唯「はぁ、はぁ、ついた~」

 3ヶ月しか経ってないけど懐かしく感じる校舎
 そんな感傷に浸っている場合ではないのです、教室へ急ぎます

唯「先生っ、遅れてすみませんでしたぁ~!」

 「あら平沢さん、朝も何度か連絡したんだけど」

唯「す、すみません、体調が悪くて眠っていました」

 「そう、分かったわ、もし具合が悪くなったらすぐに先生に言ってね?」

唯「はい、わかりました」

 さっすが憂、先生からの信用が厚い
 私だったら間違いなく寝坊を疑われるところなのに

梓「憂、平気なの?」

唯「う、うんうん、平気だよぉ!」

 お久しぶりだね!
 会えて嬉しいよっ!あずにゃん

 昔の私だったらあずにゃんに抱きついてバレてるところだね
 でも、もう昔の私とは違うのです!

唯「えへへ、あずにゃんありがとっ」

梓「あずにゃん?」

唯「あ、梓ちゃん」

梓「なんか顔赤いし辛そうだね、今日は休めばよかったのに」

唯「あ、あははっ、そうもいかないよ」

 所々は昔のままですね
 強がってすみません

 でもなんとかバレずにすんだようです、ホッ


 なんだか家で勉強してたせいか学校の授業がよくわかります
 あの頃もちゃんと勉強してたら授業も楽しかったんだろうな、とか思っちゃいます

唯「ふむふむ」

 おっと、ちゃんと憂のノートを取らないと

唯「ん~?」

 ちらっとあずにゃんを見てみました 
 あずにゃんもしっかり授業うけてるんだなぁ

 純ちゃんはウトウトしてますね
 あ!純ちゃんバレて先生に怒られます
 昔の自分を見ているようでなんだか笑っちゃうなぁ

唯「あはは♪」

梓「今日の憂、いつもより楽しそうだなー」


純「あーあ、ウトウトしてたら怒られちゃったよ」

梓「あれだけ船漕いでたらバレるよ、そりゃ」

唯「純ちゃんはウトウトしてたけどあず、梓ちゃんはしっかり授業受けてたもんね?」

梓「そーだよ、どっかの純って子とは違いますから」

純「なんですってぇー?どーせ梓だって机の中に雑誌でも入れて読んでたんでしょー?」

梓「にゃ!そんなことないもんっ!」

純「そうかなー?そりゃー!」

 机の中から出てきたのは
 私達の卒業式の時に撮った写真でした

梓「じゅーんー!?」

純「きゃー!」

 逃げ惑う純ちゃん
 それを追うあずにゃん

唯「なんだかりっちゃんと澪ちゃんを見てるみたいだよっ」

 私はそう小さく呟きました
 うん、ナイス猫パンチだね!あずにゃん♪

 放課後になり、あずにゃんと純ちゃんは部活に行ったみたいです
 私は先生に遅刻のお詫びに職員室へ、ついでに久しぶりなので散策しています

唯「久しぶりの学校だよぅ~、まあ3ヶ月しか経ってないんだけどねっ」

 私達が卒業する時に咲かせていた花は散り
 今は青々とした葉をこれでもかと元気よく伸ばしている桜の木

唯「久しぶりだねぇ、わたしも元気だよっ!」

 優しく風に揺られて、私に微笑み掛けてくれているみたい 

唯「また、今度はみんなで来るからねっ!約束っ」

 私は桜の太い幹にぎゅっと抱きつきその場を後にしました


 懐かしい音楽室
 まだ3ヶ月しかたっていないのに

 外から中を覗くとあずにゃんが1人で練習してるようです
 他の部員がいないところを見ると同好会に格下げされちゃったのかな?
 それでも私達の居た軽音部を守ってくれているんだね

唯「ありがと!あずにゃん」

 ―――♪
   ――――――♪
梓「♪」

梓「キラキラ光るー、願いーごともー♪」

唯「ぐちゃぐちゃヘタる悩みごとも」

梓「そーだホチキッスでー、閉じちゃおーおー♪」

梓「もう針がなーんだかぁー♪」

 少し軋んだような音を立てるドアを開け、私は音楽室に入りました
 まだ直ってないんだね、ここのドア

梓「!?」

唯「ごめんね?梓ちゃん」

梓「なんだー、憂かぁ」

唯「う、うん!梓ちゃん、今弾いてたのって」

梓「うん、先輩たちの曲だよ」

唯「ちょっと聞いていってもいいかな?」

梓「照れるよ、まあ憂は特別に、ね?」

唯「うん!ありがとうっ」


 ―――♪
   ――――――♪
梓「今の気持ちを、あらーわすぅ、辞書ーにーもーなーいー♪」

梓「ことーばー、さーがーすーよー♪」

 私の恋はホッチキス、私も大好きだよ

 最初あずにゃんが入部して来たときに怒られたっけ
 ちゃんと練習してって

 そしてあずにゃんが辞めちゃいそうになって
 みんなで演奏した曲だったよね

 私も精一杯弾いて、精一杯歌ったんだ

 それ以来この曲が大好きになった

 あずにゃんも同じなのかな?

梓「ならまた明日ー♪」
       ―――――――♪   

梓「ど、どうかな?」

唯「うん!ステキだったよ!」

梓「ふぅ、そう言えば唯先輩は元気?」

唯「う、うん!元気に毎日勉強してるよっ」

梓「そっか!まぁ、たまには…会いたいな」

 ごめんねあずにゃん
 目の前にいるのが、その私なんだ

 そうだっ、その手があったね!

唯「梓ちゃん、良かったらわたしにギター教えて?」

梓「うん、はいっ憂!」

唯「はい、お借りしまーす」

 ギー太以外のギターがうまく弾けるかわかんないけど
 少しでも、あずにゃんと

唯「梓ちゃんのギターちっちゃくてかわいいっ♪」

梓「ど、どーせちびですよっ!」

梓「じゃあホッチキスで、えーと最初に押えるコードが」

唯「こうかな?梓ちゃん」

梓「おおっ!さすが憂」

唯「えへへ、お姉ちゃんに少し教わってたから」

梓「でもそう簡単にできることじゃないよ!」

唯「ありがとう!梓ちゃんっ」

 なんだか思い出す
 あずにゃんが軽音部に入ってきて
 皆でお茶したり、皆で演奏合わせたり
 でも2人で練習してた時間のほうがずっと長くって
 なんだかキラキラしてて

 楽しかったよ

唯「♪」

梓「上手だよ!憂っ」



       ―――――――♪   
唯「なーんでなーんだろー♪」

唯「気になるっ夜♪君ーへのー♪」

 合宿でも私の練習に遅くまで付き合ってくれて
 ダメダメの私を慕ってくれて

唯「始まりだけはー軽いーノリでー♪」

唯「知らない内に厚くぅーなぁてー♪」

 きっと2人の思い出も
 ホッチキスじゃ閉じきれないね

唯「もうなんだかー針がー、通らないー♪」

 またこうやって一緒に練習できて楽しかったよ
 あずにゃん

唯「ならまた明日ー♪」
      ――――
        ――――♪

唯「ふぅ!どうだった?」

梓「凄いよ、憂!しかも歌詞まで完璧っ」

唯「えへへー、まぁギー太じゃなくてもこのくらい」

梓「ギー太?」

唯「は、はいっ!ギター返すよ、あずにゃんっ」

梓「…」

 あはは
 これはばっちりバレちゃいましたね

梓「憂?」

唯「ど、ど、っどうしたの?梓ちゃん!」


 すみません、逃げられませんでした
 しかもあずにゃんにしがみ付かれました

梓「ゆ、唯先輩は!ずるいです…」

唯「う、うん、ごめん」

梓「心配してたんですよ」

 あずにゃん、震えてるの?

唯「うん…」

梓「また、会いたい、一緒に練習したいって思ってました」

 ぽつり、ぽつりとこぼしていくあずにゃん
 震えながら必死に声を絞り出していくあずにゃん

梓「だからっ」

梓「だから、離さないです…」


 私は結った髪を解って振り返り
 そっとあずにゃんを抱き返しました

唯「うん」

唯「離さなくていいよ」

 本当は
 私だって

唯「会いたかったよぅ…」

梓「唯、先輩…」

 よかったね
 2人の分厚い思いは

 ホッチキスでしっかり閉じきれたね…

 お互い涙ぐみながらの抱擁はとても長く感じられました

 その後2人で並んで帰りました
 たった3ヶ月間だったけど、埋め合わす様にいろんな事を話しながら
 でも、そろそろ

唯「なごり惜しいけど、ここでね?あずにゃん」

 あずにゃんは無言で首を振って私からさっと距離をおいて

梓「ならまた明日…です♪遊びに行きますっ!」

 今日はいっぱいノートに書けそうだね
 きっと今夜はペンも楽しく踊れると思うよ



唯「うんっ!」



 おわり 



最終更新:2010年08月08日 21:37