律「私と澪のガレージロック・リバイバル! ~ようするにセックス~」


『Leave before the lights come on』

ある初秋の日の夜。
田井中家付近の道路。

律「こーぜんゆどんはふとぅしー……♪」ブツブツ

律「こぜんゆどんはふとぅしーわっゆーぶ……♪」ブツブツ

澪「あ……おーい、りつー!」

律「フンフンフーン♪」

澪「おいってば」スポ

律「おわ!?」

澪「iPod聴きながら歩くのはいいけど、歌いながらはどうかと思うぞ。何聴いてたんだ?」

律「なんだ澪か。びっくりさせんなよ。つーかびっくりして何聴いてたか忘れちゃったし」

澪「出掛けてたの?」

律「ん、コンビニの帰り。澪は?」

澪「私は薬局に行ってたよ」

律「そっかそっか。んじゃあ早く私ん家いこうぜ」

澪「なんで律の家に行くのが当たり前みたいに言ってるんだよ」

律「え~?いいじゃん。ヤなのかよ?」

澪「……別にいいけどさ」

律「おっけーおっけー」

そう言うと律はiPodをオフにして、イヤホンを巻くと、ポケットに仕舞った。

部屋に入ると、律は上着を脱いでベッドに身を投げ、コンビニの買い物袋の中からマンガを取出し、ページを開いた。

澪「……」

澪は、自分を呼んでおきながらマンガを読み始めた律を見た。
澪はそんな律に対して何の感情も抱かなかった。
怒りも、呆れも、寂しさも、澪は何も感じなかった。
それは澪が律に無関心というわけではなく、十年以上二人が積み重ねてきた時間によるものだった。
律と澪が一緒にいる事に、目的も意味も必要ない。
一緒にいる事自体が目的であり、それ自体が意味を為す。
会話が無くても、別々の事をしていても、とりあえず同じ空間にいれば良かった。
それが幼馴染、そして親友というものだ。

澪「ふぅ……」

澪は上着を脱ぎ、律が寝転がるベッドに背をもたれて、天井を仰いだ。

澪「何読んでるんだ?」

律「んー?バガボンド」

澪「面白い?」

律「面白いよ」

澪「そっか」

そこで会話は途切れた。

それからしばらく、淡々と時間は流れた。

ふと、澪は思い出したように、デニムパンツのポケットの中をまさぐった。

律「なにそれ?」

律は仰向けでマンガを開いたまま、澪に訊ねた。

澪「虫さされの薬」

律「ああ、薬局行ってたんだっけ?」

澪「うん。蚊に食われちゃってさ」

律「あ~、この時期に刺されるとかゆいよな~」

澪は特に返事をする事もなく、ラグランを捲って脇腹を少し出すと、薬の箱を開けた。

律「塗ってやろっか?」

澪「え?いいよ別に」

律「まあまあそう言わずに」

澪は少し考え、返事をした。

澪「じゃあ、お願い」

律はマンガを置いて、のろのろと身を起こした。
澪から薬を受け取ると、律の悪戯心に火がついた。
薬を指につけることなく、律は澪の背筋の右側の腫れを人指し指で撫でた。

澪「う……くすぐったい」

律「ガマンガマン」

薬なんてつけていない事に澪が気づいてないとわかった律は、笑いを堪えながら澪の傷口を撫で続けた。


澪「ん~……っ」

澪はくすぐったさに耐えかねて、身をよじった。その反応を律は楽しんだ。

律「おりゃあっ!」

突然、律は澪の脇をくすぐった。

澪「バッ……やめ……あはははははは!や、やめろって!」

澪は這うようにして律の手から逃げようとした。

律「逃がさないぜお嬢ちゃん!」

澪「あはははははは!ほ、本当にやめろってばっ……!殴るぞ!」

律「ほほーう?そんな口を利く奴はこうだっ!」

そう言うと、律は澪のラグランの中に両手を入れ、胸を鷲掴みにした。

澪「ちょ、ちょっと!……あっ、やめろってば!」

律「え……?」

律の手の平の神経は、予期せぬ信号を脳に送った。

律「おま……なんでブラしてないの!?」

澪「だ、だって……ちょっと薬局行くだけだったからいいかなと思って……」

律「だからって……さぁ」

澪「ていうか手離せよ……」

しかし、律はそれを無視して、手に力を込めた。

澪「お、おい律!?」

律「あ、いや……」

手から伝わる綿の塊のような弾力と温もりが、律の心を捉えて離さない。

律「うわ、す……っげぇ……」

律はゆっくりと手を動かし、その感触を確かめた。
えもいわれぬ母性を、律は澪から感じた。


澪「な……なにやってんだよバカ律……」

いつもなら胸を触られた時点で殴っている澪だったが、この時は下着をつけていなかったという恥ずかしさが先立ったため、そのタイミングを逃してしまっていた。
一度逃したタイミングを再び掴むのは容易ではなかった。

律「はは……こんななんだ……」

今までに律が澪の胸を触った事がないわけではない。
しかし、それは下着をつけた状態、それも衣服の上からであり、直接触れるのはコレが初めてだった。

手を動かす律に去来するのは、未知に触れた驚きと感動、それからほんの少しの羨望だった。

澪「やだ……っ!いやだってば……」

澪は這いずりながら弱弱しく抵抗する。

律はラグランの中に手を入れたままそれに追いすがり、うつ伏せの澪に覆いかぶさるような格好になった。

律「なんだよこれ。私のと全然違うじゃん」

澪「知らないよそんなの!いいから離せ!」

律は澪を無視して、胸の感触を確かめ続ける。

されるがままの澪の身体の奥から、高熱に溶けるガラスのような感覚がせり上がってきた。

澪「うっ……ん……あ……」

乳頭を摘むと、澪が声を漏らした。

律はぎょっとして、急いでラグランから手を抜いた。

律「あ、ご、ごめん。やりすぎちった」

律は澪から離れ、ベッドに腰掛けた。

澪は無言で起き上がり、律のほうを見た。


律「あ……あはは……ごめんごめん」

澪は何も答えず、律をじっと見たまま、ゆっくりと律に近づいた。
律の肩に手を置き、じわじわと力を入れて、律の身体を倒した。

律「お、おい?ごめんってば……」

澪の長い髪は垂れ下がり、律の頬にかかる。
自分を見下ろす澪の顔に、律は怯えた。

なんだこいつ。
澪が可愛いのは知ってる。
綺麗なのも承知の上だ。でも、今の澪は……なんて言えばいいんだろう。
私の幼馴染はこんな顔をしない。
いや、違う。
どこかで見た記憶がある。
これは……。


律が記憶を辿っていると、澪は律に顔を近づけ、唇を押し当てた。
突然の事に、律の身体は中心に巨大な杭を穿たれたように硬直した。

数十秒の後、澪は唇を離した。

律「あ……」

律の頭が今起きた事を認識するのに、幾秒かのラグがあった。

……キスしやがった。
澪が私に?
なんで?

律「な、なに?仕返し?」

澪は何も言わず、もう一度顔を近づけた。
とっさに律が顔を逸らす。

律「ちょっ……もうおあいこだろ!」

澪「おあいこ?」

律「そうだよ!もう十分だろ!」

澪「何言ってんだ。まだまだここからだろ」

律は自分の血の気が引いていく音を聞いたような気がした。


やばい。
この顔の時の澪は、理屈で何を言っても受け付けない。
よくわかんないけど、澪はさっきのでスイッチが入っちゃったんだ。
こいつのこの顔は、そう、ライブの時だ。
唯が遅れてきた二年の文化祭、あの時と同じ顔だ。
緊張を端に押しのけて、自信とやる気を引き出した時にだけ見せる顔。
かわいいとか、綺麗じゃなくて…
「かっこいい」という表現が似合う顔。

澪は律の顎に手をかけ、自分のほうを向かせると、強引に律の唇を奪った。

律「んーーっ……!」

律は痛みに耐えるように目をきつく閉じた。

迂闊にもスイッチを入れたのは私だ。
でも、どうして澪は恥ずかしくないんだ?
私でさえ、恥ずかしくて苦しくて死にそうなのに、なんで澪はこんなに余裕綽々なんだ?

戸惑う律をよそに、律の口の中に澪の舌が入ってくる。
澪の舌は、律の舌、歯、歯茎を攻め立て、律の魂ごと喰らい尽くそうとする。


律「んっ、ん……ぐ……」

律は快感に飲まれないように、必死で思考を巡らせた。

私の知ってる澪はこんな事をする奴じゃないはず。
いたずらされたら、私を小突いて、それでオシマイ。
そのはずなのに、何で私は押し倒されてるんだ。
誰なんだよこいつは。

澪は唇を離すと、律の前髪を束ねているゴムを取った。

律「えっ……?な、なんで?」

澪は表情を変えずに答えた。

澪「パイナップル相手じゃ、盛り上がらないじゃん」

律は確信した。

やっぱりこいつは私の知ってる澪じゃない。
今の澪には、緊張も羞恥もない。
あるのは好奇心だけだ。

澪は律のTシャツの中に手を入れ、ブラジャーの上から律の胸を触った。


律「ひっ……ん……っ、くっ……」

我ながら情けない声だ、と律は思った。

律は、口元にうっすらと笑みを浮かべて自分の身体をまさぐる澪と、あの時騒がしい教室に一人ぼっちで本を読んでいた少女とを結びつける事が出来なかった。

澪は律の胸をまさぐりながら、首筋にも舌を這わせた。

律「うっ、あ……」

理性の檻をこじ開けて搾り出される嬌声を聞きながら、澪は律に感謝した。

ありがとう律。
あの時声をかけてくれてありがとう。
軽音部に誘ってくれてありがとう。
ずっと私の手を引いて導いてくれてありがとう。
おかげで私は、新しいドアを開く勇気と、その先に広がる世界を見る喜びを知る事ができた。
今日、律が私の新しい声を引き出してくれたおかげで、私はまたドアを見つける事ができたんだ。


律「っあ……や……だっ……」

嫌でも自分の耳に入ってくる自身の嬌声に、律は強い不快感を覚えた。

澪や紬の持つ女らしさに憧れる事はあったが、いざ自分がそういう声を出していると思うと、吐き気がした。

澪はそんな律を見て喜んだ。

律の身体を求める澪に恥じらいがなかったのは、幼い頃から律に与えられてきた自信と勇気と無謀に起因していた。
それらはしんしんと降る雪にように澪の中に少しずつ堆積し、未知であった自身の嬌声によって一気に溶け出し、洪水となって澪の身体を駆け巡った。
それが澪を豹変させた。

ありがとう律。
今度は私の番だ。
私が律を変えてあげる。

澪は律のシャツの裾を掴むと、迷いなく捲り上げた。

律「ちょっ、待てってば!おかしいってこんなの!」

澪「大丈夫だから」

澪は律のブラジャーを外すと、自分もラグランを脱いで胸を露にした。

一瞬、律はそれに目を奪われたが、すぐに顔を逸らした。

澪が、律の頬に唇を当てがい、舌先が皮膚を這う。

律「何が大丈夫なんだよ!怒ってるなら謝るから!」

そう言いながら、律は澪の行動が怒りからくるものではない事を理解していた。

こいつは変えようとしてるんだ。
自分自身と、私と、私たちの関係を。
それが進歩だと信じて疑わず、堕落だなんて微塵も思っていないんだ。
やめさせないと。
澪をこんな風にしたのは私なんだから、私がやめさせないと。


律「……んっ、あ、ああ……っ」

澪の愛撫は確実に律の身体を蝕み、思考を奪っていった。

澪は律の唇の輪郭をなぞる様に舌を這わせ、それからまた口の中に入れた。

律「ん……んっ……」

律の理性が、快感の霧で覆われ始めた。

なんでこんなに気持ちいいんだよ、澪の舌は。
あったかくて、やわらかくて、それから甘い鉄の味。
どうしよう、もっと欲しい。
澪を止めなきゃいけないのに、澪が欲しい。

強張っていた律の身体は、少しずつ脱力し、澪を受け入れ始めた。

澪「ん……ふ……ぅっ……」

律「ん、んんっ……」

すごい。
キスってこんなすごいのか。
キスって、触れるんじゃなくて、入ってくるものなんだな。

唇を離すと、澪の口から、二人の混ざった唾液が零れ、糸を引きながら律の鼻の上に落ちた。

見下ろす澪を、律は抱き寄せた。

黒い髪からはシャンプーの甘ったるい香りと、その奥からほんの少しだけ汗の匂いがした。
澪の匂いに、律の身体は震え、それは澪にも伝わった。

いいよ、澪。
わかったよ。
一緒に天国に行こう。
一緒に地獄に堕ちよう。
最後の最後まで、手を繋いでやるから。

律は身体を起こすと、自分から澪にキスをした。
それから、脇腹の、虫に食われて赤く腫れた部分を、律は舐めた。

澪が身体を震わせる。

澪「律……そこ、薬が……」

律「塗ってないよ、そんなの……」

律の舌は、脇腹を辿り、砂丘のようにうねる乳房に至った。


澪「あっ、あ……」

身をよじって澪は声を出した。

律が乳頭を舌先で転がし、吸うと、澪は律の頭を両手で抱え、自分の胸に埋めた。

澪「律……律っ……」

律は指先を澪の背中に滑らせた。

澪「んっ、は、あ、あ……」

澪の身体が震えると、律は嬉しくなり、より強く澪の乳首を吸った。

私は律の事ならなんでも知ってるつもりだった。
律は私の事ならなんでも理解してくれてると思っていた。
でも、違ったんだな。
私にはまだまだ律について知らない事がいっぱいあるし、律も私の事を全然知らない。
もっと知らないと。
もっと伝え合わないと。

澪は、律のカーゴパンツのベルトに手を回した。
律が乳房から顔を離し、澪を見た。
澪はその視線から目を逸らさずに、ベルトを外し、下着の中に手を入れた。

澪「いいよね?」

律が聞き返す。

律「何が?」

澪が答える。

澪「指、入れてもいいよね?」

律は俯き、答えた。

律「……うん。いいよ。私も澪の中に入れる」

律は澪のデニムの中に右手を突っ込もうとした。
が、向き合って座る澪の左手が自分の下着の中へと伸びていたため、律はそれにぶつからないように右手を澪の身体に巻きつけ、左手を下着の中に入れた。
左手の指が、澪の性器の感触を伝える。


4
最終更新:2010年07月19日 22:54