和「おつかれ、憂。本当に上手だったわ」

憂「いえ、和さんも手伝ってくれたからいい演説が出来たんですよ」

和「そう」

憂「……それよりも和さん。生徒会長になったらあの事をちゃんと……」

和「ええ、ちゃんとするわ。それまで私に協力してちょうだい」

憂「はい…」

和「……」


司会「それでは、これより生徒会長選挙の中間投票の結果を発表します」

律「おっきたきた!」

司会「第1位、293票獲得、真鍋和さん」

律「うわっ!? 過半数超えてるぞおい!」

紬「これはまずいことになったわね」

梓「それよりも次が大事ですよ!」

澪「頼む……!」

唯「お願い……!」

司会「第2位……」

唯「……ゴクリ」

司会「129票獲得、平沢唯さん」

唯「や……」

一同「やったーーー!」

梓「やりましたね! 唯先輩!」

唯「うん! ありがとうみんな!」

律「へへっ! なあに当たり前のこと言ってんだよ!」

紬「私たちは唯ちゃんについていくって決めたでしょ?」

澪「だから、その言葉は最後にとっておくんだな」

律「クサッ」

澪「う、うるさいっ!」

ボカン

律「あいてー!」


役員「次の決選投票は一週間後です。それまでは自由に選挙活動してもかまいません」

唯「わかりました!」

役員「それでは、また一週間後に」

律「ふう、とりあえずこれでやっと一対一になったわけか」

紬「うん! これからが本番よ!」

唯「ねえねえ、決選投票ってどんな感じでやるの?」

梓「まずは今日みたいに自分の紹介や抱負を言うんです」

梓「そのあとに立候補者同士でディベートしあうんです」

唯「でぃべーと?」

澪「討論することだよ」

唯「和ちゃんと討論か~、なんだか怖いや」

律「和のことだ、難しい言葉を使って唯を混乱させるかもしれないぞ!」

唯「それだけはご勘弁を~」

紬「そのためにも、まずは特訓しましょう!」

唯「うん!」

梓「そういえば最近練習してない気がします……」

律「馬鹿言うな! これで唯が負けたらティータイムが無くなるんだぞ! 練習なんか後回しだ!」

梓「なんだか和先輩が言ってたこともわかるような……」

唯「あ、あずにゃんまで裏切っちゃやだ~!!」ダキッ

梓「うわっ!? だ、大丈夫ですよ! 私は裏切りませんから!」

唯「ほんと~?」

梓「はい」

唯「えへへ~、ありがとうあずにゃん!」ギュー

梓「せ、先輩、くるしい……///」

紬「ごちそうさまでした♪」

澪「そんなことより、はやく選挙活動しないと和に負けちゃうぞ」

律「そうだな……。じゃあ今日は唯ん家で今後の選挙活動についての話し合いを……」

唯「む、無理だよ……、憂がいるし……」

律「あっそうか」

澪「私の家は狭いから……」

紬「私の家も予約とらないと……」

律「私ん家じゃ汚くて議論に集中できないからな……」

梓「私の家なら大丈夫ですよ。今日は両親も仕事でいないですし」

唯「本当!? じゃあ、あずにゃん家にけって~い!」

律「よっしゃ! 善は急げだ! 行くぞ唯っ!」

唯「はいっ! りっちゃん隊員!」

澪「やれやれ……」


――平沢家

ガチャ

唯「ただいまー」

憂「……おかえり」

唯(あうっ……、やっぱりなんか冷たい……)

唯「う、憂。別にお姉ちゃんは憂が何をしようと文句は言わないから……」

憂「そう」

唯「うん」

憂「早くご飯食べて」

唯「は、はい……」

憂「……」


唯(すっごく気まずいよ……)


――翌日

紬「……」

紬(りっちゃんはああ言っていたけど、私たちのティータイムってやっぱり他の人からあまりよく思われていないんじゃないのかな……)

紬(みんなの喜ぶ顔が見たくて、始めたのに……)

紬(今じゃ逆に、私のせいでみんなの足を引っ張ってる……)

紬(このまま、つづけていいのかな……)ハア

和「ムギ」

紬「! の、和ちゃん!?」

和「今、時間空いてるかしら?」

紬「あ、空いてるけど……」

和「そう。じゃあお話ししましょう?」

紬「う、うん」


――生徒会室

和「まあ、そこに座って」

紬「失礼します」

和「はいお茶」

紬「ありがとう……。で、お話って何?」

和「ちょっと言いづらいんだけど……。あなたは今、ティータイムについて悩んでいるでしょ?」

紬「!!!」

和「そのようね」

紬「……」

和「まあ、私も最初はティータイムもいいのかなって思ってた。みんな幸せそうだったし」

和「でも、それじゃダメなの」

紬「どうして……?」

和「あなたたちの部活、部活として機能していないじゃない」

紬「うっ……」

和「澪や梓ちゃんはいつも言ってるでしょ? 『お茶してないで早く練習しよう』って」

紬「で、でも! 澪ちゃんや梓ちゃんは今回の選挙も協力してくれて……」

紬「あっ……」

梓『そういえば最近練習してない気がします……』

紬「……」

和「でしょ? 一部の人が困っているのに、ムギはそれでもティータイムを続けたいの?」

紬「それは……」

和「唯や律だって、本当は練習したいけど仕方なくムギのティータイムに付き合っているんじゃないの?」

紬「そんな……。そんなことない……」

和「ムギのことなんてみんなはお茶とお菓子で気を惹いている人間だなんて思っているのかもしれないわよ?」

紬「!! そんなことないっ! みんなは……、みんなは……」

和「……」

紬「……」

和「悪いことは言わないわ。ティータイムは今すぐにでもやめた方がいい」

和「そしたら、ムギもきっと、本当の軽音部の一員になれるわ」

紬「……」

和「そのためにも、私に協力してくれない?」

紬「えっ……?」

和「私に協力すれば、ティータイムも無くせるし、軽音部の部費や待遇だってよくしてあげる」

紬「……」

和「そうすればあなたたちがいなくなっても、軽音部はずっと安泰よ」

紬「どういうこと……?」

和「もしも今年で誰も軽音部に入らなくて、あなたたちが卒業して梓ちゃんが一人ぼっちになって、その年に誰も入らなかったらそれだけで廃部になっちゃうでしょ?」

和「だからわたしが生徒会長になったら、そうならないように生徒会が全面的にバックアップしてあげるの」

紬「そうか……。私たちがいなくなったら、梓ちゃんは一人ぼっちになるんだ……」

和「ね? 悪くはないと思うんだけど」

紬「……」

紬(みんなを裏切るようなことはしたくない……)

紬(でも、もし私のティータイムのせいで軽音部が部活じゃないと言われるなら……)

紬(それに、私たちが卒業しても、梓ちゃんが一人じゃなくなるように、軽音部が廃部にならないようになるなら……)

紬(軽音部の未来のためにも、私が我慢すれば……)

和「どうするの、ムギ」

紬「私は……」


――放課後 軽音部 部室

ガチャ

唯「やっほ~」

律「おー唯、昨日は大丈夫だったか?」

唯「憂とはなんか気まずかったけど、ごはんはおいしかった!」

澪「そうか」

梓「唯先輩! もう憂とは敵同士なんですから、むやみやたらに情報を与えないくださいよ?」

唯「わかっております!」

ガチャ

紬「……」

律「おっムギが来た」

唯「ムギちゃ~ん、待ってたよ~!」

紬「……」

澪「ど、どうしたムギ?」

紬「みんな!!」

梓「うわっ!?」

紬「この生徒会長を決める選挙……、ぜったい勝ちましょう!!」

律「おお、ムギが輝いとる……」

唯「ど、どうしたのムギちゃん?」

紬「いえ、何でもないの。ただ、負けないって決めたから」


紬『私は確かに、みんなの練習を邪魔してるかもしれない』

和『……そう、なら』

紬『でも! それでも私を……、今までやってきた私を否定したくないっ!!』

和『……』

紬『だって、このティータイムで私たちは団結力を深めてるって私は思うから』

和『そう……』

紬『部活をしたことない、和ちゃんはわからないかもしれないけどね』

和『!!!』

紬『それに……、たとえ私たちが抜けても軽音部は続いていく。そんな気がするの』

紬『梓ちゃんも、他のみんなもそう考えてるんだと思う』

紬『だから、和ちゃんの話には乗れないわ』

和『そう……』

紬『それじゃ、決選投票で会いましょう』

和『わかったわ……』

バタン…

和『……』


紬「軽音部のティータイムのためにも、みんな最後まで頑張りましょう!」

唯「……うん!」

律「なにがあったか知らないけど……、もちろんだぜ!」

澪「ああ! ここまできたら最後まで!」

梓「やりましょう!」

紬「うん!」

紬(こんなにいい仲間たちだもの……。裏切るなんてできないよ和ちゃん)

紬(私のためにも……みんなのためにも……この選挙、負けられない!)

律「それじゃあ、今後の活動についてだが……」

澪「何するんだ?」

律「全然わからん!」

唯「よっ! りっちゃん男前!」

律「なははっ! もっと褒めなさい!」

澪「はあ……」

梓「うーん、でもやるとしたらやっぱり宣伝でしょうか」

紬「宣伝?」

梓「はい。普通の選挙の街頭演説みたいに、校内で演説みたいなものをやるんです」

澪「そうだな……。今度は唯に投票した人以外の票も根こそぎ集めなきゃいけないしな」

律「たしか、決選投票は中間投票で得た票をプラスするんだっけ」

澪「そう。だから、私たちが勝つには決選投票で和を大きく上回らないといけないんだ」

梓「そのためにも、唯先輩のことをもっとアピールしなきゃいけないんです」

唯「アピールかあ」

律「大丈夫だ唯! このりっちゃんの手にかかればどんな恥ずかしがり屋さんでも大胆なポーズで撮らせることができるぞ~」

唯「や~ん、りっちゃんダイタン!」

澪「ふざけてないでさっさといくぞ」

律唯「は~い」


――中庭

生徒A「是非、真鍋和に清き一票を!」

生徒B「よろしくおねがいしまーす!」

ザワザワザワザワ…

律「うわっ! なんて人の数だ!」

紬「この人たちはみんな生徒会の人たちかな?」

澪「そうだろうな。さすがに生徒会の人間なだけはある」

唯「こ、このままじゃわたしたち負けちゃうよ!」

梓「そうならないためにもはやくやりましょう!」

律「みなさーん、この平沢、平沢、平沢唯に清き一票をー!」

紬「明るく、優しい、平沢唯に清き一票を~」

梓「えーと……、ひ、平沢唯に清き一票を!」

律「そんなんじゃダメだ梓! ほら澪を見てみろ!」

会員A「秋山さん、ぜひがんばってください!」

澪「いや、出るのは私じゃないから……」

会員B「私たちも応援してます!」

澪「だから違うんだって……!」

恵「私も投票しちゃう!」

澪「曽我部先輩まで!?」

梓「おーっ、見事な集客率です」

律「これが必殺ファンクラブ殺法だ。よく見ておくんだな」

紬「うん!」

和「あら、みなさんおそろいでどうしたの?」

唯「の、和ちゃん!」

紬「!」

和「ああ、私たちに対抗してみんなで唯の知名度を上げようとしてるってわけね」

律「そうだぞ! なんか文句でもあっか!」

和「別に」

律「す、すみましぇん……」

和「ねえ、あなたたちまだやるの?」

澪「ど、どういうことだよ」

和「だってあんなに差が出ちゃったのにさあ、これ以上やる必要はないんじゃないかなって思って」

梓「や、やってみないとわかんないですよ!」

和「はあ、まあ好き勝手やればいいんじゃないの? どうせ負けるんだし」

唯「そ、そんなこと……」

紬「そんなことないっ!」

律「ム、ムギ!?」

紬「唯ちゃんは学校全体のことを考えてる」

紬「たとえ、差がついてしまったとしても、和ちゃんとはまだ勝負できる!」

澪「ムギ……」

唯「そ、そうだ! 私だってみんなのことを考えてるよ!」

梓(ぜったいウソですね……)

和「ふーん、じゃ、せいぜいがんばってちょうだい」

律「か~っ! 和のやろうあんなムカつくキャラだったか!?」

澪「ちょっと怖いというか何というか」

唯「それよりもムギちゃん! かっこよかったよ!」

紬「そんなことないわ。ただ唯ちゃんの気持ちを代弁しただけよ」

唯「そう? でへへ~」

梓(やっぱり考えてなかったな……)

澪「よし、このままがんばるぞ」

唯「うん!」


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最終更新:2010年08月11日 22:26