玄関口でダベってたら、私を生んだこの家の最高権力者であるマミーが現れた。

律母「あら、こんな朝からどこ行ってたの……あら?」

澪「…!」

 いきなりの遭遇に驚いて、澪が一気にカチンコチンに固まっちゃった。

 ……澪が一気にカチンコチン……澪がカチンコチン……澪が……。

律「うわー! エロいな私ぃ!!」

澪&律母「!?」

 …おっと、うっかり声に出しちゃった。
 ナチュラル・ハイって怖いね。

律「あー……この子、私と澪の子供だから!」

律母「はい!?」

 先手必勝! まずは相手の思考力を削る!

澪「(おまえはそーゆう事しか言えないのかぁっ!!)」

律「……ってのは冗談で、澪のトコに遊びに来てる親戚の子なんだ」

律母「あ…あぁ、そうなの。お母さん、一瞬喜んでお赤飯炊こうかと思っちゃったわ」

澪「!?」

律「ちょっと、澪ん家が急な用事あるって言うから遊んであげようと思って、連れてきた」

律母「そう……せっかく遊びにきたのに、澪ちゃんと遊べなくて残念ねぇ」

澪「だ、だいじょうぶです。律…お姉ちゃんが、一緒ですから」

 ──律……お姉ちゃん…だと…!?

律母「まぁ、偉いわねぇ。…お名前は?」

澪「あ……れ、『零(れい)』。 零って言います」

律母「れいちゃんね。なんにも無い家だけど、ゆっくりしていってね」

澪「はっ、はい。ありがとうございます」

律母「……律? ちゃんと面倒みてあげるのよ?」

律「………」

 律お姉ちゃんってことは私が澪のお姉ちゃんなわけで、妹や弟からしたら姉は絶対な存在なわけで、たとえばお医者さんごっこと称して未成熟になった澪の体を至るところまで“触診”する「お医者さん」の権利を得たという……。

澪&律母「?」

律「──うわー、お医者さんってヤラシい職業だなぁー!!」


律「──まぁ、そんなわけだから」

 母親も上手く丸め込んで、無事にちぃちゃな澪を認めさせることが出来た。

 …なにが気に入らなかったのか、隣にいる澪が、母親の死角でスカートの上から私のお尻をつねってる。

 すごいつねってる。

 アザになりそうなくらいつねってる。

 ……気持ちいい。

澪「律お姉ちゃん、いこ?」

 小首をかしげて、天使のような笑顔を向けてくるマイ天使。
 あぁ、攻めに回った澪がこんなにサディスティックだったなんて…!!

律母「あとでお菓子でも持っていくわね」

澪「あ、どうかお構いなく…」

律「そーだよそーだよ! これから私は部屋でこの子と『ドキッ! 美少女だらけのお医者さんごっこ~ポロリしかないよ~』をするんだか」

 ギュウゥゥゥゥッ。

律「ちょっと2人でゆっくりお話しするから、なるべくそっとしておいてくださいお母さま!」

 そして、私の部屋。

澪「…ふぅ、やっと一息つけるな」

律「………」

 モジモジ。モジモジ。

澪「? どうしたんだ、律」

律「あ、あの……澪さま、次はどんなお仕置きをしてく──へぷっ!」

 顔面に枕がヒット!

澪「ちょーしにのるなー!」

律「いたたた……なんだよ、ノリが悪いなぁ」

澪「そんな調子で律に付きあってたら、ぜんぜん話が進まないだろうが」

 私のベッドに腰かけて、腕を組む澪ちゃま。
 謀らずしも、ロリボディに傲岸不遜な態度という……この子はどんだけ萌へ要素を自分に付ける気だ。

律「とりあえず、明日までは様子見だろ?」

 確かにふざけてても埒があかないので、真面目に話しを進めよう。

澪「うーん、ちゃんと明日手がかりが掴めれば良いけど……」

 む。弱気だ。
 やっぱりどれだけいつもの調子に“戻して”も、直面してる問題、それに対する不安は拭ってやれないか…。

律「元気だせって。絶対、私が元に戻してやるから」

 澪の隣に座って、肩を抱いて。

律「ほらほら、律お姉ちゃんがチューしてあげるチュー」

 ペチペチペチペチ。



律「なぁ澪ー、本なんか読んでないでおしゃべりしようってー」

澪「………」

 ぐぬぬ…。
 澪が家から持ってきた小説を食い入るように見てる。
 読み途中だったから、って言っていたけど、たぶん本当は、何かに没頭して少しでも気を紛らわせたいんだろうと思う。

 …だからって、徹夜明けで助けに参じた幼なじみを無視するのは、あまりに非道い仕打ちじゃないか?

律「………」

澪「………」

 よし、イタズラしてやろう。

律「フーッ」

澪「くひぁっ!?」

 キシシ、本を読むために髪をかきあげて無防備になった耳元にブレス!

 「くひぁっ」だって。

 聴いた? 「くひぁっ」だって!

 澪は驚く仕草もいちいち可愛いなぁ。
 もう襲っちゃおうかなぁ。

澪「なにするんだいきなり!」

律「澪を驚かせて興奮しようとおもって」

 ペチペチペチペチ。

澪「まったく……暇なんだったら勉強でもしたらいいじゃないか。わからないところがあったら、私がおしえるよ」

律「うわー、唯一の親友に対して平気で拷問すすめてきたよこの子は」

澪「勉強いこーる拷問って、現代社会はおおきな監獄みたいな言いかたするなよ」

律「ごうもん!」

澪「唯のまねするな。……それと、律は親友じゃないからな。ゆいいつでもない」

律「……え?」

 え? …親友、じゃないの?
 ずっと幼なじみを続けてきて(腐れ縁とも言う)、お互い隠し事もなくて(澪の秘密はすべて知っています)、毎日毎日あんなに愛し合って(セッション)……。

 それなのに、私は……親友じゃ、ないの…?

澪「わ、私は律の……お、お嫁さん…なん、だろ?」

 …!!

律「──こいつぅ!! チューしてやる、そんな可愛いこと言う澪はチューしてやるぅぅぅぅぅっ!!」

律「………」

澪「………」

 避けようとしない。
 それに気付いた私も、止める気はない。
 すぐに2人の距離はゼロになって、お互いの体温を直で感じる。

 澪の肩に手を当てて、乱暴にしないように、そのままベッドに押し倒した。

律「……なんで避けないんだよ」

 見つめながら、ポツリとつぶやいた私の言葉に、澪は優しい、けどすこし意地悪な笑みを返してくる。

澪「よけてほしかったのか?」

律「…そんなこと、ないけど」

 やっぱり、澪は避けれたのに、避けなかった。

 ──私を、受け入れてくれた──。

澪「……ちょ、ちょっと、なんで泣き出すんだ…!」

 え? 私、泣いてる?
 そう思った瞬間。ほほから垂れた雫が、澪のほっぺたに落ちた。

律「ご…ごめ……まさか、ほんとうに澪に受けいれてもらえるとか、かんがえてなくて……つい、うれしくて…」

 拭おうとした手を澪に止められ、代わりに首に腕を回されて、私は覆いかぶさるように澪に密着する。


澪「バカだな律は…。いつもあんなにアプローチしてるくせに、受けいれてもらえたくらいで泣いたりして」

 よしよし、よしよし。
 まるで母親が子供をあやすみたいに、背中に回された澪の手が、私を撫でてくれる。
 いま澪は小さな子供で、私は高校生だっていうのに。私、情けないなぁ。

律「だ、だって……やっぱり、女の子同士って気持ち悪いかなとか、しつこくして澪に嫌われたらどうしようとか。…毎日色々かんがえちゃって、不安だったんだよぉ…」

 あー。恥ずかしい。
 いつもみんなには明るいサバサバした態度で接してる分、こう言う、澪と2人っきりの時は抑えが利かなくなる。

澪「……私としては、どうでもいいんだけどな」

律「?」

 どうでもいい…ですか?

澪「女の子同士とか、しつこいアプローチだとか、そんなことは、詰まるところどうでもいい」

 な、なんでだよぉ。私の苦悩全否定かよぉ。

澪「私は、律が好きだから。気がついたら好きになってたから。ほかのことなんて、どうでもいい」


 ドクン、ドクン、ドクン。

澪「ん……」

 熱い。
 嬉しくて、恥ずかしくて、顔から火が出そうなくらいに、熱い。

 お互い見つめ合ったまま、もう一度2人の距離をゼロにする。

 澪から伝わってくる熱。触れている澪の肌から感じられる熱も、とても熱かった。

律「あはは……なんだか、子供を押し倒してるみたいで変な感じだな」

澪「悪かったな、こども姿で」

 紅いほほが、ぷくーっとふくれる。

律「…なぁ、ギュッてしていい?」

澪「いいけど、あんまり強くするなよ? 苦しいから」

 さっきから私は上に重なっていたけど、今度は並ぶように横になって、澪の背中と腰に腕を回した。

 ちょうど鼻先にくる澪の頭。
 すこし両腕に力を入れると、抱き枕みたいで気持ちが良い。
 等身大澪抱き枕。天使の薫り付き。

 ……クンカクンカクンカクンカクンカ。

澪「に、においをかぐなぁ!」

澪「律、ちょっとドキドキしすぎ」

 胸元で、澪がつぶやいた。
 そっか、密着してるから澪にも聞こえちゃってるんだ。

律「…恥ずかしいから、言わないでください」

澪「ふふ…」

 意地悪そうにな笑い声。
 隊長、やはり澪は攻めになると恐ろしいであります。

澪「んー、これがうわさにきく『乳枕』か……これはなかなか」

 なんですか、乳枕って。

律「澪に胸のこと言われると、イヤミのような気がしてならない」

澪「…私は、律の胸好きだぞ」

 言いながら、グリグリと顔を胸にすり当ててくる。ちょ、澪にそういうことされると反応に困るから。

律「……くそぉ……“戻ったら”、100倍にしてやり返してやるからなぁ…」

 ……あ……まずい……さすがに…眠くて……意識…が……。

澪「あぁ、いいよ。律のココは私のもので、私のココは律のもの、そう言うことにしよう。…んー」

 澪にグリグリとされながら、ここで私は意識が途切れる。
 天使に抱かれたまま、抱いたまま、静かな眠りにつく。


律「…かにみそっ!!」

 目が、さめた。
 窓から射し込む光は橙。時刻は、16時を過ぎている。

澪「やっと起きたのか」

 夕陽に照らされた部屋。
 四角形の部屋の、ベッドとは対角線上にある机のイスに腰かけた、澪の姿。
 澪は、子供のまま。

律「……夢じゃなかった」

澪「夢であってほしいけどな」

律「それはダメだ」

 夢オチなんて、許さない。
 折角、プリティーキュートな澪が見れたのに。折角、曖昧な片思いから抜け出せたのに。夢オチなんて、許さない。

澪「……そうだな。私も、夢オチはいやだ」

 イスから下りて、近寄ってきて。私の手をとると、引っ張って起こしてくれた。

澪「おばさんが、起きたら下りてこいって言ってた」

 伝言を告げると、澪は先に1人で部屋を出て行った。
 …寝顔、みられた。

 ……恥ずい。

律「ん~、おはよ…」

律母「おはようって…いま夕方よ?」

律「じゃあ、おそいよう」

澪「そんなあいさつはないよ律お姉ちゃん」

 リビングにいくと、お母さんと澪(零)がテレビを観ながらお茶をしばいていた。

律「……」

 あぁ、澪が番茶を飲んでる。
 片手じゃ持てなくて、両手をつかってコクコク飲んでる。
 ヤバ、萌える。

律母「どうしたの、そんなトコに突っ立って──ちょっとあんた、どうしたの服よれよれじゃない」

律「へ…?」

 言われて、やっと自分の服、その違和感に気付いた。

 寝るまえにあんなに体温が高かったせいで、汗をいっぱいかいたんだ。そして、それが乾いて服がヨレてる。

律母「髪もボサボサだし…しょうがないわねぇ、女の子なのに」

 言うと、お母さんは浴室給湯器の電源を入れた。

律母「お風呂入ってらっしゃい。…あ、せっかくだから零ちゃんもどう?」

澪「……えぇっ!?」

 満足そうにお茶をすすっていた澪が、不意をついた提案に慌てふためいた。

 お母さまナイス。
 これは、いまだ幼き澪の肢体を弄ぶチャンス…!!


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最終更新:2011年04月10日 02:40