唯「ムギちゃんどうしたの?」

律「調子悪いのか?」

澪「全然、音合ってないじゃないか」

梓「もしかして……あの日、ですか?」

良純「だって俺キーボードなんか弾いたことねぇんだもん!」

唯「またまた、そんな冗談言って~」








紬「これは……、どういうこと?」



紬(ちょっと、職員室に用事があったから、部室に来るの遅れちゃったけど)

紬(テレビでよく見る気象予報士が……。あれ? コメディアンだったかしら?)

紬(……まぁ、そんなことはどっちでもいいけど)

紬(今問題なのは、皆があの人を私だと勘違いしていること)

紬(何故? 私とあの人との間にどんな共通点があるっていうのかしら?)

紬「……」

紬(わかったわ……)

紬(そんなこと深く考えなくたってわかる)

紬(それは……)



紬(どちらも親が権力者だっていうこと!!)



良純「キーボード奏者が欲しかったらタウンページで探せよ~!!」



紬(やはり、私もあの人も親の七光りという影響が大きい)

紬(結局、皆は私を見ていたんじゃなくって、琴吹家というバックボーンを見ていたのね……)

紬(でも、それは仕方の無いこと。今までだってそうだったわ)

紬(小学校のときも、中学のときも私個人を見てくれる人なんていなかった)

紬(軽音部の皆はそんなことないと思っていたのに……)

紬(私……、悲しい……)







唯「ムギちゃ~ん、そろそろお茶したいな~。お願~い」

良純「なんで、俺が紅茶の用意をしなきゃいけないんだよ!!」


唯「なんでって。いつもムギちゃんがやってくれてるのに」

良純「俺、そんなの知らねぇよ! それに、誰だよそのムギってのは!」



澪「なぁ、律」

律「なんだ?」

澪「ムギの様子、なんだかいつもと違わないか?」

梓「私も、なんだか変だと思います」

律「そうか~? いつも通りの眉毛だし」

澪「まぁ、そこは疑う余地がないけど」


良純「俺は、天気予報しにこの高校までロケに来ただけなんだよ!」


律「あれっ? ちょっと待てよ、もしかして……」

澪「何か気づいたのか、律」

律「ああ、間違いない!」



律「ムギは皆からのツッコミを待っているんだ!」

澪「そ、そうか!」

梓「こりゃあ名推理です!」

律「ちょっと前に叩かれたがってたからなぁ、そのときは私が勢いで叩いちゃったりなんかしたけど」

律「きっと、叩かれるのが癖になったんだな」

律「だから、ああやってボケまくってるんだよ、キーボード弾けないとか言ってさ」

澪「と、いうことは、誰かがツッコムまでボケ倒すと」



良純「お前ら、俺を芸人か何かと勘違いしてるだろ! 違うからな!
   普段は笑いを取ってるんじゃなくて、天気図を読み取ってるんだからな!」



梓「なるほど、設定は天気予報士というわけですか。納得です」



律「じゃあ、ツッコミ担当の澪姉さんお願いします」

澪「よ、よし!」

梓「頑張って下さい! 澪先輩姉さん!」



唯「ムギちゃん天気予報できるの? 凄いね!」

良純「んなもん普通だよ普通。ちなみに明日は記録的な豪雨になるからな、靴が裏だったから」

澪「そんな『明日天気になぁ~れ』みたいなやり方は天気予報とは言わないだろ!」スッパ~ン!!

良純「痛って~よ! 叩かれるなんて聞いてねぇぞ!」



紬(そんな!? ずるいっ!!)

紬(私だって、まだ澪ちゃんからツッコまれたことないのにっ!!)


AD「あ~、いたいた。良純さん、探しましたよ」

紬「えっ?」



AD「そろそろ天気予報の時間なんで表に出てもらわないと」

紬「ち、ちょっと! 私は……」

AD「やばっ! 次のコーナー終わったらもうですよ! 急がないと、俺が怒られます!」

紬「あ、あの! ちが……」

AD「ちゃんと、この校舎を紹介して下さいね。なんでも歴史がある建物だそうですから
  なんだったら天気予報はどうでもいいですからね」

紬「いや、だから……」

AD「ああ、心配しないで下さい。ちゃんとカンペは用意してありますから」

紬「そうじゃなくって……」

AD「ほら、急いで下さい!」


 ・ ・ ・ ・ ・

安藤「それでは、お天気です。石原さん」

紬(結局、来ちゃった……)

安藤「良純さん? お願いします」

紬「は、はいっ!」

紬(ど、どうしよう……)

紬(ええい! こうなったら!)

紬「明日は晴れて、とても暑くなりますっ!」




安藤(明日は、雨か……)

木村(雨か……)

視聴者「や~ね~。明日は雨だなんて」



……

唯「あれ? 外で何かやってるよ」

律「本当だ。って! あれテレビの撮影じゃねぇのか!?」

梓「テレビカメラとかあるし、間違いありません!」

澪「すごいな、ドラマか何かかな?」

良純「おい! なんでもう始まっちゃってるんだよ!」

唯「どうしたの? ムギちゃん」

良純「なんで誰も俺を呼びに来ないんだよ!」

律「いくらムギが大富豪のお嬢様だからって、さすがにそれだけでテレビには出られるわけないだろ~」

梓「澪先輩姉さん! 出番です!」

澪「調子に乗りすぎだ」ポコン

良純「だから、なんで叩くんだよ! せっかくセットした髪型が崩れるだろ!」


良純「もうこんなところで、ゆっくりなんてしてらんね~よ!」

梓「ムギ先輩どこに行くんですか!?」

良純「仕事しに行くんだよ! お茶の間に明日は雨になるって伝えなきゃなんないだろ!」

澪「おいおい、いつまでそれ引っ張るつもりなんだ?」

律「ムギ~。ツッコまれたいなら、もっとバリエーション豊かにボケないと」

良純「わけわかんねぇよ! 俺はもう行くからな!」

律「あ! コラ! 皆、ムギを追いかけろ!」

澪「ムギ、テレビに出たいのはわかるけど、迷惑になるぞ」

梓「そうですよ、ムギ先輩」

唯「最近のムギちゃんって、ちょっと我儘さんだよね~」

良純「なんでついてくんだよー!」


 ・ ・ ・ ・ ・

紬「今日私が来ているこの桜ヶ丘高校の校舎は
  アメリカ人建築家のウィリアム・メレル・ヴォーリズさんが設計をした
  由緒ある建物で……」


マネージャー「今日の良純さん、なんだかいつもより気品が溢れているなぁ」



AD「ちょっと! 駄目だよ入ってきちゃ! 今はOA中なんだから」

良純「おい! なんで俺じゃない奴がやってるんだよ!!」

AD「!?」

律「ムギ、もうその辺にしとかないと」

澪「ほら、撮影の邪魔になるだろ。梓一緒に引っ張ってくれ」

梓「はい。ムギ先輩、おとなしくして下さい」

良純「ふざけんな! 離せよぉ!」


紬「しかし、平成11年に施設の老朽化と耐震性を理由として
  校舎と講堂を解体する方針を打ち出し……」


唯「あれ!? 皆! 今カメラの前でしゃべってるのって……」

澪律梓「!?」


マネージャー「騒がしいなぁ、いったいどうし……!?」

良純「ジャーマネ! 俺だよ俺!」



唯「ムギちゃんが二人いる!!」

マネージャー「良純さんが二人いる!!」


マネージャー「いったいどうなってるんだ!?」

AD「俺にもさっぱりです……」

マネージャー「あんな、蒲鉾みたいな眉毛をした人なんて良純さんくらいだと思っていたのに……」

AD「練り物大使ですもんね」



律「これは……!?」

澪「ドッペルゲンガーか?」

梓「それってヤバくないですか!?」

唯「あんな、沢庵みたいな眉毛をした人がもう一人いるなんて……」


良純「……」スタスタ

紬「あっ……」


カメラマン「これってカメラ止めた方が……」

ディレクター「馬鹿! 回し続けろ、こんな面白いもの滅多にないぞ!」


良純「代わるよ」

紬「……はい」


律「えっ? いったいどっちが本物のムギなんだ?」

澪「え、えっと……」

梓「夢を見ているようです……」

唯「……ちょっと、行ってくる」スタスタ

律「おい、唯。どうする気なんだ!?」



紬「唯ちゃん……」

良純「何しに来たんだよ……いったい……」

唯「ムギちゃん」

紬「はい」

唯「こっちが本物のムギちゃんなんだね?」

紬「ええ、そうよ」



律「唯のやつ、いったい何をする気なんだ?」

梓「わかりません……」

澪「今は見守ってやろう……」



唯「それでは、シャッフルスタート!!」

紬「きゃっ!?」

良純「おい! 何すんだよ!」

唯「ほいほい!」グルグル

紬「ち、ちょっと、唯ちゃん!」

良純「やめろよ! 気持ち悪くなるだろ!」

唯「スト~ップ!!」バン!!

良純「うぇ~……回され過ぎて、気持ち悪ぃ~……」

唯「さて、どちらがどっちでしょう? テレビの前の皆さんも一緒にお考え下さい!」



律澪梓「ええぇーーーーっ!!!!」


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最終更新:2010年07月24日 20:49