唯「ほえ?」
姫子「ん?」
ガラガラガラ…
看守「どんな人生だろうな…一番好きなものを奪われたまま生きるってのは」
唯「…」
看守「こい、刑執行だ」
姫子「まさか…そんな早く!? 唯…!」
唯「すぐ戻ってくるよぅ姫ちゃん」
姫子「(アイス強奪の刑がどれだけ重いか知らないのね…唯。さようなら…大好きだったよ唯。色々な意味で)」
タッタッタ…
憂「……」
唯「あ、憂ぃ。ちょっと行ってるね!」
憂「えっ…あ、うん。気を付けてねお姉ちゃん!」
純「憂…辛くない?」
憂「う…お姉ちゃんはあんまりアイス好きじゃないから大丈夫!」
純「えっ…そうなの? なのにアイス強奪なんて…?」
憂「人生色々あるんだよ純ちゃん」
純「??」
─────
看守「座れ。これを着ろ」
看守は暑そうな服を唯に渡す。
唯「う~暑いぃ~」
看守「これからもっと暑くなるんだ、我慢しろ」
暑い服に着替えさせられた後、椅子に手足を縛られ座らされる。
看守「(何度見ても心が痛むな……)」
唯「(和さんは間に合わなかったのかな…)」
唯「(無期アイス懲役の刑ってどうやるだろ…二度とアイスを舐められないように舌でも引っこ抜かれるのかな…)」
唯「(だとしたらやだな…そうしたらもうお姉ちゃんと…)」
看守「始めるぞ! アイス投入後、全開にしろ!」
────
澪「律! あれ!」
律「くっ…駄目だったか…っ! すまない唯…私達が不甲斐ないばっかりにっ…」
紬「うぅ…唯ちゃん…」
────
いよいよ刑執行の時っ…!
唯「暑い…」
部屋の中は暖房により極限まで暖められ、そして目の前にはアイスが…!
唯「アイスだ……暑い…食べたい…」
でも食べられないっ…! 決してっ…!
唯「アイス~…溶けちゃう…」
看守「うっ…」
看守「吐くならあっちでね…」
唯「アイス~…(確かに食べたくなるけどこれで無期アイス懲役になるのかな…?)」
唯「(でも…この暑さは…どうにかなっちゃいそう…)」
唯「誰か…たすけ…」
唯「(お姉ちゃん…)」
和「ストップよ! 今すぐ暖房を止めて!」
看守「先生どうしましたか?」
和「今の受刑者は熱があるの! 急いで出して! 命に関わるわよッ!」
看守「なんてこと! 急いで出せ! 早くしろ!」
唯「……うぅ…」
和「大丈夫? しっかり! 遅くなってごめんね。色々手続きがあって」
唯「ありがとう…ござい…」バタンッ
和「唯ちゃん!? 医務室運びます! 手伝って!」
────
律「動いたっ!」
律が遠くを眺める様な姿勢からそう告げる。
澪「予定よりだいぶ終わるのが早いな…」
梓「先輩~!」
紬「梓ちゃん! 今バイト終わったの?」
梓「はい! それより朗報です! 刑の執行が延びました! さっき医務室の前で聞いたから間違いないですっ!」
律「よぅしーこれで作戦は継続だ! みんな準備にとりかかってくれ!」
澪「憂ちゃん…!」
紬「梓ちゃんもお疲れ様」
梓「はいっ! 後は憂に任せましょう…憂ならきっとやってくれますよ!」
紬「そうね…」
律「後もう少しだ! みんな頑張ろうぜ!」
澪紬梓「おーっ!」
テンッテンテン
────
唯「ん……ここは…涼しい…」
和「あ、起きた? ベッドがあってクーラーがある部屋なんてここじゃここぐらいだからね。気分はどう? 憂ちゃん」
憂「はい。ずいぶんよくなり…ってえっ!?」
和「胸の大きさでバレバレよ」
憂「あ、あの…このことは…」
和「いいわ、内緒にしといてあげる」
憂「ありがとうございますっ!」
和「でも結局二人とも受刑しなきゃならないのに…」
憂「うっ…」
和「どうしてそんなことしたのかしら…」
憂「えっと…その…」
和「まさか脱獄…なんて…そんなわけないわよね?」
憂「そ、そっ、んなことするわけないじゃないですかっ! 第一したくても出来ませんよ…こんな完璧な牢獄じゃ…」
和「それもそうね。もし出来る人がいたら…それはロジャー・バートレットぐらいかしらね」
和「熱もあまり高くないし、もう帰っていいわよ」
憂「はい、ありがとうございました」
和「あんまり無茶しちゃ駄目よ…あなたもお姉さんも」ボソッ
憂「?」
和「何でもないわ、なんでも」
────
看守「よし入れ。運が良かったみたいだな平沢」
唯「おかげさまで」ニコッ
憂「あっう…お姉ちゃん! 無事だったんだね! 良かったぁ…」
唯「いい子にしてた憂?」
憂「ぶー子供扱いしてっ」
唯「ごめんごめん」
姫子「(あれ…何か違和感が…)」
純「お姉ちゃん帰ってきて良かったね憂」
憂「うんっ! 純ちゃんも心配してくれてありがとねっ!」ニコニコッ
純「うぅ…(可愛いけど何か違う…)」
唯「(後は夜を待って脱出するだけ…ピースは全て収まった)」
テンッテンテン───
夜───
姫子「じゃあ寝よっか~…」
姫子はいつも通りといわんばかりに上のベッドによじ登る。
唯「あっ、あの…ね、姫ちゃん」
姫子「ん~なぁにかしこまっちゃって?」
唯「私上がいいなぁ~。ダメ?」
姫子「え~トランプで決めたじゃん」
唯「そ、そうだけど…上じゃないと眠れなくて…」
姫子「……じゃあ一緒に寝よっか?」
唯「えぇっ!?」
姫子「冗談よ。こんな狭いベッドで二人も入ったらキツくて寝れないわ。しょうがない、今日は特別譲ってあげる」
唯「ありがとう姫ちゃんっ!」
看守「消灯だ! 消灯!」
電気が落とされ真っ暗闇の世界と化す一般収容施設。
唯「(ようやく…来た…この時が)」
ガサゴソ…
唯「確かこの辺り…」
ガタンッ…
唯「(やった…! やっぱり改装しても直してなかったんだ…!)」
天井の一部が外側に開く。そこから顔を覗かすと屋根裏のような何もない空間に出る。
唯はそこをよじ登ると静かに蓋を閉めた。
姫子「……」
─────
憂「純ちゃんはさ。外に出たくないの?」
純「そりゃあ出たいよ。出れるんだったらさ。出て…ちゃんと学校行って…やり直したい」
憂「後悔してる? 自分のやったこと」
純「うん…二度と立ち読みなんてしないよ」
憂「なら一緒に行こう純ちゃん!」
純「行くってどこに…?」
コンコン…
憂「憂遅かったね~」
唯「うんしょっ…と…。こっちも開いてて良かった。」
純「ちょ、どこから来てるのよ! それに憂? 唯? あれ??」
唯「憂の真似は難しいね~」
憂「上手だったよお姉ちゃん♪」
唯「そうかなぁ~」エヘヘッ
純「い、入れ替わってたの!? いつの間に!?」
憂「定期検診が終わった後に看守さん用のトイレ使わせてもらっててその時に…ね」
唯「さっきはほんとにありがと憂。大丈夫だった?」
憂「うん大丈夫っ。それより早く行こうお姉ちゃん! 外でみんな待ってるよ!」
唯「そうだったそうだった! ささ、純ちゃんも早く登った登った!」
純「えっ、ちょっと待ってよ! ほんとに脱獄するつもり!? 出来ると思ってるの!?」
憂「出来るよ…必ず」
純「なんでそんなことが言えるのさっ! 憂はここの地図でも持ってるわけ!?」
憂「あるよ…地図」
純「どこに?!」
憂「私の頭の中に…ね」
テンッテンテン───
純「頭の中って…」
憂「私はここの設計図を暗記して来たの」
純「暗記ねぇ…」
憂「時間がない! お姉ちゃん、先に行って!」
唯「う、うん。純ちゃん…」
純「私は…行かないよ! 見つかってまた罪が重くなったらもうやり直せない…」
憂「純ちゃんの好きなようにして。ただ…立ち読みの罪はここで文学書5000冊読まないと出れない。純ちゃん今まで何冊読んだの?」
純「うっ………5冊」
憂「それだといつ出られるかわからないよ?」
純「ジャンプとマガジンとサンデーが入るならもう出てるのにぃ!」
憂「それに純ちゃんはもう十分反省したと思うの…」
純「憂…」
憂「じゃあ私達は行くから」
唯「ばいばい純ちゃん…」
純「う~…」
二人は屋根裏に登ると、二人揃って顔を出し。
唯&憂「じゃあね…純ちゃん」
純「ああもうわかったよ! 行けばいいんでしょ行けば!」
唯「さすが純ちゃん!」
憂「暗いから気を付けてねお姉ちゃん」
ボフッ
純「あっ、ごめん誰かのお尻に…」
唯「純ちゃんのえっち!」
純「うっすらとしか見えないんだから仕方な…」
ボフッ
憂「きゃっ」
純「なるほど、こっちが憂でさっきのが唯さんね。覚え(ry」
憂「なくていいよっ!」
純「で、脱出プランは?」ヨチヨチ
憂「このまま診察室の近くまで行ってそこから降りて診察室の窓を破って外に出るの」ヨチヨチ
純「このまま診察に行けばいいんじゃないの?」ヨチヨチ
憂「あの辺りはもう全部新しくされてるから屋根裏は繋がってないの。だから降りて行かないと」ヨチヨチ
唯「純ちゃんさっきからお尻触りすぎだよぉ…」
純「えっ、私触ってないですよ?」
唯「じゃあ誰が…」
姫子「唯のお尻ってほんと安産型よね~いいわぁ」
唯「ひ、姫ちゃん!? いつの間に!?」
姫子「置いてくなんて酷いじゃない唯」
姫子「私とあなたの仲でしょ?」
唯「えぇと…うん…」
純「っ……」
姫子「まああなたが良くても妹さんが嫌がってたのなら仕方ないわね…、ねぇ憂ちゃん。さっきはベッド譲ってあげたのに酷いじゃない」
憂「…どうしてわかったんですか?」
姫子「簡単よ。私と唯はベッドを賭けてトランプなんてしてないもの」
憂「……」
姫子「そんな怖い顔しないでよ~見えないけど♪ 」
姫子「ここまで来たらみんな運命共同体よ! 脱獄目指して頑張りましょう?」
唯「憂…姫ちゃん悪い人じゃないから…ちょっとえっちさんだけで…」
憂「(それが駄目なのっ!)」
姫子「そんなこと言って~ほんとは触って欲しい癖にっ」
唯「あっ…やめてよぉ姫ちゃ…ん…」
憂「わかりました。けど条件があります」
姫子「何々?」
憂「今後一切姉には触らないでください。それが約束出来るならいいですよ」
姫子「あれ? 嫌われちゃったかしら? 」
唯「憂…」
姫子「まあいいわ。けど唯から触って~って言った場合はノーカウントね!」
唯「言わないよぉ」
姫子「あら寂しい」
憂「」ギリッ
純「……」
四人になった脱獄犯達は診察室に向かうのだった……。
姫子「結構入り組んでるわね…道は大丈夫なの?」
憂「話しかけないでください、気が散ります」
姫子「あらあら…」
憂「もうすぐつきます…普段この辺りに看守はいませんが巡回してる場合もあります。気をつけてください」
───
憂「つきました。ここです…」
純「誰から降りる?」
憂「私から降りるね。合図したらみんなも降りてきて」
一同は暗闇の中こくりと頷くと憂は排気口を開け、ゆっくりと通路を確認し、誰も居ないことを確認してから降り立った。
この時点で見つかれば終わり…一生この檻の中で過ごす事になる
憂「…」キョロキョロ
コンコン
憂の合図を聞きみんな通路に降りる。
姫子「あれ…ここって…診察室じゃないじゃない」
憂「屋根裏ルートじゃ進めるのはここまでです。みんなついて来て、こっち」
憂が身を屈めながら進むのをみんな真似しながらついていく。
先に進んで行くと前に錠前がついた格子の扉が見えてくる。
姫子「って鍵閉まってんじゃない! しかもこんな丈夫そうなやつが!」
憂「静かにしてください。看守にバレたらどうするんですか」
純「憂…どうするの?」
憂「純ちゃん、錠前なんてね、ある道具があればお豆腐より柔らかいもなんだから♪」
唯「どういうこと~憂?」
憂「まあ見ててよお姉ちゃん♪」
憂はスプレーを取り出すとそれを逆さにし、錠前にスプレーをかけ始めた。
するとみるみる錠前が凍っていく。
憂「じゃあ純ちゃん、軽く蹴ってみてくれない?」
純「えっ…いいけど」
純「せ~の…てやっ!」
ガシャンッ
純「わ~ぉ」
唯「純ちゃん凄いね!」
姫子「殺人キックだわ…」
純「えっへん! じゃなくて! どんな魔法使ったのさ憂!?」
憂「う~ん…簡単に言うとこういうスプレーって冷たいでしょ? で、より冷たいのは下にたまってるの。だから逆さまで吹き掛けることによってすご~い冷たいのがぶしゅ~って!」
純「憂もあんまりわかんないんだね!」
憂「そうなんだぁ」テヘヘ
一同は扉を抜け、診察室の前と辿り着いた。
ガチャガチャ
姫子「閉まってるわね、鍵あるの?」
憂「なくても大丈夫です」
純「また憂のとんでもマジックショー?」
憂「これは私だけじゃない…みんなの想いが導いてくれた道…」
憂「行きます…」
最終更新:2010年08月14日 20:56