唯「あーずにゃ~ん!」

梓「わっ、や、やめて下さいよ!」

律「梓はホント猫耳似合うなー」

梓「律先輩まで…」

律「そうだ!写真でも撮るか?」

唯「おお、いいねぇ」

梓「い、嫌ですっ!好きで付けてるわけじゃないのに…」

紬「うふふ、似合ってるわよ梓ちゃん」

澪「…………」

澪は最近、何か不思議なものを感じていた。それが何なのかは分からないが、胸の中に霧が立ち込めるような「モヤモヤ」とした違和感がある。
同じ部の友達と他愛もない話したり、大好きなベースの練習をしたり。そんな事をしても心の不思議なモヤが取れる事はなかった。
どうしてだろう?何かに不満があるわけじゃないのに。

唯「…お…ちゃ…」

唯「澪ちゃんっ?」

澪「!! へっ?な、何?」

唯「さっきから呼んでたんだよ~、もう」

澪「ご、ごめん」

律「何だ~?もしかして澪…今日はアレか?」

澪「ちち違うっ!」

唯「も~りっちゃんてば~」

紬「あらあら」

澪「ところで、いつ練習するんだ?」

梓「私は今すぐにでもしたいです!」

律「えーーいいじゃん後でー」

唯「そうだよ~後にしようよぅ」

律「今はお菓子を食べるのに精一杯だよなぁ、唯~」

唯「うん!この時間は捨てられないよねっ!」

澪「まったく…唯に律、そうやって毎日サボってばっかで…!」

律「かたい事言うなって、ちゃんと練習はするからさぁ」

澪「とか言って昨日も一昨日も練習しなかっただろっ!」

唯「まぁまぁ澪ちゃん、今日はレモンチーズシフォンカスタードパイなんだよ!」

律「違う違う、チーズレモネードアップルパイだろ?」

唯「あれっ?そうだっけ?」

紬「ふふ。チーズレモンカスタードシフォンパイ、よ。」

律「そう、それを言おうと思ってたんだ」

梓「律先輩、思いっきり間違ってましたよ」

澪「…チーズ…シフォン…」

唯「ねっ、美味しそうでしょ?」

澪「……う、うん…///」

律「なんだ、澪もやっぱり食べたかったんだな~」

澪「そ、そういうわけじゃ…」

紬「とっても美味しいのよ。澪ちゃんも気に入ってくれると思うな」

澪「いつもありがとうな、ムギ」

紬「いえいえ♪」

そうだ、不満は何一つない。こうやって皆でお茶をしながら話す時間は、嫌いじゃない。むしろ皆にとって、とても有意義な時間だ。
それは澪も同じで、態度や口には出さないだけで大切な時間だと感じていた。
だから何だかんだ言いつつも最終的には皆と一緒に紅茶を飲み、こうやって菓子を食べているのだろう。

澪(どうしてモヤモヤしたんだろ…気のせい、かな)


梓「そういえば先輩たちは明日から修学旅行なんですよね」

律「そうだぞー、ハワイに二泊三日だ!」

澪「京都だろ、京都!」

紬「梓ちゃん、しばらくお留守番よろしくね」

梓「はい、任せて下さい」

律「私たちが居なくて寂しいからって、泣いたりするなよー?」

梓「なっ!泣きませんよ!」

律「それはどうだろうなぁ?」

梓「だ、大体、他の先輩方はともかく、律先輩は少しくらい居ないほうが静かでゆっくり出来ます!」

律「何をぉぉ~!?」

唯「あははっ。でもお土産買ってくるからね、あずにゃん」

澪「うん。だから少しの間、良い子で待っててくれ」

梓「……はい!楽しんできて下さいね、皆さん」

律「こらー、梓!さっきの取り消せー!」



~修学旅行~

ザワザワ

先生「そろそろ点呼とるぞー」

紬「唯ちゃん、来ないわねぇ…」

澪「あっ、来た」

唯「おーいっ!皆~!」

律「あはは、やっと来たか」

紬「ふふ、間に合って良かったわ」

澪「おはよう。まったく、寝坊かと思ったぞ」

唯「おはよ~。大丈夫!余裕のよっちゃん!」

律「あはは、遅刻ギリギリだっつーの」

唯「実は昨日、楽しみすぎて眠れなくて…」

澪「子供かっ!」



~新幹線~

律「おおーっ!すげぇ!唯、見てみろっ」

唯「綺麗ー!綺麗だねぇ、りっちゃん!」

律「あっ、あの変な看板なんだ?…火の始末だらしねぇな…?変な男が描いてあるぞ」

唯「見て見てっ、海がすっごく綺麗~!」

律「またさっきの看板かよ!?どんだけあの看板好きなんだよこの町!」

唯「ネッシーとかいないかな!ネッシー!」

澪(まるで会話が噛み合ってないぞ、あの二人…)

紬「景色より私達の席のほうが注目されているわねぇ」

ざわ…ざわ…

澪「うう…恥ずかしいぃ…」

澪「おい二人とも、ちょっと静かに…!」

唯「ねぇねぇ澪ちゃんも見てみなよ~」

澪「わ、私はいいよ」

唯「そんなこと言わずにっ」

澪「わわっ!?ひ、引っ張るなっ」

紬「でも本当に綺麗よ、景色」

唯「うん!ちゃんと見たほうがいいよ~」

澪「う、うん」

澪「………!海が綺麗…」

律「………フジツボ」

澪「!!!」ガツン

律「い…いったーっ!」

澪「お、思い出させるなっ!」

唯「!あっ…」

澪「わわ、何やってるんだ」

律「膝にお菓子置いてたのに立ち上がるからだぞ」

唯「は、早く拾わないとっ」

澪「まったく、しょうがないなぁ…」

唯「ありがとう、澪ちゃ……」

「「いたっ!??」」

お菓子を拾おうと同時に屈んでしまい、唯と額がぶつかってしまった。よくある事なのだろうけど、正直、かなり痛い。
澪が少し涙目になって額を擦っていると、目の前で同じく痛そうに額を撫でる唯が「へへっ」とはにかんだ笑顔を浮かべ、どこか楽しそうに見えた気がした。
すぐに立ち上がれずにいると、律と紬が笑いながらお菓子を拾うのを手伝ってくれた。

律に「二人ともドジだなぁ」なんて茶々を入れられて、紬に優しく見守られて、唯のドジをフォローして。
どうしてか、そんな当たり前の事がとても嬉しく思える。
この時の私には、その理由が分からなかった。



~金閣寺~

律「おー、すげぇ…じゃない、すごいなぁ!」

唯「き、金ぴかやわーっ」

澪(二人とも無理してるな)

律「金閣寺めっちゃ光っとるでぇ!」

唯「りっちゃんのデコも光っとるでぇ!」

律「は?」

唯「ねぇねぇ、あれって本当に全部金なのかなぁ?」

澪「どうだろうな」

律「全部剥がして売ったらすごい金持ちになるかも!!」

澪「金持ちになるまえに牢屋行きだぞ、絶対」

律「安心しろ、金は山分けしてやるって」

澪「そういう問題じゃないだろ」



~北野天満宮~

律「北野天満宮?」

唯「何なんだろう?有名なのかな?」

律「あーっ!!」

唯「ど、どしたの!?」

律「絵馬だ!みんな書こうぜーっ」

澪「大学の受験のこと…とか?」

律「違う違う、軽音部として」

紬「楽しそう!私、一度書いてみたかったの」

律「ほら、ムギもこう言ってるしさ」

唯「あ!じゃあさーみんなで一つの絵馬に書こうよ!」

紬「わぁ…それ良いわね、何だか団結って感じで!」

澪(……団結……)


澪「……うん。みんなで書こっか」

律「できたーっ!」

唯「わー、すごい!」

澪「はは、律の字おおきすぎ」

律「やっぱり部長だからな!」

唯「こういうのって、何かイイねぇ」

律「置いていくのがもったいないくらいだな!」

紬「そっか…これ、持って帰れないんだったね」

こうして四人それぞれの思いが描かれた絵馬が完成した。少し雑な字、綺麗に整った字、可愛らしい字など様々だ。
「めざすは武道館!!」「これからも五人揃ってバンドする!」などそれぞれ勝手なことが書かれていたが、そのどれもが輝いており、生き生きとした目標だった。


唯「もう絵馬ともお別れかぁ」

澪「うん…」

紬「寂しくなるわね…」

律「よし、目立つよう飾ってやるからな」

全員で絵馬を飾り付け、別れを惜しむように眺めている。誰もが持って帰って部室に飾りたいと思っている事だろう。
しばらくして皆がゆっくりと歩き出した頃、澪はまだ絵馬の前から離れられずにいた。

澪(皆は……あと数ヶ月経ったら。あと数年経ったら)

澪(この絵馬の事…忘れちゃうのかな)

澪(皆いつかは…忘れちゃうのかな)

いつまでも大事に覚えているのは自分だけで、浮かれているのは自分だけで、皆いつかは忘れてしまうのではないか。澪はそんな不安にかられていた。
もうこの絵馬が見られないなんて嫌だ。

この絵馬が皆から忘れられるなんて嫌だ――


律「みーおー。何やってんだ、行くぞー」

澪「…あっ、うん…」

唯「どうしたの?」

澪「ううん…何でも」

唯「絵馬が、気になる?」

澪「!」


律「ははっ、どうせ澪の事だから風で飛ばされたりしないか心配なんだろ~」

唯「あはは、澪ちゃん心配性だねぇ」

澪「えっと…」

唯「でも大丈夫だよ」

澪「??」

唯「またいつでも見に来ればいいんだから!」

律「そうだぞ。また皆でここに来ればいいんだよ、絵馬を見るためにさ」

紬「えぇ、また遊びに来ましょう。だからそんな残念そうな顔をしないで。ねっ?」

澪「みんな……」

澪「………そうだな!」


澪はようやく歩き出す事が出来た。少し前までは踏み出せなかった足が、不思議と今では晴れ晴れとした気分で踏み出す事が出来る。
一度だけ振り返り、遠くから絵馬を眺めている澪の視線は、さっきよりも、ずっと嬉しそうだった。

律「澪~、置いてくぞーっ」

澪「あ……今行くーっ」


澪("また"な、私達の絵馬)



~宿~

唯「ふう~、疲れたぁ~」

紬「今日は色々あったわね」

律「うんうん。…お、みんな布団敷き終わったか」

澪「さ、そろそろ寝るぞ」

紬「……」そーっ

唯「え~っ?もう寝ちゃう……のっ!?」ボスッ

澪「え……むっ、ムギ!?」

紬「うふふ♪」

律「なんだなんだ?戦争開始k」ゴッスゥッ

紬「♪」わくわく

澪「むむ、ムギー!?」

律「ほほう……なるほどなるほど。そういう事か、ムギ」

唯「よぉーっし!私だって――ぶっ!?」ボスッ

律「ちっちっちっ、よそ見はいけないぜ。ここはもう戦場なんだよ、お嬢ちゃん!」

澪「こ、こらっ、先生来ちゃうだろ!」

唯「あいたたた、りっちゃん酷い~」

紬「枕投げ……一度やってみたかった、の!」ヒュッ

澪「おい、騒ぐなって!ちょ、ちょっと……ねぇ…」

律「レディー、ファイッ!!」

唯「うおりゃーー!」

紬「っしゃああああああああああ!!」

律「おらああああああ!来いやあああああ!!」

澪「ちょ、やめろって!こらっ、みん――」ボスゥッ

キャッキャ アハハ

澪「……………」


澪「ぜったい……絶対、負けないからなっ!!」



~修学旅行、二日目~


律「あー……ねむ…」

唯「うう~…まだ寝たい…」

澪「二人とも遅くまで起きてるからだぞ」

紬「おはよう♪」テカテカ

澪「おはよう、ムギは眠くなさそうだな」

紬「えぇ、とてもスッキリした気持ちで寝たから!」テカテカ

律「そりゃ、あんだけ大はしゃぎすればな…」ゲッソリ

唯「枕投げで一番暴れたの、ムギちゃんだったもんね…」

澪「普段のムギからは想像もつかないくらい鬼だった」

律「すさまじいムギ無双だったな」

唯「枕とは思えないダメージだったよねあれ」

律「私は何度かデコにクリティカルヒットしたぞ」

唯「それは的にされてるんじゃ…」

律「どういう意味だコラ!」

律「いや~澪の暴れっぷりも凄まじかったぞ」

澪「!」

唯「あ!確かに」

律「最初は乗り気じゃなかったのに、何だかんだで騒いでたよなぁ」

唯「怒濤の攻撃だったね!枕を同時に五個投げてきた時はさすがに死ぬかと思ったよ」

律「最後のほうなんて般若に見えたぜ…」

唯「そういや別荘で合宿した時も一番遊んでたの、澪ちゃんだったもんね」

澪「さ、さぁ、早く用意するぞ!」

律「ん~?どうした慌てて?」

澪「慌ててないっ!いいから皆、早く用意する!!」

紬「は~い♪」テカテカ


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最終更新:2010年08月06日 23:00