憂「う~ん今日の晩御飯何にしようかな…」

いつも通りスーパーで夕御飯の材料を買っていた時だった。

そこに、一本の電話

Prrrr…

憂「ん? 誰だろ」

携帯には見知らぬ番号、憂は特に訝しむこともなくそれをとる。

憂「はいもしもし」

警察「平沢憂…さんですね?」

憂「はい…そうですけど」

警察「警察です。お姉さんの携帯から連絡しているのですが…」

憂「警察…? お姉ちゃんに何か!?」

警察「今日の夕方、先ほどですね…平沢唯さんにはアイス強奪の容疑で逮捕されました」

憂「嘘…」

テンッテンテン──



平沢家───

憂「皆さんは一緒じゃなかったんですね…」

律「あぁ…多分事件が起こったのは別れた後だと思う…」

澪「でも唯がアイスを強奪するなんて…」

梓「アイス~アイス~とは言ってましたけど…」

紬「唯ちゃん…私がおやつにアイスをもってこないばっかりにっ」

憂「皆さんのせいじゃないです…。それに私はお姉ちゃんがそんなことするとは思えません…っ」

律「確かにな。いくら唯がアイス好きでも強奪なんて真似…」

澪「でも唯は逮捕された…これからは警察の仕事だ。私達にはもう…」

憂「私が…お姉ちゃんを助け出します!」

4人「!?」

澪「助けるって言ったってどうやって…?」

憂「脱獄させます…私が」

律「どうやって!? 唯はあの鉄壁と言われる桜ヶ丘刑務所に入れられたんだぞっ! それに脱獄なんて…」

憂「警察の人に聞いたんです…このままだとお姉ちゃんは…無期アイス懲役に…」

4人「!?」

紬「そんなの唯ちゃんにとって死ぬことと同義だわっ! なんて酷いことを…」

梓「唯先輩…」

憂「刑期執行は明後日…それまでにお姉ちゃんをあそこから出します。先輩達はその間にお姉ちゃんの無実を証明出来る材料を揃えて欲しいんです」

澪「憂ちゃん…」

律「……わかった! 憂ちゃんがそこまで言うなら私も協力する!」

澪「律!?」

律「私は唯を信じてる…だから憂を助ける、それだけだ」

憂「ありがとうございます…律さん」

紬「私も勿論協力するわ! 唯ちゃんにアイスたらふく食べさせてあげなきゃ申し訳が立たないもの!」

憂「紬さん…」

梓「私も手伝うよ、憂。大した力になれないかもしれないけど…唯先輩がそんなことするなんて思えないし…」

憂「梓ちゃん…」

澪「わかったよ! こうなったら何としてもみんなで唯を助けだそう!」

一同「おーっ!」

憂「待っててね…お姉ちゃん」



桜ヶ丘刑務所────

桜ヶ丘刑務所、通称フォックスリバー。アメリカの刑務所、脱獄不可能と言われるフォックスリバー、その日本版とも言われる要塞振りで脱獄者は未だ皆無でありまた不可能とされている。
中には捨てていたものを勝手にお持ち帰りしたりコンビニでワックスをかけているのに立ち読みを続けるなどの凶悪犯ばかりが収容されている。
中でもアイス強奪は特級の罪、故に平沢唯は特別施設に収容されていた。

唯「う~い~アイス~…」

看守「静かにしろっ!」

────────


駄菓子屋───

憂「…」

───

澪『憂ちゃんが桜ヶ丘刑務所に入る!?』

憂「はい、脱獄させるには外だけでは不可能です。だから私もアイス強奪で桜ヶ丘刑務所に入り、お姉ちゃんと共に脱獄します」

律「でも一体どうやって…」

憂「それは後で説明します…。それより外でのこと、任せます…皆さん」

梓「本当に上手くいくのかな…」

紬「上手くいかせるのよ梓ちゃん。唯ちゃんの為に」


───

憂「計画は全て話し合った…後は皆さんを信じて動くしかない。お姉ちゃん…今行くから」

憂は駄菓子屋のアイスを静かに手に取り、お金も払わず食べだした!!!


憂「アイス美味しい~」ペロペロ

憂「お金持ってないのにアイス食べちゃうなんて…!」ペロペロ

憂「これで私は本当のアイス強奪者…償いは何でもします…! けどお姉ちゃんは返して…! 」ペロペロ

おばちゃん「あんらまあ憂ちゃんどしたの?」

憂「おばさん! 私お金ないのにアイス食べちゃってます! 警察に通報してください!」ペロペロ

おばちゃん「あれまあお財布忘れちゃったのぉ? いいよぉいいよぉお金は~。憂ちゃんにはいっつも煮物やら何やらもらってるからねぇ。アイス1本じゃ足りないわよぉ」

憂「ご近所さん付き合いが裏目にっ」ペロペロ

憂「結局いっぱいアイスもらっちゃった…。お姉ちゃんにあげよっと♪」

ガチャ

憂「お姉ちゃん~アイスもらってきたよ~♪」

シーン…

憂「そうだった…お姉ちゃんはアイス強奪で…」

憂「うぅ…うぇ…ぐすん…」

憂「な、泣いちゃ駄目…! お姉ちゃんはもっと辛いんだから…! 刑執行まで時間がない! 大手のスーパーならきっとっ…。」

憂「お姉ちゃん…帰ってきたらいっぱいアイス食べてね」

憂はアイスと何かを冷凍庫に入れるとスーパーに向かって走り出した。



大手スーパー アイスコーナー───

憂「」ペロペロペロペロ

憂「」ペロペロペロペロ

憂「」ペロペロペロペロ

店員「アイス強奪だあああああああああ警察を呼べぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

店長「あの食べ方ただ者じゃない…っ!」

7月1日 午後6時、平沢憂 アイス強奪により桜ヶ丘刑務所に連行される。

憂「待っててね…お姉ちゃん」



桜ヶ丘刑務所前───

律「で、どうよ実際」

自転車のサドルに反対に座り込みながら澪に促す。
澪は望遠鏡を覗いたまま律に感想を述べた。

澪「隙がない…完璧に要塞だな…。5mの壁囲まれ上には電流が流れてる鉄線、見張り台が隅にあり計四ヶ所、隅々まで監視出来るようになってる。更に監視カメラも多数…内部はわからないけどこれだけでも諦めがつくぐらいだよ」

望遠鏡を下ろし、律に向き直る。

律「でも…憂ちゃんはもう中に…」

澪「ああ…もう後戻りは出来ない」

律「私は逃走ルートを確保するよ、澪は唯の無実を証明してくれ」

澪「うん…! 必ず唯の無実を証明してみせるよ」

律「よ~し…んじゃいっちょ桜ヶ丘刑務所に風穴開けるとしますか」

律は手で拳銃を象り刑務所の壁に向けて、「BANG!」と発砲した。



桜ヶ丘刑務所 特別収容施設───

看守「平沢、今日から相部屋だ。良かったな、上の配慮だ」

唯「えっ…」

憂「お姉ちゃん…」

唯「憂!? 何でここに…」

憂「私もアイス…食べちゃった」テヘ

唯「憂ぃ…」じわぁ

看守「感動の対面は中でやりな。平沢唯、妹に色々教えてやりなここのこと」

唯「ベーっだ!」

看守「ふん…」

憂「お姉ちゃん…っ」だきっ
唯「憂っ!」だきっ

唯「ごめんね…こんなお姉ちゃんで…」

憂「ううん…お姉ちゃんだから、私は助けたいの。お姉ちゃんの為ならなんだってするんだから!」

唯「憂ぃ…。でも助け出すって…?」

憂「動いてるのは私だけじゃないんだよ、お姉ちゃん」


───

看守「え~と、名前は?」

梓「はいっ! 今日から入りました中野梓です! お掃除のバイトは初めてですが頑張ります!」

お掃除係「女子刑務所は人手が少ないから助かるわ~頑張ってね中野さん」

梓「はいですっ!」

看守「中野さんね。まあ色々大変だろうけど頑張って。後特別収容施設には近づかないように。あそこは専門の掃除係がいるから」

梓「はい!(唯先輩達がいる特別収容施設には行けない…か。どうしたものか…)」


─────

紬「お父様…お話があります?」

紬父「なんだ? 時間がない、早めに頼む」

紬「(いくらお父様でも犯罪者も無条件に出すなんてことは出来ない…けどちょっと豪華な差し入れぐらいなら…!)」

紬「実はっ…────」

──────

パシャッ、パシャッ

澪「唯が帰りにコンビニに寄ったのわかったんだけど…」

澪「店員の話を聞く限り我慢出来なくて店内でアイスを食べちゃって財布がないことに気付いた…ってのが本筋だよなぁ」

澪「でもまだ始まったばかりだし、諦めないぞっ!」

──────

律「電動ドリルにつるはし~後な~にがいるかな~。しかしホームセンターっていつ来ても楽しいよな! ずっきゅっきゅーん! って唯かよ…。唯…待ってろよ」




これまでのプリズンブレイクは

憂「脱獄させます…!」

──

律「いっちょ風穴開けるとしますか」

──

澪「まだ始まったばかりだ…、唯」

──

梓「お掃除のバイトは初めてですが頑張ります!」

──

紬「実はっ…!」

──

唯「憂~アイス~」

──

憂「お姉ちゃんを助け出す…必ず」

テンッテンテン───





桜ヶ丘刑務所 特別収容施設───

唯「えぇっー!? 脱獄ー!?」

憂「シーッ、お姉ちゃんはアイス強奪なんてやってないんだよね?」

唯「うん…。」

憂「私は信じてるからここに来たの。きっとお姉ちゃんを助け出すから!」

唯「憂…」

憂「じゃあ詳しいこと話して…」

唯「うん…」

──────

唯「ってことなんだぁ…」

憂「わからないことはあるけどこれでお姉ちゃんがアイス強奪なんてしてないってわかった。後はここを脱出するだけだね…!(出る頃にはきっと澪さんがお姉ちゃんの無実を証明してくれてる筈…
そうしたら誤認逮捕をネタに警察をゆすってお姉ちゃんにアイスを山ほど買ってあげるんだから…!)」


唯「脱獄って言ってもどうやって…」

憂「ここの詳しい話を聞かせてお姉ちゃん」

唯「う~んとさっき聞いた話だと夜9時には消灯で朝6時に起床、ご飯は日に三回食堂でだってさぁ」

憂「作業とかはないの?」

唯「特別収容施設の人達は危険だからってほとんど出れないんだって~」

憂「そうなんだ…」

憂「(特別収容施設は通常の場所より警戒が強い…一時的にも外に出れないから脱出のチャンスは少ない)」

憂「お姉ちゃん、しばらく私の言う通りにしてね」

唯「うん! きっと二人で脱出しようね…!」

憂「…うん」



夜9時

看守「消灯だ! 消灯!」

一気に電気が消され暗闇が満ちる。

唯「私はお姉ちゃんだから上ね!」

憂「お姉ちゃん…一緒に寝てもいい?」

唯「憂…いいよ」

二人は上の狭いベッドで寄り添い合うように眠る。

憂「お姉ちゃん…」ぎゅっ
唯「心配かけてごめんね…唯」

憂はもう唯を、いやもとから微塵も疑ってはいない。アイスをもっとあげとくんだった、などの後悔事など一切言わない。
ただ、いつも通り寄り添い、ただ姉に起こった不運を恨むだけだ。

刑執行まで後2日──


看守「起床! 起床!」

憂「ん…」

看守のうるさい声に無理やり覚醒を促され、憂はゆっくりとベッドから起き上がる。

唯「くか~…」

憂「お姉ちゃん…」

看守「平沢唯! 平沢憂!」

憂「は、はい!」

看守「姉はどうした! 顔を見せろ!」

憂「お姉ちゃんはまだちょっと寝てて…」

看守「起こせ! 平沢唯! 起きろ!」

ガンガンガン

憂「……ッ!」

唯「むにゃ…?」

看守「さっさと起きろ。ここは高校じゃないんだぞ! お前達は受刑者だ! それを肝に命じておけ!」

憂「…」ギリッ



食堂────

唯「食堂はひとつしかないからみんな一緒なんだね…」

憂「そうみたいだね…」

唯「あんまり美味しくないね…」

憂「うん…」

堅いご飯に薄い味噌汁、生臭い魚にボロボロの切り干し大根。

唯「ぐすん…憂の美味しい料理が懐かしい」

憂「泣かないでお姉ちゃん…ここから出たらいくらでも食べさせてあげるから…」

姫子「(ん…ここから出たら…?)」

唯「早く部屋に戻って寝たいよぉ」

憂「うん…」

姫子「(あの姉妹…特別収容施設のやつか。へぇ…)」

─────

唯「憂~なにやってるの~?」

憂「ん~ちょっとね」

憂「(1.2.3.4…約8。私の靴のサイズが24だから192cm、横192cm、縦300cm…)」

窓を眺める。

憂「(格子はネジ式だけどついてるのが外側だから空気の入れ替え以外は無理…)」

憂「(後はトイレだけ…部屋の中に脱出ルートはない…か)」

唯「あ~ぁ、さっき聞いたんだけど一般収容施設は漫画とかテレビも見れるんだってさ~いいよね~」

憂「そだね…」

憂「(まずは何とかして一般収容施設に移動することを考えなきゃ…!)」



昼ご飯

唯「憂~これ食べて~…残したら怒られるらしいから…」

憂「好き嫌いは駄目だよお姉ちゃん」

姫子「ここ、いい?」

憂「えっ…あの…」

唯「うわぁ綺麗な人。どうぞどうぞぉ」

姫子「あらありがとう」

憂「(お姉ちゃんってほんと人見知りしないなぁ…)」

姫子「あなた達特別収容施設の人達よね? 何やったの?」

唯「アイス強奪ってことになってます!」
憂「私も…」

姫子「はははっ。面白いねあなた達」
唯「あなたはなにしたの? えっと~」
姫子「姫子よ。よろしくね」

唯「平沢唯だよ!」
憂「妹の憂です」

姫子「天然ちゃんが唯ちゃんでおとなしいのが憂ちゃんね」

姫子「私は…まあちょっとね。色々わけありよ」

唯「へ~」

姫子「で、あなた達…一般収容施設に来たくない?」

唯「えっ!? いいの!?」

憂「本当ですか!?」

姫子「ちょっとコネがあってね。どうする?」

憂「移れるなら…」
唯「漫画読みたいっ!」

姫子「でもね~…問題があるのよ」


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最終更新:2010年08月14日 20:54