先に端末を出たはずのパーティのメンバーを捜していると、誰かが私を呼び止めた。
「あ、りっ……ガーランド、どうしたの?」
顔見知りのひとつ年上の女の子。
戦場以外の個人的な接触を持ちたがらない傭兵が多い中、珍しく人なつっこく、私と交友の深い人。
本当はお姉ちゃんの元部活仲間の田井中律さんなんだけれど、その装備である30口径ライフルの名をとって「ガーランド」と呼ばれている。
「大活躍だったな!」
「とんだ貧乏クジだったよ……見てたの?」
今では敬語では話していない。りっちゃんと呼んでくれと言われて、敬語も使わないで欲しいと言われたから。
流石にりっちゃんと呼ぶのは気が引けるので、律さんと呼んでいるけど。
二人だけのときやアヴァロンと関係のないときは律さん、憂と呼び合うけれど、ここではガーランド、308と呼び合っている。
<放課後ティータイムの田井中律>であることはりっちゃん自身、他の誰にも明かしていないからだ。
「見てたよ、308っ」
ロビーでは常設されたホログラフに選択されたミッションがオンタイムで表示されることになっている。
もちろん戦場は膨大な数があるし、作戦の大半は地味な索敵しか行われないから、派手な見せ場が選ばれることが多い。
プレイヤーもそのことを踏まえた上で、戦闘に入った途端に気合いが入る。
自らが思い描くキャラクターをどこまで忠実にロールプレイできたかが称賛と侮辱を分かつことになるから。

激しく点滅するホログラフの中では、紫煙が立ちこめる戦車の上で私が機銃を撃ちまくっている。
「大受けだったぜ。伝説のランボーもかくやってさ」
ガーランドが大口を開けて、どこか清々しい笑い声を洩らした。
喜ばしいことなんだろうけど、私は心底げんなりして目を伏せた。

50口径機銃でザコの群れを掃射するようなマッチョな近接戦闘は、私のポリシーに反する。
そんなずさんな戦士を演じるくらいなら、そもそも半自動のFALなど選ぶわけもなかった。
「いいじゃないかよ、これで傭兵としての株も上がって仕事も増えるんだしさ」
「クライアントは大事にするよ。仕事なんだから」
私は答えながら、律さんなりの慰めに感謝しながら、話を終わりにした。
今日の私は何となく、他人の優しさに傷つくほどナーバスになっている気がする。
トイレの入口前に張っているRPDを見つけて、軽く手を振った。
「オトシマエ?」
律さんが聞いた。
「まあ、ね」
「真っ先に誰か一人選んで喰らわせてみな。話が早くなるよ」
「暴力は嫌いだよ」
「私もだよ。でも話は早いほうが空きだろうと思ってさ」
愛すべき30-06の律さんに別れを告げた私は、トイレに向かって歩き出した。

「まったく、こんな麗しい美少女ってのも」
トイレの前のRPDが呟いた。
「そんなに麗しくもないですよ。<傭兵>ってのは」
そう返してトイレに入る私を見送りながら、RPDは口を一直線に結んだ。

私が入ると、壁に寄りかかってタバコを吸っていた指揮官が身体を起こし、整列していた<員数だけのファイター>たちが顔を上げた。
三人のうち二人は嘔吐したらしく、血の気の失せた顔色をしていた。

「アラームを鳴らしたのは誰?」
私の問いに応えるように個室から派手な帽子を被った<使えないシーフ>が現れた。
水を流していないところから用を足していたわけじゃなさそう。
「水、流してないよ。クスリでもしていた?」
私は問いかける。
覚醒剤の類は<アヴァロン>と脳のシンクロを乱すので、ハイレベルプレイヤーが最も忌み嫌うもののひとつだ。


「へへ……」
シーフが笑う。
私は左脚をふんばり、身体全体の重量を載せるようにして繰り出した右脚を顔面にたたき込む。
奇妙なステップを踏んで身体を泳がせた<使えないシーフ>は、水浸しの床に倒れ込んだ。
パーティ名を刺繍した帽子が転がる。
「撤退したがる連中が、<UNDEAD KOBOLD>とは笑わせてくれるね」
私の言葉に、指揮官の女の人が顔を逸らした。
「暴力はやめてください!」
ファイターの一人が悲鳴のような声を出した。
爽快感なんて最初からない。
あるわけがない。
これだけ暴力の嫌いな人間たちが集まって、暴力そのもののゲームに興じ、しかも暴力でしかケリがつかない事態に陥る。
不思議な話だけど、ここで私が自己嫌悪に陥っては暴力の嫌いな私が暴力を振るった理由が判らなくなってしまう。
「一度しか言わないからよく聞いたほうがいいです」
「クラスAで恥をかきたくなければ、ボーナスコンテナは無視すること」
「罠の解除に成功したところで、中身は弾薬だけ。口径に合わない弾薬を抱えてポイントに換える余裕があるんだったら……」
「自分の弾薬を制限一杯まで持つこと」
私の視線が突き刺さり、パーティの面々は青ざめる。
まだ大学生くらいの年の女の子だというのに、今の私はそんなに怖いのものなのか。
「それから、リセットするくらいなら、自分の頭を撃ち飛ばした方がいい」
「負け犬は叩くのが、ここの流儀だから」
最後の忠告をさらりと言う私に、ファイターの一人が不満そうな視線を向ける。
「そんなこと言って、たかがゲームじゃないスか?」
「たかが、ゲーム?」
私は低い声でそう言ってから、彼の顔を思い切り蹴り上げた。
鼻血を吹き上げて昏倒する。
振り向いた私の顔を見て、残ったパーティの人間が小さく悲鳴を上げた。

今度は義務的な暴力なんかじゃない。
はっきりとした憎悪を感じたから、私は暴力を振るった。
「たかがゲームだったら、逃げ出さずに戦ってみればいいじゃない!!!?」
腹立ち紛れに私は大声で怒鳴り、指揮官を睨みつけた。
こんな半端な連中にこんなことをしたって糠に釘であることは判っていた。
そう、所詮はゲームだから。
「ポイントの50パーセントは私が貰います。残りはあなたと表にいるRPDで」
「いくらなんでもそんな……」
意義を唱えようとする彼女の肩を掴み、壁に押しつけて私は一気にたたみ込んだ。
私の方がずっと背も低いし体つきも華奢で、見たところ10歳近くは年下だというのに、客観的に考えて立場が逆になっている。
「私はあなたの言葉を信じて、IDのチェックもせずに招請に応じたんです」
「これのどこをどう押せば、それなりなんていう言葉が出てくるんですか?」
戦場では気づかなかったけれど、この人は同性から見てもなかなか美しい、知的な顔立ちをしていた。
化粧っ気はないけれど、唇に薄くルージュを掃いている。

「傭兵は、真偽と評判だけで食べていくんです」
「それがビギナーの育成パーティ以下の素人と組んだ挙げ句、いい物笑いになるところだった」
「どうしても嫌ならそれでもいいけど、もうあなたの招請に応じるような傭兵は一人もいなくなりますよ」
丁寧に喋ってはいるけれど、自分でもおぞましく感じるほどに脅迫じみている……いや、これは脅迫だ。
お姉ちゃんが聞いたらさぞかし悲しむかもしれない。
でも私の胸は痛まなかった。どうせポイントはほとんど私の戦果だったし、騙しをかけたのはこの人が先だ。


精算所のカウンターで指揮官が入力を始める。
その傍らには顔を腫らして鼻血を垂らした二人と顔の青い二人が立ち、やや年をとった感じのRPDと私はベンチに座っていた。
「あんたも吸うか?」
タバコを一本差し出してくるRPDに、私は首を振った。
「どうりでお美しいわけで」
少なくとも自分の顔立ちや体つきはそんなに悪い方ではないと思うけれど……。
RPDの冗談を聞き流して私は漂ってくるタバコの煙に顔をしかめた。
事情を察したベテランたちが、苦笑を浮かべて私の前を通り過ぎる。
「どうして、あの女の人と?」
精算が終わるまでの暇つぶしで聞いたまでだけど、私はこういう男の人が嫌いではなかった。
「あなたの腕なら、どこでもやっていける。このパーティにいても苦労するだけじゃ?」
特に期待はしていなかったので、長い間の後、口を開いたときは少し驚いた。


「俺は、あの女に誓ったんだよ」
「バード……ですか」
<バード>……つまり貴婦人は、<アヴァロン>の流行の初期に一部のプレイヤー、それも男女の間に見られた、
中世の騎士と貴婦人の間に存在したとされる忠誠愛のような契約関係のこと。
忠誠を誓い、獲得したポイントの一部を捧げるような、プラトニックな恋愛関係だったらしいけれど。
「俺はまあ、不器用な男だからさ」
「そんな俺をハイレベルになるまで苦労して支えてくれたのが、彼女なんだ」
「だから……今度はあの人を支えてあげたい……と」
「そういうことだ」


「前衛を他のパーティに引き抜かれたんだ。よくある話さ」
少しの間の後、彼が答えた。
たしかによくある話だけど……。

優秀なパーティの主宰者は、絶えず引き抜きやメンバーの独立に悩まされる。
正面戦力の前衛を引き抜かれたら、それはとても悲惨。
戦力が落ちて、獲得ポイントが下がればメンバーの離反につながるし、そういう噂の立ったパーティは優秀なプレイヤーから敬遠される。
悪循環が始まり、さらにパーティのレベルは下がっていく……。

「えっと……あのシーフ……」
恋愛とお金のゴタゴタ……それがパーティの引き抜きから逃れられなかった原因の気がして、私はまた話題を変えた。
「あんたが蹴り倒した奴か」
「親父が闇市の顔だとかで、面倒見るかわりに装備とアクセス料金を貰ったのさ……前払いでな」
RPDの口元が歪み、私は思わず目を逸らせた。この人にはこんな表情はとてもじゃないけど似合わない。


「あいつには目標があるんだ……ハイビショップとして、フラグを狙えるようなレベルのパーティを組織する」
「まあ、夢みてえな話ではあるが、俺は最後までつき合ってやるつもりなのさ」

愛妻物語なんかじゃなくて、人生山あり谷ありのガッツストーリーだったなんて。
私はつい他人の事情に不用意に頭を突っ込んでしまう、因果な性格を呪った。
妹としてであれば、面倒見がいい、とか誉められるかもしれないけど……。

傭兵には向かない性格……だよね。


精算を終えたRPDの恋人がこちらへ歩いてきたのを見て、私はベンチから腰を上げた。
「自分の脚で立て。戦士よ、立ち上がるか、それとも死ぬか……」
「さようなら、RPD」
私はRPDに軽く会釈して、精算所へと向かった。
「ありがとよ……マークスの女の子」


精算所のカウンターの前に来ると、何かキーボードで打ち込んでいた和さんが私に気づいた。
「こんにちは、和さん」
「今日も稼いだみたいね。憂」
「ちょっとややこしい目に遭っちゃいましたけどね」
苦笑いする私に、和さんが先ほどのパーティに目をやって言った。
「そんな日もあるわ」
和さんは、いつも私を見る度、もの悲しそうな表情を浮かべる。

「えっと、308を5マガジンと、FALの競技用型バレルを一本」
撃ちすぎたので弾薬を補充し、FALのバレルに寿命が来る頃だからバレル交換にポイントを割くことにした。
装備のメンテナンスはポイントに余裕のある時しかできないし、これを怠れば戦場で死ぬかもしれない。
米海兵隊の防弾ジャケットも欲しいし、サイドアームをPPKの替わりにSIGにしようかとも考えたけれど、今日は残りはキャッシュにした。
レベル上げに使うには気分の悪いポイントだし、懐もかなり寂しいからちょうど良い機会だよね。

和さんは慣れた手つきでお札を束ね、IDカードと一緒に机に滑らせた。
「ほんと、昔の唯みたいね、憂」
私は苦笑で答える。
「また来てね、憂」
「さよなら、和さん」
私は挨拶もそこそこに、その場を離れた。


街はさびれ、通りを行き交う車はあまりにも少ない。
地下鉄のホームに見えるものは、眠り惚けているアル中か、うずくまるホームレスくらいしかない。
まるで地上から流れ込んでくるゴミを溜める、掃き溜めであることを示しているよう。
ゴミを一掃することを忘れた役所は、地上こそ街としての対面をかろうじて保たせているものの、地下鉄や地下街などは実質、治外法権となっていた。

真っ当な人間ならこんな時間に地下をうろついたりはしない。
もっとも、失業率が鰻登り、生活保護を受ける人が納税者を超えた今、真っ当な人間がどれだけいるのかはわからないけど。

電車に揺られながら、私は今日の戦いを思い出す。
ちょっとぼーっとしてしまうと、トルーパーの足音と、機銃の咆吼が聞こえてくるよう。
とっても静かな電車の中でも、心がなかなか落ち着かない。
「……はぁ」
戦争中毒という職業病は、虚構の中でもありうることが恐ろしい。
私が乗るのは決まって真ん中の車両。乗客はまばらで、寂れた列車がリニア駆動車独特の低い唸りを車内に響かせる。

「よ、憂」
「ひゃあっ!?」
後ろから急に声をかけられて飛び上がる私を見て、律さんがいじわるな笑みを浮かべた。
「ちょうど帰るみたいだったから、一緒に帰ろうかと思ってさ」
「そっか。律さんも地下鉄で帰ってるもんね」
私のあとをつけていたんだろうか、などとしょうもないことを疑ってしまうのも、職業病なのかもしれない。
律さんが隣に座って、列車が動き出した。

「<アヴァロン>の流行してからさ、犯罪がニュースで出るの、結構減ったよな」
「皮肉な話だと思わないか?」
ふいに、律さんがそんなことを言った。
「不況、失業率の増加が犯罪を増やすって原則からすれば……でも私は不思議とは思わないな」
私は途中駅のゴミ溜めを眺めながら答える。

「恨みや異常心理による殺人は別として、強盗や恐喝、誘拐とかの最終的な目的がお金を奪うことである種類の犯罪だと……」
「お金を奪うということは目的であると同時に、結果でもあり得るから」
律さんがおっ、と言いたげな表情を浮かべたあと、こめかみに手を当てて考え込む。

殊にその犯罪が常習犯罪だったならば、動機と結果の因果関係は簡単にひっくり返るもの。
「犯罪だからこそ、それを犯す……」
「なんというか逆説だけど、低収入で高福祉な今の世の中にあれば正論にもなる……と」
つまるところ「飢えと病からは解放されたけれど、それ以上は何も望めない」社会。
「うん」

共産主義が自滅し、取って代わった資本主義の原理が、激しい地域格差とその結果として内戦を世界中で惹き起こし、
頑なで、道理というものに明るくない民族主義や不寛容な宗教がこれに拍車をかける。
そしてこれらを制御しようとするあらゆる試みが失敗に終わったとき、人々は再び自らを檻に閉じこめることを望んだ。

「今の停滞した社会は安定という結果をもたらしてくれる」
「現代でそんな真似ができるようになったのは、科学技術のおかげだな」
律さんが答える。
「資源問題も、政治や経済が縮まれば解決される」
かつて説かれたという単純生産社会……ユートピアは皮肉にも実現され、社会的生産活動の総和を固定された社会となる。
「なんだか中世みたいだよね」


この「技術の平和」……パクステクノロギアを脅かすものがあるとすれば、その恩恵を受ける人々の理不尽な欲望くらいなもの。
「餓死しないで、病気も災害もなく子供を残す、って欲求だけじゃダメ……」
「生きてることや生み出すことへの意義や意味を見出そうとする、って欲求を<アヴァロン>にしまいこんじゃったんだから凄いよなぁ」

「意義や意味」が「理想や正義」に結びつく度、歴史は悲劇を繰り返すことは人々のよく知るところ。
そしてついに自ら管理し得なかったその人間的な欲求を虚構に封じ込めたということは、選択ではなく結果に過ぎなかったけれど、
それを可能にしたのは、またしても科学技術。
「<アヴァロン>の開発者がそのことを予想していた、とまでは?」
律さんの黄色いカチューシャと生え際を見つめながら私は答えた。
「ちょうどピッタリだったのだけは確かだよん……おっ」

地下鉄が駅に停車し、律さんが椅子から腰を上げた。
「私はここで降りるよ。それじゃね……308!」
「うん、さよなら。ガーランド」
「おーうっ! またフィールドで!」
いつものように軽快なステップで駅の構内を駆けていく。
陽気で、とっても人なつっこい愛すべき傭兵30-06を見送りながら、列車は走り出した。

自分の思い描く理想の姿になるため、情熱を傾け、それを正当に評価されて報酬を得る。
その可能性は最低限のルールの下、平等に設定され、しかも現実とは違い何度でも挑戦する権利を与えられる。
誰もが<アヴァロン>に夢中になったのは当然だった。

ポイントを換金して手に入れる現金はもちろん魅力的だし、現金でしか手に入らないものも少なくはない。
それが流行の原動力ともいえるけれども、それはあくまで結果に過ぎない。


<アヴァロン>にアクセスする人々が等しく追い求めるもの……つまりハイレベルのキャラクター。
決して現金だけでは買うことなどできないそれは、資金、時間、努力、情熱、そして自己制御を貫いた者だけが手に入れる。
称賛を浴び、敬意を払われるに値する上級者の称号を得ることができる。

もはやこれは求道者の世界と言っても過言じゃないかもしれない。
少なくとも、金と暇をもてあました道楽者や、粗暴さを売りにするような人間の成しえる業ではない。
さらに社会的地位や縁故の類も一切通用しない。

そこで演じられるキャラクターは、プレイヤーの経験値の配分によって細かく設定された膨大なパラメータの組み合わせで表現され、
ひとつとして同じものはない。それはシステムが存続する限り不滅の存在だ。
復活を約束され永遠の眠りに就いている、英雄のように。

もちろん、どれほどの情熱を傾けようと、所詮はゲームに過ぎないし、そこで獲得した全てはデータに過ぎない、考える人もいる。
私がトイレで痛めつけたあのルーキーたちがそうであるように。

幸せな奴らだと言うほかにない。
現実こそは真実であり、虚構の世界は虚しい、などと考えるその単純な精神構造が。

世間一般の理念にならって語られる現実なんてものは、語る当人のみに帰属するものであって、他人にとってはそれこそ虚構そのものでしかない。
一方ではっきりと意識された虚構は、当人の所属する現実の一部であり、意識されているという次元において誰もが共感できる現実となりえる。
現実というシロモノは、個々が所有する虚構に過ぎないわけで、人は他人の虚構に映り込んだ自分を現実と呼んでいるだけ。

人間が情熱を傾けることの価値は、それが現実であるか虚構であるかを問わない。

その結果が正当に評価される世界が存在する限り、現実を見失うことなどあり得ない。
現実の社会が正当さに欠けるのであれば、現実を見出すために正当な評価の待つ虚構へ情熱を傾ける。
飢えに直結しない多くの犯罪もまた、現実を求めて演じられるひとつの虚構に過ぎない。
現実の可能性を制限することによって、かろうじて危険極まりない人間的な欲求と折り合ったこの時代が、一方で虚構を必要としたのは当然の成り行きだった。


そして<アヴァロン>はその必要性を十分に満たすシステムであり得た。


敢えて難点をあげるとすれば、<アヴァロン>が破壊と殺しに満ちた殺伐とした世界であったことだろうけど……
結局のところ、警察も国も公序良俗の維持を建前としこの殺戮オンラインゲームを非合法としながら、実質黙認していることを見れば、そのへんの事情は察するところだろう。
人が見出す「意義や意味」への情熱は「闘争」つまり「暴力」であったと謙虚に受け止める以外に致し方のないこと。


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最終更新:2010年01月25日 21:19