憂「お姉ちゃん、ハンカチ持った?」
唯「うん、大丈夫だよ~」
憂「財布、タオル、携帯……はバッグにいれたよね?」
唯「うん、万事オッケー!」
憂「これで準備完了だねっ」
唯「手伝ってくれてありがとね!じゃあういー、行ってくるねー」
憂「行ってらっしゃいお姉ちゃん!気をつけてね~」
唯「ほいほ~い。あっ、お土産楽しみにしててね~!」
憂「うん、楽しみにしてるねっ」
唯「憂はお土産何がい~い?やっぱり食べ物がいいかなあ?」
憂「お姉ちゃんが選んでくれたものなら何でもいいよ?」
唯「う~ん……」
憂「お姉ちゃん、それより早く行かないと……」
唯「あわわっ、そうだった!それじゃ今度こそ行って来ま~す!」
憂「行ってらっしゃい!」
ガチャ、バタン
憂「……」
憂「……ふう」
こんにちは、
平沢憂です。
たった今お姉ちゃんを送り出しました。
今日から明日の夜まで、お姉ちゃんは軽音部の皆さんとお出かけなのです。
憂「明日の夜まで、かあ……」
せっかくの夏休み。
お姉ちゃんと一緒にいられないのは少し残念だけど……
憂「いっぱい楽しんで来てね、お姉ちゃん♪」
……
憂「よいしょっと……」
何もしないのは退屈だから、大掃除を敢行することにしました。
お姉ちゃんの部屋、リビング、お風呂場、トイレ、玄関、廊下、最後に私の部屋……
広い家なので少し大変ですが、やっぱり綺麗になっていく様子を見るのは楽しいです。
憂「ふんふん♪」
ついつい鼻歌まで歌っちゃいます。
憂「うんしょ、うんしょ……」
床はとくに念入りに。
掃除機をかけた後、固く絞った雑巾でピカピカに磨き上げます。
憂「ん、んっ」
隅々までゴシゴシと。
でも、力を入れすぎても良くないので、うまく調整しながら一心不乱に床を拭きます。
憂「よっし、完璧!」
埃一つ無くなった床を見て、思わずガッツポーズ。
何故こんなに真剣にやっているのかというと、夏場はお姉ちゃんがゴロゴロと転がるからです。
その様子はすごく可愛いので大好きなのですが、可愛いお姉ちゃんが汚れる姿は見たくありませんからね!
憂「あっ、もうこんな時間だ」
チラッと時計に目をやると、短針がちょうど真上に来ていました。
あっという間にお昼時。
お姉ちゃんを送り出したのは朝早くのことだったので、いつの間にか何時間も掃除をしていたようです。
憂「……」グー
もうお昼の時間だと気づくと、お腹も何か食べたいと要求してきました。
まったく、現金なものです。
憂「掃除はこれくらいにして……えっと次は」
せっかくの良い天気なので、お洗濯を済ませてからご飯にしようかな?
窓の外を見ると、雲一つない青空が広がっています。
梅雨も明けて、絶好のお洗濯日和ですね。
憂「え~と、洗濯物は……」パタパタ
……
憂「……」モグモグ
お昼は簡単にチャーハンを作りました。
ついついお姉ちゃんの分まで作ろうとしてしまったことは内緒です。
憂「……」モグモグ
美味しくできたはずなのに、何だか味気ない気がします。
お姉ちゃん、今何してるのかなあ……
さっきまでは気にしていなかったのですが、一度考え出すと頭から離れません。
ダイスキー、ダイスキー、ダイスキーヲア・リガ・ト♪
憂「!」
この着信音は……
お姉ちゃんからメールです!
唯『暑いようい~』
憂「……ふふっ、お姉ちゃんってば」
メールにはお姉ちゃんが梓ちゃんに介抱されてる写真が添付されていました。
お姉ちゃん、暑いのに弱いからなあ……
憂「水分補給を忘れないようにしてね、っと……」
素早くメールを打ち、返信。
ついでに梓ちゃんにもお姉ちゃんをよろしくね、とメールを。
唯『分かった~。お土産楽しみにしててね~♪』
梓『あはは、頑張るよ。アドバイスよろしくね?』
憂「ふふふっ」
何だか元気が出てきました。
遠くにいても、元気を与えてくれるお姉ちゃんはやっぱりすごいと思います!
よ~し……
憂「頑張るぞ~!」
……
憂「えっとここは、この『なる』が伝聞の助動詞だから……」
午後からは宿題に取り掛かりました。
古文は得意なので、スイスイ進みます。
憂「んっ、またメールだ」ピッ
憂「あはは、お姉ちゃんまた……」
お昼にメールが来て以来、お姉ちゃんと梓ちゃんから逐次報告メールが届くようになりました。
おかげで寂しい思いもあまりすることがありません。
梓ちゃんには以前寂しくて泣いちゃったところを見られているので、心配されているのかもしれませんね。
ありがとうお姉ちゃん、梓ちゃん。
憂「よ~し、ガンガン行くぞ~!」
古文完了!
時間はたっぷりあるので、色々な教科に手を出せそうです。
憂「うう……分かんない……」
お次は数学です。
少し苦手なので参考書を見ながら解いていたのですが、難しい問題にぶつかってしまいました。
憂「お姉ちゃんにメール……は、やめておいたほうがいいよね」
せっかく軽音部の皆さんと楽しんでいるのに、勉強の話をするのは無粋ですよね。
憂「う~ん……。あっ、そうだ!」
私には頼りになるもう一人の『お姉ちゃん』がいるんでした!
えへへへ……
……
和「ここは公式をつかって……こう」
憂「ふんふん」
和「最後にこれを①式に代入すれば……」
憂「わあ、解けた!」
和「ふふ、お役に立てて良かったわ」
憂「ありがとう和ちゃん!ここどうしても分からなくて……」
和「また和ちゃんって……」
憂「えへへ、二人っきりだからいいでしょ?」
和「ま、憂が呼びたいならそれでいいわ。それにしても、憂にも分からない問題とかあったのね」
憂「もちろんだよ~、和ちゃん買いかぶりすぎ~」
和「ふふふ、買いかぶってるつもりはないわよ?」
頼りになるもう一人のお姉ちゃん……和ちゃんに勉強を教えてもらえることになりました!
いつもは敬語なのですが、二人きりなので昔みたいに『和ちゃん』と呼ばせてもらってます。
和ちゃんは本当に大人っぽく笑うなあ……
私の密かな憧れです。
憂「それにしても……」
和「ん?どうかしたの?」
憂「教えてもらえるのは凄く嬉しいんだけど……迷惑、じゃなかったかな?」
ポツリと、隠れていた本音が出てしまいました。
勉強を教えてほしい、という気持ちもあったのですが、実は寂しくて誰かと一緒にいたいと思って和ちゃんに電話をかけてしまっていたのです。
和「……」
でも、和ちゃんは三年生……つまり受験生です。
私のわがままに付き合ってもらっちゃって……
迷惑、だったよね……?
和「馬鹿ねえ、憂は……」スッ
憂「あ……」
ナデナデ、と。
和ちゃんが私の頭を撫でてくれています。
何だろう、すごく落ち着く……
和「私と憂の仲じゃない。いつでも頼ってくれていいのよ」ナデナデ
憂「ん……和ちゃん……」
和「……」ナデナデ
憂「……」
和「それに……唯がいなくて寂しかったんでしょ?」
憂「ええっ!?な、何で……」
和「見てれば分かるわよ。何年付き合ってると思ってるの」クスクス
憂「うう……」
どうやら和ちゃんには全部お見通しだったみたいです。
うう、顔から火が出そうだよぅ……
和「それと……」
憂「え?」
和「私も……ずっと一人で勉強してるより、誰かと一緒に勉強するほうが嬉しいし、ね」
憂「……えへへ」
ポツポツと本音を話してくれた和ちゃん。
そっぽを向いてしまったので一瞬しか見えなかったけど、ほんのり頬が赤くなっていました。
和ちゃん可愛い!
和「さ、さあ続けるわよ」
憂「は~い♪」
胸のモヤモヤもなくなったことだし、勉強勉強!
……
和「憂、塩はどこに置いてるの?」
憂「あ、そこの引き出しの奥だよー。ちょっと取りにくいところだから私が……はいっ」
和「ありがと」
和ちゃんと二人の勉強会が終わると、夕食の時間となっていました。
今日のお礼に夕食をご馳走しようと思ったのですが、和ちゃんも手伝いたいとのことなので二人でお料理です。
和ちゃん、手際いいなあ……
和「どうしたの、ボーっとして」
憂「わっ!?な、何でもないよー!ただ和ちゃんは料理上手だなあって……」アセアセ
テキパキと動く和ちゃんに見とれていると、顔を覗き込まれて心配されてしまいました。
うう、和ちゃんは顔立ちが綺麗だから、至近距離で見るとドキッとしちゃうんですよね……
和「ふふっ、ありがと。でも、料理に関しては憂のほうが上手よ?」
憂「そ、そんな……」
和「謙遜しなくていいじゃない。本当のことなんだから」
憂「あ、ありがとうございます!」
和「あはは、敬語になっちゃってるわよ?」
憂「え?あ……」
和「でも、私たちが料理上手になったのって、ある意味あのぐうたらのおかげよね」クスクス
憂「ぐうたら……あっ、お姉ちゃんのこと?」
和「そうよ、昔からよくあの子に食べさせてあげてたからね。憂もそうでしょ?」
憂「あはは、そうかもしれないね」
そう、私が色々な料理を覚えたのはお姉ちゃんが笑顔で「美味しいよ」って誉めてくれたから。
和ちゃんもきっと同じなのでしょう。
お姉ちゃんのことを話す和ちゃんはすごく優しげに微笑んでいます。
カタカタカタ……ジュー
和「あ~~!憂、鍋噴きこぼれてる!」
憂「きゃあっ!わ、忘れてたあ!」
話に夢中になってたせいか、お鍋のことを失念していました。
うう、お料理上手の名が泣いちゃいますね……
……
和「うん、美味しい!」
憂「えへへ、ちょっと失敗しちゃったけど……」
和ちゃんと二人で夕食。
今日はお礼の意味も込めているので、ちょっぴり豪勢にしました。
和「何だか太っちゃいそうね……」
憂「えっ?和ちゃん全然太ってないよ?」
和「見えないとこで努力してるのよ。あんたと唯は太らないから本当に羨ましいわ……」
憂「そうかなあ」
ちょっと落ち込んじゃった和ちゃん。
でも、出されたものを残すようなことは絶対しません。
和ちゃんは優しいね!
最終更新:2010年08月09日 21:24