金髪「また女か!」

金髪がニヤニヤしながら言った。肉の断面図を見て喜んでいるのだろうか。


ジジジジジジジジジジジジ

金髪の言った通り、それは女の子のようだった。今はもう肩まで形成されていて、これから顔だ。

ジジジジジジジジジジジジ


ジジジジジジジジジジジジ

…あれ?

唯「り、りっちゃん…」
律「…ああ」

背広「どうかしたの?」


ジジジジジジジジジジジジッ

体全ての形成が終わった。

この後ろ姿は…

唯「…」

律「…この子、知り合いです」

唯「あ、あずにゃん…?」

梓「……………あ?」

長いツインテールの女の子が振り返った。


振り向いた女の子はやはり、中野梓だった。
桜高軽音部の後輩だった子だ。

梓「あ………」

唯「あ、あずにゃん…」

律「…梓、なのか?」

梓「………先輩方、お久しぶりですね」

唯「やッぱりあずにゃんだ!!久しぶり~!!」

律「久しぶりだな!!」

梓「…はい」

梓は急にキョロキョロと周りを見回した。
訳が分からないと言った感じで戸惑いの表情を浮かべている。

梓「あ、あのッ、ここは一体…?」

律「…さあ、私達にもわからないんだ」

梓「…」

唯「私達、二人で電車にひかれて死んじゃッた、と思ッたんだけど、気づいたらここにいたんだ~」

梓「…」

梓「…そういえば」

律「ん?」

梓「…そういえば私も高い所から落ちた記憶がありますッ!」

律「…そうか」

梓「ここは…もしかして天国…?」

患者服「その通りッ!君は飲み込みが早いね!ここは天国さ!!」

患者服のおじさんが嬉しそうに言った。

梓「…」

唯「やっぱり、私達死んじゃったのかな…」

律「さあ~…」

さっきからこの話がループしている。
天国なら天国で天使でもなんでも出てきて話を進めてほしい…。
それとも永遠にこの部屋に閉じこめられたままなのだろうか?
それにあの黒い玉がなんなのかも気になる…。

梓「…」

梓「あの、せんぱ


「あーた~~らし~~~いあ~さがきた

きぼーうのあーさーが」

律「」ビクッ

いきなり黒い玉が鳴った


「そ~れいっち・に~~さん!!」


これは…ラジオ体操?

…わけがわからない

背広「…なんだコレ。やっぱりテレビのドッキリか何かなのか?」

唯「りっちゃん…これ何…?」

律「私に聞かれてもわからないよ…」

梓「これラジオ体操の曲ですよね?」

私が再び黒い玉を見ると、さっきまでなかった変な文章が球面に出ていた。
今ではこの部屋にいる人間みんながその球を見つめていた。


律「てめえ達の…なんだ、こりゃ?」

梓「命はなくなった、って書いてありますよ…」

唯「やっぱり死んでるのかな」

律「どうだろ…」

梓「…この文章ってなんかところどころ変だしバカバカしいですけど、真面目に受け取ると凄く怖いですね…」

唯「はは…」

律「あ、画面変わるぞ」

「てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい」

「ぬらりひょん」


唯「ぬ、ぬらりひょん~?」

律「なんだこれ…」

そこには奇妙な顔の…たぶんおじいさん…が映されていた。顔写真の横には特徴などが載っている。

梓「…」

梓「ぬらりひょん…」

唯「私、これ聞いたことあるよ~?なんか日本のお化けのボス的なヤツだよ!たぶん」

律「なんだそりゃ…」

背広「なんか、ゲームでも始まるんですかね?」

患者服「…もしかして、外に出られるんじゃないか?」

患者服のおじさんの発言を聞いて唯がすかさず窓に触れてみたが、何も変化はないらしい。

律「これ、やっつけに行けってどういう…?」

梓「そのままの意味でしょう。…たぶん」

ガシャ!!

背広「うわ!!」

黒い玉が急に開いた。
「ぬらりひょん」が映し出されている側から見ると、左右と奥に球が押し出されている。そこには…銃のようなものがズラリと並べてあった。
大きいものと小さい物、銃口が三つある物の三種類のようだった。

金髪「すッげぇ~!!」

金髪が大きい拳銃(?)を取り出しながら言った。

背広「これ、もしかして銃かな?」

患者服「オモチャだろ…」

律「…あれ?」

梓「なんか箱がありますね」

左右に押し出されているところには銃のようなものが置いてあったのだが、奥に押し出されたところは銀色のアタッシュケースらしき物があった。

唯「これ名前書いてある~…」

唯がアタッシュケースを取り出しながら言った。


見るとそれには「ひらちわ」と書いてあった。・・・ひらさわ、か?
もしかして個別に用意されてあるのだろうか。

律「どれどれ…」

私も自分のを探して見ると、今度はちゃんと「中野さん」と書かれた物があった。

律「これ梓のだろ、ほい」

気を利かしてボーっと突っ立っている梓にアタッシュケースを渡してあげた。やけに軽かった。

梓「あ、どうも…」

自分のも探して見ると、「デコ」と書かれた物があった。…これなのか。今度はしっかりとケースに重みがあった。

律「…」

梓「…」

唯「…あ、あ、りっちゃん!この中見てみようよ!!」

気を取り直してケースを開いてみると、何かのコスプレの衣装かと思うような真っ黒な服が一式入っている。靴まであった。

なんかこの靴、見覚えあるような…

律「…なんなんだこれは」

唯「…これ、着ないといけないのかな」

私達がケースを開くと、他の人たちはそれを覗き見てきた。
自分の名前が書いてあるであろうケースはほったらかしだ。

金髪「こんなコスプレ衣装着れッかよ~!」

唯が広げてみたスーツを見て金髪が喚いている。

強面の2人も同じ意見のようで、小さい銃だけ持ってケースには触れてもいない。小さい銃を持っているのは強面二人と背広の男だった。
金髪は大きい方の銃をの持っている。患者服のおじさんはなにも持つ気がないようで手ぶらだった。
…コスプレ全身黒スーツは私も含め誰も着る気がないようだ。


背広「わッ!うッわあ!!な、中に、球の中に人がいるッ!」

…ほんとだ。今まで気づかなかったが、黒い球の中に人がいた。

?「………」シュコー…シュコー…

金髪「…うえ…なんだこれ…」

患者服「…つ、作り物だろ、どうせ…」

金髪「マジ!?よくできてんな~」

……呼吸してるみたいだけど…

唯「りっちゃん…私怖いよ…」

律「唯…」

梓「…」

金髪「スゲ~!マジで人に見える~!」

梓「…」

梓「マジですか!?」

律「え?」

梓「マジで人いるんですか~!?私も見たいです!」スタスタ

金髪「…え、あ、ああ!いるよ!ホラ!」

梓「わあ~!」スタスタ

梓が急に例の黒い玉まで歩いていった。

梓「…うっわ…すごいですね~!」

金髪「だろ~!?」

何故だか金髪が偉そうにしている。梓、どうしたんだ…?

梓「この耳の辺りとか特に…」グリグリ

金髪「え、触るんだ…」

梓「………」グリグリ

梓「…」

梓「………」ボソボソ

金髪「え?…何か言った?」

梓「…いえ。…やっぱりそんなに大したことないですね。飽きました」スタスタ

金髪「…はあ?」

律「…?」

梓「…」

梓「…」ぼそ

律「ん?」

黒い玉のところから帰ってきた梓が急に口を開いた。
やけに小さな声だった。

梓「先輩方、そのスーツは着た方がいいような気がします…」

律「?なんで?」

梓「…なんとなくです」

唯「…私は、いいや…」

律「…」

…でも誰も着てないしな…

梓「だから、着た方が良いんですって…!きっと似合いますよ!」ボソボソ

ガタッ

強面B「…お、お、おい?畑中ァ…?」

律「ん?…う、うわ!」

畑中と呼ばれた強面Aの上半身がなかった。今も下半身少しずつがなくなっていっている。

背広「な、なんだこれ…」

唯「りっちゃあん…!!」

唯が泣きそうな顔でこちらを見ている。
その時私の頭にある考えがよぎった。

律「…あ、そうか!!」

唯「?」

律「さっきと逆だよ。梓が出てきた時もこんな感じだったろ?」

唯「そういえば…」

律「だから、もしかしたらだけど、これで外に出られるんじゃないか?」

唯「!!」

ほんの少しだけ唯の顔が明るくなった。高校時代と変わらず愛くるしい顔だ。

気が付けば強面Aは完全に消えていた。

強面A「は、畑中ァ…」

金髪「消えちまッたぞおいッ」

梓「…着たか」

律「あ、梓?」

唯「あ!」

金髪「あん?…あッ、あれ?」

今度は金髪が消え始めた。こうなると順番にみんなどこかへ消えてしまうのだろうか。次は私なのかもしれない。

梓「先輩!早く着替えて下さいッ!!」

律「でもなぁ…」

唯「…」

背広「…?」チラリ

梓「…いいから!こっちに来て下さい!!」ガシッ

唯・律「!?」


梓「…」グイーンッ

唯・律「ッうわあ!!」ズリズリ

ズリズリズリズリ

私と唯の二人はこのマンションのような部屋の玄関らしき所へ、梓に力ずくで連れてこられた。

梓「…ふう。サッサとここで着替えて下さい…!見張りは私がしますから!急いで!!」

律「お、お前、さっきの…?」

梓「それは後で説明するから早くも着替えて下さい!!!怒りますよ!?」

唯「…もう怒ってるじゃん」ボソ

梓「…」ギロ

唯「」ビクッ

律「わ、わかったよ!着替える!着替えますから!!見張りよろしくお願いします!!」

梓「…それで良いんですよ」

律「きついな…」

唯「きついというか…どっちかと言うとピッタリだよ?オーダーメイドって言うか…」

律「それにしてもピッタリしすぎだろ…」

私達は玄関で素早く着替えをすませた。スーツは全身がタイツを履いてるようにピチピチで、何か変な感じがした。

唯「りっちゃん似合ってる(笑)」

律「……これ思ってたより恥ずかしい~~…」

唯「…りっちゃん、コレ着てあの銃も持ったらとホントに何かのコスプレしてるみたいだね」クスッ

律「…」

私達はさっきいた部屋に戻った。部屋に残っているのはヤクザBだと思われる足と梓、そして下を出した犬と背広姿の男だった。
背広の男はなぜか黒スーツを抱えている。

梓「…」

律「お、おい。着替えたぞ?これでいいのか?」

唯「めちゃくちゃ恥ずかしいよ…///」

梓「…」

梓「…もう本当に時間がありません。手短に説明しますから、聞いて下さい」

私達は未だになにがなんだかわからなかったが梓は高校時代の部活でも見たことがないくらい真剣のようだった。

背広姿の男はスーツを手に抱えたまま私達と梓のやりとりをオロオロと見ている。


梓「…とりあえず、先輩方は死んでません」

律「な…」

唯「本当に!?」

梓「…本当です。でも、今から行くところはとても危険なところなんです。油断してたらまた死…」

律「ん?」


梓「いや、油断したら死んじゃいます。冗談じゃないですよ?だから頑張らないといけない。それを手助けするためのアイテムがこの部屋にあるんです」

律「…はい…?」

唯「あずにゃん??」

梓「…」

梓「と、取りあえず今回は私に引っ付いてて下さい!これ、武器です!」サッ

梓が見せたのは先ほどの大小の銃、銃口が三つある銃、そして先ほどは見かけなかった日本刀らしきモノの四つだった。

梓「まあ今回は二人とも、とりあえずXガンは持っておいた方が良いと思います」

梓が差し出したのは小さい方の銃だった。

律「わ、わかった(わけわからん)」

唯「名前があるの?」

梓「はい。私がつけました」

唯「あ…そう」

梓「…なにか?」

唯「…私これが良いな!!なんか三つで強そう!」

唯が選んだのは銃口が三つあるタイプのモノだった。

梓「それはYガンですね」

唯「名前があるの?」

梓「私がつけました」

唯「あ、そう…」

梓「律先輩は?」

律「……じゃあそのデカいのを…」

梓「Xショットガンですね」

律「へえ…」

私達はそれぞれが選んだ武器とXガンを装備した。

背広「あ、あの~…」

梓「…」

背広「ぼ、僕はどうすれば…?す、す、スーツって着た方がいいんですか~…?」

梓「…さあ・・・」

背広「え…」

梓「あなたXガン持ってるみたいじゃないですか…スーツ着てそれ使って…あ…」

律「あ…」

背広「は、はい…?」

唯「頭、消え始めてますよ?」

背広「え、ええ?」

梓「…」

背広「ぼ、僕まだこのスーツ着てないよ!」

梓「…」

背広の男は消えた。


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最終更新:2010年08月05日 23:59