私のわがままにつきあってくれて
私の事をかわいいって言ってくれて
私にいっぱい笑顔をみせてくれて
私を・・
私を心の底から幸せにしてくれて

私はりっちゃんの小さな手をとり、
指と指を絡ませて、手をつないだ

りっちゃんの手・・あったかいね
とっても優しいあたたかさだね

唯「・・・」スッ

律「・・・」

肩に預けられたりっちゃんの顔に自分の顔を近づける
りっちゃんの髪と私の髪が密着する
こうやって近くでりっちゃんを感じていると・・

すごく気持ちいいんだ
なんでだろ・・?
なんだか、落ち着けるっていうのかな?
ううん、ちょっと違う・・かな?

なんていうか・・
りっちゃんに全てを包みこまれたいっていうか・・
私とりっちゃんが・・このまま一つになれたらって
そんなのが一番近い感じがする

りっちゃんが・・恋しいよ・・

唯「・・・」ぎゅ

律「・・・ん・・」

唯「・・!」

律「・・・あっ・・ごめん唯・・寄りかかっちゃって・・」スクッ

唯「・・・」ぐい

律「わっ・・唯・・?」

唯「いいよ・・りっちゃん・・私の肩まくらにしても」

律「い、いやっ・・でも・・」

唯「大丈夫だよ・・りっちゃん・・」

律「ゆ・・い・・?(え、てか、手・・繋いでるし・・)」///

唯「・・・」ぎゅ・・

律「あ、ありがと・・な・・」///

りっちゃん、私ね
りっちゃんとずっと・・
一緒にいたいんだ

高校を卒業しても・・
ずっと・・りっちゃんと一緒にいたい
離れたくなんかないよ・・
ずっと・・
ずっと私の傍にいて?
私もずっとりっちゃんの傍にいるから・・

りっちゃん

大好きだよ


――
―――

梓「唯先輩、すごく変わりましたね」

唯「そ、そうかな?」

梓「すごく似合ってますよ!」

唯「ありがと~あずにゃん」

紬「なんだか、大人っぽい感じ♪」

唯「そ、そうかな~」

律「だよな~、クラスのみんな驚いてたもんなぁ」

いつも通りの放課後のティータイム
この日の話題は唯が可愛く変身した事についてだ
ホントに唯は可愛くなった
遊園地に行ったあの日の朝、
声をかけられた唯に、ドキッとさせられた
なんだか可愛いから美人へって感じの変貌だ
くそー・・
なんか女として唯に先を越された感じだ・・

澪「でもさ、唯、なんでいきなりイメチェンする気になったんだ?」

唯「そ、それは・・」

律「(あれ・・なんだろう・・?)」

唯の目線が澪の顔から外される
何か不吉な予感がしたのはこの瞬間からだった

律「(この・・光景・・前にも見た事があるような・・)」

梓「確かに気になりますね・・唯先輩の性格からしてちょっと意外な気が・・」

律「べ、別に似合ってるからいいんじゃないかぁ?ははっ」

律「そ、それよりもさっ」

全てを思い出した
この光景を私は前に一度経験した事がある

嫌な夢だった
二度と見たくない夢だ
もちろん予知夢なんてものは信じてはいなかった

しかし、嫌な予感を感じ話題を逸らそうと発した私の言葉は
その嫌な夢の中で私が発した言葉とまったく同じものだった
もちろん澪が唯に問いかけた言葉も
梓が口にした疑問の言葉も同様だった

その瞬間私は確信したんだ
このままじゃ・・
あの嫌な夢は正夢になってしまうって
このままじゃ・・いけないって・・
なんとかしないとって・・

律「今日はもう練習始めないか?学際も近い事だし!」

澪「珍しいなっ、律がやる気だ」

梓「そうですね、練習しましょう、練習!」キラキラ

唯「・・・」

律「・・・唯?」

澪「・・・」

澪「理由なんて、関係ないか・・」

澪「私達もそういう年頃だし何も不思議じゃ・・」

唯「澪ちゃんにはきっとわからないよ・・」

澪「・・えっ?」

律「・・・」

唯、やめてくれ
それ以上喋らないでくれ
頼むから・・

唯「きっと・・澪ちゃんには分からない事だよ」

澪「ど、どうしたんだよ唯、私何か変な事言ったか?」

ピリっとした空気が辺りに流れた
おそらく部室にいる全員がそれを肌で感じ取ったと思う
私はこれ以降、言葉を発する事ができなかった
その場に俯いたまま、床を見つめる事しか私にはできなかった
これがまた夢である事を、胸の中でひたすら願うだけだった

紬「ちょ、ちょっと・・二人とも・・」

梓「えっ・・唯先輩・・?」

唯「・・・」

澪「・・・」

沈黙が包む
澪はどうしたらいいのか分からないんだろう
唯は必死に自分の感情を抑えているんだろう
そんな場面に陥っても私はみんなと同じく沈黙を続けていた
私はなぜ・・

なぜ澪を
なぜ唯を

助けてやれなかった?

唯「澪ちゃんは・・いいよね・・美人さんで・・かっこよくて」

澪「・・・私の事は・・今は関係無いだろ?」

唯「それに・・いつも・・」

澪「・・・?」

唯「(いつもりっちゃんと一緒にいられて・・)」

唯「いつも・・そうなんだ・・」

澪「唯・・どういう事だ?・・勘にさわる様な事言ったのなら謝るよ・・」

唯「だから・・」

澪「・・・?」

唯「澪ちゃんには・・絶対わからないよ・・」

澪「・・・」カチン

澪「ちゃんと言ってもらわないと分からないよっ!」ぽろっ

唯「!」

紬「ちょ、ちょっと澪ちゃん・・」

梓「もう、やめてください・・」オドオド・・

律「・・・」

唯「・・ぐすっ・・澪ちゃんのばか・・」たたっ

よせ・・
行くな・・唯・・

行くな・・

ガチャ・・パタン・・

澪「・・・グスッ」

律「・・・」

紬「・・・澪ちゃん・・」

梓「・・・」

澪「・・・ごめんみんな・・ちょっと今日は・・帰らせてもらうね・・」

行くな澪・・
行かないでくれ・・
戻ってきてくれ・・

澪「・・・」カチャ・・パタン・・

私は俯いたままスカートをぎゅっと握りしめた
私は確かに感じていた
澪と唯の今のやりとりは・・
透きとおった一点の曇りもない綺麗なガラス玉に
ピシッっと亀裂が入ったような・・
そんなイメージを私の頭の中に植え付けさせる

これを放っておくと・・きっとその綺麗なガラス玉はバラバラになって
跡かたも無くなってしまうんじゃないかって・・
この時の私の胸中はそんな感じだった

紬「・・・」

梓「・・・」

律「・・・」


静寂があたりを包んだ
残された3人はしばらく言葉を発するのを忘れてしまった様に黙りこくった
お互い目を合わせる事もしない、みんな机の一点を見つめていた。
3人とも今の状況を受け入れたくない気持ちは同じだと思う
でもこれは・・
現実なんだ・・

残酷で受け入れがたい・・
現実なんだ

梓「先輩達・・どうしてあんな事を・・」

長い沈黙を破り、最初に言葉を発したのは梓だった
まるで自分の身に起こった事の様に梓の顔つきは沈んでいた
軽く俯いたその瞳は、私が今までに見た事がないくらいに
哀しい目をしていた

律「・・・」

紬「・・・」

律「ま、まぁ澪も唯も一晩経てば気持ちも収まるだろっ」

梓「・・・そうでしょうか・・」

紬「・・だと・・良いけど・・」

律「・・ははっ」

本当にそうだろうか?
沈んだ二人を励まそうと嘘をついた自分が滑稽に思えた
本当の私は、このままだと取り返しのつかない事態に陥る気がしてならなかった
それを残された二人も十分に感じていたんだろう
2人の沈まりかえっている表情を眺めると心が痛む
この嫌な空間をどうしたらいいのだろう

律「・・・」

律「・・二人とも・・今日は私達も帰ろうぜ」

紬「・・・」

梓「・・・」

律「・・やっぱり・・5人揃って練習したいだろ?」

紬「・・りっちゃん・・」

梓「・・ですね」

心からの本音だった
別に部長の貫録だとか責任を果たしたかった訳じゃない
本当に思った事を2人に伝えただけだった

だってさ

私が作った軽音部なんだよ
私が澪を誘って、ムギを誘って・・
少ししたら唯が入って来てくれて
4人でいっぱい・・じゃないかもだけど必死に練習して
私達の全てがこもった演奏を聴いて梓が入ってきてくれて・・

ここが・・
ここが私の居場所なんだ
軽音部が私の居場所なんだ

私達は誰ひとり欠けても、いけないんだ

梓「・・お疲れ様でした・・」ぺこり

律「お疲れ様」

紬「また明日ね」

重い足取りで梓が音楽室の扉へ歩みを進める

梓「・・・律先輩、ムギ先輩!」

梓が歩みを止めこちらを振り返る

律「・・・?」

紬「・・・どうしたの?梓ちゃん」

梓「・・・」

梓「・・・」ぽろっ

梓「き、きっと・・また前みたいに・・みなさんと一緒に演奏できますよね?・・グスッ」

紬「梓ちゃん・・」

律「・・・」

律「・・・ああ」

律「心配するな・・梓、必ず元通りになる」

梓「・・グスッ・・」

梓「・・ひっく・・そう・・ですよねっ」

まるで自分に言い聞かせる様だった
涙で顔を歪めた梓が必死につくった笑顔を見ると、
私はそう答える事しかできなかった

梓「失礼します・・」

ガチャ・・パタン・・

紬「りっちゃん・・」

律「ん?」

紬「りっちゃんは・・」

紬「気づいているの?」

律「・・えっ?」

ドキッっとした
なぜだろうか?
いやわかっている

気付かないフリを続けていた
私は必死にそれから逃げようとしていた

律「気づいているって?」

紬「・・・本当にわかっていないの?」

もう逃げられない
これからはその逃げていたものと
面と向きあっていかなくてはいけない
ムギの一言で私はそれを自覚する事ができた

紬「唯ちゃんと澪ちゃんの気持ち・・」

律「・・わかってた」

紬「・・だよね」

律「・・・」

わかってた
わかってたけど・・
私はそれを信じたくはなかった
受け入れたくなかった
二人との関係は当初に比べると確かに変化していた
その変化は私に違和感を感じさせ、
次第に私の中で一つの確信に変わっていった

澪も唯も私に恋愛感情を抱いている

だけど・・
どうすればいいのか分からなかった
分からなかったから今日まで必死に逃げてきた

律「・・ははっ」

紬「・・?」

律「私ってば・・モテモテだなっ・・」

紬「りっちゃん・・」

律「・・・」

紬「悩んでるの?」

律「・・・」

律「・・・うん」

律「・・どうすればいいのか・・わからない・・」

私は女だ
澪も女だ
唯も女だ
それで・・

それが・・全てじゃないか・・
女性同士で恋愛・・・?

澪も唯も、本気でそう思ってるのか?
本気で私と恋愛しようって・・

私は・・
私はどうすればいい・・?


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最終更新:2010年08月17日 23:53