律「はぁ…?別にいいんじゃねーの。今さら何だよ」

唯「だってこのままじゃ皆でオバケ屋敷とかホラー映画とか行けないんだよ!」

律「そりゃそうだけど…、なんだよ今日に限って」

紬「実は唯ちゃん、商店街の福引きで映画のチケット当てちゃって」

律「ははーん、それがホラー物だったって訳か」

唯「イエス!まさにその通りなんだよ!」

律「そうだなぁ、だったら澪に肝試しさせるってのはどうだ?」

紬「なるほど、予めホラーに耐性を付けておくのね」

律「んじゃー真夜中の教室に一晩閉じ込めるっていうのはどうだ?」

紬「分かったわ、空き教室を用意しておくわね」

唯「でも澪ちゃん一人で大丈夫かな?驚いて怪我とかしちゃうかも」

律「そうだな…、んじゃ誰かもう一人一緒に閉じ込めるか」

紬「私が閉じ込められた演技をしてサポートするわね」

律「いや、以外とカンの鋭いヤツだからなぁ」

唯「うーん、じゃあどうしよう?」

律「ちょうどいい人員がいるじゃねぇか。この場に居ない事情の知らないヤツが」

紬「それってもしかして…」

律「あぁ、そうだ。中野を一緒に閉じ込めるんだぜ!」

澪「……ん。あれ、ここは一体。ひぃぃぃ!ま、真っ暗じゃないか!?」ガバーッ

梓「気が付きましたか?澪先輩」

澪「あ、梓!?一体どうなってるんだ、何があったんだ!」

梓「さぁ、私も分かりませんよ。唯先輩達とお茶をしていた所からバッタリと記憶が無いです」

澪「私もそういえばその辺りから…。とにかく早く帰ろう!」

梓「…無駄ですよ。自分の手を見て下さい」ジャラジャラ

澪「な、なんだこれ!?私の左手に手錠が!」ジャラジャラ

梓「パイプと壁の間に鎖を通して私の右手にも繋がれてます。これじゃお互いの身体が邪魔して抜く事は出来ないですね」

唯「澪ちゃんは予想通り驚いてるけど、あずにゃんは意外に冷静だね」

律「中野のヤツ…、折角ムギが小物で雰囲気を盛り上げたっていうのに」

唯「凄いよね、部室からカメラで丸見えなんだもん!」

紬「空き教室に設置して置いたモニターからこっちの映像も流せるわよ」

唯「こっちの?そんな事してどうするの」

律「さらに脅かしてやるんだよ、このボイスチェンジャーとさわちゃんの衣装を使って」サッ

唯「それはさわちゃん最終形態の仮面!」

澪「誰かぁぁー!誰か助けてぇぇ!!」ジャラジャラ

梓「無駄ですよ、私も何度も叫びましたが全く反応が無いです。どうやら誰も近付かない空き教室に閉じ込められたみたいですね」

澪「そ、そんなぁ!なんでこんな事にぃぃ…」グスグス

梓「落ち着いて下さいよ!私だって同じ気持ちなんですから!」

ザザザザザザ…

梓「ん…?あそこのモニターに電源が…」

『ムギちゃんこれかな?このボタンー?』

『うん、これで向こう側に通じてるはずよ。律っちゃんお願いね』

『あー…、あー…。ご機嫌よう澪くん、中野くん。気分はどうだい?』

澪「ひぃぃぃ!で、でたぁぁ、オバケ!オバケ!!」ガタガタ

梓「だから落ち着いて下さいよ!良く見て下さい、ただのお面ですよあれは」

梓「私達を閉じ込めてどうするつもり何です!一体誰なんですか」

『私か…?そう私の名前は……。(唯ー、中野に名前聞かれたけどどうする?)』

『そうだねぇ、んじゃ当たった映画チケットに書いてあるコレにしよー』ゴソゴソ

『(あぁ、コレかオッケー。)良い質問だ、私の名はジグゾウ』

梓「澪先輩、知ってますか?」

澪「そんなの、知らないぃ!お家に帰りたぁぃぃぃ!!」グスグス

『凄いね律っちゃん、澪ちゃん凄い怖がらせてるよ!』

『あぁ、なんか私も楽しくなって来たな!』

『これはゲームなんだよ、中野くん』

梓「ゲーム…?どういう事です!」

『この極限の状況下から抜け出せた時、君達は如何なる恐怖にも打ち勝つ強さを手に入れる事が出来る…。その瞬間を私はこの目で見て見たいのだよ』

梓「恐怖に打ち勝つ強さ…?そんなの怖がりの澪先輩だけで十分です!私は関係ないから帰らせて下さいよ」

『えっ…!?あぁー、そだなぁ、これを乗り越えたらギターが上手くなるとか?』

梓「いや、なりませんよ、何ですかそれは。いいから帰らせて下さいよ早く」

『あー、ったくああ言えばこう言う!個人的に中野が気に食わないだからだぁ!いじょ!』ブチッ

梓「あっ!?コラッ、待つです!!」

梓「よいしょっ…と!」ガッ

澪「あ、あずさぁ…、お前何してるんだぁ……」グスングスン

梓「見て分かるでしょ、この椅子でパイプを折るんですよ。いつまでも、そんな所でメソメソしてないで手伝って下さいよ!」

澪「そんなの無理に決まってるよぉ…。助けが来るまで待とうよ」グスグス

梓「その助けはいつ来るんですか?そもそも来る保証があるんですか」

澪「そ、それは…」

梓「そのいつ来るとも分からない助けなんか待っていられないです!」ガンガン


唯『あずにゃん頑張ってるねぇ、頼りになるよ』

律『それに比べて澪は情けねぇな。この調子じゃ効果無いんじゃないか?』

紬『そうねぇ…、だったら澪ちゃんにも発破を掛けるために次の作戦に移りましょうか』


ザザザザザザ…

『中野くん、澪くん御機嫌よう。どうだい、ここから抜けだす…、ってオイ中野!?お前何やってんだよ!』

梓「何っつ、見ての通りです。このパイプをへし折って、今すぐその仮面をはぎ取ってやりますよ!」ガンガン

律『おい、どーすんだよ!いくら使って無い教室でも、キズ付けたら先生に怒られちまうぞ!』

唯『あうあう!た、大変だよ。どうしよう、どうしよう!』アタフタ

紬『落ち着いて唯ちゃん!律っちゃん、早く次の指令を』


『そんな事をしても無駄だよ中野くん。これはゲームと言ったはずだ、即ち鎖を外す術があるという…』

梓「せいっ!せいっ!せいっや!!」ズガン!ズガン!

『って、先輩の言う事は聞けよ中野ぉぉ!!だからお前はぁ!』

『律っちゃん落ち着いてよぉ。どうどうー』

梓「何なんですか?まだ私に何か用ですか」

『ゴ、ゴホン…。正確にはキミ達二人に伝える事があってな。キミ達はいつか助けが来ると思っているかもしれないが…』

梓「別に思って無いです。パイプを叩き割るです」ガンガンッ!

『だから教室にキズ付けるの止めろって言ってるだろ!聞けよ人の話!!』

唯『さすがあずにゃん…中々手強いね』

梓「全く、分かりましたよ。早く要件を言って下さいです」

律『えっと…どこまで読んだっけ?』

紬『んとね…、ここの34ページの三行目からよ』ペラペラ

『(おう、サンキュー、ムギ)…つまり、ゴールの無いゲームは見ていて退屈なのでな。その手錠を外す方法を用意した』

澪「外す方法!?帰れるのか私は!」ガバッ

『フフ…、勿論だとも澪くん。中野と違いルールを守らなければどうなるか分からんがね』

澪「ま、守ります!守るから早く教えてくれよ!」

『良い返事だ…、そう私はジグゾウ。日々を怠慢に過ごす愚か者に試練を与え、恐怖を克服させる存在…』

澪「じ、地愚蔵……。恐怖を克服させる存在?」ゴクリ

『私はその為だけの存在する。私には肉も骨も魂さえもない……、だから見て見たいのだ、命ある者の成長する様を』

澪「骨も無いって…本当に幽霊!?ひぃぃぃ!」ガタガタ

唯『やっぱり澪ちゃん相手だと雰囲気でるよね。本当の怪人みたい!』

律『そだなぁ、こんだけ怖がってくれるとやり甲斐があらぁ』

梓「それで何をすればいいです?早く言って下さいよ」

『後ろのロッカーの、一番奥から三番目を開くといい。そこに、脱出する為のキーアイテムがある』

澪「三番目…、ここか!」ガチャ

梓「これは…糸ノコギリが二つですか…?」

澪「くっ!この糸ノコギリで鎖を切れば!」ジャリジャリ

梓「よーし、やってやるです!」ジャリジャリ

律『あれ?ロッカーに入ってるのはデッカイノコギリじゃなかったっけ』

唯『ホームセンターの店員さんに聞いたんだけどね、女の子にデッカイヤツは危ないから糸ノコギリの方が良いって言われて』

紬『あら、そうだったの?でもまだ策は残ってるから大丈夫ね』

律『そうだな、ホントならノコギリで頑張ってもらおうと思ってたんだが』


梓「くー…、全然ダメです!こんなチャッチイノコギリで切れる訳無いですよ!」ガッシャーン

澪「……ッ!」ジャリジャリ


梓「はぁ……、月が出てる。もう夜中ですよね、お腹空いたなぁ」

ジャリジャリジャリ…

澪「はぁ…、はぁ……!」ガッ

梓「まだやってるんですか…?無理ですよ、そんな糸ノコギリじゃ」

澪「うん…、でももう少しだけ」ジャリジャリ

梓「無駄だと思いますけど。それより何か食べる物無いですか?」

澪「食べ物か…?確かポケットにキャラメルが。……ほら」サッ

梓「どうも、有り難うです」モシャモシャ

澪「よいしょっ…よいしょっと…」ジャリジャリ

唯『随分夜も遅くなってきたね。私お腹空いて来たよ…』グルルルール

紬『それじゃそろそろご飯にしようかしら?簡単なレトルト物しか無いけど』

律『おぉー頼むぜムギ!私は腹ぺこだぜ』

ジャリジャリジャリ…

澪「はぁ…はぁ…はぁ……」ガッ

梓「先輩って…、目立つギターが嫌だからベースにしたんですよね」モシャモシャ

澪「……ん?そうだけど、どうしたんだいきなり」

梓「それって、ギターの前で分かりにくけどベースも頑張ってるって事ですよね?」

澪「勿論じゃないか、皆が頑張っての放課後ティータイムだろ。急にどうしたんだ?」

梓「なんだか今の状況に似てるなぁと思いまして」

澪「今の状況に…?」

梓「最初は怖がってばっかりで正直頼りない先輩だと思いましたけど、こうやって目立たない所で頑張ってくれる……。澪先輩ってそういう人でしたよね」

澪「あずさぁ…、それは私を持ち上げてるのか?それともけなしてるのか」

梓「ふふっ。さーて、どうでしょうね」モシャモシャ

ザザザザザザ…

澪「またモニターが、ジグゾウか…!?」

梓「出ましたね、エセサイコ野郎です!」

ジグゾウ『やぁ、中野くん、澪くん。どうやら空腹の様子だね。常々人間と言う者は不便だ…、私の様な虚無の存在ならば』モグモグ

唯『あ、この余ってるカレー食べてもいいかな?』モグモグ

ジグゾウ『あ、ズリィーぞ唯!それは私が狙ってたんだぞ』

紬『ごめんなさい二人とも、それは梓ちゃん達の分なの我慢してね』

ジグゾウ『えーっと…、あぁ、それじゃ次いくぞ中野…』

梓「なんなんですか、そのやる気の無さは!思いっきりカレー食べてるじゃないですか!完全に空腹じゃないですか!」

ジグゾウ『又してもキミ達にチャンスをやろう。何度も言うがゲームとはゴールが無くてはつまらないのでな』

梓「あ、スルーしやがったです!」

ジグゾウ『たが、ただチャンスをやるだけではつまらない。そこで一つの代価を背負ってもらう』

澪「代価……、等価交換という事か?」

ジグゾウ『トウカ……、何?おい、唯いま澪のヤツなんて言ったんだ!』

唯『そ、そんな事言われても分からないよ!イトーヨーカードウの親戚かな?』

紬『等価交換っていうのは等しい価値の物を交換するって事よ』

ジグゾウ『(なるほど、サンキュームギ!)そうだその等価交換だ。まずはチャンス、それは扉の横のロッカー。つまりキミ達から一番離れたロッカーにその手錠を外す鍵が入っている』


澪「カギ!?それさえあれば助かるんだな!」バッ

梓「待って下さいよ先輩、私達パイプを介して繋がれてるんですよ。とてもあのロッカーまで届きませんよ」ジャラジャラ

ジグゾウ『片方を最大まで引っ張ればなんとか届くかもしれんぞぉ。クッークックッッ』

澪「…くそッ、ジグゾウめ!」ジャラジャラ

ジグゾウ『そしてもう一つ、次はリスクだ。実はキミ達の部室に爆弾を仕掛けさせてもらった』

梓・澪・唯「『ば、…爆弾だってぇッ!?』」

ジグゾウ『…いや、なんで唯まで驚いてんだよ?』

紬『唯ちゃん、あれは台本だから本当に爆弾なんか無いのよ』

唯『え…?あ、そだったねビックリしたよ!』


梓「どうしたですッ!早く続きを言うです!」

ジグゾウ『えーっと。場所は食器棚の中、爆発までの時間は約半日だ…』

澪「は、半日…!?そんな時間に爆発したら軽音部のみんなは!」

梓「卑怯ですよ、皆は関係無いです!早く爆発を解除してくださいよ!」

ジグゾウ『言っただろう等価交換だと…。一度は失ったキミ達二人の命をもう一度助かるチャンスを得たんだ。即ちキミ達は他の部員命をもらったという事だ』

梓「ふ、ふざけやがってです!絶対ここから出て皆を救ってやるです!」


2
最終更新:2010年08月31日 20:09