去年の憂の誕生日のことだった
唯「はっぴばーすでい とぅー ゆー」
唯「はっぴばーすでい でぃあ う~い~」
唯「はっぴばーすでい とぅー ゆー」
唯「憂、お誕生日おめでとう~」
憂「ありがとう、お姉ちゃん。歌上手だね~」
唯「えへへ~そうかな~」
唯「それじゃ、私から憂へのプレゼント!」
憂「わーい、お姉ちゃんありがとう」
唯「なんだけど……」
憂「どうしたの?」
唯「金欠で……」
憂「そうだよね~部活にいっぱいお金かかるもんね」
唯「甲斐性無しの姉でごめんね、憂……」
憂「気にしないでお姉ちゃん。気持ちだけで十分うれしいから」
唯「うっう……なんて出来た妹なんだ~。生産元が同じとは思えないよ」
憂(生産元は一緒のはずなんだけど……)
憂「お姉ちゃんが部活で一生懸命頑張ってる姿が私への最高のプレゼントだよ」
憂「お姉ちゃんこれからも頑張ってね」
唯「う~い~~~~~愛してるよ~~~」
唯は飛び掛るように渾身の力で憂を抱きしめた
憂は熱い抱擁に苦しそうにしながらも、その圧迫感に幸せを感じた
抱き合いながら唯はつぶやいた
唯「ねぇ、憂……」
憂「うん…?」
唯「金銭面では何もしてあげられないけど」
憂「うん」
憂「えっ……いいよ、気にしないで」
唯「いいや、させておくれよ……憂」
唯「このままじゃお姉ちゃん失格だよ」
憂「そんなに気にしなくていいのに」
唯「いいや、気にするよ~。だってかけがえのない大切な妹なんだもん」
憂「お…お姉ちゃん……」
唯「何でもいいよ」
憂「うん?」
唯「お金以外で、憂の願うことをかなえてあげる」
憂「え、えっと……そんなの突然言われても困るよ~」
唯「何でもいいんだよ?」
憂「何でもと言われても、私どうしたらいいか……」
唯「たとえばね……」
唯「憂に頼らず毎朝ちゃんと自分で起きるとか」
唯「憂にご飯作ってあげるとか」
唯「憂にしてもらってる部屋の片づけを自分でするとか」
唯「私が疲れて帰ってきた時に憂がしてくれる肩揉みや肩たたきとかマッサージをしてとか」
唯「いつも憂に背中を流してもらってるけど、今度は私の背中を流してとか」
唯「いっぱいあるよね?」
憂「それは私が好きでやってるからいいよ」
唯「えーでも、いつも大変だろうな~っと一応思ってるんだよ~」
憂「お姉ちゃんが大好きだから平気」
憂「お姉ちゃんの身の回りのお世話するの全然苦痛じゃないよ。たのしいよ」
唯「ほんと~?」
憂「うん、ほんとだよ。お姉ちゃん大好きなんだもん」
唯「えへへ~なんだか照れるな~」
憂(お姉ちゃん……どうしてこんなに可愛いんだろう……)
唯「それでも、何かお願いとか無いの?」
憂「うん、特に無いかな。お姉ちゃんと一緒だといつも楽しいし」
唯「なんと欲の無い子かね~。私は山ほど憂にお願いしたいことあるのに」
唯「ん~どうしても、お願い無いの?」
憂「うん……無いと思う」
唯「そっか~なら、私のお願いきいて?」
憂「な~に?お姉ちゃん」
唯「私にお願いして!」
憂「え?」
憂「お願いをお願いしてるの?」
唯「憂が私にお願いごとをしてくれる!それが私のお願い」
憂「困ったな~本当に何にもないよ~」
唯「うっ……憂にお願いされないと息が苦しくて……うっ……」
唯は駆け出しの劇団員のような芝居でその場に倒れてみせた
憂「ちょっと、お姉ちゃん!」
唯「苦しいよ~憂~苦しいよ~早くお願いを言っておくれ~」
憂「うーん、うーん、うーん……」
唯「もう駄目だ、憂……憂にしか私を助けられないんだ」
憂「えーっと、えーっと……」
唯「もう時間が無い、これが最後だ……憂、願いごとを言って……」
憂「お姉ちゃんとずっと一緒にいたい!!!!」
憂の言葉を聞くと、唯は何事も無かったように飛び起き、憂の顔を見つめた
唯「いつもずっと一緒だよ~?それじゃお願いごとにならないよ」
憂「えーっと、そ…そうなんだけど」
唯「うううううう、助けてうい~~~~」
唯はバタっと音をたてて倒れ、また苦しむ演技をはじめた
唯「ずっと一緒にいたいだけじゃ駄目だ~~~早く追加のお願いをするんだ~~~」
憂「そんなこと言われても……」
唯「ぐふっ……憂、悩む気持ちもわかるが、ここは思いつくまま言えばいい」
唯「何でもいいんだよ、したいことをそのまま口に出せばいい。ぐふっ……くくるしいぃいい」
唯「憂は必ず、したいことがあるはずだ……寝言でたまに漏らしてるよ……ぐわわわわ」
憂「え、え、え、寝てる時のことなんて覚えてないよ~~」
唯「あ、あ……ぎゃーーー。ぐわわわ、ぬわわわーーーーーー」
唯「はひっはひっうぐぐぐぐぐぐ、はぁはぁはぁ……助けて…憂……」
憂(このままだと酸欠で本当にダウンしちゃいそう……)
憂「ずっと一緒にいたいに何か付け加えればいいんだよね?」
唯「いいよ、それでいいよ、ういーーーーーはぁ…はぁ……」
憂「わかったよ、お姉ちゃん」
憂「私と一日ずーっと手をつないでいて」
唯は疲れた様子でのっそりと立ち上がると
親指を立ててこう言い放った
唯「オッケー憂!その手を離さないぜ子猫ちゃん」
憂(ふぅ……これで駄目ならどうしようかと思った)
唯「でも~それだけじゃ寂しいよね?よし決めた!」
憂「またお願いの追加?」
唯「ずっと一日手をつないでいる+追加で憂が思いついたお願いを3つきく!」
憂「お願いが増えてるよ……」
唯「えへへ~まぁ追加だから多いついたらでいいんだよ~」
唯「一日もずっと一緒に手をつないでたら、背中かいてとか何か一つくらい思いつくよ~」
憂「う、うん……そうだよね」
唯「よしよし、それじゃ決まりだね!」
憂「うん」
唯「それで~いつからにしようか?」
憂「う~ん、今からだと……学校とか部活あるよね」
唯「関係ないよ!私はいつだってOKだよ!」
憂「授業はどうするの?」
唯「復習だと思って、もう一度憂と同じ授業受けます!」
憂(お姉ちゃんは復習じゃなくて……本当に受けないといけないかも……)
憂「お姉ちゃん。先生にも怒られちゃうから……学校の無い日にしよ」
唯「憂は真面目だな~」
憂(お姉ちゃんが不真面目なだけだよ~)
唯「憂がお勉強できなくなったら困るし、よし、違う日にしよう!」
唯「いつならいいかな~?」
憂「お休みの日で、部活も無くて……完全にオフな日がいいかな」
唯「おっけーわかったよ憂!」
憂「でも、いつになるかわからないよね」
唯「憂のためならいつでも完オフにするよ~」
憂「だめだよ、お姉ちゃん」
唯「えへへ~。それじゃ詳しい日程は決めないね」
唯「だけど、このことを忘れないように」
唯は近くの棚からペンと紙を引っ張り出してきた
すぐさまペンの蓋を外すとサラサラと何か書き始めた
唯「はいっ、一日ずっと手をつないでいてあげる+三つのお願いきいてあげるよ券」
──────夏休み
憂(お姉ちゃん覚えてるかな……)
憂(使っちゃうのもったいないけど……)
憂(夏休みの思い出作りとして活用させてもらおう)
憂(ふふふ、楽しみ~。おねえちゃんとずっと手をつないでいられる~)
憂「おね~~~~ちゃん!」
唯「どったの~?あづぃいいいい~」
憂「これ、覚えてる?」
憂は誕生日に貰ったチケットを差し出し
純粋無垢な満面の笑みで唯を見つめた
唯「なんだ~いこれ、商店街のくじ引き……?」
唯「ああーーーーーーーーっ!」
憂「えへへ、誕生日の時のチケット。大切にとっておいたんだ」
唯「そっかーあの時の~。もちろん覚えてるよ憂~」
憂「有効期限が一生って書いてあるから、本当は使わずにとっておこうかなって思ってたの」
憂「でも、やっぱり……我慢できなくって……」
唯「おうおう、可愛い妹よ~。そんなチケットなら大量に刷ってあげるよ~」
憂「それじゃ、価値が下がっちゃうよ~」
憂「これは私の大切なプレミアムチケット。お姉ちゃんと大切な思い出作る大切な夢の券」
憂「だから一枚でいいの……欲張ったらバチがあたっちゃうよ」
唯「バチなんてお姉ちゃんがいくらでも受けてあげるのに~」
唯「本当に憂は欲がないね~」
憂「お姉ちゃんの妹として生まれてきたそれだけ私は幸せだから」
唯「恥ずかしいよ……憂」
珍しく照れくさそうにする唯をみつめて憂も恥ずかしそうに微笑み返す
唯「今からでいいのかな?」
憂「せっかくだから……明日の朝からでもいい?」
唯「うん、今日も遅いしね。明日の朝……うーん、6時!」
唯「6時からスタート!」
憂「お姉ちゃん起きられる……?」
唯「大丈夫だよ~イベントごとにはちゃんと起きられるよ~」
憂「うん、無理はしなくていいからね」
唯「大丈夫、お姉ちゃんは憂のためなら無理でもなんでもするよ~」
憂「それじゃ今日は早めに寝よっかな」
唯「私もそうしよ~。ねむけまなこで一日一緒にいるわけにいかないし」
憂「眠い眼こすってる方が自然なお姉ちゃんっぽくっていいかも」
唯「そうかな~なら、もう少しだけtvみてるよ~」
憂「うん、お姉ちゃん、お先におやすみなさい」
唯「あいあ~いおやすみ。また朝ね~」
───────翌朝 5:55
憂は高鳴る鼓動を抑えつつベットから天井を見上げていた
憂(もうすぐ6:00……これからお姉ちゃんとずっと手をつなぐ一日が始まる)
憂(期待で胸がいっぱいだよ~。ちょっと心配なことがいくつかあるけど……)
憂(あと……2分……。お姉ちゃん……起きてるかな……)
憂(心配だからちょっと行ってみよう)
憂は姉の部屋に向かい、扉をコンコンと軽くノックをした
憂「お姉ちゃん、起きてる?」
静かな家にガチャっとドアノブの音が鳴り響いた
憂「お姉ちゃん……?」
唯の扉を開けた憂の目に飛び込んできたのは
お菓子の袋、服や本が散乱したゴミ屋敷一歩手前の部屋だった
憂(一昨日、片付けたばかりのはずなんだけど……)
憂(どうやったら、こんなに散らかせるんだろう?これも才能かな、可愛いな~お姉ちゃん)
憂は踏み分けるようにしてなんとか歩を進め、唯の顔が見える位置まで入り込んだ
憂(あはは、やっぱり寝てる)
唯は今日何も無かったかのように幸せそうに夢の中にいた
憂(お姉ちゃんの寝顔ってとっても癒されるんだよね)
憂(えっと、時間は……6:00まで一分きってる)
憂(6:00が約束の時間だから、いいよね、ベットに入っても)
憂「お姉ちゃん、おじゃましまーす」
憂はスルリと唯の体温で暖まった布団の中に入り込み
唯と向き合う形に寝転んだ
唯「すーすーすー」
憂(幸せそう~大好きだよ、お姉ちゃん……)
憂(もう時間だよね……?手、握っちゃおうか……)
憂は唯の小さな左手をそっと包むように両手で握った
その手の温もりは心地よく、とてもとても暖かかった
憂(えへへ、握っちゃった……)
憂(いつも握りたいな~って思ってたんだよね)
憂(言えばきっと、お姉ちゃんは握ってくれるんだろうけど)
憂(やっぱり恥ずかしいよね……なかなか言い出しにくくってね)
憂(私の誕生日にお姉ちゃんが強引に私にお願いを言わせようとしてくれなかったら)
憂(こうやって、手を握るなんてできたかったかもしれない)
憂(いつも私のことを気にかけてくれてありがとう、お姉ちゃん)
唯「う、うい~」
憂「お姉ちゃん?」
唯「今日は~ずっと一緒だよ~むにゃむにゃ……」
憂はクスッと笑った。その寝言が可笑しくもあり、またとてもうれしかった。
憂(お姉ちゃん、寝言いってる。夢の中で私と手を握ってるのかな)
憂(夢の中でも私のことを思ってくれるお姉ちゃん)
憂(なんだか私って幸せ者だな~)
憂(あはは、お姉ちゃんよだれたれてる)
憂(夢で何か美味しいものでも食べてるのかな~)
憂は右手で唯の左手を握りながら、左手で唯のほほを少しもちあげ、袖で唯の口元を拭いた
憂(これでよしっと、なんだかちょっと眠いな……)
憂(私も実は興奮しちゃってあまり寝てないんだ)
憂(お姉ちゃん、隣でちょっと眠らせてね)
憂は唯の手を握っていることの深い安心感から、気持ちよく眠りについたのであった
───────7:30
唯「ん~っ……ん、ん?」
唯は手に重量感と温もりを感じた
唯「手が……あったかい……ん?」
驚いた唯は目を覚まし、憂が目の前で寝ていることと握られた手に再度驚いた
唯(ああ、そっか、今日は一日手をつなぐ約束してたもんね)
唯(時間は……7:30…?!そっか、寝坊しちゃったんだ……)
唯(ごめんね、憂……だらしの無いお姉ちゃんで……)
憂はスースーっと気持ち良さそうな寝顔をしている
よほど興奮して眠れなかったのか、唯がモゾモゾ動いても起きなかった
唯(あらためて見ると憂ってこんな顔してたんだ……)
唯(いつも近くにいすぎて気づかなかったけど)
唯(かわいい……寝ながらもしっかり握ってるこの手がにくいねぇ~)
唯(今日はずっとこの手を離さないからね)
唯(憂も離しちゃだめだよ……)
憂を見つめる唯の顔は自然ととても優しい顔をしていた
そしてしっかりと離れないように強く優しく憂の手を包み込んだ
憂「ん……お姉ちゃん?おはよう……」
唯「おはよう」
憂「えへへ、お姉ちゃんの布団で寝ちゃった」
唯「ごめんね、本当は私が憂の部屋に行こうと思ったんだけど……寝坊しちゃった」
憂「いいよ、お姉ちゃんらしくて、ほっとしたよ」
唯「そ、そうかな~」
憂「うん、お姉ちゃんの寝顔可愛かったよ」
唯「憂の寝顔も可愛いよ~。起きて目の前にいたのはちょっとびっくりしたけどね~」
憂「お姉ちゃん……」
恥ずかしさのあまりに手か布団で顔を覆いたかったが両手が塞がっていた
憂はとっさに唯の胸元に顔うずめた
唯「憂~?」
憂「お姉ちゃんの顔が近くにあって、お姉ちゃんが可愛いっていうから……あの…あのね……」
唯「恥ずかしかった?」
憂「う……うん」
唯「ねぇ、片手だけ離すのはいいんだよね?片手はずっとつないでるわけだし、ルール違反にはならないよね?」
憂「うん、大丈夫だよ」
唯「それじゃあ」
唯は右手で憂の手を握ったまま、左手で憂の体を引き寄せるように抱きしめた
唯「このままで、しばらくいよっか?」
憂は唯の腕の中で小さく頷いた
最終更新:2010年08月25日 21:07