澪先輩…
澪「梓…あのな…よく聞いてくれ」
梓「え?」
なに?
なにがあったの?
律先輩は無事…?
それとも…
澪「…さっきお医者さんから聞いたんだ。律は……死んだ」
梓「……」
私の思考が一瞬停止した。
澪先輩がなにを言ってるのか分からなかった。
梓「澪せ…」
澪「死んだんだ。頭の打ち所が悪くて…」
梓「…嘘」
澪「梓…」
梓「嘘ですよね?嘘って言ってくださいよ」
澪「……」
梓「澪先輩らしくないですよ、私をからかうなんて」
澪「……」
梓「澪先輩…嘘って言ってくださいよ!!」
澪「……」
澪先輩はなにも答えてくれなかった。
私はまだ澪先輩の言葉が信じられない。
病室に入る。
自分自身の目で確かめに行くために。
律「……」
梓「律先輩…」
病室では律先輩が目を閉じてベッドの上で寝ていた。
本当に死んでいる…?
梓「律先輩…起きてるんですよね?…起きてくださいよ」
律「……」
先輩は反応しなかった。
まさか…律先輩が…
梓「……」
先輩の手を握った。
まだ温かい。
これで本当に死んでいるなんて…
事実を知ったら泣き崩れると思っていた。
だが今は嘘みたいに冷静な自分がいる。
どこかが麻痺したような感覚で…涙が出るわけでもない。
梓「……」
律「……」
私はベッドの横にあるイスに座った。
律先輩の手を握りながら。
梓「律先輩、私…謝りたかったんです。ずっと…」
律「……」
不思議と言葉が出てきた。
さっきは緊張でろくに話せなかったのに。
自分でも違和感を感じるぐらいだ。
梓「私…律先輩のこと嫌いだなんて言いましたけど…」
梓「全部嘘だったんです…」
律「……」
梓「本当は強がって…純の前で嫌いって言っただけなんです」
梓「私…自分の気持ちを他人に伝えるのが下手糞で、どうしようもなくて…」
律「……」
梓「それでいてひねくれているから、自分自身にまで嘘ついちゃって…」
律「……」
梓「さっき大バカ野郎って言ったのも嘘です。つい緊張しちゃってそんな事しか言えなくて…」
律「……」
梓「ごめんなさい。私のほうこそ大バカ野郎ですよね」
梓「私なんて嘘つきで、臆病で、強がりで、根性なしで、うるさくて、不器用で、可愛くなくて…」
律「……」
梓「律先輩に好かれる後輩になりたかったんですけど…結局ダメでした」
律「……」
梓「律先輩…本当は私、あなたの事が好きでした。大好きだったんですよ」
梓「先輩や部活の仲間としてではなく…一人の女性として」
律「……」
梓「…そんなこと言っても信じてくれませよね…」
律「……」
梓「律先輩…」
それからすぐに、律先輩との思い出が頭の中に鮮明に蘇る。
初めてあった時、元気そうな人だと思った。
合宿、初めてのライブ、夏フェス。
そして軽音部での日々…
そんなに一緒にいたわけではない。
でも、ずっと見ていた。
律先輩のことずっと見ていた。
そして律先輩と一緒に過ごした時間が私にとってどれほど大切なものだったか、思い知らされた。
けど、もう律先輩は動かない。
話しかけてくれない。
からかってくれない。
あの笑顔を見ることはもう…ない。
律先輩は死んだ。
梓「……」
律「……」
急に涙がでてきた。
止まらなくなった。
梓「律…先輩…」
こんなことなら、もっと優しく接するべきだった。
自分に素直になるべきだった。
後悔の念が私を襲う。
余計に涙が出てきた。
梓「りつ…せんぱぁい…」
律「……」
梓「死んじゃイヤだよぉ…」
律「……」
梓「ごめんなさい……ごめんなさいぃ…」
律「……」
どれだけ謝っても律先輩は答えてくれない。
私は絶望する。
梓「……」
律「……」
梓「律先輩…最後に…キスしていいですか?」
律「……」
梓「お願いです…一生の思い出にしたいんです」
律「……」
梓「いいですよね…」
これで最後だ。
律先輩に触れるのも。
これで最後になる。
私は先輩の唇に軽く口づけをした。
これが律先輩との最後の思い出…
一生忘れないと心に誓う。
梓「律先輩…天国でも幸せになってくださいね」
律「…………まだ死んでねぇです」
梓「………え?」
律「……」
目の前の先輩は目を開けてこちらを見ている。
顔は真っ赤だ。
梓「……」
律「……」
梓「……」
律「……」
梓「……」
律「…て、てへっ☆」
梓「きゃっ…きゃあぁぁぁぁあああああっ!!ゾンビいぃぃぃぃいいいいいっ!!!」
律「ち、違えよ馬鹿っ!!最初ッから生きてるわい!!」
梓「なっ、ななななんでぇ!?」
律「だから死んでねえって言ってんだろ!頭うったくらいで私が死ぬか!!」
梓「えっ…えぇっ!?」
律「ったく…」
梓「あっ、あの…ちなみに…ずっと起きてたんですか…?」
律「ま、まぁな」
梓「私が部屋に入ってきたときも…?」
律「まぁ…な…」
…え?
じゃあ私が今まで話してたこと全部聞いて…
梓「……」
律「……」
梓「う…うわああぁぁぁっ///」
律「ど、どうした梓!?」
梓「死ねっ!!死んで全部忘れちゃえぇぇっ!!」
律「できるかぁ!!」
梓「うわあぁぁああん!!何で言ってくれなかったんですかぁ!!」
律「い、言えるわけないだろ…いきなり部屋に入ってきて…」
あっ…そうだ私…
律「それで告白して…キ、キスしてくるなんて…///」
梓「……」
律「…梓さん?」
梓「うわああぁぁぁっ!!律先輩なんか死んじゃえぇぇぇっ!!」
律「さっきまで生きて欲しいとか言ってただろ!?」
……
澪(ふふっ…うまくいったみたいだな)
純「澪先輩ー!」
澪「あっ、純。来たか」
純「どうでした?」
澪「成功だよ」
純「よかったぁ」
澪「お互い素直じゃないからな、こうでもしないと本音を言えないだろ」
純「でも驚きでしたね、澪先輩からこんな案が出るなんて」
澪「律を応援するって決めたからな。梓には悪いが…こうする方がいいと思って」
純「澪先輩…」
澪「それに純が事情を教えてくれたから、できたんだよ」
純「えへへ」
純「それにしても驚きましたよ、律先輩が病院に運ばれたって聞いたときは」
澪「まぁ、ただの栄養失調らしいからな」
澪「それに頭はもともと血が大量に出る所だから、思ったよりも平気みたいだし」
純「そっか…安心しました」
澪「死んだ人間が愛しの人のキスで生き返る。上出来だな」
純「それって澪先輩が考えたんですか?」
澪「いや、律だよ」
純「え?」
澪「私のために用意した、お涙頂戴もののストーリーだってさ」
純「はぁ…?」
澪「とりあえず、私たちは退散しよっか?」
純「そうですね」
澪(律…幸せにな…)
純(あぁ~あ。結局私の恋は叶わずか…)
澪「……」
純「……」
澪「…お腹すいたな」
純「そうですね…」
澪「何か食べに行く?」
純「えっ…いいんですか?」
澪「あぁ、どうせヒマだし」
純「じゃあ…お供させてもらいます!」
最終更新:2010年08月23日 21:28