音楽室

律「よーし!お菓子も食べたことだし、今日の部活はこれくらいにして帰ろうぜ!」

唯「は~い!」

紬「は~い♪」

梓「今日の部活はって……一秒も練習してないのに……」

澪「諦めたほうがいいぞ梓……一度言ったことは絶対覆さないから、律は」

律「おうとも! 私に二言はなぁい!」

澪「……言っておくけど嫌味だからな」

律「へっへーん!そんなの痛くもかゆくもありまっせーん!」

澪「はいはい……もういいってば」

律「澪は陥落したぞ~! 残るは梓だけ!」

梓「私も帰りますよ……一人で練習してても楽しくないし」

律「オーケー。どうだ唯! 私の話術にかかれば頑固な二人を落とすのもわけないぜ!」

唯「おぉ~! さすがりっちゃんだね!」

梓「話術って……わがまま言ってるだけじゃないですか!」

律「まあまあ細かいことは置いといて……」

澪「まあ今日は律も用事があるしな」

律「へ?何かあったっけ?」

澪「おい……聡に誕生日プレゼント買うから付き合ってって言ってただろ」

律「あ~、そういえば昔そんなことも言ったわねぇ」

澪「朝の話だろ!」

律「わーかってるってぇ。じゃあ私と澪は買い物してくけど、みんなはどうする?」

唯「いくいく~!まだ夕飯の時間には早いもん」

紬「私も行く!」ふんす!

律「残るは梓だけっと」チラッ

梓「私は……」

律「よし決まり!ではではしゅっぱーつ!」

唯紬「お~!」

梓「まだ何も言ってないんですけど」



みち!

澪「で、何買うかもう考えてるんだろうな」

律「や、全然」

澪「考える時間は充分にあったろ……」

律「とは言ってもねぇ……年頃の男子が何欲しいかなんてわかんないしなぁ……」

唯「ベーゴマかメンコなんてどうかな?」

梓「ふふ、唯先輩たらまたそんなギャグを」

律「ありだな!」

梓「えっ」

澪「なかなかいい案じゃないか」

梓「澪先輩まで!?」

紬「ねぇりっちゃん。男子中学生ならシーモンキーとかに興味あるんじゃないかな?」

梓「シーモ……!?」

律「おおー! それは盲点だったな! ムギ、でかした!」

梓(いくらなんでもシーモンキーはひどすぎる!)

澪「そうだ!」

律「お、澪も何かいい案が思いついたか!」

澪「律にリボンをつけて「私をプレゼント~」っていうのはどうk」

律「何言ってんの? 頭大丈夫?」

澪「……ごめん」

梓(さすがに狙いすぎです澪先輩……)

律「梓は何かないか?」

梓「んー、普通にゲームとか」

律「普通にゲーム?」

梓「はい。ゲームです」

律「……」

梓「ベーゴマとかシーモンキーよりは喜ばれると思うんですけど……」

律「……」

梓「あ、あれ……?」

梓(私、間違ってないよね……)

律「まったく一ミリも思いつかなかった……」

梓「ええ!?さっきまでのは素ですか!?」

律「!?」

律「は、はあ!? そそそ、そんなはずないだろ!みんなのギャグに付き合ってただけだってば!」

梓「絶対嘘だ!」

唯「さっすがあずにゃん!鋭いところをついてくるね!」ダキッ

梓「普通真っ先に思いつくでしょ!」


ゲーム売り場

紬「わぁ~!りっちゃん見てみて!ゲームソフトがいっぱい!」

律「そりゃあそうだろ、ゲーム売り場なんだし」

唯「ムギちゃんはこういうところに来るのは初めてなの?」

紬「うん。私ゲームしたことないから」

律「実は私も最近のはさっぱりなんだ。ファミコン世代だからな」キリッ

唯「あずにゃん先生!ここはお願いします!」

梓「まあ無難にモンハンかドラクエでいいんじゃないですか?」

律「じゃあもうそれでいいやあ」

梓「テキトーすぎでしょ!?」

律「だってぇ、選ぶのめんどくさいしぃ」

梓「まあいいですよ……律先輩の弟さんのことだし。私には関係ありませんから」

律「んもう~梓のいけずごけ~」

梓「え?」

律「まあいいや。で?おお、これかモンハンってのは」

梓「そうです。友達同士で通信で狩りができたりして楽しいですよ」

律「へえ。で、こっちがドラクエか。
  確かゆうていみやおうきむこうほりいゆうじとりやまあきらぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺだよな?」

梓「なんですそれ?」

律「お。梓、梓! こっちはなんだ?」

梓「どれです?」

律「この可愛い女の子がいっぱいいるやつ」

梓「ああ、それは俗に言うギャルゲーですね」

唯「ぎゃるげ?」

梓「簡単に言えば主人公が可愛い女の子達とイチャイチャするゲームです」

律「なんじゃいそりは」

澪「ゲームの中で男女の仲になって楽しいのか? なあムギ」

紬「さあ? 私にはなんとも……」

梓「今はこういうゲームが好きな人も多いんですよ。 
  言っちゃえば現実世界で残念な男の子がゲームの中の女の子に囲まれることによって欲求不満の解消をしてるわけですね」

律「へぇ……」

澪「なんか気持ち悪いなそれ……」

梓「まあ私達には縁のないゲームです」

律「ふむ」

澪「聡もこういうのやるタイプじゃないだろ。
  律、モンハンとドラクエどっちにする?」

律「いや、私はこれを買う」

澪「どれ?」

律「この『ぎゃるげ!』ってやつ」

梓「マ、マジですか。止めておいたほうが」

澪「そうだよ。絶対つまらないだろ、こんなの」

律「や、なんかこうビビっとくるものがあったからさ。
  それにこのゲームが私を呼んでいるような気がするんだ」

澪梓「意味わかんね」



りつんち!

律「ただいまー!」

聡「お帰りねーちゃん!」キラキラ

律「ったくもー。普段は出迎えなんてしないのに。
  さてはプレゼント狙いだな?」

聡「へへへ」

律「任せておけって! 今回は聡のために奮発したからな!」

聡「マジですか! それで何買ってくれたの!?」

律「ふふふー。じゃっじゃーん! ゲームソフトだぜー!」

聡「きたああああああ!」

聡「それでそれで!? 中身は!?」

律「まあそう慌てるなって……今出してやるから」ガサゴソ

聡「わくわく」

律「ほい」

聡「うおおおおおおおおおお!お?」

律「へへ、そんなに喜んでもらえると悩んで買った甲斐があったってもんだ」

聡「な、何これ」

律「な、何ってゲームソフトだよ。『ぎゃるげ!』ってやつ」

聡「な、なんでこんなの買ってきたの」

律「さ、聡が喜ぶと思って」

聡「ど、どこからそんな発想が」

律「男はみんなこういうゲームが好きって聞いてな」

聡「……」

律「ど?」

聡「バッカじゃねーの!」

律「な!?」

聡「そんな気持ち悪いゲーム俺がするわけねーだろ! 死ね! あっという間に死ね!」

律「てめえ! せっかく買ってきてやったのに!」

聡「頼んでねーよバアアアアカ! やーい! お前んちおっばけやっしきー!」ダダダ

律「聡ァ!」

シーン

律「ちぇ……なんだよ、せっかくあいつのために買ってきてやったのに。
  もういいよ、自分でやるから」



りつべや!

律「CDをセットしてっと」カチャ

なう ろーでぃんぐ

律「一体どんなゲームなんだろ、ギャルゲーって」わくわく

律「ほうほう、まずは名前を決めるのか。えーっと田井中り…へくちょん!」

ゲーム内の主人公「俺の名前は田井中りぬんらば。ごく普通の高校生だ」

律「あー! 名前がー!」ガーン

律「……」

律「田井中りぬんらば」


ゲーム内の妹「朝だよおにぃ! 早く起きないと遅刻しちゃうよ!」

律「お、おにぃ……」

ゲーム内の妹「ぶ~! 起きないとチューしちゃうんだからね!」

律「いや、兄妹だよね? お前ら兄妹だよね?」

ゲーム内の妹「おにぃの唇……やわらかそう……ちょっとだけ……いいよね?」

律「ははは」

律「ねーよ!!!!」ガガーン

ゲーム内の幼馴染「おはよ~りぬんらば君~。あはは~寝癖すご~い」

律「はあ……なんだよこのゲーム。マジつまんね」

ゲーム内のパンを咥えた女の子「遅刻遅刻~!」

律「こんなの喜んでやる奴、頭イカれてるな。危うく聡に変な影響与えるところだった」

ゲーム内のパンを咥えた女の子「あー! あんたはあの時の!」

律「やーめた。つまんなすぎ。明日売りにいこうっと」ポチッとな

ブゥン

律「さてと! 寝るとしますかー!」バサー



よーるー!

律「すうすう」zzz

律「んん……ダメだよ澪ぉ……そんなとこ触っちゃ……むにゃ」zzz

『……っちゃん』

律「ん……」

『っちゃん……!りっちゃん!』

律「んへぁ!?」ガバ

シーン

律「なんだぁ……? 誰かに呼ばれた気がしたけど……」

シーン

律「き、気のせいか」

律「お、おばけとかじゃ……ないよな……?」

律「……」

律(こぇぇ……)

律「あーもう! 明日も学校なんだ! 寝ちゃお寝ちゃお寝ちゃおー!」ガバ

律「……」

律「ぐぅ……」

『りっちゃん、りっちゃんてば』

律「だー! もう何! 誰! 本気で殺意沸いてきた!」

『私だ』

律「なんだ、またお前か」

律「……誰だー!」

『どもども』

律「す、姿を現せー!」

『ふっふっふ』

律「こ、怖くなんてないんだからな! おばけなんていないんだからな!」

『どうでしょうねー』

律「ぎゃああああああああ!死にたくないいいいいいいいい!
  澪ぉおおおおお!唯いいいいいいいいぃぃぃいいい!
  助けてえええあああああああおおおああ! げっほげっほ! おぇっぷ」

『汚っ!? なんかごめん。あの』

律「ムギイイイイアアアアアア!梓アアアアアアアアアア!!!!!!
  南無阿弥陀仏ナンミョウホウレンゲキョウナムシャカムニブツ」

『お、落ち着いて! 大丈夫! 私はおばけじゃないです!』

律「マジ?」ケロ

『立ち直りはえーなおい』

律「で、誰? どこから話しかけてるんだ?」キョロキョロ

『見回しても私は見つけられませんよー』ニヤニヤ

律「寝る」バサー

『ああ! 待ってください!すみませんすみません!』

律「うっさいな……用があるなら早くしてくれ……」

『え~どうしよっかなぁ』チラッ

律「帰れ。あ、違った。死ね」

『冗談冗談! 言います! 言いますから!』

律「で、あんたは一体何者だよ」

『信じてもらえないかもですけど、私はギャルゲーの精です!』バーン!

律「ふーん」ホジホジ

『今は直接りっちゃんの脳に語りかけてるので私の姿は見えません』

律「そか。で、そのギャルゲーの精様が何の御用でしょうかー」ピン

『はあ……やっと本題に入れる』

律(引っ張ってたのはお前だろ……)

『さっそくですけどりっちゃん、あなたにはゲームの主人公になってもらいます』

律「間に合ってますぅ。すでに人生の主人公なんで」

『そういうわけにいかないんです! りっちゃん、あなた昨晩ギャルゲーをバカにしたでしょ!?』

律「ん、あのつまんないゲームな」

『な!? また言った!』

律「あんなゲーム、ニヤニヤしながらやるとかもうね……」

『あわわ……今の発言で一千万のギャルゲーユーザーを敵に回しましたよ!』

律「そんなにいるんかい! つーかなんで私がそんなことしなきゃいけないんだよ!」

『りっちゃんにギャルゲーの良さをわかってもらうためです!』

律「結構ですぅ。おやすみー」

律「ぐぅ……」

『……えい』

律「ん? う、うわああああああああああ」


「……!……つ! おい律!」

聞きなれた金きり声。
私の意識は未だに夢の中だったけれど、何故かこの声だけは脳にまで届く。

澪「いつまで寝てるんだよ! また遅刻するぞ!」

寝ぼけ眼を少しだけ開くとベッド脇には眉を吊り上げ、腰に手を当てて仁王立ちしている澪がいた。
秋山澪、私の幼馴染にして大親友である。

律「ああ~? 澪~?」

澪「ああ~じゃない! 早く起きろ! まったく、毎朝私が起こしにこないと起きないんだから……」プンプン

毎朝お勤めご苦労様です。
感謝してます。

律「毎朝? 朝に私の部屋まで起こしに来た事なんてあった?」

澪「なんだと……?」

律「え? なに」

ゴツン!

律「いたー!」

澪「少しは人を待たせていることを自覚しろ! バカ律!」

律「いや……だって来た事ないもん……」ヒリヒリ

澪「もういい! とにかくすぐに学校いくぞ! 下で待ってるからな!」

澪は部屋のドアを勢いよく閉め、ドタドタとすごい音を立てながら階段を下りていった。
仕方がない。
澪をこれ以上怒らせるのもまずいし着替えてパンでも咥えて登校するとしますか。


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最終更新:2010年08月28日 23:17