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 土曜日の午後。14時30分をまわったところ。


 田井中律は、自分の所属する3年2組の教室で、あるクラスメイトと向き合って座っていた。

 本来ならば、休日なので教室の鍵は閉められている。
 が、クラスメイト――真鍋和が教室でと言ったので、鍵を借りて開けた。

 大昔は土曜日は半日授業なんてものがあったんだっけ、などと思いながら、律はグラウンドを見つめる。
 風にあおられて、砂が宙を舞っている。
 さきほどまで自分はあそこで声を張り上げていた。

「ひどい風ね」

 和は、いつもの通りの落ち着いた口調で言った。少し低めの声が、彼女の冷静な性格とよく合っていた。
 律は「そうだな」とだけ言って、まだ窓の外を見る。

 どうしてだか、所在ないような気分になる。


 和は、この学校の生徒会長である。
 本人は他にいなかったから仕方なくやっているのだと言っていたが、律は、和ほどふさわしい人材はいないと思っている。

 基本的に何をやらせてもそつがなく、しかし一方で、誰にでも気安いところもある。

 自分が目立とうというよりは、人を立てる性格で、唯の世話やらなにやら他人のことに忙しく、ときどき損をしているのではと感じることもある。
 しかし、本人は楽しんでサポート役をやっているようだ。

 どちらかというとサポートされる側の律は、そんな彼女をすごいと思う。

 そんな和と、律がなぜ休日の教室に二人きりで向かい合っているかというと、数時間前。
 律がまだグラウンドにいて、自分が部長を務めるけいおん部のライブに臨んでいたときのことから始まる。

 和は、律からライブのことをきくと、一週間ほど前からクラスの生徒や他の学年の知り合いなどに呼びかけ、観客を集めてくれいていた。
 その甲斐あって、かなりの人数が集まり、今日の演奏を見てけいおん部に関心を持つ生徒も増えたようである。

 なぜそこまでしてくれるのかと理由をきけば、和は「同じクラスの子たちが頑張ってるのを応援したいだけ」と言った。
 表情にこそあまり出さないものの、和は熱いハートの持ち主なんだな、などと律は思った。
 この至って冷静な彼女が、なんだか自分に似ているとさえ感じた。

 他人にいえば、十中八九否定の声が返ってきそうだが。


 そして、そのおかげもあってか、けいおん部のライブは大成功をした。

 MCの挨拶もおわり、歓声が沸くなか、和はずんずんとグラウンドの中心に入ってきた。
 応援の礼を言おうと律が歩み寄った瞬間、腕を掴まれた。

「話があるの」

 そう言うと、そのまま律を引き摺るようにグラウンドを出て、どこかに向かう和。

 律は、そんな彼女の行動を不思議に思った。
 いつもならばこんな強引なことをする子ではない。

「どうしたんだよ、和」

 本当に、わからなかった。
 しかし和は小さくため息を吐いて言った。

「保健室って、開いてるかしら?」
「え? いや、今日は開いてないと思けど」
「じゃあ、2組の教室でいいわ。ちょっと待ってて」

 そう言うと、和は職員室から鍵を持ってきた。
 律は言われるがままに、和と共に2組へと向かった。

 歩いている間、和が少し不機嫌そうなのが気になったが、とりあえず黙って歩くことにした。




「少し痛いわよ」
「……ッ、」

 教室に連れて来られた理由は、律の怪我だった。

 ライブに熱中しすぎて、自分でも知らぬうちに肘を打っていたらしい。
 和によれば、かすり傷とちょっとした打撲とのことだった。

 夢中になりすぎて怪我なんて、なんだか気恥ずかしい。
 そう告げると、和は無表情のまま、言った。

「恥ずかしいとかそういう問題じゃないでしょ。そこまで試合に集中することはすごいと思うけど、もう少し周りを見ないと、危ないわ」
「だ、だよな~……ごめん」
「あ、いえ、出すぎたことを言ってごめんなさい。口出し過ぎよね、私」

 正直そんなことはまったく思わなかった。
 幼なじみの澪をはじめ、人から口やかましく注意されることには慣れている。
 そしてそれが律のことを想って言ってくれているのだということも知っている。

「何度も、手を振ったんだけどね。気づいてなかったわね」
「え、あれは私に!?」

 曲の間に唯が「和ちゃんが私にエールを送ってるよ!」なんて言っていたが、それがまさか自分に対するものだとは思わなかった。
 唯のためとはいえ、そんなに大げさな応援をするなんて、和らしくないなとは思ったが。


「曲の間も忙しそうだったし、誰も気がつかないから、いっそ入っていっちゃおうかなんて考えたんだけどね」
「そ、そっか、悪かったなー」
「でも、みんな一生懸命でとてもそんな雰囲気じゃなかったから」

 ガーゼで患部を押さえながら器用にテープを貼る和はとても様になっている。
 慣れた手つきで、綺麗に巻かれていく包帯を見て、思わず言葉がもれた。

「すごいな……なんか経験とかあるの?」
「包帯?」
「つーか、治療とかさ」
「あー……すごくはないけど、前にボランティアとかの講習でちょっとやってことあるの」
「へー」

 でもまだまだよ、と苦笑する和を、律は素直にすごいと思った。

「それで私の怪我にも気づいたんだな!」
「いや、それとこれとは関係ないし、見ていれば誰でも気づくと思うけど。というか、自分で気づかないのも異常よ。けっこう痛いはずなのに」
「あー、今は痛いと思うんだけどな、不思議と演奏中は気づかないものなんだな。悪いな、心配かけて」

 軽く笑うと、和はしまったという顔をした。

「ごめん、私また言い過ぎたわね……なんでだろう、いつもは唯以外にはそんなことないのに」
「別に私は全然いいぞー。怒られるのは澪で慣れてるしな!」
「そ、そう? でもちょっと言い方が横柄だったかしらと思って」
「横柄……つーより意見、いや、ありがたい忠告だよ。私にとっては」



 和が少し困ったように首を傾げる。

 和にとって、まだ律は『唯の部活仲間』以上の存在ではないのかもしれない。

 何も考えず注意できるほどの仲とは思われていない。
 そう考えると、律は、不思議なような不満なような、おかしな気持ちがした。

「このりっちゃんだって間違うことはあるさ。だから気にせず注意してくれよな!」

 自分にはもう少し気安く接してくれてもいいのだと言いたいのだが、上手く伝わるかどうかはわからない。
 別に、和の今の態度がよくないとか、そういうことはまったくない。
 むしろ、普通の友達としては、好感の持てるものだ。

 だが――自分は例外にはなれないのか?

「間違って……いるというわけじゃないわ」
「え?」
「律は、間違ってなんかいないのよ」

 真剣な瞳で言った和を、律は思わず見つめた。

 そういえば、自分は今日ここに来て、いま初めて彼女の顔を正面から見つめた、と律は気づいた。
 どうにもまっすぐ見ることが躊躇われたからである。
 理由は、わからない。


「多分、これは勝手な心配で……私の、個人的な意見で、自分が気になってしまうから」

 普段の和らしくない、歯切れの悪い言い方だ。
 だが、そんなことよりも律は「気になってしまう」の部分に引っかかった。

「でも、それはその……やっぱり私が頼りないから、なんじゃないか?」

 もしくは、違う意味で、気になってしまう、なのか。

 心の中に浮かんだふわふわした甘ったるいような考えを、律は慌ててかき消した。

 なにを考えているんだ私は。少女まんがでもあるまいに。

 だいいち、和にかぎって、そんなことはありえない。ましてや女同士だし。

「逆、よ。頼り……というか、なんだろう、なんていったらいいのかしら、これはきっとみんなが思っていることだと思うんだけど」

 和は、きゅ、と巻き終えた包帯の端を縛る。それを目立たぬように中に織り込んで、完成だ。

「律たちと会って、すごく変わったの、唯。いいえ唯だけじゃなくて、クラスも。
 けいおん部のみんながいることで、クラス、だけじゃなくて学校自体もね」
「や、いや……そんなことないってぇ」


「私にはできなかったことよ。生徒会長として頑張ってはいるつもりだけど、雰囲気を盛り上げるとかそういうことは苦手だから。
 部室の私物化とか、ちょっと困ることもあるけど、でも、あなたたちの存在がすごくありがたいのよ」
「でも、私、書類のこととかで迷惑かけたりしてるし」

 こうも真っ直ぐに褒められると、なんだか照れてしまう。
 普段なら「そうだろ、もっと言え!」なんて茶化すことができるのに、和の真剣な瞳で見つめられると何も言えない。

「唯のことだって、私にはできなかったわ。後ろからサポートはできても、一緒になにかをするって、なかなか難しい。
 たまたま軽音楽が唯に合っていたってこともあると思うけど、友達としてもっとなにかできたんじゃないか、って」

 ふう、とため息を吐く和を見て、律は、責任感の強さに感心半分、心配半分だった。
 そんなにがんばるな、と喉まで出かかったが、自分らしくないと思い、やめた。

 けれど、彼女は、話す内容とは裏腹に、暗い顔をしてはいなかった。

「だって、現に、律はできたのよね」
「!」
「それでね、ぜんぜん敵わないなあと思ったの」
「……和」

 自分のせいで、起こらなくてもいい余計な騒動が起こったこともあったかもしれない。
 他の生徒からすれば、迷惑なこともあったかもしれない。和のような立場ならなおさらだ。
 それでも、彼女は、こんなふうに言ってくれている。


「律たちと会って、唯や、学校が変わった。そうしたら、なんだか、自分の責任や、できなかったことに対しての後悔とか、全てなくなってしまったの。
 結果、こうなったのだからいいじゃないか、って。無責任極まりないんだけど、なんだか全て忘れて、あなたたちがいてくれてよかったって思うことだけで……」

 だから今更だけれど、これからもっと学校を良くしていきたい、みんなの力になりたい。

 穏やかな口調で話す和を、律はぼーっと見つめた。
 くすぐったいような、むずがゆいような、でもどこかきゅうっと痛む、この気持ち。

「だから――最初に戻るんだけど、心配になるの」
「え? あ、ああ……」

 そういえば自分が不甲斐ないせいで和にダメ出しをされているのでは、という話だったのだ、と律はいまさらだが思い出した。

「怪我は、今回は、そんなに大きくなかったけど……けっこういつも無茶するじゃない?」
「は、は、は……ごめんな」
「いえ、それは、迷惑とかじゃなくって、律は思い違いをしてるみたいだけど。
 そういうとこも含めてみんな律を慕っているんだと思うし、納得はしがたいけど、間違っているなんて思わない。でも」

 でも、の続きが出ず、和は黙ってしまった。

「べ、別にはっきり言っていいんだぞ? 失礼とかそんなこと私は思わないって」
「そ、そうじゃなくて……うーん……ああ、これって結局、私のわがままなのよ。そんなあなたが心配だって」
「……へっ?」
「思っても、それこそ、こうやって面と向かって言っても、無駄なんだってことはわかってるのに。それでも思ってしまうのよね」


 律は、自分が赤面していくのがわかった。

 その理由……理由?

 そんなこと、友達として彼女にそこまで心配されるのが嬉しいからに決まっている。
 そう、だ。友達としてだ。

「あなたになにかあったら、唯や澪やみんなが心配する、なんて思うけど、本心は違うのよね。
 これは私の個人的な気持ちで……みんなのためなんて言っても、結局は自分が嫌なだけ」

 告白、なのか。これは。

 窓の外でざわざわと木々の揺れる音。砂の舞うクラウンド。
 もう、ここへ来た目的である治療は終わっている。

「和、あの、私は……」

 言いかけた瞬間、和が口を開いた。

「ごねん、なんだかべらべらと。私、全然だめね。律といると、いつもと違うみたい。図々しくておしゃべり」
「そんなこと、」


「ふふ、これじゃ、いいわけね。でも、すっきりした。ずっと言いたくて」
「な、なにを……」

 どきりとする。

 こんなことを期待するのは間違っている。
 しかし、和の口からあの言葉が出るのを自分は待ってしまっている。

「ありがとう、って。この学校に来てくれて、唯やみんなを笑顔にしてくれて、本当にありがとう」

 思わずずっこけそうになった。

 真面目すぎる。
 いや、自分が和に対して不真面目すぎるのか。
 彼女は真剣にクラスのこと、生徒会長としての自分のこと、そして律の心配をしてくれているというのに。

 それにしても思わせぶりすぎる、と、そういうことにはてんで鈍い律でさえ思った。
 こんなにまっすぐ、友達相手とはいえ、気持ちをぶつけられる思春期の女子がいるだろうか。

 だが、今はそのまっすぐさが、気持ちいいというよりは痛い。
 律の心にぐっさりと刺さる。

「ま、まあ結局なんだその……和には心配をかけてるってことだな!?」
「だ、だからそれは私が勝手にで……今日も勝手に見てて、それだから気づいて、」
「あ……、え?」


 そういえば、和は律の怪我を「見ていれば誰でもわかる」と言った。

 けれど、他の誰が気づいただろうか。

 ライブの最中に、誰が目立つヴォーカルやギターより、後ろのほうにいる律の様子に注意を払っていたというのだろう。
 ましてや、唯の保護者的存在であるはずの和が、唯ではなく律を見ていたなんて。

「でも、律がそれでいいっていうなら、お言葉に甘えてこれからはビシバシ行こうかしら。
 みんなの律を心配して、ときには忠告するのも、生徒会長の仕事ということで」
「しご、と、か……はははは」

 悪戯っぽい笑顔は、いつもの彼女らしくはなかったけれど、とても魅力的だった。

 どうやら自分の気持ちを認めざるを得ないようだ、と律は思った。

「そうよ、仕事よ」

 笑顔。
 冷静で表情をあまり変えない和の。

 ふつふつと沸き上がる甘く暖かい心の奥のなにかがあふれ出してしまわないかと、律は胸を押さえた。

 なんだか私はだいぶ参ってしまっている。


「あ……もうこんな時間」

 教卓の真上の、教室の真ん中の時計は、16時を差していた。

 和は席を立った。けれど律は帰りたくなかった。

 二人きりの空間。ここを出ても出なくても関係は変わらないけれど。

「律?」

 顔をのぞき込まれてどきっとする。彼女はこちらの気持ちなんておかまいなしだ。

 そんなことをすると、そんなことをするとキス して しまう ぞ …

――いやいやいや、と律は思い直した。私は、少し冷静になるべきだ。

 それでも和は容赦なく顔を近づけ、果てにはくっつけた。唇ではなく額だったが。

「の……のど、か……ちょ」
「平気、みたいね。私体温低いからわかりにくいけど」
「え?」
「ぼーっとしてるから、熱でもあるのかと思って」

 だからって普通、額と額をくっつけるだろうか。

 しかしなるほど、低体温のせいか、治療しているときの和の手はひんやりしていた。
 しかしライブ後の身体にはそれが心地よかった。


 こんなの、卑怯だ。
 意識させるだけさせておいて、仕事だなんて。生徒会長だからとか、応援したいからとか、卑怯だ。

 だが、もう自覚してしまった気持ちは止まらない。

「和、あのな……」





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最終更新:2010年08月16日 23:24