─────8:00


唯「憂……起きてる?」

憂「うん」

唯「ト……トイレに……」

憂「実は私も行きたくって」

唯「トイレの時もやっぱり手はつないだまま?」

憂「トイレは……つながなくても……いいと思うよ」

唯「ルールは一日手をつないだままでいることだよね」

唯「今一つでもルールを破ることになったら、これからどんどん破っていくことになるよ~?」

憂「それは……嫌だけど……」

唯「よ~し、それじゃルールをちゃんと守っていこう」

憂「う…うん、お姉ちゃんについてくよ」

二人は手をつないだままベットを抜け出し、足早にトイレへと向かった

唯「憂~先していいかな~」

憂「うん、いいよ」

唯「悪いね~。よっこいしょ」

憂「あの、あの、後ろ向いてるね」

唯「憂になら見られても平気だよ~」

憂「お姉ちゃん、恥ずかしいからそんなこと言わないで、早くし……よ」

唯は片手で手早く下着を下ろすと、レバーを下ろして水を流し、用を足した

唯「ふぅ……朝一番のトイレは気持ちいいね~」

憂の耳にはカラカラとトイレットペーパーを巻き取る音が聞こえた
間もなく、また水の流れる音が聞こえてきた

唯「お待たせ~。どうぞ~」


唯「どうしたの憂?顔が真っ赤だけど……風邪でもひいてる?」

憂「やっぱり姉妹だけど恥ずかしいよ~」

唯「後ろ向いてるし、なんなら耳もふさぐから平気だよ~」

憂「う、うん……」

憂(ずっと手をつないでるのはうれしいけど、トイレまではやりすぎだよね……)

憂は下着を下ろして座り、レバーを下げ水を流した

憂(でない……緊張しちゃって出ないよ……)

憂(もう一回、水を流して……)

唯(朝ごはんなんだろ~?)

憂(でない……したいのに出ない…)

唯「憂~終わった~?」

憂「もうちょっと待ってね」

憂(あんまり長いと、お姉ちゃんに……)

唯「憂~?小じゃない方したかった?」

憂「そ、そうじゃなくて、お姉ちゃんがいると緊張してでなくって…」

唯「そんな緊張する間柄でもないのに~憂は恥ずかしがり屋だな~」

憂「す、すぐ終わるから、待ってて」

唯のおどけた口ぶりが憂の緊張を解いたのか
次は無事、用を済ませて二人は外に出た



────洗面所

憂「あー恥ずかしかった……顔から火がでそうだったよ」

憂「トイレはやっぱり一人の方が落ち着くね」

唯「そうかな~私は全然平気だったよ~」

唯「あとね何度か振り返りそうになったけど我慢したんだよ~」

唯「憂が後ろでどんな顔してるのかな~って想像してたら、すんごく見たくなってね」

憂「もう、お姉ちゃん!」

唯「あはは~冗談だよ~」

唯「顔洗って歯磨いて、ご飯にしよ。お腹ぺこぺこだよ~」

憂「うん、私も~。パンでいいかな~?」

唯「憂の作ってくるものは何でも美味しいから何でもいいよ~」

憂「それじゃトーストとハムエッグにするね。あとお湯沸かしてスープも」

二人は朝食の話をしながら片手で顔を洗った

憂「お姉ちゃんこっち向いて」

唯「ん~?」

憂は唯の顔を柔らかなタオルで拭いてあげた
そして唯の歯ブラシに歯磨き粉を付け、自分の歯ブラシにも歯磨き粉をつけた
二人は仲良く歯を磨き、交代交代でコップを持ち、口をゆすぐ手伝いをしあった

唯「いや~手をつないだままでも協力すればなんとかなるもんだね~」

憂「お姉ちゃんの協力あってこそだよ~ありがと~」



────台所

憂はパンをトースターに入れると、片手で器用に卵をフライパンに割り、一緒にハムも焼いた
手馴れた手つきでフライパンを振り、色よく焼けたところで大皿に移した

唯「お姉ちゃん感心したよ~。憂はいつでもお嫁にいけるね~」

憂「いきたくないな~」

唯「ええ~どうして~?」

憂「お姉ちゃんと離れ離れになるから……」

唯「恥ずかしがり屋さんのうえに寂しがり屋さんだね~」

憂「お姉ちゃんのお嫁さんになれたらいいな」

唯「憂ならいつでもウエルカムだよ~。早くご飯食べよ~」

二人はパンのった皿とハムエッグとスープを台所と食卓を2度往復して運んだ



─────食卓

唯憂「いっただきまーす」

唯「今日の朝食は苦労しただけあって一段と美味しく感じるよ~」

憂「本当だね~。いつもと勝手が違うから大変だけど、二人でやってるって実感できるね」

唯「うんうん、とってもたのしいよ~」

唯「ご飯食べたら外でない?」

憂「どこかいきたい場所とかあるの?」

唯「特にないんだけど、散歩しに出かけようか~」

憂「それならついでに映画見行きたいな」

唯「いいね~久しく映画なんて見に行ってないし」

唯「ふぅ……ごちそうさま~」

憂「お粗末さまでした」

唯「さって、新聞の映画館情報はーーーっと」

唯「憂~見て見て、何時のにする~?」

憂「今9:30だよ~用意して出るとして」

唯「午後の一番最初の13:30のなんてどう~?」

憂「うん、お姉ちゃんそれにしよっか」

唯「それじゃ着替えようか……これも手をつないだままだよね?」

憂「うん、ルールだと……」

唯「よし、お姉ちゃんに任せない!」

唯「憂いの手となり、足となり、着替えを手伝ってあげるよ!」

憂「は、恥ずかしいなぁ~……」

唯「なぁ~に、よいではないかよいではないか、うっしっし」

憂(どこの悪代官様……)

唯「私の部屋はみたまんまの状態だから~、服もって憂の部屋に行こ」

憂「うん……あそこは落ち着いて着替えられないもね」

唯「いや~奥さん、あの散らかりかたがまた落ちつくんですよ~」

憂「明日片付け手伝うね、お姉ちゃん」

唯「あいあい~」



─────唯の部屋

憂「お姉ちゃん、これにするー?」

唯「うーん、熱いからもうちょっと露出が多いのがいい」

憂「お姉ちゃん、これなんかどうかな~?」

唯「黒は熱を篭って熱いよ~」

憂「じゃーこれかなー?」

唯「真っ白なのは汚しちゃいそうでこわいなー」

憂「う~ん、う~ん、お姉ちゃんこれは~?」

唯「あーそれがいいかな~」

憂「下は~?パンツ?スカート?」

唯「パンツの方が楽だからパンツ~。八分丈の、この前買ったのにする~」

憂「は~い、全部持ったし私の部屋にいこ~」

憂「お姉ちゃんから着替える?」

唯「そうしようかな~」

唯「憂~脱がせて~」

憂「え……お姉ちゃん、手をつないでても脱げるよ~」

唯「いや~こんな機会でもないと憂に甘えられないし」

唯「ちょっと、甘えてみたいな~と思って」

憂(お姉ちゃん……可愛い……)

憂「恥ずかしいけど……お姉ちゃんのお願いなら手伝うよ」

唯「やった~。言って見るもんだね~」

憂(お姉ちゃんの服はいつも私が洗濯してるから、よく見てるんだけど……)

憂(脱がせたり、着せたりするのはやっぱり恥ずかしいな)

憂「上から脱がすよ~両手をばんざーいして」

唯「は~い」

憂(手をつないだまま手をつないだまま……片方抜けたから、ここで反対の手に握り替えて……)

憂(よし、これで、大丈夫……)

憂「あっ……」

唯「どうしたの憂?」

憂「うんん、なんでもないよ」

憂(お姉ちゃんの肌って、ましまろみたいに白くてふわふわしてすごく綺麗)

難しいかと思われた上着も難なく着脱できた
けれど憂にとっての問題はここからだった

憂「お姉ちゃん、下は自分でかえる?」

唯「うーん、下も甘えていい?」

憂「うん」

憂(安易に、うん、っと言っちゃった……)

憂(いいよね、姉妹なんだもん……)

憂「お、下ろすね、お姉ちゃん」

唯「一思いにやっておくれ~」

憂は躊躇ったが、スッと唯のズボンを下ろし、右足、左足と順に抜いた

憂(見ない見ない……)

憂「はい、お姉ちゃん、足入れて?」

唯「憂、なんでこっち向かないの?」

憂「だってお姉ちゃんが……」

唯「たまに下着でうろつく私を見てるでしょ~?気にしなくていいのに~」

憂「それとこれとは話が違うよ~。こんなに近いから……」

唯「わかったよ~。憂の恥ずかしがる顔みれたからもう満足したよ~」

唯「あとは自分で履くね」

憂「お姉ちゃん、あんまり私で遊んじゃだめだよ~」

憂「本当に恥ずかしいんだから~」

唯「ごめんごめ~ん。お詫びに私が憂の着替え手伝うよ!」

憂「私は大丈夫だよ、お姉ちゃん」

唯「ちぇ~」

思いのほか着替えに時間がかかり、着替え終えるころには10:00を過ぎていた

唯「着替え終了、憂ありがとね~」

憂「ちょっと時間かかっちゃったね、手をつないだままってパズルみたいで難しかったよ」

唯「パズルを解く時間より、恥ずかしくてとまってる時間の方が長かったよ~」

憂「そ、そうだったかな~」

唯「それじゃ行こうか、映画館」

憂「うん!」




──────玄関

憂「ねぇ、お姉ちゃん」

唯「うん?忘れ物~?トイレ?」

憂「そうじゃないの。外行く時も手つないだままでいてくれるんだよね?」

唯「何をおっしゃいますやらお嬢さん」

唯「起きてからトイレも食事も着替えの間もずーっと手つないでたじゃん」

憂「家の中だから人目は気にしなかったけど、外だと……人目が……」

唯「男の人と女の人が手つないでるわけじゃないから、私達がつないでも大丈夫」

唯「あら~仲の良い姉妹だな~くらいにしか思われないよ~」

唯「いこっ!憂」


憂を引っ張る、細く華奢な唯の腕はいつもより頼もしく
引かれるその先にある唯の笑顔は眩しかった

仲良く手をつないだ二人が駅へと向かい、電車を乗り継ぎ、目的の映画館へとたどり着いた
途中、手をつなぐ二人を見る者がいたが、その者達にもはっきりと分かるくらい実に仲の良い姉妹っぷりだった

憂「もうすぐお昼だね、お姉ちゃんは何か食べたいものとかある?」

唯「熱いから……蕎麦とかウドンでツルツルっといきたいな~」

唯「憂は何か食べたいものとかあるの?」

憂「私も冷たいものが食べたかったから、麺類がいいな~と思ってたの」

唯「気の合う姉妹だね~。そのうち言葉なしで意思の疎通ができそうだよ」

憂「そうなったら楽しいかも~。どこにいてもお姉ちゃんと話せたらいいな」

唯「お昼食べて少しのんびりしたら、ちょうど映画かな」

憂「そうだね~」

唯「お蕎麦やウドンじゃないけど、あそこの店なんてどう?」

憂「冷やし中華か~。うん、いいよ」

唯「冷やし中華は夏って感じだよね~」

憂「うんうん、熱くなると食べたいな~っておもうよね」

唯「早く入ろ~看板みてるだけでお腹すいてきちゃったよ~」

憂「は~い」

二人は昼食に冷やし中華を選んだ
食べてる間も、手をつなぐことは忘れない
机の上に手を置くとバレてしまうので、
机の下でひっそりと手はつながれていた


憂「美味しかったね~お姉ちゃん」

唯「うんうん、憂の作ってくれる冷やし中華も大好きだよ」

唯「憂の作ってくれる料理でハズレはないよ~いつも大当たり!」

憂「うれしいな~これからも頑張って作るよ~」

唯「期待してるよ!憂っ!」

唯「もうそろそろ映画あ始まるね、ジュース買ってはいろ~」

唯「ポップコーンどうする~いる~?」

憂「今日はポップコーンはいいかな」

唯「そう~なら、ジュースだけ買っていこ」

二人はジュースを買い、唯は憂の手を引き映画館へと入っていった

唯「どこがいいかな~」

憂「前過ぎると見上げなくちゃいけないから、首が痛くなっちゃうよね」

唯「少し前目のこのあたりにしようか~。真ん中いこ真ん中~!」

憂「うんっ」

二人は座席を確保し、上演前のわくわく感とどきどき感に胸を躍らせていた


上演前は照明があると言ってもやはり少し薄暗い
その中で、ぎゅっぎゅっ、っと憂は唯の手を握った

唯「どしたの?」

憂「お姉ちゃん、ラブノックって知ってる?」

唯「愛と根性の千本ノックのこと?」

憂「それもラブのこもったノックかもしれないけど……」

憂「私がさっきしたのだよ」

唯「何かしたかな~う~ん」

憂「これだよ~」

ぎゅっぎゅっ、っとまた、憂は唯の手を握った

唯「2回握ること?」

憂「うん、ぎゅっぎゅっ、って握ってね、それから相手にも握り返してもらうの」

唯「ほほ~。こうかな~」

ぎゅっぎゅっ、っと唯はお返しをした

憂「えへへ、うん。今のがラブノック」

唯「へ~知らなかったよ~」

憂「これはね、好きだよって合図なの」

唯「だからラブノックって言うんだね~」

唯「憂のおかげで賢くなったよ~。さっそく今度の部活でひけらかすとするよ~」

憂「お姉ちゃん、それでね」

唯「うん?ラブバンドとかラブヒットとかラブスクイズとかあるの?」

憂「野球じゃないからそれはないよ~」

憂「3つのお願いきいてくれるって言ったよね?」

憂「一つ目のお願いは、ラブノックしたらラブノック返してね」

唯「言われなくたって返すよ~3倍くらいにして返しちゃうよ?」

唯「本当に憂は欲が無いね~。それが憂のいいところでもあるんだけどね~」

憂「えへへ、じゃあさっそく」

ぎゅっぎゅっ………ぎゅっぎゅっ
二回握ると二回返ってくる、この合図だけで憂はとても満ち足りた気分になれた


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最終更新:2010年08月25日 21:10