----

梓「電気消しますね」

唯「うん」


パチッ


梓「……」

梓「(結局、私は泣いている唯先輩を慰めることもできず)」

梓「(泣き止むまで抱きつかれているだけだった)」

梓「(私は唯先輩に何をしてあげられるのだろう……)」

梓「(今はただ、傍にいることしかできない)」

梓「(私は無力だ……)」


----

梓「ゆ~い~せんぱ~い! 朝ですよ~!」

唯「ふぇ……あっ、あずにゃんだっ!」

梓「おはようございます。唯先輩」

唯「おはよーあずにゃん!」

梓「朝ごはん出来てますから。
  顔洗ってきてください」

唯「うーぃー」

梓「ちょっと待ってください。寝ぐせができてますよ」

唯「それくらい自分で直せるよぉ~」

梓「嘘ですね。どうせいつも憂に直してもらってるんでしょう?」

唯「うぐっ、するどいねぇあずにゃん……」

梓「ホラ、動かないでください」サッサッ

唯「うひひぃ、くすぐったいよぉ~」


----

唯「あずにゃんはパン派なんだねぇ」

梓「いえ、ごはんの時もありますよ。
  特に決まってないです」

唯「いちごジャムをたっぷりぬって~っと♪」

梓「付けすぎですよ。太りますよ?」

唯「私は太らない体質だから大丈夫~」

梓「……虫歯になりますよ?」

唯「ぬうっ、こしゃくなあずにゃんめぇ……えいっ!」

梓「ああー! 私のパンに勝手にジャムを塗らないでください!
  ……バター塗ってあったのに……」

唯「バターといちごジャムも結構合うんだよ~」

梓「そんなわけ無いじゃないですか……」モグモグ

梓「あ……美味しい!」

梓「(でもカロリー高そう……)」

梓「それで、学校はどうするつもりですか?
  今日はお休みするんですか?」


梓「私は唯先輩が行きたくないというのなら、それでも良いと思います。
  でも……」

梓「休めばそれだけ授業も受けられないし、みんなだって心配しますよ?」

唯「そんなことくらいわかってるよぉ……」

梓「…… (学校の話題を振っただけで、こんなに落ち込むなんて)」

梓「そのことを秤にかけても、行きたくないということですね?」

唯「……うん」

梓「分かりました。
  じゃあ、ゆっくり身体を休めてください」

唯「うん……」

梓「(休む原因は精神的なものなんだろうけど……
   こう言うしか無いよね)」


----

ぶしつ!


バーンッ

律「梓~、先輩を呼び出すとはいい度胸だなぁ~!
  昨日の恨みハラサデオクベキカ~!」 シャー

梓「律先輩……」

律「ん~? どうした暗い顔して~」

梓「実は唯先輩の様子がおかしくて……」

律「唯が?」

梓「はい。昨晩、泣きながら帰宅しているところを見かけて、
  ひとまず私の家へ連れ帰ったんですが……」

律「まあっ! 中野さんったらダイタ~ン!」

梓「茶化さないでください!」

梓「その後も急に泣き出したり、学校へ行きたくないって言い出したり……」

律「むむっ、確かにそれは唯らしくないな。
  一体何が原因なんだ?」

梓「おそらく昨日私が帰ったあとで、ムギ先輩と何かあったんじゃないかと思います」

律「ムギと? ケンカでもしたのかな?」

梓「それは分かりませんけど……」

律「あの唯と温厚なムギがケンカをするとは考えにくいが……」

梓「でも、昨日の部活の時から唯先輩の様子が少し変でしたよね」

律「そういえばテンションがおかしかったな。
  なんか妙なこと言ってたし」

梓「律先輩はほかに何か気づいたことありませんか?」

律「他に……? そうだなぁ……
  あ、そういえば!」

梓「なんですか!?」

律「いや……でも関係ないかも知れないし……」

梓「どんな些細なことでも良いですから言ってください!」

律「あ、ああ、実は昨日のティータイムの時に……
  ムギが唯のお茶に何か入れてたような気がするんだ……」

梓「何を入れてたかは分かりませんか?」

律「そこまでは分からないが、なんか白い粉っぽいやつ。
  最初は砂糖かと思ったけど、別に入れてたしな」

梓「見てたなら止めてくださいよ! 怪しいじゃないですか!!」

律「いや、だって……そんな重要な事とは思わなかったし……」

梓「(ムギ先輩は唯先輩に一服盛ったんだ。
  ひょっとして、唯先輩が落ち込んでいた理由って……)」


----

ゆいんち!


憂「お姉ちゃん、大丈夫?」

唯「うん、平気だよぉ~」

憂「学校が終わったらすぐ帰ってくるから。
  ゆっくり休んでてね?」

唯「ありがと~うい~」

憂「じゃあ、私は学校に行くね!
  お昼は冷蔵庫に入れてあるから!」

唯「いってらっしゃーい」


唯「はぁ……憂には具合が悪いって嘘ついちゃった……」

唯「でもずっと休んでるわけにも行かないし……」



ミンナガダイスキ エイエンゾッコール♪

唯「メールだ。誰からだろう……」

唯「…………え? ムギ……ちゃん……」




From:ムギちゃん
Sub:No title

もし唯ちゃんが休んだら、梓ちゃんと遊んじゃおうかしら♪



唯「あっ……あっ……」

唯「……そんな……ことって……」

唯「あずにゃん……!!」

唯「あずにゃんは私が守らなきゃ!!」


ダッ!!


----

きょうしつ!


唯「はぁ……はぁ……」

紬「あら、おはよう唯ちゃん♪」

唯「約束通り来たんだから、あずにゃんに手を出すのはやめて!」

紬「うふふっ、それは唯ちゃん次第ね」

唯「……いったい何が望みなの?」

紬「さぁね」

唯「ふざけないで!」

ざわっ……

紬「あまり大きな声を出さないで。昨日のこと、知られたくないでしょ?」

唯「……卑怯者っ!」

紬「私は別に唯ちゃんを脅したい訳じゃないのよ」

唯「恥知らず……! どの口でそんなことを……!」

紬「ふふっ、唯ちゃんからそんなセリフを聞けるなんて思わなかったわ」

唯「私だって……、ムギちゃんにこんなこと言いたくなかったよ……」

紬「けれど、本音でぶつかり合わなければ、相互理解など出来ないわ」

唯「親しい間柄でも、知らない方が良い事はあるよ……」

紬「唯ちゃんは臆病なのね」

唯「私をおちょくって楽しいの!?」

紬「私はいつも楽しいわ♪」

唯「ムギちゃんのことが分からないよ……」

紬「分からないなら理解する努力をすればいいのよ」

唯「またあんなことするの?」

紬「必要なら何度でも……ね」

唯「私はそんなのイヤ!!」


キーンコーンカーンコーン♪


紬「あら、チャイムが鳴っちゃった」

唯「……」

紬「昼休みに体育倉庫へ来て」 ボソッ

唯「」 ゾクッ



律「なんだ? 唯の奴、ちゃんと来てるじゃないか」

律「一応、梓にメール入れとくか」

律「『唯来てるぞ』……っと」




From:田井中 律
Sub:Re:

唯来てるぞヾ(`ε´)ノ




梓「……えっ?」

憂「どうしたの梓ちゃん」

梓「憂、唯先輩は今日お休みだよね?」

憂「うん。具合が悪いって言ってたから、
  家で休んでると思うけど……」

梓「でも律先輩から唯先輩が出席してるってメールがあったんだ」

憂「ちゃんと寝てないとダメなのに~。
  それとも、体調良くなったのかな?」

梓「……」

梓「(なんか嫌な予感がする……)」

梓「(律先輩に『唯先輩から目を離さないでください』ってメールしておこう)」

梓「(放課後、ムギ先輩に昨日のことを問いただしてみよう)」

梓「(唯先輩に薬を使って何をしたのか)」

梓「(その内容によっては、私……)」

梓「(ムギ先輩を絶対に許さない)」


----


律「目を離すなって言われてもなぁ」

澪「どうした律?」

律「なんでもございませんわ。オホホ」

澪「なに言ってんだコイツ……」

律「自分でもそう思った……」

澪「そうか……」



唯「」ガタッ



律「おっ? 唯が席を立ったぞ」 コソコソ

澪「何やってんだオマエ」

律「息吸って吐いてる」

澪「わーおもしろーい。ハラワタ一回転」

律「ああもう、澪の相手なんかしてる暇ないんだよ!」

澪「暇だらけに見えるが……」

律「とにかく邪魔すんなよ!」

澪「律がつめたい……」 ポロポロ

律「泣くなよ……」


唯「」 スタスタ



律「ふむ、トイレに入っただけか」

澪「唯をストーキングしてどうするんだ?」

律「うるせーなー。心配なんだよー」

澪「唯なら大丈夫だよ」

律「何か知ってるのか?」

澪「ちゃんと一人でも用を足せるさ」

律「澪に期待した私が馬鹿だったよ……」

澪「そうか……」




From:田井中 律
Sub:りっちゃんの定時報告☆

唯はトイレに行きまちた(*ノ∀ノ)イヤン




梓「……」

憂「梓ちゃん、疲れた顔してどうしたの?」

梓「ううん、何でもない」

梓「(人選ミスったかな……。澪先輩の方が良かったかも……)」


純「二人とも、お昼はどうするの?」

憂「私はお弁当だよ~」

梓「私は購買でパンを買う」

純「私も購買なんだ~。一緒に買いに行こう!」

梓「うん」


----

きょうしつ!


唯「……」



律「今のところ動きはナシか……」

澪「おい律、ごはん食べないのか?」

律「ちゃんと食べるよ! お母さんかオマエは!」



唯「」 ガタッ



律「! 動くか……?」 ササッ

澪「またストーキングするのかよ……」

律「なんとでも言えー!」


唯「」 スタスタ



律「」 コソコソ

澪「なんだこれ……」


和「ちょっと律、待ちなさい!」

律「なんだよ和~?」

和「講堂の使用届け、また出し忘れてるでしょ」

律「あっ……」

澪「りぃ~つぅ~!」

和「ほら、用紙あげるから。ちゃんと書いて出してね」

律「すみましぇん……」

律「……って、唯はどこいった!?」


3
最終更新:2010年08月27日 23:37