紬「・・りっちゃん」

律「・・?」

紬「一番大切なのは・・りっちゃんの気持ちじゃない?」

律「私の・・気持ち・・」

紬「そう、りっちゃんの気持ち・・」

気持ちの整理がつかないまま私は自分の家へ歩みを進める
一番大切なのは私の気持ち
それを聞いた瞬間、ムギのその言葉は私自身簡単そうに思えた
でも考えれば考える程に、その答えは遠ざかっていくんだ

律「・・・」

私が男だったら・・
きっと有頂天になっているんだろうな

澪と唯
両方可愛くて女性の私から見ても魅力的で・・
男の人から見たら誰もが恋愛するに申し分ないと思うだろう
男の人だったらね・・・

でも私は女だ
女性同士でそんな関係になるなんて
普通じゃない
抵抗感を感じるのが普通だ
私も当然その「普通」の人であって
同性愛なんてものは、一生関わる事の無いものだと決めつけていた

にも関わらずさらに澪か唯かを選択しろって?

律「ははっ・・」

自分の立たされた境遇の重さ、辛さを実感し
思わず笑みがこぼれた

律「・・・いきますかっ」

自分の家へ歩みを進めていた筈だった
なにも今日じゃなくても良いのかもしれない
緊張するのが当然の場面で
私は臆する事なく呼び鈴のボタンを押す
やけになったわけじゃない
ムギに言われたあの言葉・・
私が選んだ答えは正解ではないだろう
でもね・・例えそうであっても

私に残された選択肢はこれしかなかったんだ

澪「・・律・・」

律「話があるんだ、入るぞ」

澪の顔は浮かない
それもそうか
唯と初めて喧嘩したんだ
それでも澪は何事も無かったようにできるだけ平静を装っていた
澪のその表情を痛々しく感じながらも、
私は澪の部屋へ招き入れられる

澪「話って・・?」

律「・・・澪、正直に答えてくれ」

澪「・・・」

律「・・・」

澪「・・ああ」

律「・・・」

律「・・・私の事・・好きなのか?」

澪「・・なっ・・!」

律「・・・」

澪「なっ・・なっ・・何を・・!」

律「いや・・その・・友達としてとかじゃなくてさ・・」

澪「・・・」

律「・・・」

律「・・ど・・どうなんだよっ、澪!」

澪「・・・」

澪「・・・」

澪「・・・」

澪「・・・うん」

律「・・・」

澪「・・好き・・だ・・」

律「・・・」

澪「・・・律の事・・ずっと好きだった・・」

律「・・・そっか・・」

澪「・・・」

律「私もさっ」

澪「・・・え」

律「澪の事好きだったんだ」

澪「・・・」

澪「・・・嘘付き」

律「う、嘘じゃね~・・」

澪「分かるよ・・律の嘘くらい見破れる」

律「・・・」

澪「ずっと一緒にいるんだぞ?それくらい」

律「・・・澪」グイッ

澪「ちょ・・ちょっと律!」

律「・・・ん」チュッ・・

澪「・・あ・・」

律「・・」プイッ

澪「・・・」かぁぁ

律「・・・これで・・信じてくれるか?」

澪「・・・」

律「澪・・・私とつきあおう」

澪「・・・うん」

澪「・・・わかっ・・た」

澪「・・でもさ・・律・・」

律「・・・?」

澪「唯の事・・律も分かってるんだろっ?」

律「・・・あぁ・・分かってる」

律「唯には・・ちゃんと話するから・・だから・・」

律「唯と仲直り・・してくれないか?」

澪「・・・うん、そのつもり」

澪「ちゃ・・ちゃんと仲直りできるかな・・?」

律「大丈夫、私がついてるから」

澪「・・・ありがと」

律「・・・」

澪「ね、ねぇ律・・」

律「なに?」

澪「もっと・・しようよ・・」

律「・・・」

澪「・・・やだ?」

律「・・いいよ」

澪「律・・」

律「どうした?」

澪「・・なんか私・・夢みたいだ・・ありがとう・・」

律「・・・」

澪と付き合うという事を口に出せば
澪と私の関係は崩れる事はないだろうと
そう思った

唇を重ねるという事はこんなにも不快な事なのだろうか
そんな筈はない
女性同士でこんな事してるんだ
きっとそれは当たり前の感情なんだ

浅はかだった
澪と唇を重ねた時、そう思った
私は自分で自分を追い詰めているんだ
自分に必死に嘘をついてさ
澪の気持ちは私には到底理解できないものだけど
必死に応えようとした
辛かった

でもね・・・
後悔なんかしないよ
これで・・いいんだ

私が選択した事
それはね・・・

憂「律さん?」

律「こんばんはっ憂ちゃん・・唯いるかな?」

憂「お姉ちゃん・・学校から帰ってきて、部屋にこもりっきりで・・」

律「そっか・・部屋、上がっても平気かな?」

憂「お姉ちゃんに・・何かあったんですか?」

律「・・うん、ちょっとね」

憂「・・お姉ちゃん」ウルッ

律「いやっ!でも大丈夫だから!心配しないでっ」

憂「・・ホントですか・・?」

律「ホントだよ、ちょっとおじゃまするね?」

コンコン・・

ガチャ・・

律「ゆーい」

唯「・・・」

唯は机に顔を隠す様に腰かけていた
私が呼びかけても返事の言葉はない
澪よりも唯の方が落ち込んでいるようだ
その姿を見ると、なんだか私まで気分が沈んでしまう

・・・いや、まてまて

律「ゆいー?」

唯「・・・」ふすー

律「(寝てるだけじゃん・・・)」

律「唯」ゆさゆさ

唯「ん・・ふにゃ・・えっ、りっちゃん?」

律「ごめんな、起こしちゃって」

唯「なんでここに・・?」

律「いや、ちょっと唯に話があってさ・・唯の事も心配だったし」

唯「ありがと・・りっちゃん」

律「いーえ」

唯「でもね、私の事なら平気だよっ」

律「ホントか?・・でもなんかホントに大丈夫そうだな」

唯「そうですともっ、元気いっぱいですから!」

律「ははっ、立ち直り早いんだな」

唯「えへへ・・で、りっちゃん話ってなに?」

律「あ~・・それなんだけど・・」

律「・・・」

唯「・・・」

律「唯はさぁ・・私の事」

唯「・・好きだよ」

律「・・え?」

唯「私、りっちゃんの事が好き」

律「・・・」

唯「・・・」

律「まじで・・?」

唯「まじだよっ」

律「・・・実は」

律「私も唯の事好きなんだ」

唯「・・・りっちゃん」

律「・・あれっ?唯」

唯「ほんとなの・・?」

律「冗談で言えるわけ・・ないだろ」

唯「・・・」きゅ・・

唯「夢じゃない・・」

律「現実だぞ?・・・恋人に・・」

律「なってくれるか?」

唯「う、うんっ!勿論だよっ!」

これが私の選んだ事
私には澪と唯、どちらかを選択するなんて事はできなかった
どちらかを選べばどちらかの存在が私の中で消えてしまう
そうなれば軽音部も、もう元には戻れなくなってしまう
それは私の居場所が無くなる事を意味していた

最低の事をしている
そんな事は分かってるんだ
ただね

私には
澪と唯の気持ちを突き放す、度胸や非情さなんてものは備わってなかったんだ

梓やムギと約束したんだ
元の軽音部にきっと戻るって

私が我慢すればみんな幸せになるじゃないか
みんな元通りだ
みんなの幸せを願う事が悪い事なのか?
そんな筈ない


ただ、このまま変わる事無く
みんなの笑顔が見られればそれで良かった

唯「りっちゃん・・!」どさっ

律「えっ・・唯、どうした・・?」

唯「こ、恋人同士ってさ・・こういう事するんでしょ・・?」

律「え・・唯・・」

唯「しても・・いいかな・・?」

唯が私に覆いかぶさってくる
やっぱり、本気なんだ・・
自分から告白しておきながら
いまさらそんな事を考えた

拒絶したい気持ちは当然あった
だけど、そんな事は許されない事は私が一番分かっていた
澪の気持ちも唯の気持ちも、
私は全てを受け入れなくてはいけない義務があるのだから

律「いいよ・・しよっ」

唯「りっちゃん・・・」スッ

律「・・・」

唯「・・・ん・・」ちゅ

律「・・ん・・あ・・」

唯「・・・ん・・はぁ・・はぁ・・ちゅる・・」

律「・・・・」

・・・やっぱり不快だ
力いっぱい唯の体を押し上げたい衝動にかられる
しかしそんな事、考えても仕方のない事だった
唯の舌が私の口内に強引に入ってきた時
私は考えるのをやめた
全てを唯に委ねようって
そう思った

唯「・・ぷはっ・・はぁはぁ・・」

律「・・はぁ・・はぁ・・」

唯「・・えへへ・・りっちゃん」

律「・・・?」

唯「りっちゃんの・・ファーストキス・・奪っちゃったっ」

なぁ・・唯
私は・・
私はね

唯だけのものじゃないんだ
澪だってそうだ
ごめんね・・

二人がどんなに私に思いをぶつけてきてもさ
それに応える事はできるよ?
応える事はできるんだけど
私は二人と違って真剣になれないよ・・
適当に受け流す事しか・・私にはできない
正直に言わせてもらえれば・・
澪も唯も私には分からない
どうしてそんな感情を同姓に対して抱けるのかが分からない

律「じゃあな、唯」

唯「うんっ、また明日ね」

律「・・・」スッ・・

無意識のうちの行動だった
自分の唇を制服の袖で拭った
自身の唇についた唯の唾液が不快に思ったせいだろう
同様の行為を先ほど澪の家を出た時にも行っていた
それを思い出し、私は強く自己嫌悪する

律「(嫌な女・・)」


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最終更新:2010年08月17日 23:54