憂「中二の夏」
どんなきっかけだったかよく覚えていない。そのとき何があってそうなったのか。その状況の何が純をそうさせたのか。
わからない。
「私は憂とそんな友情ごっこがしたいんじゃないんだよ」
純がそう言う前のことを私は覚えていない。
だってそう言う以前の私らの関係はもう消え去ってしまったのだから。
「私は憂とそんな友情ごっこがしたいんじゃないんだよ」
純がそう言う前のことを私は覚えていない。
だってそう言う以前の私らの関係はもう消え去ってしまったのだから。
いつになく低い声だった。
私は聞こえなかったふりをして「え?」と頭(かぶり)を振った。
腕を掴まれた。
それから引き寄せられた。
多分それは一瞬のことだったのだろうけど、私にはやけにゆっくりした動作に思えた。
スローモーションで私は後ろからから純の胸に倒れた。
ぴたりとくっついた背中に、温かい氷のような感触が走った。心臓がゾクッと鳴った。
きつく抱かれたかと思うと、その息苦しさは一瞬に去り、私はもっと精神的な意味で息苦しさを感じなければならなくなった。
――純の手がいやらしく私の身体をまさぐった。
私は何もしなかった。身じろぎさえしなかった。
驚いてはいたのだ。それこそ、失神しそうな程に。
だけどそれよりも。
ぼやけた意識の中で自分でも信じられないようなことをはっきりと思った。
『このまま』
『放っておいたら純ちゃんは何をするんだろう? 私は何をされるんだろう?
ちょっと興味があるなあ』
私はそれが無事に為されるために、より上手く事を運ぶために、弱々しく抵抗した。
「やだぁっ」
小さく呟いて軽く純の手を摘んだ。
案の定、純は構いもせず、逆に何かに促されるように行為を速めた。
何かに取り憑かれたように。
ずんずんと、近付いてくる。吐息が聞こえる。
私は動かない。
そしてとうとう──予想はしていたけれど、びっくりするようなところまで手が行き着いた。
私は再度純の正気を疑った。
けれど。
「うあ、純ちゃん、いや、」
その声はごく自然だったと思う。実際、自然に出た声だった。
私はきっと純に触られるのは気持悪いだろうと思っていたのだ。しかし予想外に気持良くて驚いた。
嬉しかった。
自分が冷静なのかそうでないのかよくわからないまま、私は快感に身を任せた。
あの子が、あの純がこんな。
私の後ろで、私へのいやらしい行為に没頭する純の顔を想像すると興奮した。
いつもの純の顔と比べて、もっと興奮した。
振り向いて見てやろうと思ったけど我慢した。
どちらにしろ私はすぐにそちらを向かされた。
痛いことをされるのは嫌だった。だからその前にはやめるつもりだった。
でも私はとても興奮していて、それで興味を持ってしまった。
正気を疑うような行為を一生懸命続ける純を、私は正気で見て、そしてそれを手伝っていた。
「だめ、純ちゃん……だめだよう」
「ダメじゃない、憂、好き、好きなの……っ」
脱ぎ散らかる衣服の上に私を押しつけ、純は何度も囁いた。
彼女にはいれるものもないのに、指しかないのに、純は私を貫いた。
その先などないのに。
他には誰もいない彼女の家で、私は純に抱かれた。
「純ちゃんのばか…」
腰を押さえながら、目に薄く涙を湛えながら、私は純を睨んだ。
「ゴメン、つい」
嘘泣きじゃない。下半身が痛いのは本当だった。
こんなことになった原因の純が憎いのも本当だった。
まあ十中八九私のせいでもあるのだけれど。
純に対しては、憎いというより軽蔑の念が強かった。
女である純が、女の私にあんなことをするなんて、全く頭のおかしいことだ。
積極的に抱かれた自分のことは棚に上げ、私は心の中で毒付いた。
その顔を見てか、純がまた謝った。
「本当にゴメンって」
告白してきた時とは全然違う情けない顔に思わず笑みが溢れた。
私は笑いながら言った。
「いいよ、もう…」
「でも、つらかった、よね?」
「うーん、まあ」
「う~~」
どう考えても同意の上の行為だったのに、何故謝るんだろう。
私はまた笑った。
可笑しさと、
そして、彼女を安心させて、またあの行為を受けるために。
「憂……もういっかい、だめ?」
「純ちゃん~……」
「だ、だめかな」
「どう、でしょう? 当ててみて」
こんな気持ちは愛しさとは違う。似ても似つかない。
彼女を軽蔑していてそれでまた私はあの行為を求めているのだ。
本当に軽蔑すべきなのは私自身なのかも知れない。
それでも、私は。
いや、私は意味のわからない思慕の情など抱いているわけじゃない。
快楽だけを求めてる。のと、同じ女である純なんかを好いているの。
どっちがおかしいだろう。
(私は前者だ)
だから騙して嘲笑ってやる。
私は異常なんんかじゃない。これは演技だ。
目的のない、演技だ。
そうでなければ、私は
終わり
最終更新:2010年07月23日 00:28