律「はぁ、やれやれ。どうにかこのミッションもクライマックスだな」

唯「ホントだね疲れたよぉ…」

律「お前何にもしてねーじゃんか」

紬「ふふっ、横から見てるだけでもハラハラして体力を使うのよ」

唯「特に律っちゃんだからねぇ、汗だくになったよ!」

律「悪かったな。唯よりはマシだと思うけどなぁ!」グリグリ

唯「あぅあぅ…!律ちゃん痛いよぎぶぎぶ!」バタバタ

紬「後は澪ちゃんと梓ちゃんの共同作業で教室を抜け出して…」

律「この部室のドアを開けた瞬間のマヌケ顔を拝むだけだな。いやぁ楽しみだぜ!」

唯「…ん?あれ、あずにゃん達なんだか戸惑ってるみたいだよ」

律「あん…?なんでだ」ヒョイ


梓「くっ…!すいません、澪先輩もうちょっと壁にめり込んでもらって良ろしいですか?」グイグイ

澪「痛だだだたぁ!良ろしく無いぃ!全然よろしく無いぃぃぃ!!」ガリガリガリガリ

梓「もう少し…!あと3センチです!」グイグイ

澪「だがら゛ぁぁ!無・理だぁぁ、圧死するだろうッ!」グイッ

ドサッ!

梓「痛たた、急に引っ張らないで下さいよ!」サスサス

澪「どう考えても無理だよ梓。この長さじゃ届くわけない…」

梓「諦めないで下さいよ先輩!唯先輩やムギ先輩がどうなっても良いんですか!」

澪「くっ…、そうだな。皆の命が掛かってるんだな。あのジグゾウの事だきっと何か方法があるはずだ……。考えろ、考えるんだ秋山澪!」


紬「あら、おかしいわね?あんなに引っ張らなくても届くはずなのに」

律「なんだなんだ?おい唯、お前長さの調整間違ったんじゃないだろうな?」

唯「うーん、ちゃんと計算したんだけどなぁ。澪ちゃん身長160センチだよね?」

律「あぁ、そうだぜ。んで梓が140だろ。おっかしーな、なんでだ」

紬・唯「……え?」

律「…あん?どしたの二人とも、ハトが豆鉄砲食らった様な顔して」

唯「律っちゃん!あずにゃんの身長は150センチだよ!」

紬「10センチも違えば届かないわけだわ。大変どうしようかしら!」

律「中野ってそんなあったのかよ…。仕方ない、ムギなんか他の策残って無かったかな」

紬「えーっと、ちょっと待ってね。確か台本の…」ペラペラ


梓「あー!駄目です、一体どうやったら。こうなったらまたパイプを椅子で叩きましょう二人ならきっと!」

澪「…駄目だよ梓。そんな椅子なんかじゃ、とてもじゃないけど半日以内に抜け出せないよ……」

梓「だったら唯先輩達を見殺しにするっていうんですか!またそこでイジケてるつもりですか!影で頑張るんじゃ無かったんですか!?」

澪「分かってるよ…、そうだよ、影で頑張るさ」フラフラ

梓「み、澪先輩…?どうしたんですか」

澪「私分かったんだよ、ここを抜け出して爆弾を解除する方法が……」

梓「えっ!?本当ですか、凄いじゃないですか!」

澪「この糸ノコギリ…覚えてるか?」ガチャ…

梓「鎖を切るヤツですよね?もしかしてこれでパイプを?それこそ無茶ですよ」

澪「違うさ…、これは鎖を切る為でも、パイプを切る為でも無い……」サッ

梓「え…、澪先輩、何をするんですか!」ザッ

澪「これは、手首を切断する為にあるんだよぉぉぉぉぉッ!」ブォン

ザッシュッ!!

梓「ぐっ…!?制服の裾が…!何をするんですか先輩!」

澪「……こうするしか無いんだよ。この方法しか私達の軽音部を救う方法は無いんだよ…」カチャ

梓「冗談じゃないです!?だったら自分の左手を切断して下さいよ!」

澪「忘れたのか梓…?私は左利きだよ。いいだろ梓…、ギターは二人いるんだ。だからこの方法が一番なんだよッ!」

梓「いいから、まずは落ち着いて下さい!きっとこれもジグゾウの罠なんですよ、仲間割れする私達を影でほくそ笑んでるんです!」

澪「……くっ!?ジグゾウ、これで満足なのか!これが見たかったんだろう、恐怖を乗り越え、保身に執着する醜い私をッ!!」ブォンブォン


律「あ、アルェ…?澪ちゅわぁん…何してるの…」ガタガタ

紬「しまったわ…うっかり失念していたわ。澪ちゃんは追い詰められるとヤる時はヤる子だったって事を…」

律「いや!確かにヤる子だけど、これは違うよね!?完全に殺る子になってるじゃん!」

唯「た、大変だよ!早く止めないとあずにゃんの右手が!」

律「おいッ!コラ澪止めろ!冗談だよ、全部芝居なんだ!……ッ、クソ!モニターの電源が入らねぇ!」ドンッ

紬「待って律っちゃん!今すぐマイクの電源を立ち上げるから!」ガチャリ

律「くっ!待ってられるかよ!」


澪「諦めろ、梓…。この距離じゃ次は避けられない…」サッ

梓「良いんですか、こんな事絶対にバレますよ!軽音部の皆を救う為とはいえ、決して許される事じゃない。好奇の目で見られ続ける毎日…、そんなのに耐えられるんですか!」

澪「覚悟は出来てる…。軽音部を守る為なら私はどんな屈辱でも甘んずるつもりだ。それが私、軽音部の影だ…」

梓「そうですか…、分かりました。分かりましたよ。でも、私は澪先輩に手首を斬られるなんてゴメンです」ガチャ

澪「だったらどうする…?そのもう一つの糸ノコギリで私の左手を切断するか…」

梓「それこそジグゾウの思う壺…。そっちはさらにゴメンこうむりますよ」

澪「……………」

梓「私は澪にも…、ジグゾウにも思い通りにはさせない!私は私の思った通りの事をやるまでです!」ガッ

ザシャァァァァ!!

澪「なっ!?…じ、自分の首を…!!」ガシャン!

梓「ぐ……うぅ…がぁ…」ドサッ

澪「あ、梓ぁぁ!お前何でこんな事!」ガバッ

梓「ふふっ…、どうしたんですか…先輩。私の右手……切り落とすんじゃ…、無かったんですか」

澪「馬鹿ッ!喋るな、早く首を止血しないと!」サッ

梓「やっぱりそうです…、先輩はそういう人なんですよ…。いくら狂ったふりをして自分に罪を被せようとしても…、それを目の当りにすれば躊躇し仮面が外れてしまうんです……」

澪「梓…、お前気付いて…!?」

梓「このままじゃ、いつかは私がその方法に気付き澪先輩の右手を切り落としてしまう……。そうすれば私は一生消える事のない心の慟哭を抱えていかないといけない…」

澪「……くっ!」ポロポロ

梓「でも、駄目ですよ…、先輩じゃ無理です。こうやって私の為に泣いてくれてる先輩に、私の右手は切断できません…」

澪「いい!もういいから喋るな!きっと見つけるから、梓も私も生きてここから出る方法を!」

梓「無理ですよ…、それは澪先輩が一番良く分かってます。……もう私は助かりません。だから……、だから私の亡骸なら、躊躇する事なく切り落として下さい……よ」

澪「黙れって言ってるだろ…!梓ぁぁぁぁぁ!」ガッ

梓「私らしく無い最後でしたね……、どうやら最後の最後で私の仮面も外れ……」ガクッ

澪「あ…、梓ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


律「澪の叫び声っ!?くっそー間に合えぇぇ!」ダッダッ

唯「あずにゃーん!今いくからね!」ダッダッダッ


澪「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」グイッ!グイッ!

バギィィィィィッン!

澪「く、鎖が千切れた……!?まさか糸ノコギリで斬った個所が脆くなって…。よしっ!」ガバッ

梓「…………………」

澪「梓!お前は絶対に死なせはしない、今すぐ医者に連れてってやるからな!」ダッダッダッ


律「澪の叫び声の後にデッケェ衝撃音が…!一体何が起こってるんだ!」タッタッ

紬「嫌な予感がするわ…。無事でいて二人とも!」タッタッ


澪「はぁ……はぁ…、くっ、くそッ!体力が……」ズリズリ

律「澪ぉぉぉッ!大丈夫か澪ぉぉ!」ダッダッダッ

澪「律ぅ…?幻覚が見えてたって事は私も限界か…」フラフラ

律「幻覚なんかじゃねぇよ!後で説明すっけど、取り敢えず私は本物だ!大丈夫か!?」

澪「本物…?わ、私は大丈夫だ、それよりも背中の梓を……」

唯「あずにゃん…!?ど、どうしたの!首から血が!」

澪「私のせいなんだ、私の性で梓が……」

律「ち、違う……」ガクガク

紬「り、律っちゃん?どうしたの…」

律「私のせいだ…!私が中野の……、いや梓の身長を間違えたりしなきゃこんな事にはならなかったんだよぉぉぉぉッ!すまねぇ、梓ぁぁぁぁぁ!!」ドンッ!

梓「やれやれ、久し振りに梓って呼んでくれましたね。一度へそを曲げるとしつこいんだから」ムクッ

律「それはお前が私のケーキを食べるから悪……。え?アルェ…?」

紬「あ、梓ちゃん…。あなた無事だったの!?」

唯「えっ!?…あれ、でもあずにゃん血だらけで!」

梓「あぁ、これ澪先輩にもらったストロベリーキャラメルです。溶けてベトベトになったヤツですけど」ネチャア

律「キ、…キャラメルゥ…?あらぁあらぁ、そうでしたのぉ、梓ちゃぁん」

梓「澪先輩を死んだフリでやり過ごして、不意打ちでもしてやろうと思ったですけど。まさか鎖を引千切るなんて…。流石は追い詰められればヤる人ですね」

澪「あ、…あはは…は……は…」ガクッ

紬「み、澪ちゃん!しっかりして澪ちゃん!」ユサユサ

唯「あ、あのねぇあずにゃん!これは地愚蔵っていうとっても怖い怪人の仕業でね!実在の人物・団体とは一切関係が…」

梓「知ってますよ、今私の目の前にいますから」ビッ

律「あらぁあらぁん…。いつの間に気付いてたのかしらねぇ?」ガクガク

梓「ジグゾウとか言い出してモニターに出て来た時からウスウス感じてましたが…。あれだけグダグタな演技で騙せると思ってたんですか?」

唯「うーん皆で頑張って考えたんだけどなぁ」

梓「はい、そのお陰で私も澪先輩もジグゾウにはとっても楽しませてもらいましたよ」ニコッ

紬「あらあら、それなら頑張って脚本を書いたかいがあったわ」

梓「…という訳で、私がお返しにアズゾウのゲームに強制招待してあげますです」ベキベキ

唯「あ、あずにゃーん…なんか怖いよぉ」ガクガク

梓「そうそう、唯先輩…。一つ教えてあげますよ」

唯「な、何かなあずにゃん…?」

梓「先輩が楽しみにしてた例のホラー映画。犯人が死んだフリしてるんですよ、私みたいに」

唯「………え?」



―三日後―

ガチャリ

唯「た、ただいまぁ………ぅぃー…」フラフラ

憂「あ、おかえりお姉ちゃん!…あれ、なんだか痩せてない?夏バテかな」

唯「…ぅぃー」

憂「梓ちゃんの家で軽音部の皆お泊まりしてたんだよね、何してたの?ちゃんとベッドで眠れた?」

唯「アズゾウゲームだよ…、リノリウムの床は夏でも冷たかったよ…ぅぃー」フラフラ

憂「なにそれ?面白いお姉ちゃんだね!」

ピポパポ、ルルルー

澪「あ、もしもし律?あのさぁ、こないだの部活でお茶した後から記憶がハッキリしないんだけどお前何か知らないか?……え?アズゾウゲーム?全身鎖で巻かれて部室に放置?何言ってるんだ……」


憂「そういえば明日行くんだっけ?この前のホラー映画。お姉ちゃん楽しみしてたもんね!」

唯「ふぇ…!あれ?うん、いいよ。憂が行ってきなよ!」サッ

憂「え?いいの!?でも、お姉ちゃんに悪いよ」

唯「うん、私はいいからさ。純ちゃんとかアズゾウニャンとかと行っておいでよ!」

憂「アズゾウニャンじゃなくてあずにゃんでしょ。でもダメだよ、お姉ちゃんジグゾウをみたいってずっと言ってたじゃない」

唯「もうアズゾウは懲り懲りだよぉ!」ダッ

憂「ちょっとお姉ちゃん!アズゾウって何?ねぇお姉ちゃんー!」



さわこ「はぁ…、夏休みだっていうのに空き教室の掃除なんて災難だわ…。こういうのは生徒にやらせるのが…」

ガチャリ

さわこ「………な、何。この惨劇は…」ガタガタ

=おしまい=




最終更新:2010年08月31日 20:11