唯「なんだか悪いですなー」

律「いいって。唯は特別ゲストだからな」

唯「えへへ~、りっちゃんこっち来る?」

律「ほう、この私を誘ってるのか?」

私はギラギラした目で唯を睨んだ。

唯「ふふ、りっちゃん目が怖いよー」

律「へっへっへ、怖いのは目だけじゃないぜー。ていっ!」

私はルパン脱ぎで唯のいるベッドに突っ込んだ。
ちなみにルパン脱ぎが失敗したことは言うまでもない。

ドスン!

律「着地せーこー」

唯の方を向き、ふふんと鼻を鳴らしながらどや顔で言った。
唯はまさか私が本当に突っ込んでくると思っていなかったのか、驚いた顔をしていた。

唯「り、りっちゃん! 今何時だと思ってるの!」

律「えーっと、0時過ぎ」

唯「こんなおっきな音出したらお家の人に怒られちゃうよー」

律「大丈夫だって。もうみんな寝てr」

言いかけた瞬間、隣の部屋からドン! という大きな音がした。
隣は聡の部屋である。どうやら今の音で起こしてしまったらしい。
私と唯はお互い顔を見合わせた。

唯「ほ、ほらぁ」

律「やっべー……」

唯「めちゃくちゃ怒ってるよ。壁パンは怒りの最上級だよ」

律「だな」

唯「シーッ」

律「オーケー」

小声で話す私達。
でもさ、こういう時ってさ……。


律「……」

唯「ぷっ、くくく……」

唯の体が小刻みに震える。

律「や、やめ……なんで笑ってんだ……よ……びゃははははははははは!」

唯「あはははははは! りっちゃん笑い方へーん!」

ドン!

唯律「……」

唯「超怒ってるよ」

律「うん」

唯「……寝よっか」

律「ぷくく、だ……な」

唯「だからなんでわら……っく……」

律「プスス……はあはあ……お、落ち着け唯。ホントに。頼むから」

唯「そ、そうだね。このままじゃ悪循環だよ」

律「ああ……ところで唯、もやしって好き?」

唯「え?」

律「もやし」

唯「どうして今聞くの? まあ、もやしは好きでも嫌いでもないよ」

律「そうか、寝ろ」

唯「ぶふwwwwwwwwwwwwww」

律「wwwwwwwwwwwww」
私達はそれから2時間ほど眠れなかった(おそらく聡も)。


次の日私達の目の下に若干クマができつつも、寝不足の体にムチ打ち平沢家へと向かった。
道中、唯は歩きながら寝そうになったり、私は電信柱にぶつかりそうになったりと散々だった。

平沢家に着くと憂ちゃんが出迎えてくれた。
憂ちゃんは私への挨拶もそこそこに、唯の手を取り泣きそうな顔で「本当にごめんね」と言っていたが、
当の唯は何故謝られたのかわからなかったようだ。そりゃそうか。

唯も修理したぬいぐるみを憂ちゃんに手渡しながら謝る。
ぬいぐるみを受け取った憂ちゃんの嬉しそうな顔が印象的だった。

私は姉妹の時間を邪魔するのも悪いと思い、早々に退散することにした。
二人は手を繋ぎながら私を見送る。本当に仲が良くて羨ましく思う。

帰路、私は昨日のお詫びとして聡にコーラでも買ってやろうかと思い、コンビニに立ち寄るのだった。



土曜日のある日。
部活がない今日、暇をもてあました私は肉を求めるゾンビのように夕方の街を彷徨い歩いていた。

「あ、律先輩」

不意に後ろから声を掛けられる。
「律先輩」と呼ぶ人間を私は一人しか知らない。

律「お、梓」

梓「こんにち……えーっと、こんばんは?」

日が沈みかかっている時間帯ではあるが、挨拶の言葉を律儀に言い換えるところが実に梓らしい。

律「どっちでもいんじゃね?」

梓「そうですね」

梓は興味なさげに淡々と返答する。

律(ちなみに全キャラ中、最も攻略が難しいと思われる……)

梓「律先輩は買い物ですか?」

律「や、暇だからブラブラしてただけ」

梓「へえ」

律「……」

律(パラを知っているせいで、梓の一挙手一投足が冷たく感じる……)

梓「どうかしたんですか?」

律「いや、なんでもない。梓はこれからどこ行くんだ?」

梓「えと、ライブハウスに」

律「ライブハウスゥ!?」


まさか軽音部を辞めて外バンを……!?

律「ダ、ダメだ! 私はそんなの許さないからな!」

梓「はい?」

律「私達に黙って外バン組むなんてそんなこと……」

梓「ち、違いますよ! たまたま好きなバンドが出演するから見に行くだけです!」

律「なんだそういうことか……びっくりさせんなよ……」

梓「私はライブハウスに行くだけでそういう発想になる律先輩にびっくりです」

梓は適切に私の心をえぐる。
たった今口げんかでは梓には勝てないだろうと確信した。

律「それで、今日は一人で来たのか?」

梓「いえ、本当は純も来る予定だったんだけどドタキャンされちゃって……」

律「ふっふーん、実は梓って嫌われてんじゃね?」

梓「むぅ……そんなことないもん!」

顔を赤くして頬を膨らませながら子供っぽく怒る梓。
憂ちゃんとは違った妹タイプで、実にかわいらしい。

律(こんなことばかりしてるから梓のパラは低いんだな……)

梓「それじゃあ私はライブに行かないといけないので、これで」

1 私も一緒に行っていいかな。
2 そうなんだ、じゃあ私家帰るね。
3 お前みたいなチンチクリンに好かれるバンドも気の毒だな。バカアホカス死ね。

律(3はもうただの悪口じゃないか)

律(どう考えても1だろ……)

律「私も一緒に行っていいかな」

梓「え?」

律「ライブハウス」

梓「はい、いいですよ」

やけにすんなりOKがでた。
梓にはあまり好かれていないと思っていたのだが……。

梓「チケット一枚余ってますから、はいこれ」

私は梓からライブチケットを受け取る。

律「サンキュ、悪いね」

梓「800円」

梓は真顔で言った。

梓「チケット代、800円です」

金取るのかよ。

余ったものなんだからタダでいいじゃねーかと思いつつ梓に800円を手渡し、急いでライブハウスに向かった。
人気バンドが出演するということもあり、ライブハウス前は人でごった返していた。

中に入るともっとひどい。
狭いライブハウスが人で埋め尽くされていた。

律「混んでるな……」

梓「律先輩がトロトロしてるから……」

律「……ごめん」

ジト目で言われるのは地味にショックである。

私達はライブハウスの最後方に陣取った(というよりここしかなかった)。
ここは私が背伸びしてやっと見える位置である。
これじゃあ、梓が。

律「梓、ステージ見えるか?」

梓「み、見えない……」

梓は「ん~」と唸りながら背伸びするのだが、前にいる男性の背中に視界が遮られてステージを見ることができない。
かと言ってこの混みようで場所を移動することも不可能だった。

律「梓、どうする……?」

梓は背伸びを止め、少し寂しそうな笑顔を私に向けた。

梓「仕方ないですね。まあでも曲だけ聴ければそれで」

律「ごめんな……私がトロトロしてたから……」

梓「え!? さっきのは冗談ですよ! そんなこと気にするなんて、律先輩らしくないですよ」

律「ん……」

なんとかしてライブステージを梓に見せてやりたい。
せっかくここまで来たのに好きなバンドの演奏を見れないなんて気の毒すぎる。
なんとかして……。

私はその場にしゃがみ梓の股に頭を突っ込んだ。

梓「へ!? ちょ、ちょっと律先輩! 何してるんですか!」

律「こうすりゃ見えるだろ、あらよっと!」

梓「うわぁ!」

私はその体勢のまま立ち上がった。
THE肩車。

梓「ちょっと何してるんですか! 下ろして!」

まわりがざわざわし始めたのと同時に、梓の顔もカーっと赤くなる。
「可愛いねー」「姉妹かな」「若いなぁ」などと声が聴こえるたび、梓の顔もどんどん赤くなっていた。

梓「ほ、ほんとにやめてください! セクハラで訴えますよ!」

ポカポカと私の頭を殴る梓。

律「いて! あだ! だってせっかくライブハウス来たのに演奏見れなかったら意味ないじゃん! いて!」

梓「いいから早く下ろして!」

周りの目が気になり始めたのか、梓は体を曲げ、私の頭をガッチリ掴みながら小声で言った。

律「大丈夫だって! 演奏が始まれば周りも気にならなくなるって! ステージ見ろステージ!」

梓「うぅ……」

梓は諦めにも似た唸り声をあげた。余計なお世話じゃないことを祈る。

するとステージには一発目のバンドが登場。
客の視線はステージに釘付けだ。

律「な?」

梓「な? じゃないですよ!」

律「誰も私達のことなんて気にしてないって! それどころか微笑ましい光景だと思ってるかも」

梓「そうですかねぇ……」

律「そうとも! おーし! ラストまでじっくり見ようぜー!」

梓「1時間後ですよ」

律「え?」

梓「ライブ終わるの、1時間後」

律「……」

梓「それまでずっと肩車してるつもりですか?」

律「よ、よゆーよゆー! 私を誰だと思っていやがる。
  軽音部部長田井中律様だぜ? 澪なら3秒で潰されるけど、梓くらいなら3時間でも余裕だっての!」

梓「へえ、それじゃあ部長様の根性、とくと拝見させてもらいます」

ニヤニヤと子悪魔のような顔で笑う梓。
アレ、立場逆転しとる。


時間が経つにつれてライブハウスの熱気もピークに。
最初は嫌がっていた梓も足をパタパタさせ、体を揺らしながら食い入るように演奏を見つめていた。

梓「あはっ、律先輩律先輩! このバンド超オススメです! ギターの人がすっごくうまくてですね」

普段はあまり見せないような無邪気な顔で笑う梓。
残念ながら梓を肩車している私は演奏を見ることができない。

クソ、800円損した。

律「お、おおー……確かに中々のバンドじゃないかー……ははは」

梓の重みに耐えつつ、見えもしないバンドの感想を述べる。
なんて後輩想いで心優しい女の子なんだろう。
こんな私が嫌われるはずがな……

律「も、もう……らめえええええええええええ!」

梓「うわっ!」

ついに梓の重みに耐え切れなくなった私はその場に崩れた。
周りのお客さん、ごめんなさい。


私は這うようにして会場を後にすると、ライブハウス前の歩道に寝転がった。
梓も後に続く。

律「いつつ……」

梓「ごめんなさい……」

律「梓が謝ることじゃねーって。私が勝手にやったことだし。それよりまだライブ続いてるだろ。
  私はいいから見てこいよ。曲しか聴けないだろうけどさ」

梓「いいんです。ここにいます」

そう言いながら梓はハンカチを差し出した。

梓「ふふ、おデコが赤くなってます。律先輩らしいですね」

律「そうかな……」

梓「後先考えないで無茶ばっかりして……」

律「まあそこが私のいいところなんだけどな!」

梓「そうですね」

クスクスと手で口を押さえながら笑う梓は、とても可愛らしい。

律「あーと……ホントにライブ見なくていいのか? 好きなバンドなんだろ?」

梓「いいですってば。今はなんだか律先輩と一緒にいたい気分なので」

素でドキッとすることを言うものだ。こいつは将来男を手篭めにしそうな気がする。

律「そ、そうか……へへ……」

照れ隠ししようにも、顔が赤くなっていくことを自分の意思で止めることができない。

梓「律先輩顔真っ赤」

律「んな!? は~、暑い暑い! やっぱり人ごみはダメだな! 顔あっついもん!」

梓「そういうことにしておきます」

何度言っても梓はこの場を離れようとしなかったので仕方なく近くのベンチに腰を下ろすことにした。

梓「それであのバンドのいいところはですね!」

律「そっかそっか」

こんなに楽しそうに私に話しかける梓を見たことがない(情けない限りだが)。
嬉しそうな顔で流暢に話す梓は本当に可愛くて、憂ちゃんとセットでぜひウチの子になってもらいたいと思ってしまった。

そうこうしているうちにライブハウスからぞろぞろと人が出てくる。
どうやらライブは終わってしまったらしい。

律「終わっちゃったぞ、梓」

梓「だからいいですって。それより、私達も帰りましょうか」

律「だな。今日はごめんな。私に会わなければ普通にライブ見れたかもしれないのに……」

梓「今日は律先輩とたくさん話しができたからそれでいいです。
  あんまり二人で絡むことなかったからすごく楽しかったですよ」

律「そう言ってもらえると救われるよ」

梓「あ、一ついいですか?」

律「ん?」

梓「ライブ途中から見れなかったんでお金返してください。特別に500円にしておきます」

金取るのかよ!




平沢唯
好き度☆☆☆☆
友達度☆☆☆☆☆☆☆
隊員度☆☆☆☆☆☆

秋山澪
好き度☆☆☆
友達度☆☆☆☆☆☆
信頼度☆☆☆☆

琴吹紬
好き度☆☆
友達度☆☆☆☆☆☆☆☆☆
憧れ度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

中野梓
好き度
後輩度☆☆☆☆
お財布度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



律「ムキーッ! あれだけやって梓の好き度ひとつもあがってないってどういうこと!?
  つーかお財布度ってなに!? 私先輩なのにパシリなの!?」


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最終更新:2010年08月28日 23:35