梓「はぁ…はぁ…」
すぐに家へ戻り、自分の部屋に入った。
そしてベッドの中にもぐりこむ。
梓「うっ…うぅ…」
梓「ふうぅっ…グズッ…」
なんとか泣くのを堪えようとする。
けど、無理だった。
梓「うっ…うああぁぁぁぁああん!!」
恐ろしいほどの後悔の念が、私を襲う。
なんであんな事を言ってしまったのだろう。
あの時、自分の気持ちに素直になっていたら…
しかし、もうどうしようもない。
梓「うあああぁぁぁぁぁぁあああん!!」
嫌われた。
これで私は律先輩に完全に嫌われた。
……
澪「……」
律「……」
澪「な、なぁ律…」
律「あっ、もうここでお別れだな」
澪「……」
律「じゃあな、澪。また明日学校で」
澪「あ、あぁ…バイバイ」
律「……」
澪「……」
律「ただいまー」
聡「あっ、姉ちゃんお帰りー」
律「聡、今日夕飯いらないって言っておいて」
聡「なんで?ダイエット?」
律「馬鹿もん!こんな素晴らしいプロポーションを持っているのにダイエットなんてする必要あるか!」
聡「はいはい」
律「…さっき食べてきちゃったからさ、もうお腹いっぱいなんだよ」
聡「ふーん」
律「じゃ、ちゃんと伝えておいてくれよ」
聡「はいよー」
律「はぁ……」
律「……」
自分の部屋に入り、ベッドの上に横たわる。
チクタクと時計の針が進む音が聞こえる。
一人でいると静かなものだ。
律「……」
携帯を見た。
澪からメールが来ている。
律「……」
なんとなく、開ける気が起きなかった。
律「……」
静かな空間。
嫌でも自分と向き合わなければいけない。
律「……」
思い出したくない。
忘れ去りたい出来事。
それでも、どうしても頭から離すことはできなかった。
梓《私は…律先輩のことなんて大嫌いなんだから!!》
律(大嫌い、か……)
律(まぁ…最初から好かれてるとは思ってなかったからいいけどさ)
律「……」
律(逆に清々しいな、あそこまでハッキリと言われると…)
律「…ははっ、マジうける……」
律「ろくな先輩じゃないな、私は…」
律「梓の気持ちも知らないで仲良くなりたいだなんて…」
律「今日も私と絡んでて、イヤだったんだろうな~……」
律「……」
律「寝よう…」
寝て全部忘れられたら、いいな…
……
梓「……」
あれからどれ程経ったのだろうか。
私は泣きつかれてベッドの上でぐったりとしている。
梓「……」
喉が痛い。
鼻はまだ詰まっている。
頭はボーっとしている。
梓「……」
涙はとっくに枯れ果てた。
もう泣く気にもなれない。
何も考えることができない。
梓「……」
律先輩のこと想うとチクチクする。
イライラする。
ムカムカする。
ザワザワする。
ズキズキする。
息苦しい。
梓「……」
こんなに辛い思いになるのも全て律先輩のせいだ。
だから私は律先輩を嫌いになった。
こうすれば少しでも気が楽になると無意識に思って。
自分自身を騙していた。
自分が傷つきたくないから、彼女を避け。
心の中で馬鹿にし、見下すことで彼女を遠ざけようとしていた。
頭で思っていなくても、心がそうした。
梓「……」
けど純に言われて気づいた。
自分の気持ち。
頭で理解することができた。
単刀直入に言えば私は律先輩のことが……好きだ。
なんで好きになってしまったのかは分からない。
けど好きだという事実は認めるしかない。
その上で、自分がどれほど大変なことをしたか改めて思い知らされる。
大好きな人を傷つけてしまったのだ。
自分はなんて馬鹿なんだ。
なんて愚かなんだ。
なんて浅はかなんだ。
梓「……」
最低だ。
最低な人間だ。
自己嫌悪が膨れ上がりどうにかなってしまいそうだ。
梓「……!」
耳をすますと足音がした。
誰かが私の部屋に近づいてくる。
誰?
お母さん?
それともまさか…
コンコンとノックの音がする。
純「梓?いるー?」
梓「純…?」
予想外の人物だった。
どうして純が?
純「入ってもいい?」
梓「あっ…うん」
純「おじゃましまーす」
部屋の扉が開くと純が現れた。
純「おー、ここが梓の部屋かー」
梓「純…どうして…」
純「これ、梓のバッグ。さっき置き忘れてたよ」
梓「……ありがとう」
純「どういたしまして」
突然のことで中に入れてしまったが、今は人と話せる状態ではない。
せっかく来てもらった純には悪いが、早く一人にしてほしかった。
梓「あの…純……」
純「分かってる、用事はこれだけだからもう帰るよ」
梓「……ごめん」
純「いいっていいって」
梓「……」
純「…明日学校来れる?」
梓「……分からない」
純「そっか、了解」
梓「……」
純「…じゃあね」
梓「うん…」
純は部屋から出て行った。
また一人。
嫌悪感と向き合う。
梓「……」
その日は一日眠れなかった。
……
唯「おはよー、澪ちゃん!」
澪「あぁ、おはよう唯」
唯「今日もあっついね~」
澪「ほんとだな…」
唯「あれ?りっちゃんは?」
澪「え?」
唯「いつも一緒に学校に来てるのに、今日は違うの?」
澪「律は……たぶん休みだ」
唯「え…風邪?」
澪「……」
唯「?」
…
純「……」
憂「おはよう、純ちゃん」
純「あっ…おはよう憂」
憂「今日も暑いねー」
純「うん…」
憂「…純ちゃん?」
純「…せっかく夏も終わったのに、イヤだよね。早く涼しくなって欲しいよ」
憂「そうだねぇ…梓ちゃんはまだ来てないんだ」
純「あははっ、暑さでダウンしちゃったんじゃない?」
朝。
窓から太陽の日差しが差し込んでいる。
梓「……」
梓母「じゃあ学校には連絡入れておくから、何かあったら呼んでね?」
梓「うん…」
母親に体調不良と言っておいて、学校を休むことにした。
行ったって居場所はない。
純や澪先輩にまであんな酷い醜態を晒してしまったのだ。
会わせる顔がない。
梓「……」
人生で初めて死にたいと思った。
……
唯「部活だよー!」
シーン…
澪「…あ、あぁそうだな」
唯「もう澪ちゃん!そこは『全員集合ー!』って言って欲しかったのに!」
澪「ドリフか…」
唯「澪ちゃんのいけずぅ」
澪「はいはい、ごめんな」
紬「お茶とお菓子持ってきたわよ~」
澪「ありがとう、ムギ。……ん?」
紬「どうしたの?」
澪「…律の分はいらないんじゃ」
紬「あっ、ごめんなさい。ついうっかり…」
唯「あずにゃんも休みなんだって。憂から聞いた」
紬「梓ちゃんまで?二人とも大丈夫かしら…」
澪「……ケーキ、帰りに律の家に届けてくるよ」
紬「そうね…お願い澪ちゃん」
唯「二人がいないとなんか寂しいな~…」
……
律「はーっ……」
一日中ベッドの上で寝転がっている。
昨日寝ようよしたが結局眠れなかった。
ご飯も食べていない。
ただひたすらボーっとしているだけ。
律「……」
律(失恋ってこんな感じなのかな)
律「……」
律(いや、恋じゃないか…恋じゃないよな)
コンコン、と扉がノックされる音がした。
澪「律、いるか?」
律「あ…澪?」
澪「入るぞ」
澪が部屋に入ってきた。
手には何か持っている。
澪「体調はどうだ?」
律「…普通」
澪「なんだそれ…。これ、ムギから」
律「え?」
澪「ケーキだよ、しかも律の好きなやつだぞ」
律「ありがと…」
ケーキがテーブルの上に置かれる。
確かに私の好きなやつだ。
ただ今は、そのケーキにあまり魅力を感じない。
律「……」
澪「食べないのか?」
律「…なんか、食欲がない」
澪「…律なのに?」
律「どういう意味だ」
澪「せっかく持ってきたんだから食べろよ」
律「いらないって」
澪「なんだよ…じゃあ私が食べちゃうぞ?」
律「別にいいけど」
澪「…お前、今日ご飯食べたのか?」
律「食べてない…」
澪「食べないとダメだろ!何考えてんだ!?」
律「うっせえな!お前は私のお母さんか!!」
澪「お前のママじゃないけど、心配なんだよ!!」
律「…っ」
澪「律…私だけじゃない、みんな心配してるんだ」
律「……」
澪「ちゃんと自分の体を大切にしてくれよ」
律「…ごめん」
澪「分かればいいけど」
律「……ママって言ってたな」
澪「…ついうっかり」
律「……」
澪「梓のこと、まだ気にしてるのか?」
律「うん…」
澪「だよな…」
律「……」
澪「じゅ、純から聞いたんだけどさ…あれはただ場のノリで言っただけって」
律「そっか…」
澪「だから深い意味はないってさ、気にするなよ!」
律「うん…」
澪「……」
律「……」
澪「ケーキ食べろよ、何かお腹に入れたほうがいいって」
律「後でな」
澪「…じゃあ私、もうそろそろ時間だから」
律「あぁ、お見舞いありがと」
澪「うん、ゆっくり休めよ」
律「分かってる、じゃあな」
澪「……律」
律「なんだ?」
澪「私は律のこと…好きだから」
最終更新:2010年08月23日 21:22