律(結局、私がやる破目に……)

澪「律、頑張るんだっ!」

律「はいはい」

ミミズ「ニョロ」

澪「ひいっ!」オドオド

律「オーバー過ぎだから……これでよしっと」

澪「ふう、手間取らせたな」

律「おまえが言うか」


律「ようし、昨日のオアシスに着いたぜぇ」

澪「ここが源泉だな。もう少し下流に行った方がいいかも」

律「釣れるかな、澪?」

澪「さぁて。神のみぞ知るって所かな?」

律「いや、むしろ『釣れる』じゃない! 『釣らねばならない』んだっ!」

澪「その意気だ!」

律「とりゃー!」

ポチャン

澪「後はしばらく待てばいいだろう」

律「ようし、釣れた魚はムニエルにしよう」

澪「残念ながら小麦粉もバターもないよ」

律「冗談なのに……」

律「……」

澪「……」

律「……釣れないね」

澪「全くな」

律「何時間経った?」

澪「えっとな、三十分とちょっと」

律「うそ! もう三時間くらい経ったのかと」

澪「……多分、おまえは釣りには向かないと思うな」

ピクピクッ

澪「――り、律。魚が食付いてるみたいだぞっ!」

律「マジで! ようし――」

澪「まだ引くな! 落ち着いて!」

律(平常心、平常心……)

澪「――今だっ!」

律「おっしゃー!」グイッ

ザッパー

澪「すごい! こんな大きな魚が!」

ピチピチ

律「すごいじゃん、私! やればできる子だったんだね!」

澪「よくやったぞ、律!」ナデナデ

律「ふふふ、もっと褒めてよ」

澪「よーし、よしよしよしよしよしよし……」ナデナデナデ

律「あ、もういいよ。早速焼いて食べよう」

澪「……っ」ブンッ

律「あいたっ!」ゴンッ


律「うめー、魚うめー」

澪「り、律。私にも食べさせてよ」

律「よしきた」サッ

澪「……この濃厚な味わい。生まれてきてよかった」ウルウル

律「大げさだなぁ」

澪「よし、この調子でおまえは釣りを続けてくれ。私は付近を散策してみるから」

律「いんや、澪が釣りをしてよ。私、飽きちゃったから」

澪「……そう言うと思ったよ」

律「んじゃ、頼むね。私、あっちの方に行ってくるから」ダッ

澪「ちょっ、律!」


澪(あれから三時間。魚は四匹も釣れたな。私って案外こういう才能があったかも)

澪(それにしても律はどこに? えらく遅いけど……)

律「――澪っ!」

澪「ど、どうした、律! 顔真っ赤にしちゃって!」

律「あっ、あのね、澪。ム、ムギのクルーザーが流れ着いてたっ!」

澪「ほ、本当かっ!」

律「う、嘘なんてついてどうすんのっ」

澪「こ、こうしてはいられない! すぐに向かおう!」

律「よしきたっ! こっちだから!」

澪「うんっ!」


澪「こ、これは酷い……」

律「ボロボロだねぇ」

澪「中には入ってみたのか?」

律「いんや、まだだよ。見つけたら即行、澪のところまで戻ったから」

澪「そ、そっか」

律「よし、早速中に入ってみようぜ!」

澪「そうだな。もしかしたら誰かいるかも……」

律「唯たちが心配だぁ」

澪「……」コクリ

?「……ううっ」

律「さ、斉藤さん!」

澪「す、すごい怪我……。大丈夫ですかっ!」

斉藤「紬お嬢様……」

律「は、ははは、早く助けないとっ!」

澪「そ、そうだな!」

律「澪はそっちの肩を持って! 私はこっち持つから!」

澪「わかった!」

斉藤「ううっ……」


律「斉藤さん! しっかりしてってば!」

斉藤「ああ、お嬢様のご学友の……」

澪(目が虚ろだ……)

斉藤「ゴホゴホッ、ここは天国ですかな……?」

律「そんなわけないって! 絶海の孤島ってやつ!」

澪「私たち遭難したんです。救助もまだ……」

斉藤「そうなんですか……」

律(澪、ツッコミだ)

澪(やれるわけないだろっ)ツネッ

律「いたたたた!」

斉藤「?」

澪「斉藤さん。ムギ――いや、紬さんたちは?」

斉藤「あいにくですが私には……ああ、一生の不覚です」

律「そっか。皆、海に投げ出されて……」

斉藤「ゴホッ。つ、紬お嬢様の安否が心配です。こ、こうしては……」

澪「さ、斉藤さん! 無理をなさらないでください! お怪我に触りますからっ!」

斉藤「ああ、紬お嬢様の笑顔が見える……」

律「斉藤さん!」

斉藤「こ、琴吹家に仕えて○○年。小生は、小生は立派に仕事を成し遂げる事ができなかった……」

澪「斉藤さん! もう喋らないで!」

斉藤「ああ、お嬢様の花嫁衣装を見れなかったのが心残り――」ガクッ

律・澪「さ、斉藤さん!」


澪「ねぇ、律……」

律「……どうしたの?」

澪「私たち、どうなっちゃうのかな?」

律「……」

澪「皆、皆はどうなっちゃのかな?」

律「……」

澪「ねぇ、律……?」ユサユサッ

律「斉藤さんのお墓を作ってあげなきゃ」

澪「……え?」

律「ほら、澪。足を持って」

澪「う、うん」

律「……澪」

澪「ぐすっ……ぐすん」

律「泣かないでよ」

澪「そ、そんなのっ!」

律「――泣かないでったら!」

澪「ご、ごめん」

律「ポジティブにならなきゃ! 死んだらもうベースには触れないし、作詞だってできないぞ!」

澪「ベース……」ブワッ

律「ほら、澪。私の胸で泣いてもいいんだぞ……」

澪「りつーぅ!」ヒシッ

律(もっと真剣にならないとな)


律「じゃじゃーん! 見てよ、澪!」

澪「コ、コーラの瓶?」

律「そう、あのクルーザーの中から見つけたんだっ!」

澪「クルーザーの中?」

律「明日にもう一回行って、中から物資を調達しようじゃない」

澪「……そうか。あのクルーザーの中なら」

律「そういう事。今日はこのコーラで景気付けといこう。甘いものなんて数日振りでしょ?」

澪「でも、栓抜きが……」

律「こんなもんこうやって引っ掛けて――」キンッ

澪「な、なるほど……」

律「さぁ、まずは澪しゃんからどうぞっ!」シュワワ

澪「……おいしい」

律「ふふっ、冷えてないけどね」

澪「こんなにコーラが美味しいなんて思ったの初めて……」

律「なんせ久々だもんね」

澪「……次は律が飲んだら」スッ

律「ようし、飲んじゃうぞー、私! 一滴たりとも残さないぞー!」グビグビッ

澪「あっ、そんな一気に飲んだら――」

律「――ごほっ、ごほっ。た、炭酸きついわぁ。ああ、なんてもったいない事を」

澪「……ばか律」

律「あはは、バカで結構!」

澪「ふふ、ばかばか律だ、今のは」

律(よかった。澪の機嫌もよくなったみたい)

律「――今日も晴天。探索日和だ!」

澪「それじゃあ早速中に入る?」

律「もちろん! さぁて、何が出るかな何が出るかな~♪」

澪「……」

律「あ、あれ? どったの澪しゃん?」

澪「斉藤さんの血が――」

律「……見なくていいの。いや、あえて見ないようにしないとっ!」

澪「う、うん」


律「お、これなんてどう?」ゴソゴソ

澪「『海洋生物図鑑』……? なるほど。役に立ちそうかも」

律「まだまだあるよ。お次はこれ!」ガサガサ

澪「釣竿とルアーかぁ。あの木の棒よりは役に立つかもね」

律「おおっ、こんなものまでっ!」ガサッ

澪「缶詰と乾パン……よかったぁ。これで文明的な食事にありつける」

律「しかもかなりの量だよ。さすがムギん家のクルーザー。準備がいいねぇ」

澪「しばらくの間は食事に困らないかも」

律「よっし、運が廻ってきたなぁ!」


澪「あっ……」

律「どうしたー、澪?」

澪「あれはムギのバッグ……」

律「なにっ!」バッ

澪「開けていいのかな?」

律「緊急事態だ。やむを得ないって」ジィィィ

澪「な、なにが入ってる?」

律「えっと――」


律「まずは財布でしょ。それに化粧品やら携帯――」

澪「携帯?」

律「携帯……あっ!」

澪「これで救助が呼べるかも!」

律「なんと!」

澪「り、律! は、早く!」

律「う、うん。わかってるって……」カチャ


律「……だめだぁ。アンテナゼロ」

澪「……当然かもね」

律「ん?」

澪「どうした、律?」

律「ほら、この待ち受け画面私らだよ」

澪「本当だ。なんでムギ、こんな写真を……」

律「皆だったらわかるけど、私らのツーショットなんてなぁ」

澪「……」

律「澪、どったの? 妙な顔しちゃって?」

澪「な、なんでもないって!」

律「?」


律「財布の中身はお金とカードのみ」

澪「絶海の孤島ではなんの価値もないな……」

律「お札は焚き付けくらいには使えるかもよ?」

澪「……ムギのお金だぞ」

律「冗談だって」

澪「冗談に聞こえないな」

律「あわよくば助かった後に私らで……」

澪「……っ」ブンッ

律「痛いからっ!」ゴンッ

律「さてはて、今日の探索は終わりだ。服とかもあってよかったねぇ」

澪「すべての物資を運び出すには骨が折れそうだな」

律「しゃーないじゃん? まぁ、骨折り損って事にはならないし」

澪「まったく」

律「とりあえず早急に必要そうなものはもっていこうぜ」

澪「食べ物とか?」

律「それにこれもよ!」サッ

澪「せ、生理用ナプキン?」

律「ほらぁ、澪ってそろそろなんじゃないの、時期的に?」

澪「……いちいち覚えているのか」

律「部長ですから」


澪「ようし、書けた!」

律「なにが?」

澪「手紙だよ、手紙」

律「お生憎ですが、日本郵政もこの孤島には――」

澪「そうじゃない。瓶の中に手紙を入れて流すんだ」

律「メッセージ・イン・ア・ボトルってわけね。なかなか浪漫チックじゃん」

澪「……効果は限りなく薄いだろうけど、やらないよりはマシじゃないか」

律「へぇ、手紙みせてよ」バッ

澪「あ、律!」


律「――私たちはどこやも知れぬ孤島に流れ着きました。このままでは物資が枯渇するのは目に見えています」

澪「恥ずかしいな」

律「よって早急な救援を求めています。この手紙を拾った方、どうか私たちの無事を両親にお伝えください」

澪「……」

律「で、私らの名前と連絡先ね。えらく短いけど……」

澪「筆記用具は限られてるからな。大事に使わないと」

律「なるほど。堅実だねぇ」

澪「場所も皆目検討がつかないからな。救援を求めるってだけ書いても面食らうだけかも……」

律「まぁ淡い期待を抱こうじゃないの。よし、さっそく海に流そうぜ」


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最終更新:2010年01月28日 22:13