれているのか。僕達も親だ。心配なんだよ」

唯母「一生付き合っていく人だから尚更」

梓「じゃあ本当に…」

唯母「ええ、唯を頼むわ」ニコッ

唯父「僕達も出来る限りのサポートはするよ」ニコッ

梓「唯先輩のお父さん、お母さん…ありがとうございます!」ペコリ

憂「私からも、ありがとうございます」ペコリ

唯母「いいのよ、私達が悪かったわ」

唯父「唯先輩のお父さんか…」

  「梓ちゃん、僕の事は『お義父さん』、もしくは『パパ』と呼んでくれ!」

唯母「じゃあ私は『ママ』で♪」

梓憂「ははっ…」

病室

唯「あ、あずにゃん達遅かったね~」

唯母「積もる話があったのよ」

唯父「そうそう、僕達は今日は帰るよ。もう遅い」

憂(…なるほど)

 「さ、帰ろう!私が晩ご飯作るよ」

唯父「愛娘の晩ご飯…何て素晴らしい…」

憂「分かったから早く出ていって!」

 「二人共また明日ね!」


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最終更新:2010年07月07日 23:47