和「あら、唯じゃない?」
和「どうしたのそんな所に突っ立って?」
和「」
和「唯?」
和「なんで黙ってるの?」
和「」
和(あれ?)
和「もう唯ったらー、いい加減にしなさいよっ」
和「」
和(おかしいわね、一体どうしたのかしら?)
和「ちょっと唯、どうしたの?」
和「もしかして…」
和「軽音部のみんなと何かあった?」
和「」
和「……」
和「わかった、何も聞かないわ」
和「だけど、私達幼馴染でしょ?」
和「辛い事があったら何時でも私に相談していいのよ」
和「」
和「まあいいわ」
和「せっかくだし一緒に帰りましょ!」
和「」テクテク
和(あれ?)
和「唯、なんで突っ立ったままなの?」
和「帰りたくないの?」
和「」
和「憂ちゃん…」
和「家で待ってるんじゃないの?」
和「」
和「唯…」
和(こんな唯はじめて見るわ)
和(これはきっと只事じゃない…っ!!!)
和「ちょっと唯、私と一緒に帰りましょう」グイッ
ボカッ!!!
和「きゃぁっ!!!」
和「え?ちょっと、唯っ」
和「なんで殴るの…!!!?」
愛しているとつたえて欲しい 第一章 第六階層『三本足と袋』
和(唯が暴力を振るうなんてはじめてだわ)
和(あの優しくて陽気な唯が)
和(どれだけ追い詰められれば、こんな風になるって言うの!?)
和「唯…」
和「私は怒らないわよ」
和「唯に殴られたってかまわない」
和「それで唯の気が落ち着くなら」
和「私、どんなに殴られたってかまわない…」
和「」
和「唯…」
和「私、あなたのコトが心配なの」
和「私が絶対に唯の力になってあげるっ」
和「私が唯を守ってあげるわっ!!!」
ボコッ ドカッ!!!
和「きゃぁっ!!!」
和「いたた…」
和「」
和「痛いけど…」
和「うれしいよ」
和「唯がこんなにも感情をぶつけて来てくれてるんだもんね」
和「殴りたかったらもっと殴っていいのよ」
和「唯の全部を、私が受け止めてあげる」
和「」
和(だからお願い、唯、心を開いてっ!)
ドゴォッ!!!
和「きゅあっ!!!」
和(殴っていいのよって言ったら)
和(まさか蹴ってくるなんて…)
和(予想外の攻撃に変な声出しちゃったわ)
和「ゆ…い…」
和「」
和(胸の辺りを蹴られたから声が出ない)
和(と言うより立ち上がれない)
和(でも、ここで私が立ち上がらなければどうするの!?)
和(唯のこの暴力性は憂ちゃんに及ぶかもしれない…っ!!!)
和(そしてさらに最悪の場合…)
和(自分自身に…)
和(自傷行為、いえ、もっと大変な事)
和(もしかしたら)
和(自…殺…っ!!!?)
和(私は立たなくちゃ!)
和(私が唯を助けなくちゃ!)
和(唯、待ってて、今行くから)
和(暗闇の中を彷徨う貴方の心)
和(私が導いてあげるわ…)
和(あなたの為ならこんな体、どうなったっていいっ!!!)
和「くっ…」ヨロッ
和「はあっ、はあっ」ヨタヨタ
和「唯…」
和「今行くわ…、私はどんな事があっても唯を見捨てない」
和「たとえ唯が嫌がったとしても、私はしつこいわよ」
和「唯…」
和「私、あなたのコトが…」
バギッ ドカッ ドガァッ!!!!
和「グファッ!!!」
和「はあっ、はあっ」
和「ごほっ」
和「はっ、はあっ」ヨロッ
和「唯、何で?なんで分かってくれないの?」
和「」
和「唯、私を試してるの?」
和「……」
和「なんで私を一方的に…」
和(一方的…って!?)
和「!!!?」
和「えっ、まさか…」
和「そうっ、そういう事なのねっ!?」
和「唯…」
和「気付いてあげられなくてごめんなさい」
和「私って本当にバカ」
和「唯は…」
和「唯は私と本気で、喧嘩がしたかったのね」
和「私達、考えてみたら喧嘩らしい喧嘩ってしたこと無かったよね」
和「今回みたいに、いつも私が一歩引いてた」
和「でもそれって…」
和「唯をバカにした行為だよね」
和「唯が真剣なら、私も真剣にならなくちゃ…」
和「いい子の振りして、大人の振りして」
和「私、逃げてたんだわ」
和「ゴメンなさい…唯」
和「でもそれは誤解よ…」
和「私、怖かった」
和「私にとって唯は特別なのよ」
和「普段はそんな事表に出さないようにしてるけど」
和「私は唯が大切なの…」
和「だから、唯と喧嘩するなんて私、とても耐えられなくて…」
和「」
和「でも、今度こそ逃げないわ」
和「私だって殴り返してあげるんだからっ!」
和「あんたなんかに負けないわよっ!!!」
和「それっ!!!」
和(これでいいのよね、唯?)
バキッ ドカッ ボコボコ ドシャッ!!!
和「ブファッ!!!」
和「ちょっとっ、痛いっ、待ってっ!」
ドガッ ドゴォッ
和「グフゥ!!!」
和「タイム、よして、もうダメッ」
ボギッ ドガァッ!!!
和「ガハァッ!!!」
和「ホンとに、もう、死んじゃう、降参!」
ドガァッ ボコボコボコボコッ グシャァッ!!!
和「ぎゃあーーーーっ!!!」
和「ううっ…」ボロボロ
和「もう…ダメ…」
和「もう立てないわ…」
和「唯、気が済んだかしら?」
和「」
和「唯…」
和「そうね、そうだよね」
和「気が済む分けないよね…」
和「私、本当は分かってたんだ」
和「何で唯が私に暴力を振るうか…」
和「私に怒ってるんだよね?」
和「唯は…」
和「唯は、私が嫌いなんだよね?」
和「」
和「分かってたわ、そんなこと」
和「私達、仲がいい様で、親友な様で」
和「本当は違ってた…」
和「私はいつも唯をどこかで見下してた」
和「勉強も、運動も、私の方が上」
和「唯は私が面倒見なくちゃならない子」
和「そんな気持ちがいつも何処かにあったわ」
和「」
和「唯は…」
和「それが分かっていながら、私と付き合ってくれててんだよね?」
和「これは当然の報いだわ…」
和「私はあなたを、十年以上バカにし続けてきたの」
和「謝って済む問題じゃないわ…」
和「私、それが分かっていながら」
和「今回も、私が唯を助けてあげる、なんて」
和「バカな事考えてた…」
和「唯をここまで追い詰めていたのは、私だって言うのにね…」
和「」
和「唯っ…」グスグス
和「ゆいーっ」ポロポロ
和「ごめんなさい、唯、私は…」
和「本当に酷い人間っ!」
和「ううっ…」
和「けどっ、だけどね唯っ!」
和「私、あなたが羨ましかったのっ」
和「お勉強や運動が苦手でも…」
和「唯はみんなから愛されてたっ!」
和「それはすごい事よっ」
和「だって…」
和「だって私なんか」
和「お勉強が出来て、しっかりしてなくちゃ」
和「なんの価値もないわ」
和「きっと誰も私を相手にしてくれない…」
和「だから、必死に気を張って頑張ってきたの」
和「私…」
和「本当は、唯のことが、羨ましかった」
和「だから、心のどこかで妬んでたのね…」
和「でも…」
和「唯…」
和「信じてっ」
和「私は、やっぱり」
和「あなたの事が好きなの」
和「唯のこと、親友だと思ってるっ!」
和「唯を見下していたのは、そうしないと、私が保てないから」
和「本当は何も無い私が、あなたみたいに魅力的な子と対等になりたかったから…」
和「私、唯に憧れていたの」
和「いつも打算的なことしか頭にない自分が嫌いっ」
和「唯のように、無邪気さと魅力を備えて」
和「みんなに愛されながら生きてみたい…」
和「うううっ…」グスグス
和「うわぁーん」ボロボロ
和「唯っ、許してぇーっ!!!」ワーン
和「ううっ、ひっく、ごめん、なさいっ」ボロボロ
和「わたしっ、唯が好きだよっ」
和「一緒にいたくて、虚勢を張って」
和「でもそれが唯を苦しめてた…」
和「ゴメンなさい」
和「わたし、わたしっ」
和「本当にダメだけど」
和「これだけは本当なのっ!」
和「わたしっ」
和「わたしっ、唯のこと…っ」
和(えっ?)
バキッ ドガッ ドゴッ ガシッ!!!!!!
和「ゴハァーーーーッ!!!!!!!!!!!」
……
憂「今日は遅くなっちゃったなー」テクテク
憂「早く帰って、お姉ちゃんに晩御飯つくらなきゃ!」
憂「あれ、あそこにいるのは和ちゃん?」
憂「そして、あれはー…」
憂「えっ!?」
憂「そんなっ!!!?」
憂「和ちゃーんっ!」タッタッタ
和「う、憂!?」
憂「和ちゃんどうしたのっ!?」
和「見ての通りよ」
和「全部私が悪いんだけどね…」
憂「???」
憂「それよりっ、なぁに、このカンガルー?」
和「えっ?」
憂「動物園から逃げてきたのかなぁ?」
和「か、カンガルーっ!!!?」
憂「こういう時、何処に連絡すればいいんだろう?」
憂「警察かな?」
和「えっ、カンガルー?これカンガルーなのっ!?」
憂「そうだよ、これきっとカンガルーだよ」
憂「尻尾を三本目の足の様に上手に使って、立ち上がってるし」
憂「お腹に袋もあるしねっ」
憂「和ちゃん、眼鏡かけてよく見てみてよぉー」
和(あっ、そういえばちょうど眼鏡拭いてるときに、唯と会ったんだった)
和(でも、まさか唯とカンガルーを見間違うなんて…)
和「」カチャ 眼鏡装着!
和(あぁ、やっぱりこれ完全にカンガルーね)
唯「うーいーっ!和ちゃーんっ!」タッタッ
憂「わぁ、お姉ちゃんだ!」
和「ゆ、唯っ!?」
唯「スゴーイっ、和ちゃん、これカンガルーだよね!?」
唯「どうしてこんなとこにいるのかなぁ?」
唯「スゴイねえ、和ちゃんっ!」キラキラ
和「……」
憂「あぁ、お姉ちゃん、和ちゃんはさっきまで眼鏡外してて」
憂「ついさっきまで、他の物と見間違えてたみたいなの」
唯「えっ、そうなのー?」
唯「和ちゃん、一体何と見間違えてたの?」
和「……」
和「違うわよっ」
和「この動物の事ぐらい、私はわかってたわよっ!」
憂「えっ、でもさっき、私に『これカンガルーなの?』って聞いたよね?」
和「そっ、それはね」
和「これはカンガルーじゃないもん…」
唯「ええーっ、でもこれ、絶対にカンガルーだよーっ」
和「ケンゲルー…」
唯憂「えっ???」
和「ケンゲルーよケンゲルーっ!」
和「正しい発音はカンガルーじゃなくてケンゲルーなんだからっ!」
憂「ああっ、和ちゃん発音の事言ってたんだー」
和「そうよ、ちなみにハンバーガーじゃなくて、ハンヴァーグヮーなんだからっ!」
唯「和ちゃんスゴーイ!」
和「まっ、まあ当たり前よっ」
和「唯、あんたも受験生なんだから、この位わかってなきゃダメよっ!」
唯「うえーん、怒られちゃったー」
憂「お姉ちゃーん」ヨシヨシ
和「さあっ、二人ともこんな有袋類ほっといて行くわよ」
唯「でもー、もっとケンゲルーさん見てたいよーっ」
和「バカね、こういう動物は意外と危険なんだから」
和(この痛み暫く残るわね…)
和「それに、きっともう捜索されてるわ、私達じゃどっちにしろ捕まえられないわ」
唯「そんなー」
和「ほらっ、今日はあんた達にハンバーガーでも奢ってあげるから!」
唯「えーっ!やったーっ!!!」
憂「そんな、お姉ちゃん、甘えちゃったら悪いよー」
和「きょっ、今日はいいのよっ」
和「悪いのは私だし…」
憂「???」
唯「でも和ちゃん、ハンバーガーじゃなくてハンヴァーグヮーじゃないの?」
和「えっ、わ、私さっきそう言ったわよ?」
唯「うそだー、和ちゃん、ハンバーガーって言ったもん!」
和「言ってないわよ、唯のヒアリングに問題があるんじゃない?」
唯「むぐぐっ、そうなのかなー?」
和(私ったら、意地張ってばっかり…)
和(ごめんね唯、やっぱり素直になれないわ)
和(だけどね唯、私…)
和(私、本当はね…)
愛しているとつたえて欲しい 第一章 第六階層『三本足と袋』 終わり
次回二章 第十八階層『戻れない二人』 へ続く
最終更新:2010年09月09日 00:10