律『ばいばい。澪』
澪『おい!なんでそんなこと言うんだよ!律!』
律『もう行かなくちゃいけないんだ』
澪『なんでだよ!いつまでも一緒にいようって言ったじゃないか!』
律『ごめんな…じゃあな』
澪『おい!律!待ってくれ…!私を一人にしないでくれ…!』
澪「律っ!?」ガバッ
澪「…夢…か…よかった…」
唯「やだなぁみおちゃん!」
澪「!?」
唯「…スイカ…イチゴ…」スースー
澪「寝言、か…」
紬「焼きそば…ゲル状…」スースー
梓「ペロ…ペロ…」スースー
澪「みんな日中目一杯遊んでたからな…」
澪「あれ…律、は…?」
澪「…まさか、夢じゃなかった…?」
澪「律…」
律「…」スースー
澪「律…おい律!」
律「おわあっ!」ガバッ
澪「何やってるんだよ!心配したんだぞ!」
律「…良かった…夢か…」
澪「なんでこんなところにいるんだよ…探しまわったじゃないか…」
律「…いや、そもそも今日の目的は天体観測だろ?」
律「みんな遊び疲れてたからさ。起こすのも悪いかと思ってな」
澪「そ、そうだよな…いきなり怒鳴ってごめん…」
律「いいって。心配掛けてごめんな」
澪「いつ頃からここにいるんだ…?」
律「うーんと、まだ30分くらいかな。澪もここ寝そべってみなよ」
澪「ああ。そうするよ」ゴロン
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澪「…すごい星…天の川こんなにハッキリ見たのは初めてだ…」
律「西洋ではさ、あれは女神の流した母乳だって言われてるんだって」
澪「へえ…だからミルキーウェイっていうのか」
律「うまく考えたもんだよな」
澪「…なんだかいい詞が浮かんできそう…」
澪「こんなに素敵なものが見られるなんてな」
律「本当にムギには感謝しないとな」
澪「ああ。急に『七夕天体観測したい!』ってなったのに、すぐ別荘を手配して送迎までしてくれたんだから…」
律「いっつもなにからなにまで悪いよなぁ…」
律「そういえば、唯とムギと梓は?」
澪「あいつらは日中しゃぎ過ぎだったからな…まだ起きてくる気配はなかったよ」
律「じゃあそれまでこの星空は二人占めってわけね」
澪「そういうこと」
澪「今日は織姫も彦星も良く見えるな」
律「あ、最近知ったんだけどさ」
澪「うん」
律「織姫と彦星って『恋人』じゃなくて『夫婦』らしいぜ?」
澪「…もう結婚してるのか」
律「らしいよ…なんか結婚してるって知ると色々見方が変わってくるよなぁ」
澪「そうか?確かにちょっとびっくりしたけど」
律「いや、一年に一回しか会わないから夫婦として上手くいってるのかな、とかって」
澪「ああ。なるほど…まあ別居してるようなもんだからな」
律「なんだか急に身近な話になった気がするよな」
澪「はは、そうだな。でもあの二人の間には愛はあると思うよ。きっと」
律「なんでそんなこと言い切れるんだよ?」
澪「…あの二人は私達が生まれるはるか昔から夫婦なんだぞ?」
律「だから?」
澪「だからつまり…そういうことだよ」
律「…そういうことねぇ」
澪「そう。そういうこと」
律「…今日は三日月なんだな」
澪「月見もいいけど、月光で星が見えなくなっちゃうから丁度よかったな」
律「そうだな。月の観賞会はまた十五夜にでもやろうよ」
澪「いいな、それ」
律「…子供の頃さ」
澪「うん」
律「夜歩いてると、月が後ろから着いてきてる!って思わなかったか?」
澪「あったあった。走ったりフェイントで曲がってみたりしてもついてきて来るようにみえるんだよな」
律「わたしそのうち怖くなってきちゃってさ、満月の夜はなんとなく不安だったなぁ」
澪「…私は逆に安心したな。月に見守られてる気がしたよ」
律「そうなの?」
澪「うん。なんていうかさ…月の光はお母さんみたいに優しくて、淡くて…すごい安心できたんだよ」
律「なるほどねぇ…あ、満月の時、月の模様は何に見えてた?」
澪「?ウサギしかないだろ」
律「あたしは蟹だった」
澪「…どう見たらそうなるんだ?」
律「ウサギの耳の部分を蟹のハサミと見るんだ」
澪「それ、律だけじゃなくてか?」
律「違うよ!他にもロバとか本を読む男とか、他にも見方があるんだぜ?」
澪「へぇ…昔の人は色々考えたんだな」
律「まぁ結局月にウサギはいなかったけどな」
澪「…宇宙にウサギはいなくても、どっかに宇宙人はいるよ。きっと」
律「そうかねぇ?」
澪「宇宙は凄いんだぞ?何千億と星があるんだから、きっといるさ」
律「うーん…」
澪「何か不満なのか?」
律「そういうわけじゃないけどさ。地球にいると、いまいち凄さがわかんないけどな」
澪「ふむ…あそこにさ、赤い星が見えるだろ?」
律「ああ、結構明るいな。あれは何て言う星?もしかして火星?」
澪「いや、アンタレスだよ。さそり座の代表的な星だ」
律「へー。あれが…」
澪「あの星は明るいし大きいけど、月よりは小さく見えるだろ?」
律「まあそうだな」
澪「そうなんだ。ましてや太陽とは比べるまでもない大きさだ」
律「うん」
澪「でもな、アンタレスの本当の大きさは太陽の230倍の大きさなんだそうだ」
律「そんなにデカイのか!?」
澪「ああ。そして本来の明るさは太陽の1万倍なんだって」
律「1万倍の明るさとかもう訳が分からないスケールだな…ここからはあんなに小さく見えるのに…」
澪「地球とアンタレスは600光年離れてるからな…今見える赤い光も、600年前のものだ」
律「600年前っていうと…えーっと、日本は室町時代あたりかな」
澪「ああ。そして、アンタレスが今発した光が地球に届くのは2610年だ」
律「壮大すぎるな」
澪「…もしかしたらアンタレスという星はもう消えてしまったのかもしれない」
澪「光だけが…今も一人宇宙を旅しているのかもしれないんだ。もう元の星はないのに…」
律「…不思議な気分になってくるな」
澪「自分がちっぽけな存在に思えてくるよ…」
律「…」
澪「…律はさ」
律「うん」
澪「人が死んだらどうなると思う?」
律「…どうしたんだよいきなり」
澪「いや。なんとなく気になってな」
律「うーん。やっぱり天国とか地獄に行くんじゃないか?」
澪「そうか…実はさ」
律「うん」
澪「律が遠くへ行ってしまう夢を見たんだ」
律「…」
澪「今見てるような星空の中へと律が消えていく…そんな夢だったんだ」
律「!」
澪「子供の頃さ、パパ…お父さんに、死んだ人は星になるって教えられたんだ。だからそんな夢を見たのかもしれない」
律「…おいおい、勝手に殺さないでくれよ」
澪「ごめん…ただ起きたら律がいなかったからさ…本気で焦ったよ」
律「それであんなに慌てていたんだな…こっちこそ心配掛けてごめんな」
澪「いいって。律が無事でよかった」
律「…あのな」
澪「うん?」
律「さっき澪が私のことを呼んだ時にさ、少し夢を見ていたんだ」
澪「…それってもしかして」
律「ああ。澪と離れ離れになる夢。私が泣き叫ぶ澪を置いて空に昇っていく夢さ…こんなことってあるんだな」
澪「…何かの予兆かな?」
律「なーに言ってんだよ!そんな夢を見たからって私が死ぬと思ってるのか?」
澪「いや、そんなこと思いたくないけど…」
律「だったらこの田井中律様を信じなさい!絶対大丈夫だから」
澪「そうだな…たかが夢程度でビビってちゃいけないよな…」
律「おうともよ」
澪「…でも、もし」
律「どうした?」
澪「もし…本当に律が死んでしまったら…」
律「だから死なないって」
澪「最後まで聞いてくれ…律が本当に死んでしまった時は…」
澪「私の事を…見守っていてくれるか?」
律「…なにかと思えばそんなことか」
澪「そ、そんなことって言い方ないだろ!…こっちは真剣なんだよ…」
律「そういわれてもなぁ…」
澪「将来のこと…軽音部のみんなとのこと…それを考えると凄く…不安になるんだ…」
律「…あのな、澪?それはそもそも前提が間違ってると思うぞ」
澪「え?」
律「だって死んだら「見守る事」しか出来ないじゃないか」
律「私はいつでも澪のことを思っているし、力になりたい、辛い時には支えてあげたいと思っている」
澪「律…」
律「それは澪だけじゃない。私は唯もムギも、梓の事も同じように大切に思ってる」
律「死んでからなんてまどろっこしいこと私は考えてないぞ。いつでも現世でみんなの力になるつもりだ」
澪「…ありがとう」
律「いいって。死んだ時のことなんて、死んだ時考えればいいんだよ」
澪「そうか…そうかもな…ごめんな?へんなこと言って」
律「気にするなって。それに、澪のことを大切に思っているのは私だけじゃないぞ」
澪「え?」
唯「お~い!」
律「お、噂をすれば…」
唯「澪ちゃーん、りっちゃーん」
梓「先輩、そろそろ離れてくれませんか…?」
唯「え~。もうちょっとだけ二人羽織ごっこしようよ~」
梓「歩きにくいんですよぉ…」
紬「風が気持ちいい~」
澪「みんな…」
律「よ。やっと起きたのか」
唯「もう、酷いよりっちゃん。起こしてくれたってよかったのに」
律「はは、ごめんごめん。みんな気持ちよさそうに寝てたからさ」
梓「どのぐらいここにいるんですか?」
澪「…もうかれこれ1時間くらいかな」
紬「あら、体冷えてない?」
澪「そういえば少し…風にあたりすぎたかな」
律「へっくし」
唯「あ、じゃあこのタオルケットつかうといいよ」バサッ
梓「やっと解放された…」
律「へへ、悪いね。ほら、澪も入んなよ」
澪「ああすまん。そうさせてもらうよ…みんなも寝転がりなよ。星がよく見えるぞ」
紬「ええ、そうさせてもらうわ♪」
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唯「ふわあ~!すごいねぇ!」
梓「神秘的です…」
紬「織姫と彦星も良く見えるわね!」
梓「今夜は二人にとって絶好のデート日和ですね」
唯「ねえあずにゃん、織姫と彦星ってどれ?」
梓「ええっと、あそこの青白いのがアルタイルです」
紬「で、天の川を挟んで白く輝いてるのが織姫よ」
唯「結構近いんだね!」
澪「…」
梓「織姫の白い光は「純白」の定義にされてるんですって」
唯「ほぇ~。あ、じゃあウエディングドレスが純白なのは織姫さんを見習ってるのかな?」
梓「うーん、多分違うんじゃないですか…?」
紬「ウエディングドレス、唯ちゃんに似合いそうね」
唯「ほんと?一回でいいからきて見たいなぁ…」
梓「二度も三度も着るものじゃあないですよ」
紬「結婚式には呼んでね♪」
唯「もっちろん!」
澪「…結婚か…」
律「あ、ゆいー、知ってるか?織姫と彦星って夫婦なんだぜ?」
唯「ええ!?恋人じゃなかったの?」
律「どうやら違ったらしい…私達は騙されていたんだよ!」
唯「な、なんだってー!?」
紬「なんだって~」
梓「誰が騙したんですか…でも、その差は小さいようで大きいですね…」
律「だろ?だからさっき澪とさ、あの二人に愛はあるのか?って話をしてたんだよ」
紬「はーい!私は愛し合ってると思いまーす!」
唯「私もそう思う!」
梓「そうですかね?やっぱり惰性とか、そういうものもあるんじゃないですか?」
澪「なんて冷めた事をいう後輩なんだ…」
紬「ジェネレーションギャップね!」
律「これが年齢の差か…」
梓「一年違うだけじゃないですか。まあ、そういう考えもあるってことですよ!」
澪「…」
最終更新:2010年07月19日 03:27