梓「えっ?」

ギュッ

そう言うと唯は梓に抱きついた

パッ

すぐに唯が梓から離れる

唯「ばいばい、あずにゃん」ニコッ

梓「ゆ、唯先輩待ってください! まだ一緒にいたいです! みんなで一緒にバンドやりたいです! 唯先輩!」

―――

ガバッ

梓「はぁはぁ……夢か……」


ジャー ザブサブ

梓「ぷぅっ……」

ふきふき

梓「はぁ……」

梓母「あずさー早くご飯食べちゃいなさいー」

梓「はーいー、今いくー」



梓「ぱくぱく、もぐもぐ」

梓父「梓、最近バンドの方はどうだ?」

梓「……ん、先輩達が受験だから最近はあまり活動できてないんだ」

梓父「そうか……知り合いのバンドでギターを募集してるんだが梓どうだ?」

梓「私は先輩達と今のバンドでやりたいから……」

梓父「そうか」

梓母「ほらほら、二人とも早く食べてちょうだい」

梓「うん」


ぷちぷち ぬぎぬぎ

ばさっ

梓「はぁ……」

しゅるっ

梓「……」

ぷちぷち

梓「りぼんりぼん」

しゅっ きゅっ

梓「なんで私だけ一年遅く生まれたんだろ……はぁ……」



―学校―

「あずゃんっ!」

だきっ

梓が廊下を歩いていると、後ろからいきなり抱きつかれた

梓「唯先輩! 離れてください!」

唯「そんなこと言わずに~」すりすり

梓「み、みんな見てますから!」

唯「誰も見てなかったらいいのかな?」

梓「だ、だめ……かな?」

律「おい、今なんで一瞬考えたんだ」

梓「あ、律先輩」

律「もしかして梓、お前……目覚めたのか?」

梓「ち、違いますよっ!」



唯「目覚めるって何に~?」

梓「唯先輩はわからなくていいです」

律「あらあら~、梓ちゃんは大人ですこと」

澪「いい加減からかうのはやめろ」

ゴンッ

律「いった~~、冗談だよみぉ~」

梓「あれ?澪先輩にムギ先輩も。どうしたんですか?」

澪「うん、今日は久しぶりに演奏しようかって話になってな」

律「最近頭使ってばっかでさー。久々にドラム叩いてスカッとしたいなあって」

澪「お前はサボってばかりだろ!」

紬「まあまあ。それに、学園祭が終わってから梓ちゃんとなかなか会えなかったからね」

唯「あずにゃん寂しかったよね?よしよ~し」

スリスリナデナデ

唯が梓に頬擦りし、頭を撫でる

梓「そ、そんなことないです!寧ろ前より練習がはかどるようになったぐらいです!寂しくなんか……」

梓は強気な態度を見せようとするも次第に体からダランと力が抜けてしまった

久しぶりに感じたこのぬくもり
この香り
この柔らかさ

2年近く毎日のように抱きつかれていたおかげですっかり免疫ができていたと思っていた梓だが

すっかり入部当初の梓に戻ってしまったようだ

梓(ああ……どうしてだろ。ずっとこうしていたい)

律「というわけだから放課後な!」

紬「じゃあね、梓ちゃん」
唯「あずにゃんまたね~」
パッ

梓「あ……」

唯が体を離し身を翻した

途端に梓は夢から覚める

梓「はい、放課後にまた……」

梓は立ち去る4人の背中に弱々しく手を振った

まるでこれが今生の別れといわんばかりに

純「梓ー、何やってんのー?授業始まるよー」

梓「あ、うん。今行くー!」



―放課後、部室―

唯「それでね、そこで姫子ちゃんがー」

律「そりゃ唯が悪いんだろ~。お!このお菓子うまいな!さっすがムギ!いつもサンキューな!」

紬「いえいえ~。たくさんあるからどんどん食べてね」

澪「…なあ」

唯「この前うちでまた和ちゃんがー」

律「あはは。唯はバカだなあ」

紬「和ちゃんもかわいいところあるのね」

澪「……なあ」

律「聡の奴ゲーム全然うまくならないから張り合いがなくってさあ」

澪「なあっ!」

律「お?どうした~澪ぉ?」

紬「おかわりならあるわよ~」

澪「あ、ありがとうムギ。って違う!何でまたのんびりお茶してるんだ!演奏しに来たんだろ!」

いつも通りのぐだぐだティータイムになってきた所で澪が一喝した

律「えー、いいじゃん。久しぶりなんだしさ。受験生には息抜きが必要だろー」

澪「そんなこと言ってずっと休むつもりだろ。今までだってそうだったじゃないか。ほら、梓も言ってやれ。このサボリ魔に…」

梓「……」

ズズッ

澪「梓?」

梓「えっ?何ですか、澪先輩?」

紬「梓ちゃん、大丈夫?ずっとぼーっとしてたけど」
梓「あ、大丈夫です。ムギ先輩、このお茶おいしいですね。おかわり頂けますか?」

澪「あのー、梓?練習はいいのか」

梓「へっ!?あ、そうです。練習です!唯先輩いつまでダラダラしてるんですか。練習しますよ!」

唯「え~、もうちょっとだけぇ~」

梓「全くシャキッとしてください。そんなんじゃ受験も失敗しちゃいますよ」

唯「うぅ…あずにゃんがいじめる。ハッ!そうだ!!留年すればあずにゃんや憂と同じ学年になれるよ!」
梓「バカなこと言ってないでほら、ギター持ってください。律先輩もお菓子食べてないで」

律「梓だってさっきまでのんびりお茶してたくせに~」

梓「そ、それはせっかく用意してくれたムギ先輩に悪いと思って……」

実際は違った

本当はこの五人で過ごす放課後が懐かしくて浸っていたのだ

澪「いいから早く始めるぞ」

ジャ-ンジャ-ンジャ---ン


紬「うん!みんなよく合ってたね」

澪「ああ。なかなかだ!」
律「ふぅ。久々の演奏は気持ちいいなぁ。何かこう頭がスッキリするよ」

梓「そんなこと言って、勉強した内容を頭からふっ飛ばさないでくださいよ」

律「な~か~の~。ちょっとは受験生をねぎらいやがれ」

グリグリ

梓「あはっ、痛っ。やめてください」

唯「澪ちゃんせんせー。田井中さんが中野さんをいじめてまーす」

律「な!おい、澪やめっ、アァン…」

紬「まあまあまあまあ」

ワ-ワ-キャッキャッゴンッニャ-ウフフ

いつも通りの時間だった

これが放課後ティータイムだった



―帰り道―

梓「澪先輩、ムギ先輩、律先輩、失礼します」

澪「またな、唯、梓。また今度一緒に演奏しような」
律「ああ、ムギのお茶が恋しいからまた今度…って冗談冗談」

紬「じゃあね。梓ちゃん、できる限り時間を作って部室に顔を出すからね」

唯「みんなバイバーイ。また明日ー」


家が同じ方向の唯と梓は並んで歩いていた

唯「いやー、今日はうまくいったよぉ~。ギー太もよくがんばったね」

梓「唯先輩にしてはミスが少なかったですけどどうしたんですか?もしかして練習してたとか」

唯「『唯先輩にしては』ってあずにゃんひどい…。今日演奏しようって決めた時からがんばって練習したのに……」

梓「勉強はどうしたんですか…。憂は唯先輩は毎日がんばってるって言ってたけどそうでもなかったみたいですね」

唯「うぅ…あずにゃぁん。久しぶりなんだからもっと優しくしてよ」

「久しぶり」

そう言われて唯とこうして二人で下校するのは久しぶりであることに梓は気付く


それを自覚した途端梓はまた黙り込んでしまった

唯「あずにゃん?」

唯に声を掛けられ梓は顔を上げた

急に黙った梓を不思議に思ったのか、唯の顔からはいつもの笑顔が消えていた

梓(唯先輩……)

不安がらせてはいけないと無理やり言葉を捻り出そうとするも口は開かない

唯「ねぇ、あずにゃん。あそこ行かない?」

沈黙を破ったのは唯だった

梓「……あそこ?あそこってどこです?」

唯「いいからいいから。ほら、行こっ!」

梓「ちょ、ちょっと唯先輩!」

唯は半ば強引に梓の手を引っ張った


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最終更新:2010年08月25日 03:02