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イ/===\`丶、
/: : :リ´ヽ`´/ ヽ: く
. j: : : :|ァぇ ィぇ.ト: :', と、みせかけて
<: _| : 代リ ヒリ |: :│
∠ い: :.ゞ r‐┐" 八 :| まだあるぜ!
|ハ: ト ゝノ イ/ V
/ヽ{\又「:^ヽ /
. \{:::::::: ̄ ̄\:::〉 / ムギ律!
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朝だ。
やっぱり雨は降っていた。
昨日の夜からずうっと窓の外を見張っていたけれど、ちっとも止んではくれなかった。
今日という日にこの天気。あんまりにおあつらえ向きすぎて、笑えない。
部屋のすみっこ、綺麗に折り畳まれたとっておきのワンピースを手に取る。
こんな雨じゃ、汚れてしまうかもしれない。
でも、いい。だって、今日しかないんだから。
「りっちゃん!」
待ち合わせの駅前。手を振ると、りっちゃんはびくっと肩を揺らした。
「お……よぉ、ムギ」
「早いのね」
時間ぴったり。学校ではしばしば遅刻することもあるりっちゃんが、ちゃんと間に合ってくれたことが嬉しい。
雨はいつの間にか上がっていて、バッグの中の折りたたみ傘が重い。
「なんか今日、大人っぽい」
「そ、そうか? 変かな」
二枚重ねたカットソーにインディゴブルーのスキニー。
変じゃないし、むしろ妙にちゃらちゃらしているよりセンスがいい。なにより彼女に似合っている。
りっちゃんも、私を上から下まで眺めて言った。
「なんかいつにも増してお嬢様ってかんじだな」
「それって、いい意味かしら? それとも悪い意味?」
「あっ、いや、似合ってる……と思うよ」
少し照れたふうに目を逸らすりっちゃんがかわいい。
特別な意味なんてないんだとは思うけれど、似合っていると言われたことは単純に嬉しかった。
「どこに行こっか」
「うーん、私はこのへんは全然来たことがないんだけどぉ」
「私もなの」
学校からも家からも離れた場所にしたのにはわけがある。
誰にも邪魔をされたくはないからだ。
今日くらいは誰の目も、気にしないでいたい。
同じ学校の同じ部活の同性の友達じゃなく、ただの二人でいたい。
りっちゃんは、いつでもりっちゃんだから、そんなことちっとも思ってはいないだろうけど。
「デートのときって、いつもりっちゃんはなにをするの?」
「い、いや、私はそんなのしたことないからな~……」
「そうなんだ。ほんとかしら」
「ほ、ホントだよ。残念だけど」
多分、本当なんだろう。でも、これからいくらでもそういう機会はあるだろうし、なくてもいつかは誰かと結ばれるんだ。
ああ、いけない、こんなこと最初から考えてたら。今日は楽しむんだって、決めたのに。
「じゃあ、あそこの百貨店に行ってもいいかしら。お洋服を見たいの」
「おう。じゃあ行こっか」
さりげなく、でもしっかりと、りっちゃんの手を取った。りっちゃんは一瞬目を見開いたけれど、なにも言わなかった。
それが嬉しくて、痛かった。
「これ、どうかな?」
「いいんじゃないか?」
「りっちゃん、さっきからそればっか」
「いや、ほんとにいいと思ってるんだって」
「じゃあ、これとこれだったら?」
スカートを二枚、左右に並べて訊くと、りっちゃんは少し困ったような顔をしながら、白いシフォン素材のほうを指差した。
「りっちゃん、こういうののほうが好きなんだ。意外だわ」
「いや、自分では着ないけどさー……ムギに似合うと思って。それにこっちは短すぎるんじゃないか?」
そう言ってりっちゃんが眉間に皺を寄せたタイトめのグリーンのスカートは、確かにかがんだら見えそうな丈だった。
「でも制服ってこんなくらいかもっと短いわよ」
「うーん、言われてみればそうだな。うわ、そう考えると私らって普段大胆なカッコしてる!」
「ふふ、そうね。なぜか制服だと気にならないわよね」
それでも長いほうがいい、とりっちゃんが言うので、私は白を買うことにした。
りっちゃんは、「私の意見なんかアテにしなくても」と言って慌てたけれど「私もこっちが気に入ったから」と誤魔化した。
着たところをりっちゃんが見るかわからないけれど、それでも好きなひとの好む格好をしていたいと思うのは、変なのだろうか。
「ごめんね、時間かかっちゃって。それに、なんだかりっちゃん落ちつかない感じだったし……」
「ん~ああいうところには初めて行ったからな。普段はお嬢系なんて見ないからさ」
「でもりっちゃんの服もいつもかわいいわよ」
「へへーそう? なんつって!」
私がにっこりしながら頷くと、りっちゃんは顔を赤くして「ツッコめよ!」と肩を叩いた。
「じゃあ、今度はりっちゃんの好きなところ行きましょう」
「私の? うーん……そうだなぁ」
とりあえず考えながら散策するか、と歩き回ったけれど、りっちゃんは唸ってばかりでなかなか何をするのか決められないみたいだった。
デートをしたことないというのは本当なのかもしれない。
「あ」
そう呟いてりっちゃんが足を止めたのは、楽器屋さんだった。
「お、試し演奏できるっぽい」
「まあ! それに、なかなか大きなところね」
「あ、ムギはでもいいの? こんなので」
「ぜんぜんいい!」
やっぱりいつでもけいおんのこと考えてるんだな、なんて、ちょっと悔しいけど、そんなりっちゃんが好きだ。
私はりっちゃんの手をとって、スキップしながら楽器屋さんへ入っていった。
たくさん並ぶ楽器。ギターや電子ピアノ、管楽器なんかもある。
「いろいろあるわね」
「バイオリンとかフルートとかって高いんだなー」
「ものによって色々ね。けいおんと同じで」
「あ、もしかしてムギってそういう系の楽器もできたりするのか?」
ヴァイオリンは小さい頃習っていたことがある。
試しにディスプレイされているものを手にとって弾いてみたけれど、やっぱりさすがに綺麗な音は出せなかった。
「ずっとやっていないと駄目なものね」
「でも立ち姿サマになってるぞ。ていうかなんだこれ音出ねー!」
「あ、そうじゃなくて、こう」
ぎこちない手つきでヴァイオリンを持つりっちゃんはなんだか可愛らしかった。
「おおっ、こうか?」
「そうそう!」
やっと出たギギギ、という呻き声のような音に、二人で歓喜した。
「私これ才能あるんじゃないか!? 初めてなのにすぐ音出た!」
「ええ、きっとそうよー!」
ささいなことではしゃげるのが、嬉しい。
店員さんに苦笑いされてしまったけれど。
「今度うちに来て練習する?」
「マジかよ! って、冗談だよ、才能なんかないって。あーけどドラム以外の楽器って新鮮だな」
「うん、ドラム以外のりっちゃんも素敵よ。でも、やっぱりいつものりっちゃんが一番だけど」
「そうか? ま、ドラマーといえば私、私といえばドラムさ!」
「そう。私の中で最高のドラマーはずっとりっちゃんよ。……ドラム以外、でも」
すると、笑っていたりっちゃんが少し表情を変えた。
「あ、そ、そか……?」
小さく返事したりっちゃんの表情は読めない。
なにを考えているの、困っているの、と口に出すのは簡単だけれど、今日は言わない。
今日は、楽しく過ごすんだ。
恋人として。
それからお茶をして、また散策をしていたら、公園があったので入ってみた。
そこが意外と広くて、フリーマーケットなんかやってたので、ちょっと冷やかしながらのんびり歩いた。
親子連れやカップル、小学生の集団、お年寄り、いろんな人たちがいて、その中で私たちがこうして手をつないで歩いていても、誰も気にしないし、咎めない。
なんだか不思議な気分だ。
私がどんな気持ちでいても、ここでは、今日に限っては、いいんだ。
「もうこんな時間かー」
噴水の上にある大きな時計を見たら、六時半を指していた。
「これからどうするか」
「りっちゃん、お夕飯は?」
「考えてなかったなー」
「じゃ、食べていく? 私も家の者にはデートって言ってあるから、多分食べてくると思われてるわ」
私がそう言うと、りっちゃんは複雑な顔をした。
「ムギの、おうちの人……」
「言っていないわ。言うわけ、ないわ」
相手がりっちゃんだなんて。
「だ、よな……まあ別にかまわないけどさ。冗談だと思うだろうし」
「そう、ね」
冗談。
私がりっちゃんに抱く気持ちを知られたら、咎められるかもしれない。
女の子相手に、と。
だとしても、別にりっちゃんにはやましいことなんて何もない。
今日は私が無理矢理付き合わせているんです、って、その一言で済む。
だって、りっちゃんにとって、私の気持ちは、悪い冗談のようなものだ。
「やっぱり、帰りましょうか」
楽しいんだって、私たちは今日は恋人なんだって、そう思って一日過ごそうと思ったけど、もう限界かもしれない。
りっちゃんも、頑張ってくれていたけれど。
「もう、じゅうぶんもらった、もらいすぎたみたい」
そういう約束だった。
一日でいいから、恋人になって、って。そしたらもうなにも言わないから、諦められるから。
りっちゃんは、困った顔をしながらも、承諾してくれた。それが嬉しかったけれど悲しかった。
だって、そんなに優しいのは、私がけいおん部員で、友達だからだ。
初めて気持ちを伝えたときのりっちゃんの表情は忘れられない。
蔑みでも失望でもなく、本当に困っていた。
「ムギ……」
「りっちゃんは、優しすぎるよ」
りっちゃんにとってきっと私はずっと友達で、私だけではなく友達はみんな大切で、それ以上でもそれ以下でもない。
りっちゃんにとって、とてもとても大切な存在だけれど、その気持ちは私の望むものとは違う。
「あのね、ほんとに嬉しかったの、今日」
自分で言い出したのに、なぜだろう。
諦めるどころか、もっと好きで、でも絶対叶わないってことを、もっと思い知った。
昨日よりも、ずっとずっと、痛くなっただけだ。
「ムギ、」
「名前、呼んで?」
「……紬」
「ありがとう」
少し屈む。服の裾を掴んで、りっちゃんの顔を引き寄せ、頬にキスをした。
「……っ」
「ふふ、おみやげ貰っちゃった」
今できる一番笑顔に近い表情をした。
りっちゃんは頬に手を当てて、呆けている。
きっと、私たちのことなんて誰も知らないこの場所では、ほほえましい風景。
ちょっといきすぎた友情の、かわいらしい光景。
ぽつぽつと降り出した雨に動かされるように、私とりっちゃんは駅に戻った。
別れ際の階段で、りっちゃんに言った。
「じゃあ、また明日」
「ああ、また明日な!」
にっこり笑って、手を振り合う。
この気持ちの明日は、もう、ないけれど。
また、あした。
――でも、さよなら。
人混みに消されていくりっちゃんの背中を見つめながら、小さく呟いた。
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八 | ハ x≠ 、、、、 / ,゙ .: : : ; l : |: : : : :i : : : ! そして1はしぬべきだとおもうの~
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最終更新:2010年08月16日 23:26