HR

律「ぐぬぬぬ……」

和「さあ、満場一致みたいだし、やっぱりジュリエットは田井中さんね」

律「いちご……」

いちご「だからやだって」

律(くっ、どうすれば………おっ!?)

唯「……すぴー……」

律(これは……ちょっとばかし良心が痛むにせよ、チャンス!)

和「それでは劇、ロミオとジュリエットのジュリエット役は」

律「ちょっとまったぁ!!」

和「……まだ納得がいかないの?」

澪「おい、いい加減話し合いが進まないぞ」

律「まあ聞け! すでにこのクラスの中にジュリエットを演じている生粋の役者がいる! 平沢唯だっ!!」

唯「……」

和「……寝てるだけなんじゃ?」

律「違う、よく見るんだこのねが……表情を! 失った恋人の死を追って、天国に結ばれることに一点の曇りもない確信を抱く、この絶妙な表情!!」

唯「……」

和「……なるほど、一理あるわね」

澪(えぇー!?)

紬(唯ちゃんの寝顔、可愛いわぁ)


律「この平沢唯こそがジュリエット役に適した比類なき技巧派演者であることはお分かりいただけたか?」

和「どうかしら、みんな?」

いちご(誰でも良いから早く決まんないかな)

姫子(唯につとまるかしら)

瀧エリ(ノド渇いたぁ……コーラ……)

律「反対意見はないな。本人からも」

和「それじゃ、ジュリエット役は平沢さんに決定」

澪(これ、いいのか……?)

唯「………すぴー……」

梓「そ、それで唯先輩がっ!?」

唯「うん。起きたらジュリエット」

澪「……そうだこれは夢だ夢だから空も飛べるよーしじゃあこの窓から」

律「早まるな」

梓(澪先輩と違って、全然緊張している様子はないなぁ……)

律「唯ならやってくれる」

紬「頑張ってね、唯ちゃん」

唯「まかせてよ! ……でさ、ジュリエットってどんな役?」

梓「ええええええええっ!?」

律「……今になって自分のしたことが恐ろしくなってきた」

紬「あらあら」

澪(限りなく不安だ……)

唯「さっそく台詞合わせだね」

澪「文化祭まで日がないみたいだしな」

紬「二人に合うように脚本を書いてみたわ」

唯「じゃあさっそく『ああっ、この身に流れる血が二人を引き裂こうものなら、私はお父様を憎むほかありません!』」

澪(うわっ……なんでこんなに上手いんだ!)

律(うむ、キャスティングにミスはなかった)

紬「澪ちゃん」

澪「あ、えっと『なにが悪いということはない。君の血の一滴まで』……」

律「どした?」

澪「ぼ、僕は君をあ、愛して」

唯「……」

澪「………」カァァ

律「こりゃー重傷だ」

紬「ま、まだ初日なわけだし大丈夫よ」

澪「うぅ、ごめんよ……」

和「今後の練習次第できっと上手くなるわ」

唯「そうだ、今日二人で練習しない? 澪ちゃんちで」

澪「そうだな、もっと頑張らないといけないし……悪いな、付き合わせて」

唯「ううん。澪ちゃんとやるの楽しいし」

澪「そっか。ありがとな」

律「はいはい、イチャついてないでつぎつぎ!」

唯「ちぇっ」

澪「イチャイチャなんてしてないだろ!」

紬(ああ、ジュリエットを引き受けなかったのが今更悔しくなってきたりっちゃん可愛い!)



秋山家

唯「『ああロミオ、あなたはどうしてロミオなの!?』」

澪「……」

唯「どうかした?」

澪「ちょっと、自信なくなってきちゃった」

唯「そっか。休憩にしよ」

澪「うん……」



唯「澪ちゃんはもともと大人っぽい雰囲気があるから、ロミオもぴったりだと思うな」

澪「それは嬉しいけど、どうしてもぎこちなくて……」

唯「でも、だんだん良くなってるよ」

澪「そうか? ……なあ、なんでそんなに唯は演技が上手いんだ」


唯「え、わたし?」

澪「うん。最初の一回から完璧になりきって演技してるし、すごいなって……」

唯「うーん、演技が上手いっていうより、私は真剣になれてるだけだと思うよ」

澪「真剣……っていうなら、私もそのつもりだけど……」

唯「違うの。澪ちゃんが好きだから」

澪「え?」

唯「好きって気持ちがホントだから、自然と役にも力が入るってわけだよ」

澪「そ、そうなのか」

澪(あれ? 今さらりと告白されたような……)

唯「だから、澪ちゃんも。ちょっと『真剣』になってみて。ね?」

澪「……わかった」

唯「『いけない、あなたを狙ってお父様の手下が! 早くお逃げになって!』」

澪「『敵に背を向けるなど、騎士のすることではない。私はあなたの前では騎士でいたいのだ』」

唯「『時にわがままを聞き入れるのも騎士のつとめ。この口づけで、どうか聞き分けの良い子になって』」

澪(ここで、キスの演技……って!)

ちゅっ

澪(ゆ、ゆい!!?)

唯「……」

澪「わ、『私はどうやら魔法を掛けられてしまったようだ。足が勝手に動くのだ。ごきげんよう、愛しい人!』」

唯「澪ちゃん、完璧だよー!」

ぎゅう

澪「わっ、こら急に……」

唯「あっ」

どさっ

澪(う、後ろにベッドがあって助かった……)

澪「ったく、気をつけてくれよ……」

唯「う、うん。ごめんね」

澪「でもお陰でかなり上達した気がするよ。ありがとな」

唯「それは澪ちゃんが『真剣』になったから?」

澪「そうかもな」

唯「私は、そうだと嬉しいな」

澪「どういう意味だ?」

唯「澪ちゃんが好きってことだよ」

澪「な、なんだそれっ!」カァァ

唯「えへへ」

澪「―――――!」

唯「―――……――」


律「だいぶ上手くなったな、特に澪」

紬「ここのところずっと、学校が終わった後、澪ちゃんの家で台詞合わせしてるらしいの」

律「練習熱心、大変けっこーだ」

紬「ふふ、りっちゃんもしかして、ヤキモチ?」

律「ばっ!? ん、んんなわけねーだろっ」

紬「幼なじみがとられちゃって、私なんだか寂しい……って顔」

ごつっ

紬「いたーい! りっちゃんのツッコミいただきましたー」

律「……ま、あいつらが上手くやればきっと良い劇になる。期待してよーぜ」

紬「そうね、色々と期待してるわ! うふふふ」



音楽室

梓「……」

じゃんじゃん

梓「……」

ぎゅいーんじゃぎっ

梓「……」

てけてけてけてけ

梓「……」

じゃかっじゃかっきゅーんじゃか

梓「……」

pるるるるるr


……

和「じゃあ、今日は早めに終わりにします。準備もほぼ終わったし、明日の本番へ向けてゆっくり休んで疲れをとってください」


唯「今日はどーする?」

澪「お願いできるか? どうしても不安で……」

唯「うん、大丈夫! 頑張ろー」

律「ほどほどにな。今日まで頑張って来たんだから、疲れもたまってるだろ?」

澪「わかった。最後の確認って感じにするよ」

唯「じゃあね、りっちゃん」

澪「また明日」

律「ああ、バイバイ」


律「……」

紬「やっぱり寂しい?」

律「……」

紬「……」

ごつっ

紬(時間差ツッコミ!?)

律「私達も帰るか」

紬「そうね。雨も降りそうだし」

律「やばっ、今日は傘ないし」

紬「その時はこの傘ね! わたし、誰かと相合い傘するの夢だったのー」

律「男でなくてすまん」

紬「いえ、初めての人がりっちゃんで嬉しいくらいだわ」

律(それって、なんだかなぁ……)



当日

和「劇は一番手だから、さっそく小道具を運び込んでください。頑張りましょう」

澪「あれ? 唯はまだ来てない、のか……」

律「まったくアイツは……本番に遅刻なんて洒落にならないな」

紬「唯ちゃんはのんびり屋さんだから」

律「まったく唯には甘いんだよなームギは」

ぎゅう

紬「り、りっちゃんくるし……」

澪(律のやつ、いつの間にムギとこんなに仲良く……)

紬「あら、唯ちゃん! おはよう」

唯「お、おはよーみんな……」

澪「どうしたんだ、ちょっと顔色悪いぞ?」

唯「そ、そうかなー?」

澪「ちょっとおでこ……動くなよ」

唯「わ、わ」

ぴと

唯(み、澪ちゃん顔がとっても近いです!)

澪(あ、熱い……。すごい熱だ)

澪「唯、これじゃ今日は……」

唯「澪ちゃん!」

しー

澪(クラスメートには内緒にってことか……)

律「熱はどうだ? 澪」

澪「あ、ああ。とりあえずは大丈夫みたいだ」

紬「よかった……」

唯「あはは。顔色が悪かったのは、昨日の夜、緊張して眠れなかったせいなんだ!」

律「おー、さすがの唯も緊張するもんなのか」

澪「今日は……頑張ろうな」

唯「……うん!」


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最終更新:2010年08月29日 20:10