律が私の衣服をきゅっとにぎる
私はそれに応えようととっさに律の赤く染まった頬を手で撫でる
無意識の行動だった
心臓の鼓動が自分でも聞き取れるくらいに激しくなる
澪「(大丈夫だよ・・律・・ずっとそばにいるよ)」スス・・
律・・
律の事を思うとね・・?
胸が・・苦しくなるんだ
いつもきゅんと締め付けられる・・
息をするのも辛く感じる程に・・
今だってそうなんだ
律・・
律が今起きたらどうなってしまうんだろう?
自分の顔をこんなに律に近づけて・・
律の頬に手をあてて律の顔をじっと見つめて・・
律が今目を覚ましたら私はきっと嫌われてしまうんだろうな・・
こんな事して悪いと思ってるよ
でもね・・律
律「・・う・・んん・・」すーすー
澪「・・・」ドキドキ・・
律の顔・・
かわいい顔・・
もっと近づいていいかな?
もっと近くで律を感じていたいよ
ごめんね律
澪「・・・」スス・・
律「・・・」すーすー・・
律・・
こんなに近くまできちゃった・・
律の吐息が肌で感じられるよ
律の寝息、かわいいんだね
私達・・長い付き合いだけど、
こんな距離までお互い近づいた事って、今までにないよね
初めてのことだ
ねえ律
抱きしめても・・いいかな
澪「・・・」ぎゅ・・
律「・・ん・・」
律の甘い匂い・・
柔らかな感触・・
自分の顔が紅潮しているのが自分自身で分かる
これまでに経験した事の無い律との距離感を感じる事で
私自身いままで必死に制御していた律への思いが
一気に溢れだした
律「・・・」
澪「・・・」スー・・
律・・
起きちゃ・・ダメだよ?
律・・
ごめんね・・
私もう・・
自分の気持ち
抑えられないよ・・
律・・
澪「・・・ん・・」
律「・・・」
律と唇を重ねた
やってはいけないと自戒をこめていた事
私は今、それを破ってしまった
まっさきに感じたのは律への罪悪感だった
私は意識の無い律の無防備な唇を
一方的に奪ってしまったのだから
私はそれ以上の事は望まなかった
短い口づけを済ませた後
直ぐに私は律との距離をはかり、
当初の天井を眺める体勢に戻った
澪「・・・」ドキドキ・・
律「・・むにゃ・・」
律
ごめんね
私、いつかきっと必ず
律に思いを伝えるから
ちゃんと律が起きている時に・・
きっと凄い勇気がいるんだろうけど・・
私頑張るから・・
だから、その時まで・・
待っててくれるかな?
律・・愛してるよ
―
――
―――
唯「りっちゃん」
律「ん~?」
唯「最近元気ないよ?なにかあったの?」
律「いやーそれがこの前なんか変な夢見ちゃって・・」
梓「へー、どんな夢だったんですか?」
律「・・・それは」
律「言えないっ!」
唯「えー、気になるよぉ」
律「絶対に言えない!」
放課後のみんなでの下校時間
りっちゃんが最近元気ないのは確かなんだ
心配して聞いてみたのは良いんだけど
りっちゃんは頑ななに私達にそれを教える事を拒んだ
いったいどんな夢を見たんだろう・・?
テストで赤点とる夢かな?
唯「りっちゃんのけちんぼ」
澪「(も、もしかしてあの時の・・)」
律「まぁ、ご想像にお任せします・・ん?」
律「ムギー、どうしたんだー?」
梓「雑貨屋さんのウインドウ眺めてますね」
紬「あ、これこれ~」
唯「可愛い物でもあったの?むぎちゃん」タタッ
澪「ん?これは・・」
むぎちゃんが指をさした先には
全アルファベットが可愛く彩られている
小さなストラップが並べられていた
紬「これ、おもしろいわ~」キラキラ
唯「ホントだね~むぎちゃん、最近お店に入ったっぽいね~」キラキラ
梓「可愛いデザインですね」
律「閃いた!」
澪「?」
律「これ、みんなで買おうぜ、一人一文字ずつさっ」
律「みんなでKEIONの文字買って携帯につけようっ!」
澪「ちょうど5人だから良いかもなっ」
梓「良いですねっ、それ!」
唯「りっちゃん隊員さすがっ!」
紬「そうしましょう!」パァ
―
――
店員「ありがとうございましたー」
律「みんなーつけたか?」
梓「はい」
唯「うんっ!」
澪「ああ」
紬「・・・じー・・」にこにこ
律「むぎー、嬉しそうだなっ」
紬「え?あ、こういうの、初めてだから・・」
澪「けっこう可愛いデザインだな」
唯「むぎちゃんが見つけてくれたおかげだねっ」
澪「そうだな、ありがとう!むぎ」
梓「ありがとうございます、むぎ先輩」
紬「どういたしまして~」にこにこ
唯「あっ、りっちゃん」
律「どしたぁ?」
唯「今日・・駅前まで一緒に買い物行かない?」
律「あ、ごめん・・今日澪と一緒に除湿機買いに行く約束してるんだ」
唯「そ・・そうなんだ・・」
澪「唯も一緒に行くか?」
唯「えっ?あ、うん、私はいいよっ!憂が待ってるから」
唯「また明日ね~」たったった
律「・・・?」
澪「・・・?」
…
憂「おかえり!お姉ちゃん」
唯「うーい、ただいま・・」
憂「お姉ちゃん・・?」
唯「?」
憂「元気ないよ?・・何かあったの?」
唯「え・・そんな事ないよ・・着替えてくるね?」トボトボ・・
憂「(どうしたのかな・・お姉ちゃん・・)」
カチャ・・パタン・・
唯「・・・」
唯「・・・はぁ・・」ボフッ
ギー太をいつもの場所に置く
本当は着替えてからでないと憂に怒られるんだけど・・
私は力無くため息を発しながらうつ伏せに自分のベッドへ倒れこんだ
唯「・・・りっちゃんのばか・・」
私はベッドに向かってそう呟いた
りっちゃんが悪い訳じゃない
そんな事は分かってるんだけど・・・
楽しみにしていたんだ
この前おいしいアイス屋さんを見つけたんだ
今日りっちゃんと二人きりで行く予定だったのに・・
りっちゃんが好きそうなアイスまで調べてたんだよ?
アイスを一緒に食べて喜ぶりっちゃんの顔が見たかったのに・・
私は・・
私は・・りっちゃんの事が好きなんだ
憂「(コンコン)」
唯「・・・」
憂「お姉ちゃんっ、ごはんだよ」カチャ
唯「・・・」すー
憂「おねえちゃんっ、制服のままで寝ちゃダメじゃん!」
唯「ん・・うい・・おはよう・・」ふわぁ
憂「もう・・皺になっちゃってるよ?後でアイロンするから出しておいてね?」
唯「ごめんね・・うい・・」
憂「(やっぱり元気ないなぁ・・)」
唯「・・・」
憂「今日のごはんはからあげだよっ、早く食べよう!」
唯「・・・うん、ありがとう・・すぐにいくね」
憂「・・・う、うん(お姉ちゃん・・どうしちゃったんだろう?)」うるっ
憂「今日のからあげはどう?」
唯「うんっ、とってもおいしいっ」
憂「そ、そう・・良かった」
唯「ごちそうさま・・」
憂「えっ?!・・まだこんなに余ってるよ?」
唯「ご、ごめんね憂・・なんか食欲無くて・・」
憂「え、そうだったんだ?も、もしかしてどこか体調悪いの?」
唯「ううん、平気、今日はもうお風呂入って寝るね・・」
憂「う、うん!早く寝た方がいいよ」
唯「お風呂・・先に入っちゃうね?」
憂「うん、パジャマ用意しとくからっ」
唯「・・・ありがとう」スタスタ・・・
憂「(お姉ちゃん・・)」
ブーブー・・
憂「あ、おねえちゃんっ、携帯鳴ってるよ!」
唯「えっ」タタッ
パチッ
Title 今日はごめんなー
From ☆りっちゃん☆
本文
澪の方が先に約束してたからさっ!
明日唯の買い物付き合うよ
私にあまりお金使わせるんじゃないぞ~~
除湿機買って部屋が快適になったぞ!
唯も今度ウチ来いよなっ
唯「・・・」
唯「あははっ」
憂「?」
憂「どうしたの?お姉ちゃん」
唯「ううんっ、何でもない!」
憂「そ、そう・・(お姉ちゃんが笑った)」
唯「う~い、私やっぱり食欲出てきたみたい!」
唯「おかわり欲しいなぁ~~♪」
憂「う、うん!一杯食べてね(お姉ちゃん・・良かった・・)」
唯「アイスも食べたい~」
憂「もう、お風呂から上がってからね?」
りっちゃんからのメールでこんなにも幸せになれる
明日一緒にお買いものに付き合ってくれるって
りっちゃんの部屋に今度行ってもいいって
りっちゃん
きっとその時りっちゃんの笑顔いっぱい見れるね
私は・・
私はそれだけで・・
唯「~♪」
お風呂から上がって
布団に横になりながら、りっちゃんとのメールを楽しんだ
返信メールが届くまでの時間がすごく長く感じる
もどかしいな
りっちゃんと話したい事いっぱいあるんだよ?
電話しちゃおっかなぁ?
そんな事を考えている私に、ひとつのメールが届いた
Title さっきはごめん
From ☆澪ちゃん☆
本文
今日は買い物に付き合えなくてごめん
律から聞いたんだけど、明日放課後行くんだって?
律が私も一緒に行こうって・・
一緒に行ってもいいかな?
唯「・・・」
りっちゃん・・
なんで・・?
私が勝手に思ってるだけなんだよね・・
りっちゃんも、澪ちゃんも悪くないんだ
だけど・・
私はこの瞬間、りっちゃんに裏切られた気がした
私は・・私はりっちゃんと二人きりで・・
切なかった・・
涙が頬をつたう程に・・
Title もちろん!
To ☆澪ちゃん☆
澪ちゃんも一緒に行こうよ!
おいしいアイス屋さん見つけたんだ☆
みんなでいけばもっと楽しいよっ♪
パチッ
唯「・・・」
唯「・・・」ぼふっ
部屋の電気を消しまたベッドにうつ伏せになった
もう今日は寝てしまおう
寝て全部忘れてしまおう
嫌な事は、時間が経てば薄れていくから・・
でもりっちゃんへの気持ちは
りっちゃんと顔を合わせる度に強くなっていくんだ
不思議だね、りっちゃん
りっちゃん、おやすみ
最終更新:2010年08月17日 23:51