私はバス停前のベンチに座りバスを待っていた。

唯「次のバスが来るまで後、二時間かぁ…」

蝉の鳴き声、夏の日差し、夏特有の匂い。

唯「もう、すっかり夏だなー」

お茶を少し飲む。

唯「美味しい……」


私が高校を卒業してから六年経った。
今では私も立派な社会人だ。
あの頃は楽しかったなぁ。
高校で過ごした三年間、本当に凄く楽しかった。
私の人生の中一番楽しかった。


女の子「あ、あの……」

私があれこれ考えていると小さな女の子が私に話しかけて来た。
見た目は五歳ぐらいの、おさげをした可愛いらしい小さな女の子。

唯「どうしたの?」

女の子「聞きたい事があるんですけどぉ……」

涙ぐんだ目で女の子は私を見る。
道にでも迷ったのかな?


唯「聞きたい事?」

女の子「はい……あの……」

女の子と目を合わせる。
恥ずかしいのか女の子はすぐに私から目線を逸らした。

唯「うん、なに?」

女の子「バスの乗り方が分からなくて……」


唯「何処に行きたいの?」

女の子「え…と……桜ヶ丘高校に行きたくて」

桜ヶ丘高校か…懐かしいな。
私が高校生の頃に通っていた高校。
1番の思い出の場所。


唯「桜ヶ丘高校?私も同じ所に行くよ」

女の子「そうなんですか……じ、じゃあ」

唯「うん、一緒に行こう」

女の子は俯いて少し笑った。
それを見て私も笑った。
安心したのか私の横にちょこんと座る。

唯「桜ヶ丘高校に何しに行くの?」

女の子「えーと……お母さんのお見舞いに」

唯「そっか……」

桜ヶ丘高校の少し離れた所に病院がある。
きっと、この女の子はそこに行くのだろう。

唯「お母さんはきっとアナタが来てくれて喜ぶと思うよ」

女の子「そう……かな?」

唯「うん喜ぶよ」

女の子「えへへー喜ぶよね!」

唯「うん!」

彼女は始めて私に目を合わせてくれた。
そして笑ってくれた。

女の子「お姉ちゃんも桜ヶ丘高校に行くの?」

唯「うん、そうだよ」

女の子「そうなんだーこの大きな鞄なぁに?」

唯「これ?これはねー!」

唯「ジャジャーン!」

私はギターケースを開けて女の子にギターを見せた。

女の子「これってギター?」

唯「うんそうだよー可愛いでしょ?」

女の子「うん!可愛いねー」

唯「アハハ、ありがとう」

女の子「触って見ていーい?」

唯「うんいいよー」

小さな真っ白な唯がギターのネックを触る。
ピーンと音が鳴ると彼女は慌てて手を離した。

女の子「お、音が…ごめんなさい」

申し訳なさそうに頭を下げる女の子の頭を優しく撫でた。

唯「ううん…ギー太も喜んでるよ」

女の子「ギー太?」

唯「このギターの名前だよ」

女の子「えへへーそっかギー太くんかぁー」

彼女はギターをまじまじと見つめる。
目が凄く輝いてる。
私も子供の頃はこんな目をよくしていたなぁ…。


唯「小学生?」

女の子「違うよもうすぐ小学1年生だけどねー」

唯「そっかぁ」

来年小学生か……。
幼稚園から小学生になる時って楽しみでたまらないんだよね。
キャラクター物の大きなふでばこに鉛筆や消しゴム入れたり。
小学校で使う筈のノートに落書きしたり。
懐かしいなぁ……。


女の子「お姉ちゃんは今何歳なの?」

唯「………………」

懐かしいなぁ……。

女の子「お姉ちゃん?」

唯「あ……ごめんちょっと考え事してた」

女の子「そうなんだ!あのねーお姉ちゃんって何歳?」


唯「私は二十四歳だよ」

女の子「大人だねー」

唯「うん…大人になっちゃった」

女の子「いいなー私も早く大人になりたいなぁ…」

唯「そうかな?私は子供の頃に戻りたいな」

女の子「えーなんでぇ?大人って楽しそうなのになぁー」

唯「大人はね皆、子供の頃に戻りたいんだよ」

女の子「なんで?」

唯「それはね……」

携帯の着信音が鳴る。
憂からだ。

唯「ごめんね…電話だ」

女の子「うん!わかった静かにしてるねー」

唯「はい…もしもし?」

憂『あ!お姉ちゃん?』

唯「うん、どうかしたの?」

憂『今はバス停にいるの?』

唯「そうだよ」

憂『そうなんだお弁当忘れてないかな?』

バックを見る。
お化粧道具と財布、お茶とスケジュール帳その他色々。
お弁当は入って無い。

唯「……忘れてる」

憂『机の上にお弁当箱があったからね、もしかしたらと思って電話したんだ』

唯「どうしよう……」

憂『そっちまで行きたいけど…今から会社だから』

唯「ううん…大丈夫だよコンビニでおにぎり買うよ」

憂『そっか、わかったバイバイ』

唯「うん、バイバイお仕事頑張ってね」

憂『うん!』

電話を切る。

女の子「誰からだったの?」

唯「妹からだよ」

女の子「妹いるんだ!私のお母さんもねもうすぐ妹を産むんだぁー」

唯「そうなんだ!よかったねー!」

女の子「凄く楽しみ!私お姉ちゃんなんだよー」

唯「うん!凄いね!何だか私まで嬉しいよ」


女の子「お姉ちゃんかぁー」

足をブラブラさせてニコリと笑う女の子を見て私は思った。
子供の笑顔は癒される。

唯「頑張ってねお姉ちゃん」

女の子「うん!」


また、お茶を少し飲む。
女の子も私を見て肩からぶら下げていた水筒を持ち、蓋をコップ代わりにしてお茶を注ぐ。
ゴクゴクゴクとお茶を飲む音が微かに聞こえる。

唯「夏に飲むお茶は美味しいよね」

女の子「うん!美味しい!」

唯「あ……そう言えば幼稚園生なんだよね?」

女の子「うん!年長さん!」

唯「年長さんなんだ!実は私ね幼稚園の先生なんだ!」

女の子「そーなんだぁ!」

唯「うん、とっても可愛い子ばかりでね働いてて面白いんだ」

女の子「私も幼稚園の先生になりたいんだぁー!」

唯「そうなの?」

女の子「うん!子供好きなんだぁー」

唯「夢が叶うといいね」

女の子「ありがとー!」

私が働いてる幼稚園の園児にも将来の夢を語る子はいる。

例えばパイロットになりたいとか、サッカー選手になりたいとか私に沢山の夢を語ってくれる。
本当に嬉しい事だよね。

女の子「お姉ちゃんみたいな優しい幼稚園の先生になりたいなぁー」

唯「……え?」


私は女の子が言った言葉に少し固まった……。

唯「あ、ありがとう!」

凄く嬉しい……。
思わず溢れ出しそうになる涙をグッと堪える。

女の子「どうしたのー?」

唯「ううん…ただ凄く嬉しくてね」

女の子「私も嬉しい!」

女の子「でも、私お姉ちゃんギター持っるからミュージシャンかと思っちゃったぁ~」

唯「それ、私の高校生の頃の夢だよ」

女の子「高校生の頃の?」

唯「うん、軽音部だったから」

女の子「けいおんぶってなぁに?」

唯「えーと…軽音部はねみんなで楽器を演奏したりするんだよ」

女の子「ギターを演奏したりするの?」

唯「うん、そうだよ」

女の子「カッコイイね!」

唯「そう……かな?」

ちょっぴり照れ臭いなぁ……。


女の子「けいおんぶって楽しい?」

唯「うん、とっても楽しいよ」

女の子「楽しいんだ~私もけいおんぶに入ろっかな~」

唯「その時が来たら是非入って欲しいな」

女の子「うん!絶対のぜったい入るよ!」

唯「うん!演奏する時は私を呼んで」

女の子「わかった!」

時計を見る。
バスが来るまで、まだまだ時間が掛かるなぁ…。

女の子「お姉ちゃん?」

唯「どうしたの?」

女の子「お姉ちゃんがけいおんぶだった時のお話聞きたいなぁ……」

唯「うん、いいよ」

みんなと過ごした思い出は毎日のように思い出せる。
まるで、昨日の事のように鮮明にね。

女子高生「あの~」

女の子「ほぇ?」

唯「………ん?」

女子高生「今、何時ですか?」

綺麗な黒髪をした女の子が私に話しかけて来た。
何処と無く澪ちゃんに似ている。

唯「今は八時だよ」

女子高生「また遅刻だぁーここバスが来る時間遅いから…あーもう少し早く来てるんだったなぁ……」

彼女は肩をガクッと落としベンチに座る。

女子高生「時間教えて頂いてありがとうございます」

唯「ううん大丈夫だよ」

女子高生「はぁ~遅刻だぁ遅刻だぁ」

だ、大丈夫かな?

女の子「………………」

女の子もポカーンとして彼女を見ている。

唯「……あ、私が軽音部の時の話しするね」

女の子「う…うん!」

女子高生「え……軽音部なんですか?」

彼女は大きな声を出して言った。

唯「そ、そうだよ」

女子高生「私も軽音部なんですよ」

女の子「お姉ちゃんと同じだね」

唯「うん、そうだね」

女子高生「あ、ごめんなさいいきなり」

唯「全然、大丈夫だよ」

女の子「お姉ちゃん軽音部の事話して?」

唯「うん、わかった!」

私は女の子に語り出す。
軽音部の事を……。


――――えーとまずは何から話そうかな?
あ!軽音部のメンバーから話すね。
まずはベースの秋山澪ちゃんは綺麗で怖がり屋さん。
ドラムの田井中律ちゃん元気で軽音部のムードメーカー。
キーボードの琴吹紬ちゃんおっとりぽわぽわ可愛い人。
ギターの中野梓ちゃん小さくて可愛いくて私は毎日抱き着いてた――――


唯「これが軽音部のメンバーだよ」

女の子「ドラムとかベースとかよく分からないけど面白ろそう!」

女子高生「中野…梓?」

唯「どうしたの?」

女子高生「ひょっとしてあの中野梓ですか?」


唯「あずにゃ……梓ちゃんがどうかしたの?」

女子高生「中野梓って人もしかしたら黒髪でツインテールだったりします?」

唯「うん」

女子高生「しゃ…写真ありますか?」

唯「えーと確か卒業式にみんなで取った写真が財布の中に……」

財布から写真を取り出して彼女に渡す。


女子高生「な、中野梓だ!」

唯「知ってるの?」

女子高生「知ってるも何も大ファンです!」

唯「大ファン?」

女子高生「知りませんか?じゃじゃ猫WayToGoってバンド」

唯「えーと…知らない」

女子高生「知らないんですか?」

唯「うん……でも梓ちゃんミュージシャンなんだ」

女子高生「はい!じゃじゃ猫WayToGoのリーダーでありギタリスト!それが中野梓です」

唯「凄いなぁ~」

女子高生「まだまだ無名のバンドですけど絶対あのバンドは有名になりますよ!」

そっか…あずにゃんはミュージシャンなんだ。


女の子「中野梓ちゃんって凄いんだね~」

唯「うん、私もびっくりしてる」

女子高生「あ、あの!私もアナタの軽音部の話し聞きたいです」

唯「ありがとう」

女子高生「はい!続きお願いします」

唯「うん!わかった……次は何話そうかな」


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最終更新:2010年07月13日 21:22