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りっちゃん、きっと上手くいってるのかな
それにしても……
こんな終わり方しちゃったら永遠に後悔するんじゃない?
本当に好きなものひとつ手に入らなければその人は一生満たされないと思うわ
一体どの口がこんなことを言えたのだろうか。
自分の意気地のなさに嫌気がさしてしまう。
それが私のこよなく愛する女性の名前だ。
プラスな人間、太陽のような女性
目標に向かって突き進む彼女の姿は本当に魅力的だった。
寝ても覚めても彼女の事ばかり考えてしまう。
平沢唯という名の太陽の引力に吸い寄せられる人間は多い。
けいおん部や彼女の家族、クラスメイト
私もそんな一員だったし、それで満足していたのだけど……
時がたつにつれてもっと、もっと彼女に近づきたいと思うようになってしまう
私たちが高校2年生になると彼女の妹、憂ちゃんが入学してきた
憂ちゃんはけいおん部に入り私たちと活動を共にすることになった。担当はベースだ
唯ちゃんに似てどこまでも純真で、愛するしかない後輩。
これで下級生もなんとか入部したので我がけいおん部も活動を続けていけそうだ。
もう一人見学に来た娘がいたのだけど、真面目な娘らしく見かぎられてしまった。
普段はもっとちゃんとしてるんだけど……何より時期が悪かった
みおちゃんとりっちゃん、彼女達は無事結ばれたらしい。
今では澪ちゃんも少し落ち着いてきたが、当時は見ているだけでブラッくコーヒーを何杯でも飲めるような甘いやりとりをりっちゃんと続けていた
それに唯ちゃんと憂ちゃん。
1年ぶりの同じ学校だからだろうか?普通の姉妹以上にべったりしてる彼女たち。
何も知らない人から見れば、ただ仲のいい女の子がいちゃいちゃしてるだけの部活に見えるだろう。
こんな時の軌道修正役の澪ちゃんがりっちゃんとべったりだから、もはやどうしようもなかった。
季節も夏に差し掛かる頃
私は悶々とした気持ちを抱えていた。
唯ちゃんとの今の関係
友達として考えれば理想的な環境
でも一度恋心をい抱いてしまっては、これほどやりにくい環境もない。
この気持ちをもし唯ちゃんにぶつけて今の私たちの関係を壊してしまったら……それだけは絶対に駄目だ
でも……私のこの気持ちは封印するには余りに強すぎる
近頃は勉強に支障をきたすほどになていた。
学校では彼女に目を奪われ、家に帰っては彼女の事を思い自分を慰める。
………澪ちゃんやりっちゃんだって勇気を出して思いを伝えたんだ。
そう思い私は彼女に気持ちを伝える決意をした。
何も「付き合って」っと言うわけじゃない。ただ自分の感情を伝えよう。
それで私のこの思いと決別をつけるんだ
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人に邪魔されなくて、都合のよさそうな場所……
澪ちゃんと同じように私は部活の無い日の部室を選んだ。
「ムギちゃん、二人きりでお話ってどうしたの?」
「唯ちゃん」
「?」
「その……私唯ちゃんの事が好きなの……」
「………」
「1年の頃から目標に向かって努力する唯ちゃんが好きだったの」
「りっちゃんなんかは才能だとか、覚えがいい、とか言ってたけど」
「唯ちゃんすごい練習してたんだよね?それこそ疲れて楽器と一緒に寝てしまうくらい」
「………」
「いきなりごめんね?こんなこと言って迷惑かもしれない。でも……」
「別にだから付き合って、とかそういうわけじゃなくて」
「ただ唯ちゃんに気持ちを伝えときたくて……」
「……うん」
「………」
「………」
気まずい沈黙を打ち破ったのは彼女だった
「そろそろ憂が待ってるから帰るね?」
「唯ちゃん、聞いてくれてありがとう……」
ドアを開けるとき彼女は最後に何か言いたそうこちらを振り返り
だけど何も言わず、そのまま部室を後にした。
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何を考えながら帰宅したんだろう
気がつけば私は自宅のベッドに寝転んでいた。
気持ちを伝えたいだけ。
なんて陳腐な逃げだろう。
あんな事を言いながらも、私は心のどこかで唯ちゃんに何かを期待してたいた。
でもその淡い期待は容赦なく打ち砕かれてしまったのだけど。
今更やめとけばよかったと思う。
あんなこと言って明日から今までの関係が続けられるとは思わない。
それに憂ちゃん……
彼女が今日の事を知ったらどう思うだろう?
なるべく考えないようにしていたが、やはり彼女たちは姉妹以上の関係を築いているのだろうか
そんな彼女たちに私は………
なんて自分勝手なんだろう。明日二人に謝らなければ
でも、どう謝れば、何を謝ればいいのだろう?
今更許してもらえるわけはない。
考えたって解決できないのはわかりきってる。
今日はもう寝よう……
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昨日はほとんど眠ることができず最悪の朝だった。
だけど唯ちゃんのいつも通りの笑顔で元気になってしまう。
唯ちゃんは、いつも通りに接してくれた。
よかった……彼女は昨日のことを無かったことにしてくれるみたいだ。
そんな希望的観測は下駄箱に入っていた一通の手紙に破壊された
「今日のお昼休み、話たいことがあります。屋上で待ってます
平沢憂」
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それからというもの昼休みまでの授業中、私の気分といったら……
いや、私が悪いんだ。
どんな罵声でも受けよう
それが私の犯した罪へのけじめだ
夏だと言うのに屋上は風が強く肌寒かった
いや、これは私の心情のせいかもしれないけど……
屋上から見下ろす景色はなかなか見ごたえがある。
ぼんやり景色を眺めているとドアの開く音に体がびくっと反応してしまう。
「こんにちは紬さん」
普段天使のような彼女の笑顔が般若に見えるのは私の目の錯覚だろうか
「う、憂ちゃん……」
「……気安く呼ばないでください」
「っ……」
彼女の今まで聞いたことのない冷たい声に体が凍ってしまう
「昨日貴方が何したか、おねえちゃんから聞きました」
「……私とおねえちゃんは愛し合ってるんです、紬さんわかってたんじゃないんですか?」
「よくあんなことができますね」
「違うの憂ちゃん!私は貴方達の邪魔をするつもりなんてなくて……」
「ただ私の気持ちにけじめをつけたかったの!」
「そんな言い訳聞きたくないです」
「あなたみたいな人を泥棒猫って言うんですよ、いや猫程可愛くもない。ただのメス豚です」
「ほんとブタさんみたい。よくそんなだらしない体で生きていけますね」
「………っ」
耐える準備はしていたのに、彼女の罵声に瞳を潤ませてしまう
「……貴方みたいな人がいるから……おねえちゃんは私が守らないと……」
「おねえちゃん……」
そう呟く彼女の眼はどこか狂気を帯びていて、私は蛇に睨まれた蛙の如く動きがとれない
「そうだ。今日の夜うちに来てください」
「え?」
「紬さん、カレーとシチューどっちが好きですか?」
「ど、どっちって言われても……」
急ににこにこする彼女に戸惑ってしまう
「シチューは好きだけど……」
「じゃあシチューですね。きっと紬さんおいしいものたべて栄養つけてるから、いい味が出そうですね」
「な、何を言ってる……の?」
彼女が何を言ってるのかわからない……
わかっているけど理解したくない!
体を震わせている私に近寄って彼女が耳元で囁く
「安心してください、私とおねえちゃんの中でずっと生きてきましょう」
「ぜっっったい。今日うちにきてくださいね?」
誰か!!誰か助けて!!……
「むぎちゃん……」
「唯ちゃん!?どこなの?唯ちゃん!!」
「むぎちゃん!!!!」
「……はぅっ」
「もー、むぎちゃんぐっすり眠りすぎだよぉ」
「ムギが授業中寝るなんてな。もしかして疲れてるのか?保健室行く?」
時計を見るとどうやら4時限が終了してこれから昼休みの時間のようだ
昨日眠れなかったせいか、どうやら授業中に寝てしまったらしい。
「別に大丈夫よ、りっちゃん。少し眠たかっただけだから……」
つとめて冷静に振舞うが、全身に書いた冷や汗で体中が気持ち悪い
でも……夢でよかった
いや、あれは夢でも、正夢だ。
これから同じようなことがきっと起こるのだから……
「私昼休みはちょっと用事あるから、今日はご飯一緒に食べれないの」
そう言い残し屋上に向かった。
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最終更新:2011年01月16日 02:44