~???~

律「――んで澪がさー」

紬(ああ、幸せだなぁ。ずっとこの時間が――りっちゃんやみんなといる時間が続けばいいのに)

律「おーい、ちゃんと話聞いてるかムギー?」

紬「う、うん! 大丈夫よ、ちゃんと聞いて――」

ブオオオオオオオン!

律「――ムギ、危ない!!」バッ!

紬「――え?」

キキーッッ! ドンッッッ!

律「……」

紬「りっちゃん……?」

律「……」

紬「そんな……私を庇って……。やだよ……りっちゃん……」

(女の子が車に轢かれたぞー!)(救急車! 救急車!)(うわ! なに~)(やだ、血がでてる~)

紬「いや……! いや……! いやあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」




~公園~

加藤「か、館長おおお!!!」

屋敷「立てるわけあらへん。ワイの120%マジもマジの<気>や。立てるわけ――」

独歩「<浸透勁>か……。おもしれぇ技持ってんな……」スッ……

屋敷「な!?(んなアホな! 化物かコイツ……!)」

独歩「お礼に俺もとっておき見せてやるよ……」スゥ……

屋敷(なんやあの拳の形……。構えは空手やけどいったいどんな――)

加藤(あの構えは……菩薩拳――!)

独歩「――っあッッッ!!!」

パンッ――!!!

屋敷「~~~~!!!!!」ドサッ……

独歩「ゲホッ! ……あんがとな、兄ちゃん。なかなか楽しかったぜぇ……」



~???~

(先生……あの子は……)(一命はとりとめました。ただ今後意識が戻ることは……)

澪「律……! 律ぅ……!」

唯「りっちゃん、起きてよ……。早くみんなで練習しようよ。ねぇ、りっちゃん……りっちゃ……うう」

梓「律先輩……なんで……」

紬「――私のせいだわ」

梓「違います! 悪いのは脇見運転してた車で――」

紬「私を庇ったからりっちゃんは……」

唯「違うよ! ムギちゃん!」

紬「違わない!」

澪「――やめろ!!!」

唯・梓・紬『!!!!!!』

澪「律がゆっくり……寝られないだろ……」

律「……」

律「……」

紬「……!」

タッタッタッタ……

唯「ムギちゃん!」

梓「少し……そっとしておいてあげましょう……」

――――――。

紬(りっちゃん……りっちゃん……!)

タッタッタッタ……ドタッ!

紬(変なの……)

紬(今私転んだのに……)

紬(血もでたのに……)

紬(ちっとも痛くない……)

紬(まるで私のなかから<痛み>が――大切ななにかが失われていくみたい)

紬(いや……。そんなの嫌……)

紬(りっちゃん……)

紬(――誰か私を叩いて)

紬(誰か私に<痛み>をちょうだい……。そしたら私も<痛み>をあげる……。誰か――)

(お、桜高の制服!)(やっべ、マジかわいくね?)(ねーねー、俺たちと遊びに行こうよー)

紬「……。ねぇ、私を叩いて欲しいの――」



~公園~

独歩「――お目覚めかい、お嬢ちゃん?」

紬「……そっか、夢をみてたんだ。だから泣いてるのね私……」

独歩「ハンカチ使うかい? ほら」

紬「ありがとうございます。……それで何か私に御用ですか?」

独歩「ああ。この男を覚えてるかい?」

加藤「……」

紬「ごめんなさい、わからないわ」

加藤「な……!」

独歩「はっはっは! 残念だったな加藤!」

紬「もしかして私を叩いてくれた人ですか……?」

独歩「逆にお前さんに叩かれちまったみてぇだけどな」

紬「そうですか……。ごめんなさい。なんか最近記憶があやふやで……」

独歩「いいってことよ。……んで本題だ。お嬢さん、俺と叩きあっちゃくれんかね?」

紬「ええ、いいですよ」

独歩「……!」

紬「あの、何か……?」

独歩「いや、流石にこんなすんなりいくとは思わなかったんでな。でもまぁ、話が早くていいや。それじゃあ……」

スゥ……

独歩「いくぜぇ……」



~公園周辺~

ユウ「たしか目撃情報によるとこの公園とかに出るらしいんだけど……」

摩季「うっ……」

唯「どうしたのマキちゃん?」

摩季「いや、この公園って……」

梓「?」

みちる「ああ、なるほど……」

唯「な、なに? どういうこと~?」

みちる「マキちゃんには天敵がいてね、この公園はそいつの出没スポットなの」

梓「へぇ~」

美奈「だ、大丈夫よマキちゃん! きっといないわ!」

摩季「だといいけど……。なんだろう、寒気が止まらない……」




~公園~

紬「えい!」ドッ!

独歩「せッ!」

紬「や!」ゴッ!

独歩「はッ!」

紬「それ!」ガッ!

独歩「しぇあッ!」

加藤「あの女……やっぱりすげえ……! 館長の攻撃を顔色一つ変えず受けてやがる……!」

紬「防御が凄くお上手なんですね。全然当たらないわ」

独歩「三戦(サンチン)っていうんだぜ。お嬢ちゃんもいい攻撃してくるぜ……」

屋敷(あの娘ほんまに強いんやな。深道の言った通りや……)

紬「ならこれはどうかしら……」ヒュヒュン!

独歩(く……疾えな……)シュパ!

屋敷(あの娘に加勢したいとこやけど身体動かんしなぁ……。もう少し休んで気ぃ溜めておこ……ん?)

コッコッコッコッコ……

屋敷(誰か近づいてくる? えーとあれは……。ッッッ――!!!)

???「月明かりのキレイな夜だな……」

加藤「おい、あんた。今ここでなにが起きてるか分かるだろ。帰んな」

???「そんな夜の公園に美少女……これは許せる……」

加藤「おい!」

???「だが……むさくるしい男は余計だ。俺の視界を汚す」

加藤「聞いてんのかてめぇ!!!」

坂本ジュリエッタ「――飛べ」

ブオォォォォン!!!

加藤「――!!!!!!」

屋敷(ま、まともにくらいおった!!!)

独歩「加藤!!!」

バキバキバキ……ドサ……ゴロン……

加藤「……」

屋敷(30メーターは吹っ飛んだんと違うか……。あーあ……。ご愁傷さまや……)

坂本「……次はお前だ」

独歩「なんて蹴りでぇ……! お嬢ちゃん、悪いがちょっと待ってな。先にあいつを――」クルッ

ズドッ!

独歩「がはぁ――!!!」

紬「よそ見はいけないわ……」

独歩「へっ……そうか……そうだよな……俺としたことが……ぐっ!」ドサ……

坂本「……」

紬「お月さま……。たしかにキレイだわ」

坂本「……」

紬「凄い蹴り……。ねぇ、よかったら私を――」

坂本「マキ……!」

摩季「うう……やっぱりいた……」

紬「――!! 唯ちゃん……梓ちゃん……」

唯「やっと会えたねムギちゃん……」

梓「ムギ先輩……帰りましょう! 私たちといっしょに!」

紬「……駄目よ。帰れないわ」

唯「なんで! りっちゃんのことだったら――」

紬「……違うわ」

唯「じゃあなんで――!」

紬「……わからない……私にもわからないの……」

坂本「マキ……マキ……!」

美奈「マ、マキちゃん! こっちに来るよ!」

摩季「うう……」ゾワワワワ!

坂本「マキ――」

スゥ……

紬「ねぇ、私を叩いて――」

坂本「邪魔だ」

ブォッ!

紬「――!!」

唯「ムギちゃん!!!」

梓「ムギ先輩!!!」

屋敷(……んなアホな!!!)

摩季「……! あの娘なら大丈夫……」

梓「だ、だって5メートルくらい吹き飛ばされちゃいましたよ!?)

屋敷(いや、ちゃう……)

屋敷(5メートルしか吹き飛ばされなかったんや……! ほんまなにもんやあの娘……!?)

紬「……」スッ

唯「ムギちゃん! 大丈夫!?」

紬「ええ、大丈夫よ唯ちゃん」

坂本「……」

紬「やっぱり凄い蹴りね。でもまだまだ本気じゃないんでしょう? だって全然<痛く>なかったんですもの」

坂本「月が美しい……空気が澄んでいる……そしてマキが俺の目の前にいる……今夜は最高だ……」

紬「とても愛していらっしゃるのね、あの人を。愛する人が側にいるのは幸せなことだわ。でも私はその人失ってしまった……」

梓「ムギ先輩……」

坂本「そうだ。俺はマキをとてもとてもとても愛している……。だから――」

坂本「消し飛べ」

ブォォォォン!!!

屋敷(アカン! 今度のは洒落にならんヤツや!!!)

唯「だめぇ! ムギちゃあああん!!!」

ドコォ!!!

紬「……。……。……あら?」

摩季「あんたは引っ込んでな、ジュリエッタ……」

屋敷(坂本の蹴りがキマるより一瞬早く、エアマスターが坂本に蹴りをキメおった……。相変わらずデタラメや)

坂本「マキ……!」

摩季「ムギちゃん……だっけ? あなた――」

坂本「マキ……愛してる……」

摩季「うひぃぃぃぃ!」

ドコ! ドコ!

坂本「マキぃぃぃぃ……」

摩季「寄るな!」

ドコ! ドコ! ドコ! ドコ!

梓「ま、まだ立ち上がってきますよ!?」

ユウ「愛……なのかな……?」

レンゲ「愛だよ!」

みちる「……愛……じゃない?」

美奈(私のほうが絶対マキちゃんを愛してるもん!)

坂本「マ……」

ドコン!

摩季「はぁはぁ……寝てな」

坂本「……」

屋敷(容赦ないなー……)

唯「なんか幸せそうだね、あの人。気絶しながら笑ってるよ」

梓「よくわからない人でしたね……」

紬「……マキさん、でしたっけ?」

摩季「……ああ」

紬「ねぇ、私を――」

唯「ムギちゃんもうやめて!!!」

紬「唯……ちゃん……」

唯「ムギちゃんが痛い思いするの見てるのもうやだよ! ムギちゃんまでいなくなったら私……!」

梓「そうです! そんなの律先輩だって望んでません!」

紬「ありがとう、唯ちゃん梓ちゃん。……でももう遅いの」

唯「なにも遅くないよ! またみんなでいっしょにバンドできるよ!」

紬「違うの! 私はもう前の<私>じゃなくなってしまったの!」

梓「ムギ先輩はムギ先輩です!」

紬「違う! <私>がね、言うの。もっと<痛み>を欲しいって……戦えって……。私は<私>を……自分の中の怪物を抑えきれないの!」

唯「そんなのって……!」

紬「だからもう……幸せな時間は戻ってこないの! そうよ、りっちゃんを失ったあの日から私は――」

摩季「――あなたの中の<怪物>に名前はある?」

紬「え……?」

摩季「私のはね<エアマスター>っていうんだ」

紬「エア……マスター……」

摩季「私とあなたは似ているよ。でもきっとその<怪物>はあなたを不幸にしかしない……」

紬「……!」

摩季「だから私があなたの<怪物>を全部受け止めてあげる。さあ……」

ビシッ!

摩季「――きな」

紬「ああ……あああああああ!!!!!」



~病院~

澪「律、今夜は月が凄くキレイだぞ」

律「……」

澪「ムーンライトティーパーティー……こんな曲名もいいかもな」

律「……」

澪「早く目ぇ覚ませよな、まったく……。みんなお前を待ってるんだぞ」

律「……」

澪「唯と梓がきっとムギを探して連れてきてくれるからな。そしてみんな揃ったらさ、練習はひとまず置いておいてさ……」

律「……」

澪「お茶をしよう。ムギのお菓子といっしょに、夕陽の射す部室でゆっくりとおしゃべりしながら……。そう、いつもと同じにさ……」

律「……」

澪「でも――そう遠くない未来それが実現しそうな気がするんだ。不思議だな……」

律「……」

澪「お前のことだから起きたらバカ騒ぎするんだろ? だからさ――それまでお休み、律……」


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最終更新:2010年08月10日 21:19