律「え?」

澪「そ、そういう好きじゃないからな!ただ友達として…」

律「う、うん…」

澪「うぅ///」

律「…澪さん?」

澪「ご、ご飯食べて早く寝ろ!じゃあな!」

バタンと扉を閉め澪は出て行った。

律「……」

私は部屋で一人、さっき澪に言われた言葉を考えながら
ケーキをジーッと見つめている。

律(澪のやつ…あんな顔真っ赤にしてたらバレバレだろ…)

律「はぁ…本当ならもっと驚くはずなんだけどな」

けど澪の告白はあまりピンと来なかった。
嬉しくないわけじゃない。
ただ、私が求めていたものと何か違う。

私が求めているのは…

律「梓…」

例えどんなに避けられても。
どんなに嫌われても。
今でも梓のことを想っている。

私は梓のことが好きだ。

律「好き…?」

そうか…今気づいた…
私は梓のことが好きだったんだ。
後輩や友達ではなく、一人の女の子として。

律「ははっ…まいったなこりゃ…」

まさか梓に恋愛感情を持つなんて、思ってもないことだ。
今までただの後輩だったのに…

律(そういえば最近、梓のことばっかり考えてたもんな…)

初めは仲良くなりたかっただけだった。
澪たちに比べて私と梓の接点は少ない。
それが妙に寂しかった。

だから梓に近づきたくて
梓のことをもっと知りたくて

気づいたら梓に夢中だった。

梓のことで頭がいっぱいだった。

嫌われないよう自分なりの努力もした。
ベタベタしてる唯に嫉妬したりもした。

でもそれは、梓のことが好きだから。

梓と話がしたかった。
梓に自分のことを見て欲しかった。
梓を抱きしめたかった。

梓に…私のことを好きになってもらいたかった。

律「……」

けど梓は私のことを嫌っている。
もう私に希望は…ない。

律「…グズッ…ううぅぅ…」

今になって涙が溢れてくる。
自分の気持ちにはっきり気づいたせいで、悲しみが膨れ上がる。

律「やだよぉ…グズッ…嫌いにならないでよぉ…ヒック」

律「あずさぁ…」

ケーキはその後、聡にあげた。


……

梓「……」

梓(律先輩に嫌われた…嫌われちゃった…)

私は部屋の片隅でうつむいていた。
もう夕方になっている。
あっという間だ。

梓「……」

~♪

携帯の着メロが鳴く。
純からのメールだ。

梓「純…」

メールには『元気?』『梓がいなくて寂しかったよ~』などと書かれていた。
あんなことがあったから私に気を遣ってくれたのだろう。

とりあえず『ありがとう』とだけ返信した。

梓「……」

~♪
すぐに純から返信が来た。

『律先輩も気にしてないって言ってたよv(^^)明日は学校来れるかな?』

梓「……」

本当だろうか。
あれだけ大声をあげて嫌いだと言ってしまったのに。

梓「……」


携帯を閉じ、再びうつむく。

純のメールの通りなら、どれほど幸せなことか。

もし本当なら、会ってすぐ謝りたい。
そして自分の正直な気持ちを伝えたい。
そうなったら、彼女はどんな反応をするのだろう?

拒否される?
その可能性は大きい。
今まで冷たくしてたのに好きだと言っても…

それに私は女だ。
同姓に好意を持つなんてひかれるに決まっている。

それでも誤解を解きたい。
律先輩に、私の本当の気持ちを知ってもらいたい…

梓「……」

今までひどいことしてたのに…勝手な人間だ。

梓「律先輩…」

もし私が澪先輩みたいにかっこよかったら、律先輩も受け入れてくれるだろうか。

もしも異性だったら、先輩だったら
好きになってくれただろうか…

梓「……」

なに馬鹿なことを考えてるんだろう。
私は律先輩に嫌われたんだ、そうに違いない。

それなのに私は…ありもしない希望を…

梓「最低だ…」

一応明日は学校に行こう。
みんなも心配してる。
けど部活は…恐らく出ない。


……

澪(律のやつ遅い…今日も来ないのかな)

澪「……」

朝、いつもの場所で律を待つ。
ここで毎日待ち合わせをして、一緒に登校する。
それが私たちの日常だった。

今思えば幸せなことだ。
親友と共におしゃべりをしながら歩く。
律がちょっとおどけると私が突っ込みを入れたり…楽しかった。

色々あったけど、あの頃に戻れるといい。
戻りたい。

けど、私の願いは叶うことがなかった。

電話が鳴り、律の母親から連絡を受けた。
律が交通事故にあったらしい。

急いで病院に向かった。
病室につくとそこには、律が眠っている。

律の家族が泣いていた。

私はゆっくりと律に歩み寄る。

律、おい律!

返事をしない。

ふざけているのか?
なぁ、ふざけているんだろ?

私の問いかけに、律は答えない。

なんでだよ…
なんで……律…




律の母親から聞いた。
即死だったそうだ。

それを耳にした瞬間、私のヒザが崩れ落ちる。
体に力が入らない。
頭が動かない。


律…?


律は目を閉じたままだ。


律…そんな…
律……


嘘だ、これは夢だ。
律がこんな簡単に死ぬわけ…

律…律…

律「りつううぅぅぅぅぅううう!!」

澪「……人の後ろで何してるんだ?」

律「ナレーションごっこ」


澪「意図が分からない」

律「いやさ、昨日お前が私のこと励ましてくれただろ?だからそのお返しに」

澪「お返しになってないだろ!」

律「違うんだって、この後にお涙頂戴のストーリーがあるんだよ!それで澪に感動してもらおうと…」

澪「感動できるか!!」

律「いたっ!?」

澪が私の頭を殴る。
うん、いつものことだ。

律「ちぇっ、せっかく昨日考えたのに」

澪「下らないことを考えるな…」

律「ちなみに最後は、愛しの人のキスで生き返るんだぜ」

澪「へぇ…」

律「な?澪こういうの好きだろ?」

澪「べ、別に好きじゃない!」

律「またまた~、こういうご都合展開がいいくせに」

澪「あのな…死ぬなんて不謹慎な話やめろよ。本当に死んだりしたらどうするんだ?」

律「知らないのか?私は簡単には死なないんだぜ?」

澪「はぁ…」

律「さ、早く学校に…」

澪「…なぁ、律」

律「ん?」

澪「そ、その…昨日のことなんだけど…」

律「…あぁ」

澪「昨日はちゃんと言えなかったけど、もし律がよかったら私と…付き合って……」

律「ごめん」

澪「っ!」

律「私…やっぱり梓のことが好きだ」

澪「……」

律「昨日気づいたんだ、梓しかいないって」

澪「……」

律「だから…」

澪「私の方が…」

律「え?」

澪「私の方が付き合い長いのに?」

律「そ、それは…」

澪「私のほうが、律のことを理解している」

律「えっと…」

澪「お前が何が好きで、どんなことが嫌いで……」

澪「それに、お前の馬鹿な話に突っ込みを入れられるのは私だけじゃないか!」

律「……」

澪「もしイヤだったら殴るのはやめる!だから…それでも…」

律「…ごめん」

澪「……」

律「どうしても、梓じゃなきゃダメなんだ」

皮肉なことに、澪からの告白で気づいた気持ち。
私も今日このことを言うのに負い目を感じていた。

それでも、きちんと返事をしないと失礼だ。

自分の気持ちに正直に。

澪「……」

澪は傷つくだろう。
たぶん泣くはずだ。
それでも私は梓のことが…

ごめんな澪。
こんな私を許してくれ…

澪「…ふふっ」

律「え?」

澪「そっか…それなら仕方ないよな」

律「み、澪さん…?」

澪「言っただろ?律のことは理解してるって」

澪「お前がどんな気持ちかぐらい分かってたよ。どれだけの付き合いがあると思ってるんだ?」

律「……」

澪「ただ、確かめたかっただけなんだ…どれだけ梓のことが好きなのか」

律「……」

澪「お前の気持ちが確認できてよかったよ。お前が本気で梓のことが好きなら、私は応援するぞ」

澪「だって親友だからな!」

律「澪…」

澪「今日、学校来ても平気なのか?」

律「…うん」

澪「梓と会える?」

律「分かんないけど…気持ちは伝えたいと思ってる。私が梓のことを好きだって気持ちは…」

律「それで嫌われるのなら…後悔はない」

澪「そっか…頑張れよ!」

律「おうよ!」

澪「ふふっ」

律(でもフラれてその後部活にひびくような事があったらどうしよう…)

澪(これでいいんだよな…律がしあわせならこれで…)

澪「律、そろそろ行かないと遅刻するぞ」

律「あぁ、待ってろ今…!?」

澪「律?どうした?」

律「…いや、ちょっと緊張しちゃってな」

澪「しっかりしろよ。梓に見捨てられちゃうぞ?」

律「ははっ…」

なんか今…頭がグラっとしたような…

律「……」

緊張してるだけだよな、きっと。


……

梓「……」

学校へはなんとか来れた。
けど今すぐに帰りたい思ってる。
あの人が同じ空間にいると思うだけで、怖くて…

純「あーずさ!」

梓「純…」

純「おはよ」

梓「うん…」

純「大丈夫?」

梓「うん…」

純「そっか」

梓「私さ…」

純「ん?」

梓「部活は行けないかも…」

純「行けないなら無理して行く必要ないよ。学校に来ただけでも偉いって」

梓「……」

純「まぁ…そりゃ怖いよね」

梓「純…あの…」

純「今日は一日私がそばにいてあげるから、心配しないで」

梓「…ありがとう」

憂「梓ちゃん、純ちゃん、おはよう」

純「あっ、おはよう憂」


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最終更新:2010年08月23日 21:23