喪われた近未来――

現実への失望を埋め合わせるべく、若者たちは仮想戦闘ゲームに熱中していた。
架空の世界で繰り返される死。
その見返りとしての興奮と報酬は多くの若者を熱狂させ、
パーティと称する非合法集団の群れと無数のゲームフリークス(ゲーム中毒)を出現させた。

時には脳を破壊され、未帰還(ロスト)者と呼ばれる廃人を生み出す危険なゲーム。
この呪われたゲームは、英雄の魂の眠る場所――

それを人々は”アヴァロン”と呼んだ。



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Detalls
A-0253361 Wasteland
154023 009513 052586
  • 0035 0351 0195

Main Battle Tank-1 T-72M2 37-412-9174
048500,0106,004680
  • Lock on-
Main Battle Tank-1 T-72M2 37-412-9155
177232,01693,01693
  • Lock on-
Main Battle Tank-1 T-72M2 37-232-9105
201925,01935,00897
  • Lock on-
Anti Aircraft Tank-1 ZSU-23-4M1 SHILKA 37-805-7179
080325,-00128,-00788
  • Lock on-



ヘリの爆音、そして戦車の隊列が草原を駆ける轟音が私のお腹にまで響いてきます。

ZSU-23-4M1 ”シルカ”対空戦車が、砲塔を旋回させている。
小さなレーダーを乗せたお椀のお化けのような砲塔から4つの23mm機関砲が生えた姿はちょっと不格好。
4つの発射炎を噴き出しながら、薬莢がバラバラと散らばります。触ったら熱そうだなあ。

その内ヒューンと甲高い音を立てて、対戦車ミサイルが空から降ってくる。
あっという間に4台の戦車たちは炎につつまれ、火柱が上がります。

キャタピラが外れ、散らばり、パーティクルで構成された爆発の”エフェクト”が交互に重なり合う。

でもこの”クラスA 0253361番 ウェストランド”は、もうお別れ。

私の周りは煉瓦を崩していくように切り替わり、ヨーロッパ風の町並みが姿を現していきます。

どんよりとよどんだ空気が、私のやる気をちょっぴり奪うけど、逃げまどうニュートラルたちが私の気を引き締めます。

街道の向こうからは、数台の戦車。
逃げまどう民衆。
爆音と轟音、悲鳴、雄叫び。
殺人と破壊、戦闘のお遊戯。
空の色はくすんだままで、私の色も褪せて落ちてしまったよう。

そんな中に、私、平沢唯は降り立ったのでした。


T-72M2戦車のドライシングルピンキャタピラがきしみ、キュラキュラと嫌な音を立てます。
私は持っていたライフルを肩に背負うと、一目散に走り出しました。

唯「……っ!!」
他のプレイヤー……ファイターやシーフ、メイジたちが、銃を撃ち鳴らします。
T-72の前面装甲にはじかれ、AKの軽い銃声と虚しい金属音が響き渡る。

クーン、とサイレンと手押し車を合わせたような音が聞こえてきて、視界の隅にいるT-72の砲塔が回るのがわかる。
唯「はっ……!」
私はすぐさま戦車に肉薄して、よじ登らんばかりになります。

戦車は同軸機銃を撃ちまくり、プレイヤーたちが撃たれ、死亡していく。
この”アヴァロン”のルールは単純。
敵を倒して、経験値を手に入れる。死亡すれば、苦痛とともに現実へと還る。
ふと前を見れば、他のプレイヤーが私を見つけて銃を向けている。
私が敵を倒して、経験値をもらっていっては困るみたい。
唯「やってやる……っ!」
いきなり始まった相手の銃撃を戦車の車体でかわし、その上に飛び乗る。
待ってました、といわんばかりに私は砲塔の上へよじのぼり、ぺたりとキューポラの上に腰を下ろした。
すぐに車載機銃のグリップに掴みかかり、敵に照準を合わせて、トリガーを叩く。

唯「うああああっ!!!」
大口径の機銃弾が敵に浴びせられ、一瞬のうちに死亡、消滅。
路上の車が蜂の巣になり、タイヤがガタガタと沈み込みます。

ベルトリンクで給弾される弾薬が無くなるまで、私は撃ち続けました。
気づけば、もう敵はいない。


唯「はぁ……」

私はおもむろに立ち上がり、灰色の空を見上げました。
顔を覆っていたマスクとヘルメットを投げ捨てて、深呼吸。
唯「……ふぅ……」
そして、ホルスターからPPK拳銃を取り出して、撃ち漏らしたプレイヤーを一人、殺しました。


唯「クラスAは、まだ早いよ」
唯「レベルを上げて、出直てきなさいっ」


ちょうどそのとき、私の上を重攻撃ヘリが爆撃していきました。

たくさんのプレイヤーたちが、草原を駆け抜けていく……。
鯨に虫の頭を生やしたような重攻撃ヘリが空中に出現して、プレイヤーたちは熱気に包まれました。
フラグ……マップの最終目標です。

二つの巨大なローターが爆音を上げて、草を吹き飛ばす。

唯「ほっ……! ほっ……!」
私はみんなが塹壕を飛び越えフラグへと向かっていく中、塹壕の中を駆け抜ける!

肩には大事なSVD狙撃銃を担いで、できるだけ早く走っていく。
他のみんなが、機関銃を浴びせ、RPGを撃ち込んでいる。

でも正面からじゃ、パーティでも勝てるはずがない。
プレイヤーたちはロケット砲を空から撃ち込まれ、機銃掃射を受け、どんどん死亡していきます。

私は一番近い廃墟の中へと飛び込み、天井のない二階へと駆け上がる。
ちょうどい壁の穴を見つけて、すべりこみながらSVDの安全装置を解除する。
足を広げて、スコープを覗き込んで……。
唯「いくよ……!」

敵はミサイルとロケットを撃ち尽くし、空中で優雅にホバリングを決めている。
私はゆっくりとスコープの倍率を上げて、息を整える。

唯「しょだん!」
はずれ。
コックピットに風穴を開けるだけ。

唯「じだん!」
はずれ。
コックピットに風穴を開けるだけじゃ涼しくなっちゃう。

唯「……とどめっ!!」

引き金を引いた瞬間、私は床の大穴から一回へと飛び込む!
廃墟の横で放棄された戦車の上に飛び乗り、車載機銃を上に向け、敵を睨んだ。
兵装を操作する人間を失った敵機は、もはや的と同じ。
無心で機銃を撃ちまくり、遠目に見ても敵の機体は穴だらけ。
そして、爆発。

私はちょっとだけ青い空に向かって、投げキッス。
誰かが上から見ていたような気がしたけれど……そんなこと気にならないくらい、嬉しいからいいや。

Mission Complete


Destoyed Emeny
-----------
Dog Soldier x13 4120e+06
Heavy Armed Soldier x3 5800e+06
Player x9 1620e+06
Heavy Armed Chopper x1 320000e+06
-----------
Point 308968e+06
Time 10:00:00
-----------
Gotten Item
SVD 7.62x56R x1Mag 30000e+06
PPK 380ACP x2Mag 12000e+06



AWETGKAOEWFEGPLPLPSLEGPHERJHOERSGHKS+LFWEPGF
FJODWADKZ+<FDSA>FSPFJQWDKL+AFSDZJFAKPFDKAFKW
EKSAFJKLASDJ          AWLFKDJSZKVG
FOKAEJFOKSAM          KALSDJJFGAHW
ODKGOSJKOTSO  AVALON  IOEJFIHSJFNE
FEISJFKLASNC          ;VJSLA;KFPOE
OWIEOQWKDOAC          DGIJSOPFKA@W
FSOJKFKLDZMVKLSDJFOPAKFL;WAFDL;AJFOAOFJAWOPA
GESKGSLEFEAWFOWIEWLGSIGZGIRESLKGPSKGRSGKSEKG

LOG OFF ...




ぼんやりと、真っ暗な視界が戻ってきて、私は意識を現実に戻しました。

唯「ん……うぅっ……」

薄暗い、壁に配線の走った個室……下着姿でベッドに寝ころんだ私。
ゆっくりと頭に被った端末を脱いで、一息つく。

ベッドから降りて、壁にかけた服を着る。
汗かいたから、帰ったらシャワー浴びなくちゃ。

さわ「相変わらず見事な腕前ね、”うんたん”……いえ、唯ちゃん」
天井からぶら下がったモニターの中に、さわちゃん先生が姿を現した。
唯「さわちゃん先生~」
この人は”アヴァロン”のゲームマスターと言われている人。
なんだけど、私はなんとなく、さわちゃん先生と呼んでいる。
……どことなく、昔通っていた学校のある先生に似ているから。

唯「さわちゃん、7.62mmを1マガジンと、PPK、2マガジン補充したいな」


さわ「もう二、三度コンプリートすると、レベルアップよ」
さわ「タイムリミットのハンディがつくわ。判っている?」

唯「……残ポイントはキャッシュでお願い、さわちゃん先生」

さわ「ソロプレイは今まで以上に危険になるわ……」
さわ「また、パーティを組む気は……ないの?」

私は黙ったまま、コートを着込むと、通路に出て行きました。
もう、パーティは組みたくない。
さわちゃん先生だって、知ってるはずなのに。

ロビーに戻ると、さっきの私のプレイが巨大なモニターに映し出されていた。
他のプレイヤーたちが、食い入るように見つめている。
私は気にせずカウンターの前に立ち、IDカードを差し出す。
唯「お願いします」

ポイントは、お金に換えることができる。
かくいう私も、そのお金で生活しています。

和「いい稼ぎね」
カウンターの向こうから、聞き慣れた声が届く。
唯「うん、まあまあね」
私の幼なじみの、和ちゃん。
今はこうして、プロバイダのカウンターのお仕事をしています。
引き出しを開けて、お札を数えてている間、私はカウンターの周りを見回した。
二人の子供の像。
左の子の首はなくなってしまっている。
和「はい、今日の分」
和ちゃんが慣れた手つきでお札を束ねて、IDカードと一緒にカウンターに滑らせた。
唯「ありがとう」
唯「じゃあ、帰るね和ちゃん」
和「ええ、憂ちゃんにもよろしく」
唯「うん」
和ちゃんは、アヴァロンから還ってきた私を見る度、なにかもの悲しい表情をします。


建物から出ると、夜の冷えた風が私に身体に突き刺さります。
唯「うう~っ、寒い!」
早足で、家へと急ぐ私。家に帰れば、憂が待っているから。

電車に揺られながら、私は今日の戦いを思い出しています。
ちょっとぼーっとしてしまうと、エンジンの爆音と、キャタピラの軋む音が聞こえてくるよう。
とっても静かな電車の中でも、心がなかなか落ち着かない。
唯「……はぁ……」
戦争中毒? アヴァロンは仮想空間だよ……?

電車の中で振り返った時、自分の目つきが違うことに気がついた。
こんなの私じゃない……平沢唯じゃないよ。
唯「……っ!」
私は頭をぶんぶんと振って、早く憂の待つ家に帰ろう、それだけを考えました。

隣の線路を、反対方向の電車が走り去っていく。


唯「ただいま」
憂「お帰りお姉ちゃん! ご飯、できてるよ」
憂「一緒に食べよ」
唯「うい~っ!」
思わず、憂に飛びついてしまう。
憂「もう、お姉ちゃんったら……」
やっと、やっと現実の世界に還って来れような充実感。
殺伐とした殺しの世界では決して感じられない温かさがそこにあります。
それを憂もわかってくれるから、ゆっくりと私を抱きしめてくれる。

唯「メールは……なし、か」
ご飯を食べ終わって部屋に戻った私は、何気なくパソコンの電源を入れていた。
相変わらず、メールは誰からも来ない。
あの日から、誰からも連絡など来ていない……当然だよね。

私はパソコンをほったらかしにして、ベッドに身を投げた。
冷えた布団が、廃墟の空気のようにまとわりつくのを感じて、身震いしてしまう。

そのまま私はやりきれない気持ちでいっぱいになって、泣いてしまった。

明日になれば、またアヴァロンで戦って生活する。
だから、泣いちゃダメだよ、私。
私のするべきことは、憂にこれ以上迷惑をかけないで、一緒に幸せに暮らすことなんだから。


2
最終更新:2010年01月25日 21:03