アットウィキロゴ
2015年 10月18日

律「あっ…やっべ…みんなに連絡するの忘れてた…」

唯の事ばかり考えていて、明日のお墓参りの連絡するのを忘れていた律は携帯を開いた。
電話帳のあいうえお順の一番最初にあった紬に電話をかける。

指でちまちまと小さいボタンを押して、長ったらしい文章を作るのは律の性格上苦手だった。
いつも、少しの要件があるときでも、メールではなく電話で済ませてしまう。
そのせいか、そんなちょっとした用で電話した時に、ついつい話が弾んで長電話をしてしまい
携帯電話料金の請求に泣かされることも多々あった。

プルルルルルルルー。

紬「もしもし?りっちゃん?」

律「むぎー、久しぶり!明日どうする?唯の命日だけど、予定どうなってる?」

紬「久しぶりー。もちろん、休み取ってあるわ」

律「おーよかった、あたしと澪は昼前に合流する予定なんだけど、むぎも来るか?」

紬「うん、何時にするの?」

律「ん~11時くらいにあたしんちでいい?」

紬「わかったわ!りっちゃんちね!りっちゃんの家行くの久しぶりだわ~」

律「なーんも変わってないけどな。片付けしとかないと」

紬「じゃあ、11時きっかりに行くわ」

律「おう、待ってるわー……って、あのさ、むぎ…」

紬「なあに?」

律「その…唯なんだけどさ…」

紬「唯ちゃん…?どうしたの?」

律「過去の唯と電話で話したんだ…」

紬「えっ?」

律「信じてもらえないかもしれないけど…ちゃんと声も録音したっ!明日聞いてみてくれ…!」

紬「え…そんな…信じられないことだけど…本当なの?」

律「本当なんだ…明日の事も言った。お前は明日事故にあって死ぬって…だから気をつけろって伝えた…」

紬「…信じるわ、りっちゃん」

律「むぎ!」

紬「りっちゃんはこんな冗談言わないっ!そのくらい私にもわかるっ!」

律「むぎ…ありがとう…だから、ひょっとしたら―」

紬「うん、もし明日唯ちゃんが事故にあわなければ…」

律「そう…」

紬「期待しましょう…っ!どうなるかわからないけど…待ってるわ!明日…その唯ちゃんの声、聞かせて?」

律「わかった!!ありがとうむぎっ!!」

紬「それじゃあ、また明日ね?おやすみなさい」

律「おやすみ…」

律はなにより嬉しかった。信じてもらえた。
この流れで、他のみんなにも信じてもらえると信じ、梓に電話をかけた。

プルルルルルルル―。

梓「もしもし、律先輩!」

律「おーう、梓久しぶりー」

梓「連絡待ってましたっ」

律「遅くなってごめんっ」

梓「明日は休みとってありますよ!何時にします?」

律「そのことなんだけどさ…」

梓「はい?」

律「唯が…あ、いや、過去の唯から電話がかかってきて、話した。」

梓「えっ?」

律「いや、いきなりこんなこと言って信じてもらえないかもだけど―」

梓「ほっ本当なんですか!?それ!?」

律「うん…唯が事故にあった日の事、伝えた」

梓「そ…それって…」

律「もしかしたら唯、事故で死ななくて済むかもしれないんだっ!」

梓「それ…本当の本当なんですか!?」

律「本当だ梓っ!信じてくれっ!」

梓「冗談だったら…私も怒りますよ…?」

律「冗談でこんなこと言うかっ!本当だ…声も録音したっ!」

梓「そんな…まさか…そんなことって…」

律「明日詳しく話す…11時にあたしんちに来てくれ…」

梓「わかりました…信じますよ、律先輩…」

律「ああ、信じてくれっ」



2010年 10月19日―。
7:00

ジリリリリリリリリリリリリ

唯「はっ!」

唯「よし、起きたっ!」

この日唯は珍しく時間通りに起床した。
普段は憂に起こされても起きないくらい目覚めが悪かったが
この日は文化祭という大事なイベント、楽しみと緊張もあってか、すんなり目が覚めた。

唯「ういーおはよー」

憂「おはよう、お姉ちゃん。あのさ、昨日の律さんの言ってたことなんだけど…」

唯「ほえ?ああ~」

憂「やっぱり、今日は少し遅刻して行こう?」

唯「え~!今日せっかく早起きしたのに~!」

憂「でも…やっぱり昨日の事があったから…万が一に備えて…」

唯「う~ん…」

憂「お願いお姉ちゃんっ!!お姉ちゃんが死ぬなんて…絶対やだっ!」

唯「憂…」

憂は昨日の夜、ずっと考えていた。
偶然にしては出来過ぎている。律もそこまで野球に興味はないだろうし、
ここまでしてくるってことは、もはや万が一ではなく、本当に未来からのメッセージかもしれない。
もし、本当だった場合、失うものはもう元には戻らない。
そう考えると、選択肢は1つしかなかった。

憂「お願い…一生のお願いだよう…お姉ちゃん」

唯「わかったよ…憂がそこまで言うなら…」

憂「ありがとうお姉ちゃんっ!!」

多少これで遅刻してしまうものの、憂はこれが正しい選択だと思った。

憂の作った朝ご飯をしっかり食べた2人は、いつも家を出る8時より少し遅い8時半に家を出ることにした。
これだけ時間をずらせば大丈夫だろうと、憂は思ったのだ。

8時半まで、2人はTVを見ることにした。
いつもは見ないTVのニュースのコーナーを見た2人は少し新鮮な感じがした。

ニュース番組のエンタメのコーナーが始まろうとしたとき、ふと時計を見るともう8時25分を過ぎていた。

憂「そろそろ、行こっか、お姉ちゃん」

唯「うん」

憂「ごめんね…もう遅刻の時間だよね…」

唯「ううん、気にしないで!憂のお願いだもん」

2人はいつもの通学路を、普段より歩くスピードを遅くして登校した。
今日は信号によく引っかかる。家を出るタイミングが悪かったか。

今日は雨の日でもないのに…

しかし、憂は目の前の信号が赤になるたびに安堵した。
なるべく普段より時間をずらしたい。その気持ちでいっぱいだった。

こうして2人並んで登校することはしょっちゅうだが、今日は2人の口数も少なかった。
特に憂の方が、黙ってばかりだった。それだけ心配していたのだ。律が言っていたことを―。

家を出てから大体200mくらい歩いたところにある大きな交差点。

その30mくらい前の小さなT字路を左折し、その大きな交差点が目に見えた。


そこには大量の人の群れがあった。
思わず憂は声を漏らした。

憂「えっ?」

唯「なんだろう…?」

憂「お姉ちゃんっ!まさかっ…あれって…」

憂は気付いた。1番気にしていたこ光景がそこにはあった。


―交通事故。

そこには数台のパトカーと、救急車があった。
ざわざわ、と何を言っているか聞きとれないほどの野次馬のざわめきもあった。

2人は小走りで、交差点に向かった。

憂「嘘…」

その光景を目にした2人は言葉を失った。

交差点を右折したところ、いつも渡る横断歩道を突っ切ったと思われるタイヤの後。
その横断歩道の先のガードレールに衝突している白い乗用車。

フロントバンパーの部分は大破していて、エンジンルームがあらわになっている。
フロントガラスはもうガラスとは言えないほど真っ白になっていた。
ガラスの破片が横断歩道に散らばっている。太陽の光に反射してキラキラと光っている。

憂「お姉ちゃん……っ!」

唯「りっちゃん………?本当に……事故……教えてくれたの……?」

憂「うわあああああああああああんお姉ちゃあああああああああああん」

涙を見にいっぱいためながら憂は唯に抱きついた。

唯「憂…」

憂「よかった…っ!……本当にっ…律さんの言ってたこと本当だったんだっ……!本当によかったよおおおっっ!」

唯「ありがとう…憂………………未来のりっちゃん―。」




2015年10月19日
9:00

律「今どうなってる……っ!!」

今日もろくに寝れなかった律は、朝早くに起きてシャワーを浴びて、化粧も終え、もう準備は万端だった。
しかし唯のことが気になって、いつも時間つぶしにやる携帯ゲームすらやる気が起きなかった。

律「どうした?どうなった?5年前は今どうなってるんだっ!?」

もう何時間部屋の中で右往左往していることだろう。

律「そうだっ!パソコン…!」

何かにひらめいた律は机の上のノートパソコンの電源を入れた。

律「調べるのが一番早い!」

いつも利用している検索サイトで5年前の今日について調べた。

律「2010年…10月19日…桜が丘……交通事故…と」

律「!!あった!」

そこにあったのは小さなニュース記事だった。
その記事をクリックして、小さく書かれた文字を最初から読んで行く。

全神経を集中させて…

心臓の鼓動が早くなっていくのが自分でもわかった。

律「なになに…」

律「2010年8月ごろ、桜が丘○丁目交差点で、交通事故が発生した…」

律「乗用車はガードレールに激突。大破した。車に乗っていたのは33歳の男性1人、事故直後すぐに病院に搬送されたが…」

律「意識不明の重体…運転していたのは桜が丘に住む会社員○○さん…………って、こんなのはどうでもいいんだよ!」

律「唯の事は…っ!?」

律「えーっと………この事故で、現場に居合わせた通勤途中の20代男性1人が軽傷を負った………」

律「えっ?」

律「唯の事は…っ!?唯!!助かったのかっ!?嘘だろ…っ!?」

そこのニュース記事には唯の事は一切書いてなかった。
事故に巻き込まれたのは20代男性1人だけ。
すると唯は事故に巻き込まれなかったということになる。

律「唯っ!」

律は慌てて携帯電話を手にして、唯の電話番号に電話をかける。

プップップップ―。

『おかけになった電話番号は、現在使われておりません―』

律「…えっ?なんで…」




2010年 10月19日
9:00

憂「お姉ちゃん…律さんの事…」

唯「わかった。なにも言わないよ…」

憂は、軽音部の皆には今日あったことを言わないよう唯に言い聞かせた。
律が未来から来たと言うのはおそらく本当だろう。
こんなことは普通じゃありえない。

今、この世界にいる律や、軽音部の皆に言ったところで何も変わらない。
ここ3年2組にいる高校生の律と、電話がかかってきた大学生の律は同一人物ではあるが、まったくの別人と言っていい。

今日のこの話をしたところでおそらく信じてもらえないだろう。
もう今日あったことは、未来の律に深く感謝をし、もう2人は忘れることにした。

憂「うん…じゃあ、また後でね」

唯「うん…ありがとうね。憂」

ガチャッ―

さわ子「平沢さん、遅刻よ?はやく席につきなさい」

唯「ごめんなさい…でへへへ」

和「唯…また寝坊?」

唯「うん…ちょっと…」




2015年 10月19日
10:30

律は何度も何度も唯の携帯に電話をかけた。
しかし、1度も繋がらない。

律「唯は助かったんじゃないのか!?なんでだよっ!!なんで繋がらないんだ!!」

電話をかけては、パソコンで事故の事を調べ、それを繰り返しているうちに時間はもう10時を過ぎていた。

平沢家に電話をかけようとも思ったが、さすがにそれはやめた。
今、あの家には唯の両親しかいないため、電話に出るのは父親か母親のどちらかだった。

そこに電話をかけ、「唯ちゃんいますか?」など馬鹿げたことを聞けるわけがない。

今は、この電話をかけてはパソコンで調べるという、意味があるのかないのかわからない作業を続けるしかなかった。

ピーンポーン。

律「唯!!唯っ!?」

もし、過去が変わったなら、今も変わっているかもしれない。唯が生きてこの世界にいるかもしれない。
あわてて部屋を飛び出し、階段を降りる。この時間帯は、両親は仕事に行き、弟の聡は学校だったため、家には律1人だった。

階段を素早く駆け下り、走って玄関まで行って裸足のままドアを開けた。

ガチャ―。

律「唯っ!」

澪「律」

律「なんだ…澪…」

澪「なんだってなんだよ…」

律「もうそんな時間だったか…」

澪「なんなんだよ唯って」

律「あー、いや…まぁとりあえずあがれよ」

澪「おじゃましまーす…って律1人か?」

律「ああ、今日お母さん忙しい日だから」

律は自分の部屋を片付けていなかった事に気付き、まずいと思ったが今更そんなこと気にしないことにした。
世間話を軽く繰り広げながら、2人は律の部屋に入った。

澪「汚いな…」

律「わり…」

澪「なんでこう読みかけの漫画が何冊も散らばってるんだよ。読み終わってから別の読めよ」

律「はは…ゴミとかないからまだいいだろっ。んなことはいいから、座れって」

澪「変わってないなぁ律は」

澪はちょっと笑みをこぼすと、持っていたビニール袋を置き、いつも座る定位置に座った。

律「ん?なんだそれ?」

澪「これ?ほら、唯の好きだった『オレンヂマン』と『ぽてちょ』だ」

律「ああ…」

澪「むぎと梓何時に来るって?」

律「11時って言ったからもうすぐ来るだろ…っていうか、澪、昨日の事なんだけど…」

澪「昨日?」

律「ほら、唯の…唯から電話来たって…」

澪「まだ言ってるのかよ」

律「いや、本当なんだって!これ見てくれっ!」

そう言うと携帯電話の着信履歴を澪に見せた。
そこには確かに2015年10月17日の唯からの着信履歴があった。

澪「えっ…」

律「これで信じてくれたか?」

澪「この番号って…本当に…?」

律「そうだ!唯のだ!自分で確かめてみてみ?」

澪は自分の携帯電話を開き、唯の携帯番号と照らし合わせた。

澪「ちょ…これ…本当に…っ!?かかってきたのか!?この番号からっ!」

律「そうだ!かけ直しても繋がらないんだっ!」

澪「え…」

ピーンポーン。

律「あ、来たかな…?」

律はベッドから立ち上がり、部屋を出ようとした。

澪「律ぅ!」

律「わわっ!なんだよ!」

澪「ちょ…置いて行かないで…怖い…」

律「えー…」


6
最終更新:2010年09月04日 23:49