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2015年、10月17日―。


都内のK大学



田井中律は、桜ケ丘高校を卒業し、1年浪人してこのK大学に入学した。

しかし、面倒くさがりな性格からか学校をサボりがちで単位を取り損ねてしまった。

1年浪人、1年留年。という形で律はこのK大学にいまだに在学中である。


いつもの自販機で80円のカップ紅茶を買う。

そしていつものベンチに座り、周りの生徒たちを観察しながら紅茶を口にする。

律「むぎの紅茶、また飲みてぇなぁ…」

5年前、軽音楽部の5人でお茶をしていたあの頃を思い出して、律は苦笑した。

律「もうすぐ…5年か…」


2010年、10月19日……

平沢唯は死んだ―。



2010年、10月19日

今日は桜ケ丘女子高の文化祭の日。

軽音楽部の出し物はもちろんライブ演奏である。

部長でドラムの田井中律、ベースの秋山澪、キーボード琴吹紬、リズムギター、1年後輩の中野梓

そして、リードギター&ボーカル平沢唯。

文化祭の日の朝のことだった。

HRが終わった3-2の教室で3人は話していた。

澪「ったく唯の奴、昨日遅刻するなって言ったのに…。今日はみんな空き時間がかぶってるから少し練習したかったけど…」

律「ま、唯の事だ。また寝坊でもしたんだろ」

紬「まぁ、ライブは13時半からだから…。後でメールしてみるわ」

澪「うん…そうだな。」

しかし、唯からのメールの返信はなかった。

時間はもう10時。何かあったのか心配になった3人は唯の妹の憂に聞いてみようと1学年下の2-1の教室に顔を出した。

律「こんにちわーっと、」

梓「あっ、律先輩」

律「おっ梓、憂ちゃんは?」

梓「憂、まだ来てないんですよ…めずらしく遅刻かな…」

律「えっ?」

梓「唯先輩からなにか聞いてないですか?」

澪「そっそれが…唯も来てないんだ…」

梓「えっ?唯先輩もっ!?」

紬「それで憂ちゃんが何か知らないかなと思って聞きに来たの」

梓「そ…そうだったんですか…」

律「どういうことだ…」

梓「ちょ、ライブ…どうするんですか?唯先輩とは連絡取れたんですか?」

紬「それが…さっき電話もかけてみたんだけど電源が入ってないみたいで…」

梓「そんな…何かあったんですかね…私も憂に電話してみますっ」

澪「頼む梓。私たちは職員室に行ってさわ子先生に聞いてみよう。学校に連絡が行ってるかもしれない」

律「そうだな。」

急いで3人は教室を出た。



2010年、10月19日

08:05

いつもの通学路、唯と憂は2人並んで歩いていた。

今日は珍しく唯が早起きをしたため2人で余裕を持って家を出ることができた。


憂「お姉ちゃん、今日ライブ頑張ってね!」

唯「ありがと憂~今日は新曲披露なんだよ~」

憂「お姉ちゃん家でもたくさん練習してたもんね!楽しみだな♪」


いつもしているような雑談を繰り広げながら2人はいつも必ず通る大きな交差点に差し掛かった。

今日は運が良かった。学校までにいくつかある信号機、雨の日は必ずと言っていいほど引っかかる。

別に今日は雨の日ではないが1回も赤信号に引っかかることなくこの大きな交差点の横断歩道に差し掛かった。

勿論、運は良く青信号。歩くスピードを落とすことなく横断歩道を横断した。

ちょうど横断歩道の真ん中に差し掛かった時。それは起きた。

グオ――――――ッッ!!
ぼんっ!!


物凄い音とともに、憂の左隣にいた唯が消えた。



キキイイイイィィィッッ!!!ガシャ――――ン!!プ―――――――――――――――――



憂「えっ?」



割り込むように1台の乗用車が唯と入れ替わりで憂の左隣に入ってきた。

そして憂は左腕の感覚がないことに気付く。

憂はようやく状況を把握した。



憂「お姉ちゃんッッ!!お姉ちゃんッッ!!!」




ピーポーピーポーピーポー


憂「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!!大丈夫!?しっかりしてお姉ちゃん!!」

医師「ほら、君も大人しくしていなさい!左手が折れているんだよ」

憂「そんな…っ!私の怪我よりお姉ちゃんがっ!!」

医師「最善の努力はします。後の事は私たちに任せて、君は早く自分の治療を―」

憂「ううっ…お姉ちゃん…っ」


―手術中―


刑事「時速50kmですか…?」

警部「ああ。登校中の女子高生の真後ろから直撃だったそうだ…」

刑事「そんな…その女子高生は…?」

警部「後ろからまともに跳ねられたらしいからな…助かるかどうか…今、治療中だそうだ…」

刑事「そうですか…。運転手のほうは…?」

警部「運転手も重症だそうだ」

刑事「そうですか…無事だと…いいですね」



同日
10:40

律、澪、紬の3人は小走りで1階の職員室に向かった。

この時、この3人は唯と憂がこんな状況になっているなど思ってもいなかった。

コンコン

律「失礼しまーす。さーわこ先生っ…え…」

職員室、入ってすぐ左手のさわ子のデスク。

さわ子はなにやら電話で誰かと話しているようだった。

澪「電話中だ…ちょっと待ってよう」

律「うん…」

1分くらい待つとさわ子は受話器を置いた。

律「さわちゃん!」

さわ子「りっちゃん…あなたたち…」

律「どしたの?なんか急用?」

さわ子「あっいや…」

律「そんなことよりさわちゃん、唯と憂ちゃんがまだ登校してきてないんだ。学校に連絡来てる?」

さわ子「……」

澪「さわ子先生…?」

さわ子の表情に、3人は戸惑いを見せる。
何かあったのか

律「えっ?……どうしたんだよ…さわちゃん」

さわ子「ちょっと、来て―」

そう言うとさわ子は3人を職員室の外に連れ出した。

今日は文化祭で各階にはいろいろな飾りやポスターが飾ってあったが、この1階だけはいつもと変わらない。

各クラスの出し物の宣伝ポスターがちらほら貼ってあるくらいだろうか。

さわ子「あなたたちにだけ…特別に言うけど…」

律「何?」

さわ子「唯ちゃんと憂ちゃん…今朝、交通事故にあったの。いま病院よ」

一同「…えっ?」

3人は耳を疑った。

交通事故だって…?

唯と憂が?


律「えっ?ちょっ…それ本当なのか!?」

さわ子「ええ、今治療中だそうよ」

澪「そっそんな…」

紬「そっそれでっ!よ…様態の方は…?」

さわ子「そこまではまだ…」

この時、実はさわ子は知らされていた。2人とも「重症」だと。

特に唯の方が大変危険な状態だということが。

あえて言わなかったのだ。この3人の事だから学校などそっちのけで病院に駆けつけかねない。

しかし―。

律「さわちゃん、病院どこ!?」

さわ子「えっ!?駄目よ。教えられないわ。あなたたち一応文化祭とはいえ授業中なのよ?」

律「そんな…」

澪「2人は無事なんですか!?」

さわ子「本当にまだ詳しい情報が入ってきてないのよ。」

律「あたしらが病院行って確認してくる!中央総合病院?」

さわ子「駄目よ!!ほら、クラスの出し物の準備始めなさい。」

紬「こんな状況で文化祭の事なんか考えてられませんっ!」

さわ子「・・・」

紬「教えてください…先生…」

さわ子は紬の今にも泣き出しそうな声を聞いて、仕方ないわねという表情で口を開いた。

さわ子「……中央総合病院よ。自分たちのライブの時間までには帰ってきなさいよ。」

律「さわちゃん…」

さわ子「絶対よ。帰ってきなさいよ。約束だからね!」

一同「はい!!」

さわ子「このことは絶対に他言しないこと。あなたたちに特別に言ったんだからね」

律「うん。わかった。ありがとさわちゃん!よし、行くぞっ!」

3人は走った。教室を出て病院に向かって全力で走った。

一番足の速い律が2番手に付けている紬を2、30m近く離し、学校を出てから1番最初の交差点に差し掛かった。

律「はぁ、はぁ…どこだっけ!?中央病院」

澪「まっすぐ!ずっとまっすぐだ!」

遠くから聞こえた澪の声を聞き、律はまた走り出す。

律(唯…憂ちゃん……無事だよな…?頼む無事でいてくれ…っ!)




11:10

―桜が丘中央総合病院―


1度も止まることなく律は病院にたどり着いた。

体育の授業でたまにある地獄の持久走の時はいつもサボりがちで何周走ったか誤魔化すくらいだったが、今日は走った。

律「はぁっはぁ…着いた…どこだ…どこに行けばいいんだ…?」

紬「りっちゃんっ!…はぁはぁ…」

2、30秒遅れで紬が病院に到着した。澪はまだのようだ。

律「これ、どこに行きゃいいんだ?」

紬「受付の人に聞いてみましょう…」

病院はさほど混んではいなかった。受付のカウンターの前は誰もいなかった。

律「あのっ!」

受付「はい?」

律「今朝、交通事故でっ…女子高生2人が運ばれたと思うんですけど…っ!」

受付「少々お待ち下さい」

ここでようやく澪が到着した。

澪「はあ……はぁ…律…どうだった!?」

律「まだわかんない…」

受付「えーとですね…そちら左手の通路をまっすぐ進んで頂いて、階段を1つ降りて、右に進んで頂いて、突き当たりの手術室の方でただいま治療中ですね」

律「ありがとうございます!!行くぞっ!!」

病院なのでさすがに走ってはまずいと思ったのか、律は早歩きで階段に向かう。

律「階段降りてどっちだっけ?」

紬「右の突き当たりよ」

3人は階段を下りて右に曲がった。

律「あれ…?誰かいるぞ…」

そこには1人の女性が座っていた。年齢は40歳くらいだろうか。

女「あっ…」

律「ど…どうも」

3人は軽く会釈をした。

女「あの…桜高の…?あの…唯の」

律「あっ!ハイ。あのっ唯ちゃんのお母さん…ですか…?」

ほんわかとした、どこからか唯を想像させるような顔立ちに、律は唯の母親だと気付いた。

3人は、唯の家には何度も行ったことはあるが、唯の母親に会ったことはなかったため、すぐには気付かなかった。

唯母「はい。いつも唯がお世話になっております。あの…軽音楽部の…」

律「はい、学校で聞いて…それで…」

唯母「ありがとうございます…っ」

紬「あ、あの、唯ちゃんは…?」

唯母「今、治療中なんです…それが、すごく重症だそうで…うっ…」

律「重症!?そ…そんな…」

澪「あの…憂ちゃんの方は…?」

唯母「憂は大丈夫です。腕を骨折しただけで済みました…でもっ…唯がっ…ううっ…」

一同「・・・」

一呼吸置いて唯の母は重い口を開いた。

唯母「もう…助からないかも…って…」

「えっ?」

そんな…嘘だ。

昨日までいつも通り放課後部室でお茶してお菓子食べて練習して

いつもの交差点でバイバイって別れて…また明日ねって…

それで…

唯母「ううううっうっ…うっ…」

唯の母親が、もう叫びたいほどに涙を流しているのを見て、3人は固まってしまった。

これは夢じゃない。これは現実なんだ。夢であって欲しかった…。


11:45

カッ!!

手術室の上にある手術中のランプが消えた。

こんなシーン、ドラマでしか見ることがないものだと思っていた。

一同「!!」

手術室のドアが開く。

唯母「先生っ!!」

医師「申し訳ありません…最善の努力はしました。」

血の気が引いた。心臓が大きく動いた。


医師「11時20分…ご臨終です…。」


唯の母親はその場に膝から崩れ落ちた。

律「そんな…嘘だろ…?」

澪「嘘だ……」

紬「唯ちゃん…嘘…」

律「おいっ!!嘘だろ!!嘘って言ってくれ!!唯は!!唯が死んだなんて嘘だ!!」

律は医師の服を掴みながら叫んだ。

律「何でですか!!なんで助からなかったんですか!!!ちゃんと…っ!!ちゃんと手術したのかよおぉッ!!!」

澪「やめろ律っ!!」

制止に入った澪の目からは涙がこぼれていた。

紬は唯の母親を体で支えて起こしてあげた。

律「そんなっ…唯っ!!うわああああああああああん」

律は声に出して泣き崩れた。

医師「申し訳ありません…」


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最終更新:2010年09月04日 23:43