朝、目が覚めると私はすぐに部屋を見まわした。

ギターは無かった。

どうやら寝ることでは元に戻らないらしい。
でもまだだ。

梓「放課後まで…頑張ってやる!」

朝のテレビは音楽の無い分司会者がものすごく喋っていた。
それでもなんだか物足りない気がする。

朝の占いは最悪の運勢、占いなんて当たらないものだ。


学校に着いて気がついた。
チャイムが無いらしい。代わりに録音されている校内放送が時間を教えてくれた。

…変な感じ。っていうかスピーカーはあるんだ。
どうやら音楽目的ではない音の出る物はあるようだ。

まぁ、音はあるのだから当然だろう。

せめて音楽が無くても、歌ぐらいは無いのだろうか。
ふと、鼻歌を口ずさんでみた。

純「梓、変な音出してどうしたの?」

梓「いや、何でもない…」

今日は鳥も歌っていなかった。


とりあえず今日は乗り切った。

といっても、世界は音楽が無いことを除けば同じなのだ。
そうそう苦労することは無い。

ー放課後をお知らせします

これがこの世界のチャイム。

私は少しだけ足早に音楽室へ向かった。
世界が戻ったかどうか知りたかったのだ。


音楽室の前まで来た。

中からは先輩がた4人の声がした。
もうみんな来ているらしい。

ふと、ドアの上を見た。
そこには『多目的室』と書かれた札があった。

ガラッ

唯「あ~ずにゃ~~ん!!」

唯先輩がいつも通り飛びついてきた。いや、気を使っているのか勢いが弱い気がする。

澪「…どうだった?」

梓「駄目でした…」

ふと、テーブルの上に目が行った。
ケーキと紅茶が無いのだ。

梓「ムギ先輩、ケーキは?」

珍しいこともあるものだ。これが元の世界であればいいのに。

ここで聞きたくない台詞を聞くことになろうとは思っていなかった。

紬「ケーキ?どうして学校でケーキなの?」

もしかして…

梓「律先輩!ここは何部ですか!?」

律「飼育部だけど…ってまさかまた変わったのか!?」

飼育部…確かにトンちゃんがいるけど…
と思ったら部屋には知らない住人が何匹かいた。

律「昨日はティータイム部だったのか」

紬「なんかよくわからないけど素敵ねー!」

澪「ムギ、今梓は大変なんだぞ」

唯「大丈夫だよあずにゃん!今日こそ原因を見つけようよ!」

なんだか唯先輩がいつもより若干しっかりしてる気がする。
3年間飼育部だったおかげで責任感が養われているのかもしれない。

しかし、飼育部とは…せめて生物部とかもっと高校生らしいネーミングがあったろうに…

唯「今日はどうだった?いつ変わったとか分かる?」

梓「今日はさっぱり…昨日ほど世界全体に変化のあるようなことじゃないですし…」

それに、昨日変化したものを確認するので精いっぱいだったのだ。

律「じゃあ今日はいろいろ試してみようぜ」

澪「じゃあ私は図書室でパラレルワールドとかの本を調べてくるよ」

紬「私は…みんなに協力してもらうわ」

澪先輩は図書室へ向かい、ムギ先輩は使用人(?)と電話している。

唯先輩と律先輩は色々考えているがどれも何とも言えない案だ。

唯「猫耳をつけたらもしかすると!」

梓「無いです」

律「思いっきり頭ぶつければいいんじゃないか?」

梓「それは記憶喪失とかじゃないんですか?」


一応色々試してはみたがおかげで私の体はボロボロだ。

3人そろっても全く良い知恵が出ないのは状況が異常すぎるからなのか。
それともメンツの問題なのか…

と、ムギ先輩が電話を終えたようだった。

律「ずいぶん電話してたなー」

紬「色々と関係ありそうな人の話を聞いてきてもらってたの」

唯「で、なんかいい情報あった?」

紬「さすがにダメみたい…今までそんなこと聞いたこともないって…」

梓「信じてすらくれてないのかもですね…」

先輩がたは優しいから信じてくれているが、普通の人だったら私が痛い子だとしか思わないだろう。

澪先輩の帰りを待っている間、私の知らない動物たちの説明をしてもらっていた。

唯「トンちゃんは元々いたんだよね?こっちは金魚のエンちゃんでー、こっちはハムスターのアンちゃん、それと…」

飼育部といっても増えていたのは魚や小動物だった。
ムギ先輩が変な動物をいっぱい連れてきてるんじゃないかと思ったがそんなことはなかったようだ。

増えた動物にも昨日のギー太のような今までとの繋がりのようなものもなく、普通の名前だった。

澪「遅くなった、すまん」

澪先輩は5冊ほど本を借りてきていた。

澪「この3冊はSF小説と漫画、主人公が最後に元の世界に戻れるやつだな」

律「あとの2冊はオカルトの本か?」

澪「ああ、中身は…あ、あえて見てないんだが…参考になると思って」

律「怖くて見てないだけだろ~」

澪「言うなー!」
ガスッ

律「あいたー…本の角で殴るなよなー」

唯「ほー、面白いねこの漫画!」

澪「ほらほら、勝手に楽しむな、今は解決策を考えるのが先だろ」

紬「うーん、やっぱり別世界に来た目的を果たすとか、別世界に来ちゃった方法を見つけるとかみたいね」

律「って言ってもどうして来たのかもどうやって来たのかも分からないんだろー」

梓「…すみません」

唯「あずにゃんが謝ることじゃないよ」

梓「でもタイミングはやっぱり放課後で合ってたみたいです」

澪「どうして分かったんだ?」

梓「元いた世界では放課後になるとチャイムっていう…音楽が鳴ってたんです、昨日はそれを聞いてるんです」

律「なるほどー、んじゃ後は放課後に何したら世界が変わるのかが分かればいいんだな」

唯「それかあずにゃんがここで何かしなきゃならないかだね!」

今日はだいぶ手がかりが掴めた様な気がする。

紬「じゃあ明日は私も本を探してみる」

唯「あずにゃん!ファイトだよ!」

澪「…この小説読んでて良い詩が浮かんだ」

律「ここは応援する流れだろうがー!」

そうか、音楽が無くても詩はあるのか。
…結局みんな自由だな。良かった、私がみんなの負担になってなくて。

梓「みなさん、ありがとうございます!」


家に帰る途中、楽器屋さんだったファミレスがペットショップになっていたことに気付いた。
そうか、ムギ先輩の家の会社の系列が変わっているのか。

となると今回はただうちの部活が変わっただけじゃないのかも…

家に帰るとすぐにテレビをつけた。
今日の変化は分からなかったが、だいぶこの世界にも慣れてきたような気がする。

もし、もうあの世界に戻れないのなら…
いや、考えないようにしよう。

梓「きっと…きっと大丈夫だよね!」


世界が変わって2回目の朝、ギターはもちろん無かった。
でもその程度じゃもうめげない。今日こそは何か、放課後にある何かを見つけるんだ。

テレビをつける。
昨日と変わらない世界だ、今のところは。

学校でも目立った変化はなく、安心して過ごすことができた気がする。


多目的室の前まで来た。

中からは先輩がた4人と先生の声がした。
ドアの上には『多目的室』と書かれた札があった。

ガラッ

律「おー梓、今ちょうどさわちゃんが来たところでな」

さわ子「梓ちゃん、大変そうね」

先生はこの世界では美術の先生らしい。いろいろあって飼育部の顧問になったらしい。

…なにか違和感がある。なにかが足りないような…


唯先輩のほうを見る。

唯「…な、何?梓ちゃん?」

唯先輩はいつも通り飛びついては来なかった。それに今梓ちゃんって…

梓「私唯先輩に何かしましたっけ…?」

澪「唯は本当に梓が苦手だな」

紬「おんなじ部員なんだから仲良くすればいいのにー」

嘘だ…唯先輩が私を嫌っている…?どういうこと?


梓「昨日の世界までは…唯先輩は私のこと可愛がってくれたんです…」

みんなが信じられないという顔をする。
特に唯先輩は勝手にキャラを作られたと思ったようで涙目だ。

心なしか唯先輩の性格も違う気がする。
おとなしい小動物のようだ。

さわ子「それって本当なの?妄想じゃなくて?」

澪「先生!」

さわ子「私だって信じたいけど…そんなことにわかには信じられないわ」

梓「いえ、いいんです…本当に私がおかしいだけかもしれないんですから…」

紬「でも唯ちゃんが梓ちゃんと仲良くしてる世界は見てみたいわ」

そうか…今までそんなに恵まれた環境に私はいたのか…

いつも私に飛びついてベタベタしてきた唯先輩。
いつも私のことをあずにゃんと呼んで可愛がってくれた唯先輩。
私に励ましのメールを送ってくれた唯先輩。

あの唯先輩はもういない。


律「おーい梓―、大丈夫かー」

あまりのショックにボーっとしていた。

梓「…大丈夫です」

そう言ってから自分の目に涙が溢れていることに気がついた。
こんな顔じゃあ信憑性がないな。

澪「ほら、唯も梓と仲良くしろ」

唯「…やだよー、梓ちゃん怖いもん…」

この世界の私は唯先輩にいったい何をしたのだろうか…

紬「今日は解決策がありそうな本をたくさん持ってきたの」

そういえば昨日そんなことを言っていた気がする。

紬「それに今日はケーキを持ってきたの!梓ちゃんが言ってて素敵だなーと思って」

みんなの分のケーキが机に鎮座した。
その時だけあの世界に戻ったような気がして涙が出てきた。

梓「…グスッ、う…うわぁぁぁぁん」

紬「ど、どうしたの?」

梓「…いえ…前の世界のことを思い出して…嬉しくて…」

私達はケーキを食べた後、早速本を読んで調べてみることにした。

さわ子「おもしろそうね、私も混ぜて」

律「何言ってんだよ、さわちゃんは最初っから強制参加だぜ」

紬「おー、かっこいいー!」

澪「唯、お前も手伝ってくれないか?」

唯「…みんながやるなら…私もやる」

澪「じゃあみんなで頑張ろう!」


昨日読んだ本のような内容も多かったが、バッドエンドのものも多かった。
バッドエンドを見ると自分の未来を考えてしまい、へこんだ。

でもそんな時は先輩がたが励ましてくれた。

律「あんまり無理すんなよー」

澪「ほらこれ、こんなのどうだ?」

少年少女が力を合わせて異世界から帰る話。
その話では敵のボスを倒すことで元の世界に戻ることができていた。

梓「こんなの参考になりませんよ、ただのファンタジーじゃないですか」

律「いや、もしかしたら誰かが梓にいたずらしてる可能性もあるなぁ」

澪「その人を説得できれば…ってことか」

梓「そんな…私人から恨まれるようなことしてないですよ!」

たくさん本を読んだが、昨日から進展したとは思えなかった。

律「これは周辺調査しかないかなー」

梓「周辺捜査?」

律「梓を恨んでるやつとかいないか調査するんだよ」

梓「それは…私を恨んでいる人がいてもいなくても嫌すぎます…」

私を恨んでいる人か…いたらやだな…


今日は諦めて飼育部の活動に戻ることにした。
考えてみたら飼育部の活動は初めてだ。

活動と言ってもほとんどすることはなく、生き物を眺めているだけのような気がするが。
でもこんな部活だからこそ、みんな手伝ってくれるのかもしれない。

一応成長日誌のようなものを書いてはいるが、その活動のほとんどは雑談に費やされた。
ある意味いつもと変わらない気がする…

唯先輩は黙々とトンちゃん達に餌をあげている。

やはり唯先輩は別人のようだ。
まさか本当に別人ではないだろうか。

さわ子「もう遅いからそろそろ帰りなさーい」

もう外は暗くなってきていた。


帰りは先輩がたと一緒だったが、唯先輩だけ先に帰ってしまった。
みんなが止めようとしたが唯先輩は「用事がある」と言って走って行ってしまった。

律「実は唯が犯人なんじゃないのか」

澪「な、お前は何を言うんだ!」
ガスッ

律「…いてて…でもさー、唯なら梓のこと恨んでそうじゃないか」

紬「でも梓ちゃんの話だと前の世界では唯ちゃんと仲良かったんでしょ?」

梓「そういえば、どうしてこの世界の私は唯先輩に嫌われているんですか?」

澪「そういえばそうだよな、梓が入ってから急に唯も人が変わったみたいになって…」

律「理由とかじゃなくて本能、って感じかな?」

梓「それじゃあ解決しようがないですね…」

むしろ今日は解決すべき問題が増えてしまったような気がする…


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最終更新:2011年10月18日 15:13