こんにちは私は中野(旧姓:平沢)憂です。

 私はこないだ梓ちゃんと結婚しました。
 でもごはんが毎日タイヤキなので家出をすることにしました。

 出て行くとき腹いせに梓ちゃんに「実家に帰らせていただきます」と叫びながら5時間じっくり煮た力作のあんこをぶっかけてきました。
 そしたら梓ちゃんは「熱ドゥフ!」とか言いながら目をビカビカさせました。
 鼻水みたいなのが耳から垂れていたように思います。

 その様子がグロくてトラウマになりそうだったのでムカついたので、

「てめータイヤキくせぇんだよ!」

 という台詞を残して家を出ました。


 さてはてしかし家出といってもうちまでは遠いのです。歩いていくなんてとんでもありません。

 それにうちに行ってもお姉ちゃんが入れてくれないかもしれないのません。
 いいえ絶対入れてくれないでしょう。
 それどころかザリガニの足を体中に刺してくるかもしれません。

 仕方ないので私は適当に北へ進むことにしました。


 しばらく森の中を歩いていると声をかけてくる人がいました。

「こんなところでどうしたの、憂タン」

 お姉ちゃんの知り合いの澪さんでした。

「澪さん! 梓ちゃんったらひどいんです……」


 私は勢いあまって澪さんにもたれかかりました。
 すると澪さんが頬をそめながら、

「いけません、奥さん……」

 とか言ったので、

「そんなつもりはないですよ」

 と返事をして十分な距離を取りました。

 澪さんが残念そうに「そうか」と呟いて物欲しそうな顔をしましたが気づかないふりをしました。


「なにがあったの? 梓との性生活のことカナ?」
「しょうがと
 ねぎって合いますよね」
「縦読み?」

 とりあえず私は事情を話してみることにしました。
 こんな人でも愚痴聞きマシーンくらいにはなるでしょう。

「実は梓ちゃんがタイヤキなんです」
「どのくらい?」
「7コーンくらい」
「うーん、そうか。タイヤキ好きなのは知っていたけど、そこまで重症なのか」


 澪さんは「ふむむ」と唸ったあとにポンと手を叩きました。
 ニヤリと笑った顔がアルマジロに似ていると思いました。

「いいことを思いついた」
「なんですか?」
「まず私が覆面をするんだ。そして憂タンはスク水に着替える。それから私が憂タンを襲うんだよ。そして梓に脅迫状を出す。梓が来たら私に襲われている憂タンを助けさせる。そうすれば二人の愛は復活するし私は憂タンを堪能できる」
「いいえ、私は愛を復活させたいんじゃなくて、梓ちゃんのタイヤキをやめさせたいんです」

 おうふくビンタしながら言うと澪さんはまた残念そうに「そうか」と呟きました。

「入信しません」
「そうか」


 私はこれ以上この人の相手をしていても仕方ないと判断してさらに北へ向かいました。

 するとまた知り合いに遭遇しました。

「こんにちは、和さん」
「こんにちは憂。どうしたの?」
「梓ちゃんタイヤキ」


 私が事情を話すと和さんは眉間に皺を寄せました。

「あの子のタイヤキは治らないわ」
「ですよね」
「ええ。それより私と踊りませんかシャル憂ダンス」
「ん?」

 和さんの差し出した手内巻きに捻ろうとしたとき私は懐かしい匂いを感じました。

「どうしたの憂」
「いいえ別に」

 私は改めて和さんの手を捻りました。

「ギャフン」
「もっと?」
「もっと!」

 それから和さんの手を5分程度捻らされました。

 しかしどうしてこうもまともな人がいないのでしょう。

「あーあ、もうなんか嫌になっちゃった。なんで梓ちゃんなんかと結婚したんだろ」


 そう呟いた瞬間さっき匂いを感じた方向にある木の陰からなにかが飛び出しました。

「憂ぃぃぃぃぅいいいうぃぃ!」

 ドパーンと現れたのはあんこまみれの梓ちゃんでした。
 和さんはびっくりして腰を抜かして「グパグパ」言っていました。

「戻って来て憂! 私に気に入らないところがあれば直すから」
「だからタイヤキだってば」

 そう言うと梓ちゃんは触覚をぷるぷる震わせました。

「ごめんね憂、私ぜんぜん気が付かなくて……。もうタイヤキばっかりはやめるから! タイヤキ作り24時間強要なんてしないから!」
「なんて言われてももう遅いよ。私の心は……」

 すると急に抱きしめられました。あんこくせぇ。


「だから、後悔してるなんて言わないで! 愛してるの! あずにゃん憂がそばにいなきゃ死んじゃうんだよー!」

 必死に叫ぶあんこまみれの梓ちゃんに胸が痛みました。
 だから私は持っていた残りのあんこを梓ちゃんに再びぶっかけました。

「あんこプレイ!」

 家出したときと違って適温だったからか梓ちゃんは今度は嬉しそうに悶えました。

「帰ろうか」
「うんっ!」

 二人ともあんこにまみれたまま手を繋いで帰りました。


 それから私たちはとっても仲良く暮らししました。
 食事もタイヤキとタコヤキを交互に食べることで決着がつきました。

 みんな幸せです。





 ただひとつ純ちゃんが密猟者に撃たれてじゅうたんにされたことを除いては。


終わり



最終更新:2010年08月15日 00:59