~河川敷~

一歩「はぁ、はぁ……」ザッザッザ……

板垣「はぁはぁ……。待ってくださいよせんぱーい。休養明けだっていうのに飛ばしすぎですってぇ……」

一歩「だって宮田君が待ってるんだもの。少しでも宮田君に追いつきたいんだ!」

板垣「はいはい分かりましたよ。まったく……宮田さんには同情するよ。久美さんにも」

一歩「え、なぁに? なにか言った?」

板垣「なんでもないですよ。……ん?」

一歩「どうしたの?」

板垣「もう夜だっていうのに、あんなところに女の人が……」

一歩「ほんとだ。どうしたんだろう……道にでも迷ったのかな」

板垣「声をかけてみましょう。あのー、道に迷ったんですかぁ?」

女「……」

一歩(うわぁ……きれいな女の子だなぁ)

板垣(色白で目がぱっちりで……でも眉毛がちょっと太いかな。まあ、そこがまた可愛いけど)

一歩「あ、あの、女の子一人でこんなとこにいたら危ないよ」

板垣「そうそう。よかったら僕達が送っていくからさ。ね?」

女「……ありがとう。ねぇ、今夜は月がキレイですね。そう思いません? 鴨川ジムの幕之内一歩さん、板垣学さん……」

一歩「え///」

板垣「うわぁ、先輩はともかく僕の名前まで知っていてくれるなんて嬉しいなぁ! ボクシング好きなんだ?」

女「ええ、好きよ。強い人はみんな好き……。ねぇ、幕之内さん」

一歩「ん、なあに?」

女「私を叩いてくれないかしら?」

一歩・板垣『えええええ//////』

女「一回チャンピオンの拳で叩かれてみたかったの~」

一歩(どどど、どうしましょう学くん! た、叩けって……)ヒソヒソ

板垣(きっと重度のファンなんですよ。軽く叩いてあげたらきっと満足しますよ)ヒソヒソ

女「ねぇ、はやくぅ~」

一歩「うーん……。よし、わかった!。それじゃあ、いくよ。」

女「うん!」

一歩「それ!」

ひょろ~……ぺち……

一歩(これで満足したかな?)

女「……違う」

一歩「え?」

女「私がしてほしかったのは――」

ヒュオッ!

板垣(っ!! いつの間に僕の懐に!? なんだこのスピード疾すぎ――)

女「こういうことなの♪」

ズドオオン!!!

板垣「げはぁ!!!!!!」

ドサ……

一歩「学くん! (そんな! 油断していたとはいえ、あの学くんが……こんなあっさり……)」

板垣「せん……ぱい……に……げて……そいつ……やば……げほっ……」

女「ねぇ、本気できて。でないと……ね?」

一歩「……僕はボクサーだ。こんなところで自分の拳を使うつもりはないよ」

女「余裕ね。じゃあ……無理やり使わせてあげる!」

ヒュッ!

一歩(一気に間合いを詰められた!? くっ、ガード――!)

ズン!

一歩「ぐぅぅぅぅぅぅ……!」

女「さすがチャンピオン。ガードがお上手ね♪」

一歩(なんて重い拳なんだ……! 千堂さん……島袋さん……ジミーさん……。いや、ひょっとしたら鷹村さん以上……!)

女「じゃあもう一回いくわよ。……それ!」

ドオオオン!

一歩「がはぁぁぁ! (駄目だ……このままじゃ……)」

女「はぁ……。反撃してくれないのね……。しかたないわ、これで終わりにしましょう。えい――」

一歩「――うわああああああああ!!!!!!」

女「!」

ドグシャア!

一歩「(し、しまった! 本気でスイングを……)だ、大丈夫!? ごめん、本当に――」

女「……ふふ、少し鼻血が出ちゃった。やっぱり凄いのね、チャンピオンは……」

一歩「そんな!? たしかに顔面にジャストミートしたはずなのになんで!?」

女「でも正直期待はずれだったわ。だって……」

一歩「あ……あ……」

女「全然<痛く>なかったもの。――さぁ、そろそろ終わりにしようかしら……」

一歩「あ……ああ……ああああああああ!!!!!!」

――――――。

女「――またダメだった……」

女「誰か私を叩いて……もっと強く……もっと激しく……もっと……もっと……」

女「誰か私に<痛み>を――喜びをちょうだい……」

女「そう<あの人>が――」

琴吹紬「りっちゃんが私に与えてくれたみたいに……」



~某ファストフード店~

レンゲ「ねーねー、マキちゃん知ってるぅ?」

摩季「ん? なにを?」

レンゲ「最近ねー、このあたりにすごく強いユーレイがでるんだってー」

摩季「つ、強いゆーれい???」

みちる「あー、あたし知ってる。月のキレイな夜に色白の美少女が……」

ユウ「私を叩いてー、って言って襲ってくるんでしょ? 結構有名だよね」

???『……』

美奈「やだ、怖い……。でもマキちゃんならそんなのへっちゃらよね! だってマキちゃんは強いもの///」

摩季「う、うーん……」

ユウ「でもその幽霊マジで強いらしいよ。噂じゃプロボクサーも負けたとかって」

摩季「へぇ……!」

レンゲ「ねー、マキちゃんいっしょに除霊しにいこうよー。エコエコアザラシ!」

みちる「馬鹿だなレンゲ。そんなの本当にいるわけないじゃん。都市伝説だって」

ユウ「――あ、そうだ! その幽霊の特徴もう一つ思い出した。それがおっかしくってさぁ……。なんとその幽霊……」

ユウ「たくあんみたいな眉毛してるんだって!」

???『――!』

摩季「た……」

みちる「あははは! た、たくあんて……」

美奈「ふふ、可笑しい……」

レンゲ「お、おいしそう……」

ユウ「なんでだよ! ……と、さてじゃあこれからゲーセンにでも行きますか」

みちる「だね。あはは――」

摩季(でも……。そんなに強いなら……)

摩季(ちょっと戦ってみたいかもな……)

美奈「ほら、マキちゃん。いこ?」

摩季「うん――」

???『あの……!』

摩季「?」

???「その噂、もっと詳しく聞かせてくれませんか?」

ユウ「……あんたら誰?」

???「私たちは――」

???「その幽霊の――」

レンゲ「ユ、ユーレイのぉ……?」

唯・梓『――友達です』



~神心会~

独歩「――んで、おめぇは見ず知らずの美少女にやられちまったってわけだ……」

加藤「……押忍」

独歩「なにか言いてぇこたぁあるか……」

加藤「……ありません」

独歩「そうか。なら――」

加藤「はい。神心会を辞め、空手の道から身を――」

独歩「なに言ってんだお前ぇは? さっさと出かける支度しろ」

加藤「へぇ!? で、出かけるぅ!? どこに……?」

独歩「決まってんだろ。その美少女を……ナンパしにだ❤」

加藤「えええええ~! で、でも俺の処分は……?」

独歩「んなもんどうでもいい。ほれ、行くぞ……あ。加藤……」

加藤「はい」

独歩「夏恵と克己には内緒な。いや~楽しみだぜぇ~」

加藤「はぁ……」

独歩(加藤は相手が男だろうが女だろうがなめてかかる奴じゃねぇ……)

独歩(おそらく加藤は真剣だった。その加藤が負けちまうなんて――)

独歩(くく! おもしれぇ~。早く会ってみてぇぜ、カワイイお嬢ちゃん❤)




~某喫茶店~

深道(ランカー狩り……)

深道(予想外の参加者とは嬉しいものだが――)

深道(流石に10番台のランカーを狩られてはそうも言ってられない……)

深道(しかし――)

深道(今でも信じられない)

深道(琴吹紬――)

深道(なぜこの間までなんてことない普通の女子高生だったお嬢様がこんなにも――)

深道(もともと素質はあった……?)

深道(それにしてもなにが彼女を<覚醒>させた?)

深道(彼女もまた<化物>を内に飼っているのか……? そう――)

深道(<エアマスター>のように――)

深道(……少し探りを入れてみるか)

プルルル……プルルル……

深道「――俺だ。少し仕事を頼みたいんだが……」




~???~

???「……ギ」

紬(誰かしら……)

???「ム……ギ……」

紬(凄く安心する声……。ああ、そうよ……この声は――)

律「なんで無視するんだよ!」ポカッ!

紬「いたっ!」

律「ご、ごめん! 強く叩きすぎたか!?」

紬「ううん、大丈夫! むしろりっちゃんに叩かれて嬉しい!」

律「はぁ? ……ぷ。まったく変な奴だなー。あはは!」

紬「ふふふ!」

紬(<痛い>……。けどそれは温かくて……嬉しくて……幸せで……)

紬(ああ、そうだ……)

紬(りっちゃんだから<痛い>んだ……。そう、大好きなりっちゃんだから――)

律「まーた、ぼーっとして。ほれ、置いてくぞムギ!」

紬「あ、うん! 待ってりっちゃん! 待って――」



~公園~

紬「りっちゃん……待って……」

屋敷(なんや、ランカー狩り言うからどんな化物かと思えば――)

紬「りっちゃん……」

屋敷(か、可愛らしい女の子やん/// タ……タイプや/// しかも寝言言いながら泣いとるし……)

屋敷(……このまま帰ろかな。深道には悪いけど、流石にこんな娘と戦うわけには――)

ザッ!

独歩「――あそこで眠ってるお嬢ちゃんがそうかい?」

加藤「そうです……。間違いありません」

独歩「たしかにこいつぁ美少女だ!」

屋敷「……なんや、あんたら? (こいつら<ヤル>やつらや……。特にハゲの方は要注意やな)」

独歩「お前ぇこそ、そのお嬢ちゃんのなんだい?」

屋敷「ワイはこの娘と話にきたんや。おっさん達帰ってくれへん? この娘が目ぇ覚ました時
   おっさんみたいなタコ入道がいたら、ビビってもうて話にならへんわ」

加藤「てめぇ――!」

独歩「やめねぇか!」

加藤「――! お、押忍……」

独歩「なぁ、兄ちゃん……。そのお嬢ちゃんは大層強ぇぇ……。そのことは知ってるとみた」

屋敷「……」

独歩「だったらよぉ、そんな奴と仕合ってみてえと思うのは、武の道を歩むものとして当然じゃねぇか?」

屋敷「……要はおっさん達この娘と戦いにきたんやな?」

独歩「まぁ、そういうこった。兄ちゃんもほんとはそうだろ?」

屋敷「ワイは――」

屋敷「ワイは武やなんや言うて、可愛らしい女の子と戦うほどのケンカ馬鹿やあらへん。それに――」

屋敷「そんなケンカ馬鹿の前に女の子を置き去りにするアホともな――ちゃうんや!」

独歩「俺達とやろうってのかい……?」

屋敷「ああ……!」

加藤「なめやがって……。この人を誰だと……。館長、ここは俺が――」

独歩「いや、俺がやる」

加藤「館長……!」

独歩「活きのよさそうなのが目の前にいるんだ……。月もでてるし、いやぁ~今日はいい夜だぜぇい……」

屋敷(こいつは相当強い……戦いが長引いたらヤバい。……一発や。一発で決める!)

スタスタスタ……

独歩「おい兄ちゃん、そんな無防備に近づいたら危ない……ぜっっっ!!!」

グオン!

屋敷(よし、避けた! ……ココや!)

トン……

独歩「――!?」

屋敷「双……桉ンンンン!!!!!」

ズン!!!

独歩「――ッッッッ!!!」

加藤「館長ぉぉぉぉ!!!!!」



~街~

みちる「――つまりその幽霊があなた達が探してる友達ってわけ?」

梓「はい。たくわんみたいな眉毛の色白美少女なんてムギ先輩しか思い当たりません。ね、唯先輩?」

唯「レンゲちゃんちっちゃくてかわい~」ナデナデ

レンゲ「へへ~」

梓「人の話を聞いてください!」

ユウ「でも美少女格闘家なんてまるでマキちゃんみたい。ね、マキちゃん?」

摩季「う、うん///」

唯・梓『……』

美奈「どうしたの……?」

唯「……やっぱり想像つかないよ。ムギちゃんが毎日誰かと戦ってるなんて……」

梓「そうですよ。やっぱりなにかの間違いとしか思えません……」

摩季「……どんな娘なの、その娘」

唯「ムギちゃんは……おっとりしてて……ぽわぽわで……優しくて……温かくて……それから……」

梓「お茶を――おいしいお茶を毎日、私たちの――軽音部のために淹れてくれるんです……」

唯「だからやっぱり間違いだと思う。そんなムギちゃんがそんなことするなんて……」

摩季「――その娘、最近大切な誰かを失くしたりしてない?」

唯「え……?」

摩季(私はお母さんを失ってから、空っぽになった何かを埋めるかのようにストリートファイトを始めた……)

梓「やっぱり、あの事故が原因なんでしょうか……」

摩季(もしその娘が私と同じだとしたら……?)

唯「で……でもあれはムギちゃんが責任を感じることじゃないよ! みんなそう思ってるよ! りっちゃんだってきっと……」

摩季「……話してくれる?」

唯「……あれは一カ月前――」


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最終更新:2010年08月10日 21:19