ザザーン
律「うーん……」
澪「おいっ! 律っ!」
律「あれ、どったの澪? てかここどこ? 波打ち際?」
澪「私たち遭難しちゃったみたいだぞ!」
律「そうなんですか」
澪「……っ」ブンッ
律「いたっ!」ゴンッ
律「そんな大時代的な……」
澪「ほら、私たちムギの別荘へ合宿に来ていて」
律「だね。ムギの別荘でかくてびっくりした」
澪「で、クルーザーで遊んでいて」
律「おう」
澪「天気が悪くなって」
律「急にだもんね。びっくりしちゃった」
澪「転覆しちゃって」
律「……マジでか」
澪「気付いたら私たち……」
律「やばいな。救助はまだ?」
澪「知る由もない」
律「他の連中は無事なんだろうかねぇ」
律「よーし、とりあえずこの島を散策しようじゃん」
澪「あ、危ないだろう! 獣がいたらどうするっ!」
律「女は度胸、何でも試してみるものさ」
澪「男じゃないのか、それ?」
律「唯たちも流れ着いているかもしれないし」
澪「そっか。ちょっと怖いけど……」
律「ようし、そうと決まればレッツゴー!」
…
律「ふう、これで一周か。小一時間ばかりかかったね」
澪「狭い島だよね。地理的にはどの辺りなんだろう?」
律「さぁね。一応日本なんじゃない?」
澪「えらく適当だな……」
律「お次はあのジャングルね!」
澪「水着でジャングルはちょっと……」
律「いいからいいから」
澪「はぁ……」
ピギー
澪「ひゃうっ!」
律「あはは、只の鳥よ、鳥」
澪「りつぅ……」ウルウル
律「……あ、あのね。そんな目されてもなにも出ないから」
澪「なんで私たちがこんな目に……。足も痛いし……」
律「そんな悲観的になるもんじゃないの! きっと助けも来るって」
澪「そうだといいけど……」
律「はぁ……」
律「なんの変哲もないジャングルだったな。ちょっとガッカリ」
澪「ふふ、私はそうじゃないかと思っていたんだよ。大体――」
律「事ある度に私の二の腕に、胸を押し付けてきたのは何処のどなたかしらん?」
澪「……っ」ブンッ
律「いたっ!」ゴンッ
澪「それにしても日が暮れちゃったな……」
律「だね。今日は何処で寝ようか?」
澪(シャワー浴びたい……)
律「そうだ! 難破船があったじゃん、難破船!」
澪「どこに?」
律「ほら、さっき島を一周した時に見つけたやつ」
澪「あったようななかったような……」
律「あの中だったら夜露も凌げそうじゃん!」
澪「……そうかな」
律「ようし、ひとっ走りするぞー、澪!」ムンズ
澪「あ、ちょっ、律!」
律「ようし、着いたぞー」
澪「大きな船……」
律「なんか砲台みたいのも着いてるし」
澪「いつの船だ、これ? 国籍は……」
律「どうだっていいじゃん? 早速中に入ろうぜ」
澪(『大和』って書いてある……)
律「……暗いよなぁ。ぼろいし」
澪「当たり前だろ。多分五十年以上前の船だぞ、これ」
律「マジで!」
澪「うん、多分昔々の戦艦なんじゃないかと」
律「戦艦ねぇ」
澪「とりあえず寝られる場所はないのかな?」
律「お腹も空いたし」
律「おっ、ここでいいじゃん。ベッドもあるし」
澪「うん、都合のいい場所があってよかった」
律「それにしても晩御飯なしはつらいなぁ。なんか持って来るんだった」
澪(ハイキングじゃないんだぞ……)
律「この船に缶詰でもないものかなぁ」
澪「あったとしても、食べられるわけがないだろう」
律「なんたって五十年以上前の船だから? 賞味期限切れ?」
澪「そういうこと」
澪「あ、律。これ――」
律「どしたー、澪?」
澪「ほら……」ジャキン
律「なっ、それって鉄砲!?」
澪「そうみたい……。弾も幾つか……」
律「打ち方とかわかる?」
澪「全然」
律「ようし、明日はこれで野鳥狩りでもしようか?」
澪「え?」
ダーン
律「また外したぁ!」
澪(まさか本当に打てるだなんて……)
律「打ち方はマスターしたけどね。簡単、簡単。数学より断然」
澪「さすがというかなんというか……」
律「ようし、澪。今度はあっち行こうぜ!」
澪「ちょっ、ちょっと待ってよ。私、もうお腹は空くし、体は汗臭いしで……」
律「むむ、私もだ……」
…
律「おお、こんなところにオアシスが!」
澪「オアシスっていわないだろう、こういうのは……」
律「さっそく体洗おうぜ!」
澪「あ、律――」
ザッパーン
律「うわぁ! 冷やっこい!」
澪「……この水は飲めそうだな」ペロペロ
律「ほらぁ、澪も早く入んなさいって。冷たくて気持ちいいぜー」
澪「うん、そうしようかな……」
律「どう、澪? これで水は確保できたよねぇ」
澪「よかった……。本当に良かった」
律「後は食べ物が見つかれば完璧。なんて、当面の間は狩猟がメインになるかも」
澪「……律、仮に野鳥を狩ったとして、自分で料理できるのか?」
律「?」
澪「私には無理だぞ」
律「どして?」
澪「だ、だって内臓とか……」
律「あのー、私としては澪に料理してもらう予定だったんだけど?」
澪「絶対無理」
律「私にも無理だかんね! そ、そもそも只の女子高生の私らに狩猟なんて無茶だったんだ!」
澪「無茶なのはおまえだ!」
律「や、やばくない。私たち……」
澪「やっと自分の置かれた状況に感づいたか」
律「それに日用品とかも無いし……」
澪「うん。下手すれば私たち……」
律「う、うそでしょー! 私まだ彼氏すらできたことないのにっ!」
澪「なんて悠長な……」
律「ああ、助けはまだかなぁ。唯たちはいずこへ……」
澪「……」
律「あれ、どったの、澪しゃん? 深刻な顔しちゃって」
澪「最悪、生き残ったのは私たちだけかも」
律「へ?」
澪「……あの悪天。助かった事が奇跡的だよ」
律「ちょっ、澪? 何も考え深げにしなくていいから……」
澪「――唯たちはすでに死んでいるかもしれない」
律「……ゴクリ」
律「だ、大丈夫だって。多分もう救助されてだねぇ、あはは……」
澪「なんでそう言い切れるんだ?」
律「み、澪……」
澪「つまり、私たちの置かれた状況はそれほど深刻だって事だよ」
律「……」
澪「……」
律「――で、でもさ。ネガティブになってたら状況は悪くなるばかりじゃん! ポジティブに行こうぜっ!」
澪「律……」
律「よーし、そうと決まれば食べ物探しだっ! ほらほら、澪もっ!」
澪「……ふふっ、そうだな。私だってこの歳で死にたくなんかないよ」
律「その調子、その調子」
…
律「ほら、このキノコとか食べられるんじゃない? 沢山生えてるし」
澪「キノコなんて危なっかしくないか? 毒にでもあたったら……」
律「でもさ、私もうお腹空いて死にそうだよ……。今朝から、いや、昨晩から何も食べてないし」
澪「それは私もだよ……」
律「……試しに食べてみない?」
澪「えっ?」
律「ほら、ここに昨日手に入れたマッチもあるから火もおこせるぜ」
澪「……」
律「澪、死ぬ時は一緒だからね――」
澪「演技でもない事を言うなっ!」ブンッ
律「いたっ!」ゴンッ
…
律「うめー、キノコうめー」ムシャムシャ
澪「いけるな、これ」モグモグ
律「いやぁ、こんな美味しいキノコに毒なんてある筈がないって」
澪「そう願うよ」
律「醤油でもあればもっとよかったのに……」
澪「バターで焼いたりなんてしてね」
律「醤油バター、最高だ……」
澪「ふう」
律「満腹だ……」
澪「果たして大丈夫だったんだろうか?」
律「多分ね」
澪「……まぁ毒があったら時既に遅しかもだけど」
律「あのな、澪。縁起でもない事を言ってるのは自分じゃないの?」
澪「ご、ごめ……」
律「いいけどさ」
…
律「あれから数時間経ったけど――」
澪「体調になんら影響なし、か」
律「いんや、むしろ何やらみなぎって来るものがあるぜっ」
澪「言われてみれば……」
律「ようし、このキノコいっぱい持って帰ろうぜ。あの船に!」
澪「うん、それがいいかも。キノコばっかりってのもアレだけど」
律「まぁワガママは言えないよねぇ。残念ながら……」
澪「果物とかがあればなぁ」
律「甘いものかぁ。食べたい……」
澪「ムギのケーキ……」
律「……ゴクリ」
律「ふー、今日の収穫はキノコだけかぁ」
澪「仕方ないよ。あれだけ頑張ったんだし」
律「まぁお腹はいっぱいになったよな」
澪「栄養はなさそうだけど。カロリーとか」
律「忌むべき言葉だな、カロリーって。そういえば私、ダイエット中だったような…」
澪「日常生活を送る上ではね。今は状況が違いすぎるから……」
律「いっそ油でも飲みたい」
澪「……私は砂糖が舐めたいな」
…
律「さぁて、今日はどうする~?」
澪「昨日に引き続き、食べ物探しでいいんじゃないか」
律「だね。キノコばっかり食べてると、その内体がキノコになるかも」
澪「そういう映画あったよな……」
律「前に私が見せたやつだよね。澪ったらすごく怖がってたけど」
澪「思い出させないでくれないか……」
律「ようし、置いてくぞ~、澪」
澪「あ、待ってよ!」
律「やっぱりお肉がたべたいな」
澪「と、なると狩猟?」
律「いっそのこと魚でもいいや」
澪「魚? と、なると釣りかな」
律「おおっ、釣り! 私、昔お父さんとやった事あるぜっ!」
澪「どうせ家族用の釣堀だろう。ニジマスやらヤマメやら」
律「違うって。ほら、四角い水槽みたいなので区切られてて――」
澪「だからそれが釣堀だって……」
律「へぇ、そうだったんだ」
律「釣竿はこれで良いかな?」
澪「うーん、ちょっと太すぎるんじゃないか」
律「そういうものなの?」
澪「うん、しなりがある方がいいだろう、多分」
律「多分って……」
澪「よし、これなんかどうかな?」
律「細すぎない? すぐに折れちゃいそうだぜ?」
澪「これくらいが丁度いいだろう」
律「へぇ、澪って釣りに詳しいのな。そんな頻繁に行ってたっけ?」
澪「いや、これが初めてだけど……」
律「ダメだこりゃ」
律「ていうか、糸も針もないじゃん。そんなんじゃ外来魚だって釣れやしないって」
澪「ふふふ、その台詞を待っていたんだ」
律「?」
澪「ジャングルに細いツタが生えていただろう? あれを糸として使ってみる」
律「ふむふむ」
澪「針はこれだっ!」サッ
律「……なにそれ?」
澪「動物の骨だよ。昨日の散策で拾っておいたんだ」
律「すごく曲がっているじゃん、鋭いし」
澪「私が自らの手で削っておいたんだ。おまえが寝静まった後でね」
律「さっすが! 器用だよねぇ、澪しゃんは」
律「で、エサはどうすんの?」
澪「土を掘り返せば虫が沢山いるだろう? それを使えばいい」
律「ミミズとか?」
澪「うん」
律「……へぇ、それじゃあ澪が自分で針に付けてよ」
澪「は?」
律「ミミズなんて触れるの、澪しゃんは?」
澪「絶対無理」
最終更新:2010年01月28日 22:06