がらがら・・

律「おー聡、待った?」

聡「遅いし!お金ねえちゃんが持ってるから飲み物も買えなかったんだぞ!」

澪「ごめんな聡、遅くなっちゃって・・」

聡「いえ、全然待ってませんから」キリッ

律「おかしなやつだな、ほらっ聡何飲みたい?」

聡「バナナミルクで」

律「はいよ、私達はこれなっ」

澪「あ、ありがとう」

律「あ、帰りにコンビニ寄っていきたい」

澪「あんまり無駄使いしたらダメだぞ」

律「わかってるって」

聡「・・・」

律「ほら、聡帰るぞ」

澪「どうしたんだ聡?ぼーっとして・・」

聡「え?あ、うん」

律「どうせのぼせたんだろ」

聡「じー・・(ちょっと髪が濡れてる澪さん可愛すぎる・・良い匂いもするし)」

聡「(・・来て良かった・・)」ジーン


――
―――

律の部屋

律「はい、澪のアイス」

澪「ありがと」

澪「なんか今日は蒸すな・・」ペロッ

律「雨は上がったんだけどなー、やっぱり梅雨は嫌いだ!」ペロペロ

澪「どうする?時間もあるしもうひと勉強・・」

律「えー・・今日はもうやめておこうぜ?」

澪「そ、そうか・・じゃあ今日はもう寝とくか?」

律「えーまだこんな時間じゃん、寝るにはもったいないっす!」

澪「わがままなやつだな・・じゃあ何するんだ?」

律「そう言うと思ってぇ、これを用意しておきました!」ジャン

澪「・・う、こ、これは・・」

律「もの凄く怖いと評判のホラーDVD借りておきました!」キラーン

澪「わ、私はそんなもの見ないからなっ!」

律「まぁ、そんな事言うなって、一緒に見ようよ」

澪「いやだっ」

律「さっき蒸すなぁって言ってたじゃん、多分涼しくなると思うけどなー」

澪「いやだっ!」

律「心霊映像ものなんだけど、こういうのって全部作り物らしいよ、だから・・」

澪「いやだっ!!」

律「・・・わかった見るのやめるよ」

澪「やだっ!」

律「じゃあセットするね」ニヤニヤ

澪「え?いや、違くてっ!ちょっと律!」

律「大丈夫だよ澪、怖くなったら抱きついてきていいから♪」

澪「・・・えっ・・?」

律「・・・な?」

澪「・・・う、うん・・わかった・・」

律「よし、それじゃあ・・」パチッ

澪「え・・電気消すの?!」

律「こういうのは雰囲気作りが重要なんだぞ?」

澪「細かいやつ・・」

私があんなに拒絶したのはね
別に勉強がしたかった訳でもなくて、寝たかった訳でもない
私は本当に怖いものが苦手なんだ

ふと思った事がある
律は・・私の気持ちに気づいているのかな?
だ、だって・・
「抱きついても良いよ」だなんて・・
普通はそういう関係を持ってる人同士じゃないと言えない事だよね?
ずっと思ってはいけない事だって自分自身決めつけていた
律にもひょっとして・・・
私が律に抱いているような感情があったりするのかな
そんな事が頭をかすめ、私の中で何かの勢いがついた
怖いものが苦手な癖にさ
これから起こるかもしれない何かを期待して私は律の提案に乗る事にしたんだ

DVD「おわかり頂けただろうか?」

律「うわー・・なんかいるし・・澪、見た?」

澪「・・・」ガクブル

律「ははっ・・澪にはやっぱりきつかったな・・」

澪「・・・だ、大丈夫・・だ!」

律「おいおい無理するなー、目つぶってろよ」

澪「た、大したことないじゃないか・・」

律「声震えてるし・・うわっ、またきたこれ」

DVD「おわかり頂けただろうか?」

律「澪、今のはヤバ・・」

澪「・・こわい・・グスッ」ぎゅ

律「・・・」///

澪「・・・ぎゅ」

ああ・・私は何をやっているのか
この消極的な私が律の腕に抱きつくなんて積極的な事・・
思い出しただけでも恥ずかしくなる・・

別にこうなる事を最初から期待していた訳じゃない
あのDVDが本当に怖かったんだ
私が律の腕に抱きついた時
律に言われた抱きついても良いという言葉は私の頭にはなかった

DVDを見ている間、私は律の横に座って、怖くなりそうなシーンがくると
うつむいてみたり、TVを見つめる律の横顔をふと眺めてみたりしていた
律が前髪を下ろしているせいかな?
それとも私が苦手な怖いDVDを無理して見たせいかな?
なにか律の表情がいつもよりすごく頼れる存在に感じたんだ
そう感じた瞬間と、怖いシーンが流れたのはほとんど同時で
気がつくと私は律の腕に顔を埋め、少し涙を流してしまっていた
もう高校生にもなるのに・・
こんな姿、みんなには絶対に見られたくない

律「ご、ごめんなー澪、大丈夫か?」

澪「・・・大丈夫」グス

律「見るのやめる?」

澪「・・大丈夫だよ・・ほんと・・怖いけど見る」

律「無理してるだろ?」

澪「・・してないよ・・律が・・」

律「?」

澪「り、律が横にいてくれれば・・見れるから・・」///

律「な・・なーに言ってんだよ澪!ははっ」///

律の前でこんなに素直になれたのは久しぶりだ
素直に思いを伝えられた自分が不思議に思えた
でも、本当の事だった
律の腕の中は本当に安心していられた
律の温もりや、律の香りが私の恐怖を確かに和らげてくれた
怖いものは苦手だよ?
だけどそれ以上に律ともう少しこうしていたかった
DVDを見続ける事でこの幸せな時間を少しでも長く続けたかった

DVD「このビデオを視聴して良からぬ事が起こっても当方では一切責任を持ちません」

律「さ、最後に嫌な一文乗せるんだな・・後味悪・・」

澪「・・終わった?」

律「終わったな」

澪「・・そんなに怖くなかったな」

律「てゆーか見てないだろ、ほとんど」

澪「見てたぞ、指の間からちょこっと・・」

律「まぁ、澪にしてはがんばったよな・・」

澪「もう二度と見ないからな!」

律「へいへい」

本当は見たいんだよ
律と一緒に本当はまた見たいんだ
私はなんでこんなに不器用なんだろう・・

また・・

誘ってくれるよね?律

律「じゃあ、そろそろ寝ますか」

澪「そうだな」

律「澪がベッド使いなよ、私は布団敷くから」

澪「いや、でもそれは悪いし・・」

律「いいから、いいから」

澪「あ、ありがとう」


――

律「じゃ、電気消すぞー?」

澪「うん、おやすみ」

律「おやすみー」パチッ

澪「・・・」

律「・・・」

澪「・・・」

律「・・・」

律「澪・・今度さぁ、除湿機買うから買い物つきあってよ」

澪「この季節やっぱり必要だよな」

律「じめじめやだー・・」

澪「子供か・・」

律「・・・」

澪「・・・」


――

律「・・・」すーすー

澪「・・・」

律「・・・」すーすー

澪「・・・」

澪「(・・・ね、寝れない・・)」

眠りにつけない理由は分かりきっていた
私はベッドの中でひたすら後悔していた
あのDVDを見てしまった事に・・・

いい年しながら怖いものを見てしまったから眠れない
なんて情けないんだろう私は・・
まぶたを閉じてもあの時の強烈なあのシーンが目に焼き付いてしまっている
目を開けていても、それはそれで暗闇に覆われた律の部屋が怖く感じる
耳に入ってくる律の寝息だけが、私に唯一の安心感を与えていた

澪「(うう・・情けない・・)」

律「・・・」すーすー

お約束と言っていいんだろうか
こういう時に限って尿意が私に襲いかかってくる訳で・・
律にまた馬鹿にされるかもしれない
しかし、私に残されている選択肢は1つしかなかった

澪「りつ・・」

律「すーすー」

澪「りつ・・おきて・・」ゆさゆさ

律「・・ん、むにゃ・・み・・お・・どうした?」

澪「・・・」

律「?」

澪「いっしょに・・」

律「・・・いっしょに?」

澪「・・と、トイレいこ・・」

律「」


――

カチャ パタン

澪「ごめん律・・寝てるとこ起こしちゃって・・」

律「いや、別に良いんだけどさ・・」

律「・・・」

澪「・・・律?」

律「寝れないの?」

澪「えっ?あ、うん・・ひ、人のウチだとちょっと緊張するっていうか・・」

律「・・・」

澪「・・ははっ」

律「DVD・・」

澪「ドキッ」

律「・・のせいでしょ?」

澪「・・・」

澪「・・・はい・・」

律「怖くて寝れないの?」

澪「・・・うん」

律「・・・そっか」

澪「・・・」

律「・・ごめんな澪」

澪「・・いいよ」

律「なぁ・・澪」

律「・・・私の横なら眠れそう?」

澪「・・・・え?」

律「だって怖いんでしょ?」

澪「・・・うん」

律「・・・」

律「・・ほら、澪・・・おいでっ」

澪「・・・」

澪「ありがと・・律」

律「どういたしまして」

これまでの長い付き合いの中で
律と同じ布団で寝る事なんて過去にあっただろうか
あったとしても遠い昔の話になるだろう


――

律「・・・」

澪「・・・」

律「・・・」

澪「・・・」

耳に入る律の呼吸
密着する事によって伝わる律の温もり
遠い昔経験した事のある懐かしい律の香り
そして私を気遣って、自身の布団へ招き入れてくれた律の優しさ
その全てが、先ほどまで恐怖が支配していた私の心を和ませてくれるものだった

でもね・・律

澪「(・・もう寝たのかな・・)」ちら

律「・・・」すーすー

澪「・・・」

ごめんね律
せっかく律に優しくしてもらったんだけど・・
眠りにつけないのはやっぱり変わらないよ・・
当たり前だろ?

律・・
私は律の事が・・・

律「・・ん・・うぅん・・」

澪「(・・・!)」ドキドキ・・

唐突に律が私の方へ顔を傾けた
律の吐息がよりいっそう近くで感じられる
ふわっと律が使っているシャンプーの匂いが漂った
律の小さな手が私の胸の辺りに置かれる

胸を締め付けられるような感覚が私を襲った
苦しいような、切ないような・・
まるでその感覚に導かれる様だった
気がつくと私も律の方へ、顔を傾けていた

律「・・・」すーすー

澪「(・・りつ・・)」

いつも明るく活発で、いざという時にいつも頼れる・・
昔から誰にでも優しくて、困っている人を見るとほっとけないんだ
幼馴染をしている私から見て
律の良いところだけを上げればそんなところだ

私は月明かりに照らされた律の顔をじっと見つめた
しかしそこに私が昔から知っている律の姿はなかった

静かに寝息をたて、無垢な表情で私の肩に顔をうずめるこの姿は
華奢で可憐な少女を私に印象つけた
普段よりもずっと幼く、そしてか弱く感じさせた
当たり前の事だけど、
律も私達と変わらない普通の女の子なんだ
ひょっとしたら私や他の人達よりももっと・・・
律はそんな一面を持っているのかもしれない
律の寝顔を見つめる事で
律の意外な内面を垣間見た気がした

律「・・ん・・んん・・」ぎゅ

澪「(・・・?)」ドキドキ・・

うなされている?
悪い夢でも見ているのか

律「ん・・ううん・・み・・お・・」

澪「(・・今、私の名前?起きている・・?)」

律「ん・・むにゃ・・」すーすー

澪「(・・・寝てる・・よな)」

律「・・み・・お・・」

澪「?」

律「いく・・な」

澪「・・・」

澪「・・・」


3
最終更新:2010年08月17日 23:49