澪「また明日な」

唯「うん!みんなバーイバイ!」

紬「澪ちゃん、頑張ってね」ボソッ

澪「うん、ありがとう。本当にありがとう、ムギ」ボソッ

梓「それじゃ、お疲れ様でした」


律「んで、マジでこれから家に来るのかよ」テクテク

澪「悪いか」テクテク

律「いいに決まってんだろ」テクテク

澪「・・・その、変なことするなよ?」テクテク

律「されるのがイヤなら来るなよ」テクテク

澪「・・・」テクテク

律「う、嘘に決まってるだろ!(半分本気だったけど)」テクテク

澪「よかった・・・」テクテク

律「安心しろって」テクテク

澪「うんっ」テクテク

律「(そこまで安心しなくても・・・)」トボトボ


律の家

律「ただいまー」

澪「お邪魔しまーす」

律ママ「あら、澪ちゃんじゃない!」

澪「どうも、お久しぶりです」

律ママ「そう、久しぶりなのよね!最近澪ちゃんが来ないからどうしたのかと心配してたのよ?」

澪「え!ごめんなさい、心配かけちゃって・・・」

律ママ「いいのいいの、どうせまた律が澪ちゃんに嫌なことしたんでしょう?」

律「いいから、早く支度しなよっ」グイグイ

律ママ「って、あら。もうこんな時間!?急がないと・・・!それじゃ、澪ちゃん、ゆっくりしていってね!」バタンッ

律「これから町内会の集まりで飲んでくるんだってさ。とりあえず、部屋行こうぜ」トントンギットン

澪「(律の家の階段・・・元の世界と、やっぱり変わらないな。三段目で音が鳴るんだ)」トントンギットン

カチャ

律「まあ、適当に座ってくれ」

澪「あぁ」ストン

律「///(なんでよりによってベッドに座るんだこいつは・・・!)」

澪「律・・・?」

律「んあ!?どうした?」

澪「嫌なことじゃ、ないよ・・・?」

律「へ?」

澪「さっきおばさんが言ってただろ?『律がまた嫌なことしたんだろ』って」

律「うん」

澪「だから、嫌なことじゃないよ」

律「」


澪「律に告白されて、嫌なわけないじゃないか」

律「・・・はい?」

澪「ごめん、えっと、だから、そういうことなんだよ」

律「・・・え?」

澪「といっても、実は告白されたときのこと、よく覚えてないんだ。教えてくれ」

律「・・・なんで覚えてないんだよっ」

澪「色々と事情があるんだよっ」

律「わけわかんねーよっ」

澪「大丈夫、この世界の私も、きっと同じ気持ちのハズだから」

律「人と話してる最中にいきなり作詞するな!」

澪「うわっ、ごめん(作詞じゃなくて事実なんだけど・・・)」

律「だから・・・///あのときは・・・その・・・///」


澪「な、なんだよ」

律「私が澪に好きだ、付き合ってくれって言ったら、律とは付き合えないって言われた」

澪「それだけか?」

律「その後、私は澪に『このことは忘れてくれ』って言ったってオイ!」

澪「!?」

律「本当に覚えてないのかよ!」

澪「いや、覚えてるんだけど、なんていうか、事実確認?みたいな」

律「わけわかんねー」

澪「いいからいいから。じゃあ律は私がなんで断ったか、知らないんだな?」

律「しらねーよ。聞いても澪、教えてくれないし・・・」

澪「それは・・・。律、隣に来てくれないか?」

律「!?」

澪「・・・イヤ、か?」

律「嫌なわけないだろっ」ストン

澪「律・・・」ギュッ

律「え!?え!?///」

澪「本当にごめんな。私、逃げてたんだ」

律「・・・逃げてた?」

澪「あぁ、自分の気持ちからも、律の気持ちからも」

澪「自分の気持ちに気付かないフリをして、律の声も聞こえないフリをした」

澪「そのくせして、変わっていく律を見てて、苦しかった。最低だよな、ごめん」

律「澪・・・」

澪「でも、許して欲しい。私、決めたんだ。もう逃げないって」

律「じゃあ付き合ってくれるのか?」


澪「それはその・・・予行練習が必要というか、・・・友達からで、どうかな///」

律「いや、予行練習はいままで十分してきただろっ」

澪「でも、ちょっと不安だよ・・・」

律「じゃあ・・・そうだな。キャピキャピしよう」

澪「律、大丈夫か?」

律「う、うるさーい!///ちょっと言い方が変だっただけだって!澪もきっと気に入るよ!」

澪「キャピキャピって///何?」クスクス

律「今キャピキャピって言う時、ちょっと照れただろっ」

澪「だって・・・///」

律「簡単に言うとだな、『付き合ってる!』って感じのこと、しようぜ?」

澪「えーと?」

律「今のまま付き合ったら、それこそ夫婦みたいになるだろ、私達」

澪「私は嫌いじゃないよ、そういう雰囲気」

律「でも、まだ澪の気持ちに決着ついてないじゃないか」

澪「・・・」

律「逃げるとか逃げないとか・・・そんなの意識してる時点で、
既に自分や相手の気持ちに対して構えてる状態ってことだろ?」

律「おっかなびっくりじゃなくてさ、私と付き合いながら気持ちの整理つけようぜ?」

律「澪が自然に私と『一緒にいて当たり前』って思えたら、ちょっと落ち着こう?な?」

澪「律・・・ありがとう」

律「なーに、夫婦ってそういうもんだろっ?」ニカッ

澪「///バカ律っ」クスクス


~~~~~~~~~~~~~~~~

澪「もう着いちゃったな」

律「なんで私の家と澪の家はこんなに近いんだ・・・!!」

澪「普段はいいことづくめだろ?」

律「でも、送ってるって感じが全くしないぜ、この近距離」

澪「私は近距離恋愛の方がいいけどな」

律「澪が遠距離なんてしたら、思いつめてどうにかなっちゃいそうだな」プププ

澪「うるさいっ」ガスッ

律「あだっ!?」

澪「・・・律、なんていうか、その、ありがとうな」

律「こっちこそ、これからよろしくな。・・・それじゃ、明日は10時に駅前だぞ!」

澪「うん、わかった。・・・おやすみ」

律「おうっ!おやすみ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


律の部屋

律「(マジかよ)」カチャ

律「(信じられない)」バタン

律「(いや、信じないと駄目だよな?」ストン

律「(さっきまで澪が座ってたベッド・・・)」ドキドキ

律「(この部屋、澪の匂いが微かに残ってる・・・)」ドキドキ

律「(って、私は変態かっ)」

律「(・・・やばい。私、浮かれてるな)」



澪の部屋

澪「(律と・・・)」カチャ

澪「(・・・付き合うことになってしまった)」バタン

澪「(これでよかったんだよな・・・?この世界の私)」ゴロン

澪「(この世界に足りないもの、この世界に足りないもの・・・)」コロコロ

澪「(足りないからこそ、私達の世界にはないものが生まれた)」コロコロ

澪「(・・・そうだ)」ピン!

澪「和に電話しよう」

澪「よし」ピッ

澪「…」プルルル・・・

和「はい、もしもし?」

澪「私だけど、今大丈夫か?」

和「えぇ、平気よ。私も澪に電話しようと思ってたところなの」

澪「そっか」

和「せっかくだもの、澪から話して」

澪「う、うん。わかった」

澪「私・・・律と付き合うことになった」

和「」

和「はい?」


澪「びっくりさせてごめん」

和「えーと、どういう経緯で?」

澪「まず・・・今日、ムギと二人で話したんだ」

和「どうだった?」

澪「やっぱりこの世界の私はムギに相談を持ち掛けていたよ」

和「どんな内容の?」

澪「『律に告白された、自分も律が好き。でも付き合ってしまったら・・・始まってしまえば
あとは終わりが訪れるだけ。そんなの耐えられない・・・!』って感じかな」

和「さらっと言ったけど、かなりのヘタレね」

澪「うっ」グサッ

和「それで?」

澪「ムギは、律のことが好きだからこそ、律には笑っていて欲しいから・・・だから逃げないでって」

和「ムギ・・・って、え!?」

澪「何?」

和「ムギって律のこと好きだったの!?」

澪「あ、そうそう。私も今日聞いたばっかりで驚いたんだけどな」

和「律・・・本当にモテるわね・・・。えと、それで?」

澪「・・・部活のあと、律の家に行ったんだ」

澪「で、二人で話をして、付き合うことに・・・」

和「律に説得でもされたの?」

澪「律にっていうよりも、私が律と向き合いたいって言ったんだ」

和「じゃあ、ムギと話し終わった段階で澪の気持ちは固まってたってワケね?」

澪「ああ。これ以上逃げ回るワケにはいかないなって」


澪「私、気付いたんだ。この世界に足りないもの」

和「本当に?」

澪「ああ・・・。この世界には、『差別』ってものが存在しないんだよ」

和「・・・!」

澪「みんな頭がおかしくなったりした訳じゃないし、私達は同性愛者の世界に迷いこんだ訳でもない」

澪「ただ単純に差別や偏見がないから、私達の世界で生きているよりも、自分の気持ちに正直なんだ」

和「じゃあ元の世界の私達も・・・。例えば、律が澪のことが好きになる可能性があったってこと?」

澪「それは、ちょっと違うかな。差別や偏見なければ、あっちの律だって私を本気で好きになっていたと思う。
自分で言うとなんか、恥ずかしいな・・・///」

和「照れてる場合じゃないわよ」

澪「ごめん」

和「つまりこの世界は・・・」

澪「わかりにくいかもしれないけど、この世界は『柵(しがらみ)のない私達の世界』なんだ」

澪「それ以外は、きっと何も変わらないはずだ」

和「・・・」

澪「例えば律を例にあげるなら、私達の世界の律は
『澪かわいいな・・・って何考えてんだ自分!女同士だぞ!?』ってなる。
だが、この世界の律は『澪かわいいな。澪って好きなヤツとかいないのかな?』ってなるんだ」

和「ねえ、それは自分で言ってて恥ずかしくないの?」

澪「い、言うなっ!とにかく、『女同士がいけないこと』っていう概念がないから、
こっちの世界の律は自分の気持ちに気付いたら、その気持ちのまま行動できるんだ」

澪「でも、元の世界の律は・・・律はっていうか、みんなそうだと思うけど・・・。
『いけないこと』だと思っているから、自分の気持ちにセーブをかける」

和「確かに辻褄はあっているけど、随分と自信有り気に言うのね?」

澪「この世界に来て・・・私も初めて自分の気持ちを知ったんだ。
私だって『いけないこと』って概念がなければ、普通に律のことを好きになっていたと思うよ。」


澪「でも、私のいた世界はそうじゃなかったから・・・。この世界にきて気付かされたよ。
私はいままで、律に惹かれている自分を知らず知らずの内に殺していたんだって」

和「澪・・・」

澪「私と、元々この世界にいた私の思考回路は全く一緒だと思う」

澪「もし元の世界で私が律に告白されていたら・・・例え律のことが好きだったとしても、
やっぱり向き合うことを恐れて逃げると思う。情けないけど・・・」

和「なるほどね・・・。実は、私も澪と同意見なのよ」

澪「・・・?」

和「この世界にはそういった『差別』がないってこと。私ね、自分なりに調べてみたの」

和「もともとこの世界の歴史を調べようと思ったんだけど・・・その過程で意外なことがわかったの」

和「この世界には・・・同性婚を認めていない国がないのよ」

澪「!?」


和「さらに言うと、男尊女卑もない。もちろん、男と女で普通に家庭を築いている人達も大勢いるわ」

澪「・・・やっぱり、私達の考え、合ってそうだな」

和「えぇ。私もこの話がしたくて澪に電話しようとしたのよ」

澪「そっか・・・」

和「それで、これからどうしようか?」

澪「何が?」

和「何がって・・・この世界がどういう世界なのかはわかったけど。戻る方法はわかってないのよ?」

澪「」

澪「あ・・・」

和「あなたねぇ・・・。でも、いいんじゃないかしら」

澪「え?」

和「・・・律と、とことん向き合ってみなさいよ。こっちの世界とか元の世界とか関係ないわ」

和「帰る方法は、それからでいいじゃない」

澪「和・・・ありがとう」

和「気にしないで。私は私でこの世界を満喫することにするわ」

澪「え・・・それってどういう」

和「あら、もうこんな時間。それじゃ、おやすみ」


澪「え!?・・・おい、ちょっと!?」ツーツーツー

澪「まさか、な・・・」

澪「よし、明日はっでででデートだな」

澪「うわ、今有りあえないくらい噛んだ・・・恥ずかしい・・・」

澪「(今の独り言すらも恥ずかしいな・・・)」

澪「・・・寝よう」

澪「(明日は・・・律とちゃんと向き合えるかな)」

澪「(素直になるのって・・・難しそうだな・・・)」

澪「(・・・律・・・)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


澪「・・・」

律「・・・ごめんって」

澪「なんで遅刻してくるんだよ」

律「寝坊しちゃってさ・・・これでも急いだんだってっ!ごめん!」

澪「大事なデートに寝坊するなっての」

律「・・・嬉しくてさ」

澪「ん?」

律「嬉しくて、なかなか寝付けなかったんだ」

澪「そ、そうか・・・///」

律「許してくれよー、なー。このとーり!」

澪「こ、今回だけだからなっ///」

律「やったぁ!・・・じゃあ、えーと、この後どうしようか?」

澪「え?えーと・・・どうしよう」

律「じゃあさ、あそこ行かないか?」ビシッ

澪「ん?・・・あそこって、お前・・・」ワナワナ

律「へ?・・・って、違う違う!!そのホテルじゃないよ!もっと向こうだよ!」

澪「この、変態・・・!」ワナワナ

律「聞けって!」

澪「」ゴチン

律「いだっ!わ、私は無実だ・・・」

澪「そ、そういうところは、まだ早いぞ・・・///」

律「う、うん・・・ごめん(今、『まだ』って言った・・・)」

律「そうじゃなくて、私は遊園地でも行かないか?って言ったんだよ」

澪「・・・」ジー

律「ホントだって!ここからなら駅も近いし。なーいいだろー?澪ー」

澪「わ、わかったよ、行こう。行こうな」ナデナデ

律「へへー」ホクホク



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最終更新:2010年08月01日 23:41