―――そうだあの時の話しをしようかな。
あれは私達が三年生になりたての春の日。
学校が終わって放課後、私は何時も通り部室に行ったんだ。
そしたらね………。
部室には誰もいなかったけど、何処からか誰かの泣く声が聞こえたんだ。
シクシクシクシクってね。
唯「だ、誰かいるの?」
私は怖かった。
誰もいない部室に誰かの泣き声が聞こえるんだよ?
でも、正体がわかった途端、恐怖は無くなってた。
梓「うぅ…ぐすっ……」
梓ちゃんが部室の隅っこで泣いてた。
唯「あずにゃん?」
私は呼び掛けたあずにゃんって。
あずにゃんって言うのは私が付けたあだ名だよ。
それで、梓ちゃんは振り返り私を見た。
梓「ゆ…い…先輩?」
涙目の梓ちゃんを見て私はどうすればいいか分からなかった。
梓ちゃんは制服の袖で涙を拭ってこう言ったんだ。
梓「もう…三年生ですね」
唯「うん……」
梓ちゃんは立ち上がって私の目をジッーと見た。
涙が太陽の光でキラキラ輝いてて少女漫画のような目をしてた。
梓「もうすぐ……卒業しちゃうんですね」
唯「そうだね…」
梓「……高校でバンド出来なくなりますね」
また梓ちゃんは泣き始めた。
静かな部室に梓ちゃんのすすり泣く声だけが聞こえた。
とっても悲しい空間。
私は梓ちゃんを優しく抱きしめた。
梓「私達…離れちゃうんですね」
唯「離れたりなんかしないよ!」
梓「……………」
梓ちゃんは黙って私の体に顔を埋めたんだ。
とっても可愛いかった。
梓「そう…ですよね……私達は離れたりしませんよね!」
いつの間にか梓ちゃんの顔は泣き顔から飛びっきりの笑顔になっていた。
唯「うん!絶対離れたりなんかしない約束だよ」
梓「はい!」
でも、私が大学へ行って二年ぐらい経つと梓ちゃんとは会わなくなっていた。
何でか分からないけど会わなくなっていた。
私達は離れないよって言っておきながら…馬鹿だよね。
嘘つきだよ……私は――――
唯「これで…終わり」
女子高生「…………ありますよねそう言う事って」
唯「…………え?」
女子高生「小学生の時の友達が中学生になったら、ただ顔を合わすだけの仲になるのって」
唯「…………うん」
何で梓ちゃんと会わなかっ理由は未だに分からない。
環境が変わったから?大学で友達がいたから?違う。
大人になる一歩手前だから?就職をどうするか悩んでいたから?進路の事でみんなの事は忘れていたから?
何で梓ちゃんと会わなくなったんだろう?
スタンドバイミーの映画のように友達と少し離れると、みんなそうやって顔を合わすだけの仲になるのかな?
女子高生「あ……バスがやっと来ました」
女の子「バス!」
唯「えーと…これは違うバスだよ」
女子高生「今日はいい話しを聞かせてくれてありがとうございました」
唯「ううん大丈夫だよ」
女子高生「あの…写真返しますね」
唯「うん!」
女子高生「それじゃあさようなら」
彼女はバスに乗り込み窓から手を降ってくれた。
私達二人も手を降って彼女を見送った。
女の子「行っちゃったね」
唯「そうだね……」
おばさん「でも中々アナタのお話面白いわ」
急な声に思わず後ろを振り返る。
おばさんが後ろにいる。
うちわをパタパタとさせて立っている。
おばさん「聞いたわよ~アナタの話し」
女の子「ちょっとびっくりした……」
唯「聞いてたんですか?」
おばさん「えぇ、軽音部のメンバーを話してた辺りからいたわよ」
まったく気が付かなかった……こんなにうちわをパタパタさせているのに。
おばさん「他にないの?」
唯「えーと……」
女の子「私も聞きたい!」
唯「うん!…次は何を話そうかな?」
おばさん「何でもいいわ~若い人の話しを聞いてると楽しいの」
女の子「あ、お姉ちゃん?」
唯「ん?どうしたの?」
女の子「
中野梓ちゃんとは会わなくなったんだよね?」
唯「うん」
女の子「他のみんなとはどうなのかなぁ?」
唯「他のみんなと?」
おばさん「どうなの?」
唯「えーて…会ってないかな……みんな大学がバラバラだったから」
女の子「そうなんだ……」
唯「うん、あの仲が良かったりっちゃんと澪ちゃんが違う大学へ行ったのはびっくりしたなぁ……」
おばさん「その話しが聞きたいわ~」
女の子「うん、聞きたい!」
唯「りっちゃんと澪ちゃんが別々の大学へ行く話し?」
女の子「うん!」
唯「わかった……じゃあ話すね」
―――段々と卒業式が近付いてく秋の日。
私は何時ものようにみんなとお話してたんだ。
律「澪ー!また少し太ったんじゃないのか?」
澪「う、うるさいな!」
りっちゃんが澪ちゃんに軽くからかってるのを私は見てた。
だけど私はこの二人のやり取りを見て何だか寂しくなった。
もう、二人の漫才みたいなやり取りも毎日見られ無くなるんだなぁ…って思うと寂しい気持ちになった。
律「なぁ唯?」
唯「ほぇ?どうしたの?」
律「いやぁー何だかボーッとしてたからさ」
唯「そっかぁ~」
澪「でも、何だか最近、何時も以上にボーッとしてるな?」
唯「卒業式が近いから……」
二人は同時にお互いの顔を見た。
澪ちゃんは切ない表情。
りっちゃんは明るい笑顔。
澪「そうだよな……もうすぐ卒業か……」
律「何だよ~二人共らしくない顔しちゃって」
りっちゃんが私と澪ちゃんの肩をポンポン叩く。
唯「だって…卒業だよ?みんな離れてしまうんだよ?」
律「大丈夫だって、高校を離れても私達は離れないから」
りっちゃんのその言葉が私を安心させてくれた。
律「私と澪も別々の大学に行くけど離れたり何かしない」
澪「うん……」
律「それはみんなも同じ、放課後ティータイムは卒業しません!」
唯「そっか…そうだよね!」
律「うん!みんな別々の大学に行くけど離れたり何かしない」
澪「そうだよな!」
みんな自然に笑顔になる。
私達は離れないずっと友達、放課後ティータイムも解散しない―――
唯「これで終わりです」
おばさん「大学へ行って二人とは会わなくなったの?」
唯「はい、まったく」
女の子「放課後ティータイムってなに?」
唯「あ、私達のバンド名だよ」
女の子「放課後ティータイムかぁー」
唯「うん、いいバンド名でしょ?」
女の子「うん!」
おばさん「ちょっと気になる事があるんだけど」
唯「何ですか?」
おばさん「二人は別々の大学に行っても会っていたのかしら?」
唯「ごめんなさい…分からないです」
おばさん「そうなの?残念だわぁ」
唯「はい……」
二人が今、何をしているのかも分からない。
でも、一つだけ分かる事がある。
りっちゃんと澪ちゃんはまだ私の事を覚えてくれている。
おばさん「あ……スーパーの特売が始まるわ」
唯「スーパーの特売?」
おばさん「もう少し話しを聞いていたいけど仕方ないわね」
唯「何処かに行くんですか?」
おばさん「今日はスーパーの特売なのよ~じゃあまた会ったら話しを聞かせてね」
唯「はい、わかりました」
おばさん「それじゃあさようなら~」
女の子「行っちゃったね~」
唯「うん、私バスを待ってるんだと思ったんだけど違うんだね」
女の子「私も思ってた~」
男「あ…はい、すみません……はいはい分かりました」
ケータイで何かを話しながらスーツを来た男の人が女の子の隣に座った。
男「はい、今から向かいますので……それじゃあ」
男はケータイを閉じて胸ポケットにしまう。
女の子「軽音部の話しってまだあるの?」
唯「うん、いっぱいあるよ」
女の子「話して話してー!」
唯「次は……ムギちゃんの話しをしようかな」
女の子「ムギちゃん?」
女の子「そっかー話して話し話し!」
唯「うん、じゃあ話すね」
唯「あ…でも軽音部の話しじゃないかも」
女の子「違うの?」
唯「うん、ムギちゃんの話し」
女の子「大丈夫だよー話して話して」
唯「うん、わかった」
―――私が大学を卒業した日だったな久しぶりにムギちゃんを見たのは。
私が妹と買い物をしてるとムギちゃんを見掛けた。
何だか大人びた雰囲気だったけどすぐにムギちゃんってわかったよ。
唯「ムギちゃん?」
紬「唯……ちゃん!」
ムギちゃんは私の手を握って嬉しそうに微笑んだ。
紬「本当の本当に唯ちゃん?」
ムギちゃんは私の手をより強く握る。
唯「うん!そうだよ」
憂「お姉ちゃんどうしたの?」
紬「憂ちゃん!」
憂「紬さん?」
久しぶりにムギちゃんに会って私は嬉しかった。
でも、私以上にムギちゃんは嬉しそうにしていた。
紬「本当に久しぶりね~元気だった?」
唯「うん!元気だよ」
憂「はい!」
ムギちゃんは私の手を話して言った。
紬「もし時間があるなら話しましょ?」
唯「うん!いいよ」
私達はお店の前にあるベンチに座って話した。
紬「本当に久しぶりね~高校生の時に戻ったみたいね」
唯「うん!」
紬「唯ちゃん全然変わってないからびっくりしたわ~」
唯「ムギちゃんは何だか大人って感じがするね!」
紬「そう…かな?」
唯「うん!大人になったって感じがするよね!」
憂「はい!」
ムギちゃんは少し悲しい顔をしていた。
紬「私、大人になりたくないわ……もう二十歳過ぎてるけどね」
唯「ムギちゃん……何かあったの?」
紬「うん…ちょっと進路の事で迷ってて」
唯「そっか……」
紬「東京に行くか迷ってるの……」
唯「え…ムギちゃん東京に行っちゃうの?」
紬「ううん、まだ分からないわ」
紬「東京に行くか行かないか迷ってるの」
唯「そっか……」
最終更新:2010年07月13日 21:23