――翌日

唯「ふんはふんはふんはっは~ん♪」

唯(昨日の宣伝ってやつで私の顔も桜高中に広まったよね)

唯(でも、和ちゃん相手じゃまだまだ足りないぐらいだよ)

唯(よし! 今日も張り切って選挙活動しよう!)フンス

ガチャ

唯「おっはよう!」

律「お、おい唯!」

唯「ん? どしたのりっちゃん」

律「これを見てみろ!」

唯「なになに~……生徒会長に立候補、平沢唯の素顔……?」

唯「遅刻の常習犯、赤点大好き、特技は睡眠学習……?」

唯「な、なにこれっ!?」

律「今日朝はやくに学校に来たら、この張り紙がそこらじゅうに貼ってあったんだ」

紬「ひどいよね……」

唯「これもやっぱり和ちゃんが……?」

律「まちがいねーだろ」

唯「そんな……」

紬「唯ちゃん、もう和ちゃんのことは友達と思っちゃダメよ」

唯「えっ……?」

紬「こんなことしてまで、生徒会長になるなんておかしい!」

律「そうだよな……こいつはちょっとやり過ぎだ」

唯「で、でも……和ちゃんも悪気があってこんなことしたんじゃ……」

律「悪気ありまくりだろこれ!」

紬「そうよ。いくら友達だからってこんなこと許しちゃダメ」

唯「うっ……」


――昼休み

梓「唯先輩!」

唯「あずにゃん」

梓「この張り紙はなんなんですか!? 学校中に貼られてますよ!」

唯「うん。私もびっくりしちゃったけど……」

梓「これも和先輩の仕業なんですよね!?」

律「そうだろうな」

澪「うん、いくらなんでもやり過ぎだ」

唯「だ、だけど……」

律「まーだ和に対してそんな感情もてるのかよ、唯は」

紬「唯ちゃん、もう和ちゃんは敵なの」

唯「そ、そんな……」

梓「こんな誹謗中傷を載せた張り紙を学校中に貼られてまだ友達だって言えるんですか!?」

澪「幼稚園からの幼馴染だってことはわかるけどさ、これじゃ唯があんまりだよ」

唯「うっ……」

律「そんじゃ、この張り紙さっさとはがそうぜ。これ以上放置してたら唯のイメージがダウンしちゃうし」

澪「ああ」

唯(和ちゃん、ウソだよね。こんなこと和ちゃんがやったなんてウソだよね……?)


――生徒会室

バタン!

憂「和さん! この張り紙は一体何なんですか!?」

和「あら憂。気付いたの?」

憂「当たり前です! こんなことまでやるなんて私聞いてない!」

和「何を言ってるの? こんなのまだまだ序の口よ?」

憂「えっ?」

和「唯相手に手を抜いていたらいつのまにか唯に追いつかれちゃうわ」

和「そうね……今度は唯の中学時代の赤点テストでも貼り付けちゃおうかな」

和「あ、それよりも小学校の時のあの変な作文でもおもしろいわね」アハハ

憂「こんな……こんなことまでしてお姉ちゃんに勝ちたいんですか?」

和「もちろんよ」

憂「……っ! 最低っ! 見損なったよ和ちゃん!」

和「ふーん。じゃああのことはどうなってもいいの?」

憂「もうあんなことなんてどうでもいい! お姉ちゃんが傷つくところなんて見たくない!」

憂「私はもう降ります! 後はご自由にどうぞ!」

バタン!

和「はあ……」

和「やっぱりもうちょっと軽くしとけばよかったかな」

和「でも、これで唯はもう逃げることはできない」

和「あとは決選投票をやるだけ」

和「あはは、楽しみだわ……!」


――軽音部 部室

律「ふう、これで全部か」

梓「でも、よくこれだけの張り紙を用意できましたよね」

澪「ああ、ここまでやるなんてな」

紬「私、絶対に許せない!」

唯「……」

ガチャン

憂「あ、あの……」

梓「憂!? なんでここに!?」

律「まずいっ! 敵襲だ! みんなテーブルの下に入れ!」

紬「ラジャ!」

澪「ま、待ってよ!」

唯「……」ボケー

梓「ゆ、唯先輩! なにボーっとしてるんですか! 早く隠れないと……」

憂「ち、違うんです! 私はもう和さんの仲間じゃないんです!」

律「だ、だまされるな! これは和の策略だ!」

紬「ラジャ!」

憂「ほ、本当なんです……、信じてください」

唯「……ん? あれ憂?」

梓「唯先輩!」

憂「お、お姉ちゃん……」

唯「どうしたの? なんか暗い顔してるけど……」

憂「! こ、これは…その……なんでもないの」

唯「ウソだよ。私が何年憂のお姉ちゃんしてると思ってるの?」

憂「あうっ」

唯「どうしたの? 何かあったの? お姉ちゃんが聞いてあげるよ!」

憂「……お姉ちゃん……おねえちゃああん!!」バッ

唯「うわっ! もう、憂は甘えんぼさんだなあ」

憂「ごべんなさい! 私、私……!」

唯「おーよしよし」ナデナデ

憂「うわああああん!!」

律「いったいどうなってるの……?」


憂「今まで本当に申し訳ありませんでした!」ドゲザ

梓「そ、そんな土下座しなくてもいいから……」

憂「ううん、いいの梓ちゃん。私の気が済むまでこうさせて……!」

紬「憂ちゃん……」

唯「もう大丈夫だよ、憂。顔上げて」

憂「う、うん」スクッ

梓(あっさりやめやがった……)

律「土下座までしてあやまったってことは、本当に和の仲間じゃなくなったんだな」

憂「はい。私はもうあの人の仲間じゃありません」

澪「憂ちゃん、ちょっといいかな」

憂「はい」

澪「この張り紙……まさか憂ちゃんもかかわってたのか?」

憂「そ、そんなことないです! 私が和さんを見限ったのもそれが原因なんです」

紬「そうだったの……」

憂「私、あんなことやるなんて聞いてなくて……。それにこんなのまだまだ序の口だなんて言うから、私、許せなくて……」

律「和め……! これがまだ軽いだなんて……!!」

梓「鬼畜です!」

憂「本当にごめんね、お姉ちゃん」

唯「ううん。もういいよ、憂」

澪「待った。もうひとついいかな、憂ちゃん」

憂「は、はい。なんですか?」

澪「どうして唯のことを裏切ったんだ? あの中間投票の前の日は協力するって言ってたじゃないか」

憂「そ、それは……」

澪「教えてくれ! 何でなんだ!」

憂「!」ビクッ

律「お、落ち着けよ澪」

澪「唯は憂ちゃんにまで裏切られて本当に悲しかったんだぞ! それなりの理由が無いと困る!」

唯「み、澪ちゃん……」

憂「……実は、お姉ちゃんが生徒会長に立候補する前に……」


――平沢家

憂『えっ!? おねえちゃんが!?』

和『そう。唯はきっと立候補してくるわ』

憂『ちょっと想像できないけど……』

和『ううん、必ずあの子は来る。そうしかけてやったもの』

和『そして私が唯に勝って、生徒会長になって、あの子たちのティータイムをやめさせるの』

憂『な、なんでこんなことを……?』

和『ただ気に入らないだけよ』

憂(そんなはずはない……和ちゃんだってあのティータイムは認めていたのに……)

和『ところで憂はやっぱり唯を応援するの?』

憂『うん。お姉ちゃんが立候補するなら私は喜んで協力する!』

和『それなんだけど……。憂、私のところに来ない?』

憂『へっ!? そ、それはちょっと困るな……』

和『……そうやって唯のことをまた甘やかすのね』

憂『!』

和『憂はいつだってそう。唯のやりたい放題にさせて』

憂『うっ……』

和『そんなんじゃ唯はいつまでも成長出来やしないわ』

憂『の、和ちゃんだってお姉ちゃんを甘やかしてるじゃない!』

和『あら、私は最近、唯のことを助けたりしてないわよ』

憂『そ、そんな……』

憂(和ちゃんも変わったってことなの……!!?)

憂『で、でもそれで生徒会長に立候補するならお姉ちゃんもがんばってるってことじゃない! そう言うことなら私はお姉ちゃんを誠心誠意バックアップする!』

和『はあ、重症ね』

憂『な、なんで?』

和『じゃあ、これならどう?』ピラ

憂『こ、これは……!』

和『そう。唯の成績表。まだみんなはもらってないけど、生徒会パワーでいただいてきたわ』

憂『見事に赤点だらけ……』

和『このままじゃ唯は留年しちゃうわね』

憂『! そ、そんな!!?』

和『でも、一つだけ唯が留年を逃れる方法がひとつだけあるの』

憂『そ、それは一体何!!?』

和『私が生徒会長になるの』

憂『! ま、まさか……!!』

和『そう。生徒会長の権力で唯を進級させてあげるの』

憂『その手があったのか……!』

和『さあ、どうするの? 私に協力して唯を無事進級させるか、唯と一緒に受験するのか、どっち?』

憂『ううぅ……』

憂(お姉ちゃんが留年しちゃったら、お姉ちゃんはともかく、お父さんとお母さん、軽音部のみなさんが悲しんじゃう)

憂(で、でもお姉ちゃんと一緒にお受験かあ……)ポワポワ

憂(ダ、ダメダメ! そんなのダメだよ!)

憂(で、でも和ちゃんのところにつくってことはお姉ちゃんを裏切るわけで……)

憂(そもそもお姉ちゃんが生徒会長に立候補するなんてまだわかんないし……)

憂(あーもう、頭が混乱してきた……)

和『大丈夫よ、憂』

憂『へっ?』

和『唯は私が絶対に進級させるから』

憂『和ちゃん……』

和『……』ニヤ


憂「ということで、和さんのところについたんです……」

唯「そうだったのかあ」

律「ってなんでそんなに呑気なんだよおまえは!」

唯「はい?」

澪「このままじゃ唯は留年だぞ!」

唯「あっ」

梓「今頃になって気づいたんですか……」

唯「どどどどうしよう……」

憂「私も勢いでやめたんですけど、それをどうするかは考えてなくて……」

唯「うわあああん、私はもうだめだあ」

唯「いっこ下の下級生に交じって、指をさされて嘲笑われながら一年を過ごすんだあ」ウワアアン

紬「ゆ、唯ちゃん……」

さわ子「騒がしいわよあんたたち」

律「そう言わずにさわちゃんも慰めてやってくれよ」

律「っていつの間に!?」

さわ子「やあね、最初からいたじゃない」

澪「いるなら存在感ぐらい出してください……」

さわ子「ところで今の話だけど」

憂「はい?」

さわ子「ちょっとおかしいところがあるわね」

梓「ど、どういうことですか?」

さわ子「まず、和ちゃんは生徒会長になったら唯ちゃんを進級させることが出来るって言ってたけど」

さわ子「あれ、ウソよ」

唯「えっ」

一同「え~~~~~~っ!!?」

さわ子「当たり前よ! 生徒会長ごときが一生徒の処遇をどうこうなんてできるわけないでしょ!」

澪「そ、そうだったのか」

憂「じゃ、じゃあ私は騙されたってことですか……?」

さわ子「そうね」

憂「そんな……」ションボリ

梓「憂……」

唯「大丈夫だよ憂。憂はそれほど純粋なんだよ」

憂「お姉ちゃん……!」

律「ふむふむ、これで一件落着……」

律「ってそれじゃあかん!」

唯「へっ!? なにが?」

澪「さっきの話がウソだったんじゃ、唯は結局留年しちゃうってことだぞ!」

唯「がーん!!」

憂「そうだった……」

唯「うわあああああん!! 結局留年しちゃうんだあああ!!」

唯「就職面接のときに『なんで高校で4年間も過ごしたの』っていわれて嘲笑われるんだあ」ビエエエン

梓「ゆ、唯先輩……」

さわ子「そのことなんだけどね、まだおかしいところがあったのよ」

紬「なにがですか?」

さわ子「唯ちゃんの成績表がうんたらかんたらって言ってたけど、まだ唯ちゃんの成績はでてないわよ」

唯「へっ?」

さわ子「大体、生徒会の権力で一生徒の成績をコソ泥なんてできるわけないじゃない」

さわ子「しかも、もし唯ちゃんが仮に留年するほどヤバくても、生徒会長に立候補できた時点で大丈夫なのよ」

澪「! そうか! 成績が悪いやつが生徒会長に立候補できるはずがないんだ!」

唯「じゃ、じゃあ私は大丈夫なの?」

さわ子「オールオッケーよ」

唯「わーい!」

憂「お姉ちゃんよかったね!」

律「さっすがさわちゃんだ」

さわ子「おほほ! もっとほめなさい!」

澪「んじゃあ結局唯は留年するわけじゃなかったのか」

律「っちゅうことは、憂ちゃんはまんまと和に騙されたわけか」

憂「す、すみません」

紬「いいのよ。悪いのは和ちゃんだわ」

梓「そうだよ! 憂の純粋な心に付け込むなんて……、やっぱ鬼畜です!」

唯「み、みんな、そんなに和ちゃんを責めないでよ……」

律「まーだそんなこと言ってんのかよ! あいつはお前に勝つために妹の憂ちゃんを騙したんだぞ!」

唯「で、でも……」

さわ子「私もちょっと和ちゃんには納得できないわ。私の生きがいを潰そうとしたしね……」ギリッ

澪「みんなの言うとおりだ。ここまでされて唯は何とも思わないのか?」

唯「そ、それは……」

憂「私も和さんは許せないよ、お姉ちゃん」

唯「うい……」

梓「こうなったら、もう徹底的にやるべきです!」

律「そうだ! あんなやつに負けてたまるか!」

紬「みんなで力を合わせて勝ちましょう!」

一同「おーー!」

唯「……」


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最終更新:2010年08月11日 22:27